2015.08.19 | コラム

気をつけたい病気「人食いバクテリア」とは?医師が解説する症状・予防・感染対策・治療法のまとめ

致死率は30-60%、年齢や健康状態によらず感染あり

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人食いバクテリアともよばれる劇症型溶血性連鎖球菌感染症の患者数が増えています。2017年12月途中の時点で493人と過去最高の報告数です。「人食いバクテリア」とはどういった病気なのでしょうか。どうやって対応すれば良いのでしょうか。

人食いバクテリアに関連する細菌は、本来いくつかの種類があります。最も有名なのは「A群溶血性連鎖球菌(以下、溶連菌)」という菌です。過去最高の患者数が報告されているのは、この菌による劇症型溶血性連鎖球菌感染症のことです。

皮膚や筋肉などに感染すると、細胞が死んでしまい真っ黒になるため、あたかもバクテリアに「食べられた」かのような印象があるためそう名付けられたのでしょう。海外でも "flesh-eating(生身を喰らう)" と呼ばれており、決して日本だけで流行している病気ではありません。

 

溶連菌は年中そこらに存在している一般的な菌です。さも恐ろしい菌であるかのように報道されていますが、日常生活の範囲に普通に存在する菌なのです。

のど風邪だと思っていたら、実は溶連菌に感染していた(そして勝手に治った)ということも珍しくありません。日常生活範囲の常在菌(=常に在る菌)の仲間でもあり、特に病気を引き起こすことなく、普通の人の皮膚に住み着いている菌でもあります。

普段は重症化しないこの菌が、時に重症化してしまうのがいわゆる人食いバクテリア感染症だと言えます。何がきっかけで重症化するのかは未だ分かっていません。

病名としては、壊死性軟部組織感染症や菌血症、敗血症などになります。

人食いバクテリアが激烈であることの理由の一つに溶連菌の出す毒素の影響があります。人間の体内に侵入した細菌が毒素を作ると、全身のバランスが崩れて、トキシックショック症候群(streptococcal toxic shock syndrome)になります。この状態は命に関わる非常に危険な状態です。

 

溶連菌は、のど風邪の原因になることもありますが、いわゆる「人食い(皮膚や筋肉が壊死する)」のような症状が出るのは、手足の皮膚の感染が最も多いです。

皮膚の感染では、強い痛みとともに赤色に変化し、症状の範囲が急速に拡大します。その後、水ぶくれができて皮膚が黒く壊死(細胞が死ぬこと)してしまうこともあります。症状が出てから重篤になるまでは非常に早く、1日かからないこともあるので注意が必要です。

人食いバクテリアは進行するとさまざまな症状が出る病気です。トキシックショック症候群になると多臓器不全になりやすくなり、発熱や寒気、嘔吐、下痢、尿量の低下、錯乱、意識がもうろうとするなどの症状が出現します。

 

ひっかいた、物が刺さった、やけど、虫さされなどで、皮膚にできた傷が原因となることが多いです。免疫力が低下していると感染が起きやすいですが、そうでなくとも発症することが知られています。また皮膚表面の傷だけでなく、青あざや捻挫(ねんざ)など、傷口のないけがでも発症することが報告されています。

特に注意すべきなのは、以下に該当する方々です

  • 免疫力が落ちる病気がある:糖尿病、肝硬変、慢性腎臓病、がんなど
  • ステロイド薬を長期的に服用している
  • 免疫抑制薬を服用している
  • アルコールの摂取量が多い
  • アトピー性皮膚炎などの持病があって皮膚が弱い
  • 妊娠中、あるいは出産直後である
  • 高齢者

溶連菌自体がどこにでもいる菌ですので、この病気が人から人へ伝染することを心配しすぎなくて良いです。通常は皮膚から体内に侵入して来ることはありません。

 

どんな検査をするのか?

人食いバクテリアが疑われたときに行われる主な検査は次のとおりです。

  • 細菌検査
  • 血液検査
  • 画像検査

中でも細菌検査はとても重要です。感染部位の一部を採ってきてグラム染色という検査(塗抹検査)を行います。この検査で青紫に染まった連鎖状に連なる丸い菌が見つかれば、ほぼ間違いなく連鎖球菌が原因菌と考えて良いです。検査室さえあれば10分程度で検査できるので、とてつもなく重要な検査になります。また培養検査で菌を増やして、さらに詳しく菌名を調べることもできます。培養検査は数日かかるのが一般的ですが、抗菌薬の効果判定(薬剤感受性)も調べることができるので、塗抹検査と併せて行います。

また、血液検査では全身の状況がわかります。CRPで炎症の程度を推測することもできますが、特にこうした激烈な感染ではCRPがいくつだからこの治療をするといった判断をしても意味がありません。一方で、血液検査では腎臓などの臓器の機能を推測することができるため、合併症の存在や全身状態について判断できます。

画像検査ではどの程度まで感染の範囲が拡大しているかを推測することができます。全身の診察と併せて判断することで、感染の範囲を推定し、適切な治療方法を選択することができます。

 

どんな治療をするのか

人食いバクテリアの治療は、抗菌薬(抗生物質)と外科的処置です。

治療にはペニシリン系抗菌薬(ペニシリンG、ビクシリン®、サワシリン®など)がとても良く効くことが分かっています。また、連鎖球菌の毒素の影響を緩和することを期待してクリンダマイシン(ダラシン®など)を併用する場合が多いです。壊死性軟部組織感染症の治療薬についてもっと詳しく知りたい方はこちらを参考にして下さい。

抗菌薬治療に加えてデブリードマン(debridement)と呼ばれる外科的処置がとても重要です。デブリードマンというのは、感染してしまった部位を切除したり、皮膚の下にある汚染液(dish water)を排液したりすることです。皮膚を切り開くのでとても大きな負担に感じますが、原因菌を減らす目的や感染を広めないようにする目的で外科的処置を行います。実際にこの処置のおかげで救命できることも少なくありません。

 

人食いバクテリア感染症(壊死性軟部組織感染症)治療の原則は、外科的処置です。菌が繁殖して壊死(細胞が死ぬこと)してしまった部位が広まってしまうと、手術で大きく取り除く以外の治療法がありません。報告によって致死率は30-60%と言われているこの病気ですが、例えば太ももに感染が広がってしまった場合、残念ながら、太ももから下を全て切り落としてしまわないと救命ができない場合があります。

感染した手足を切り落とすというのは非常に大きな決断です。しかし、救命のためにはやむを得ない場合があります。それほど重篤な、他にあまり類を見ないような感染症だと言えます。

 

残念ながら、現時点で人食いバクテリア感染症を予防できる明らかな方法は見つかっていません。一般的な対応として、皮膚に傷ができた際に気をつけるべきことには以下のようなものがあります。

  • 傷はすぐに、シャワーなどでしっかりと洗う
  • 傷があるうちはプールや温泉、海を避ける(菌が入ってくることを避けるため)
  • 傷に触れる可能性のある手や指先は、なるべく清潔に保つ
  • 傷がある場合には、傷の周囲の色調の変化や痛みの出現がないか毎日観察する
  • 皮膚の消毒が人食いバクテリア感染症を予防するかは不明である(効果がある可能性と、逆効果の可能性が両方ある)

効果のはっきりとした予防法がないので、早期発見・早期治療することが重要です。現実的な対応としては、以下のような場合に医療機関受診を遅らせないことが重要と考えられます。

  • 我慢ができないような患部の強い痛みがある
  • 患部の赤みや腫れに加えて、高熱や強いだるさなどの症状がある
  • 患部が赤くなった後に赤紫〜黒みを帯びてきた水ぶくれができた
    • ただし、この時点では対応が遅れていると考えられます
  • 皮膚の症状がある部位の痛みなどの感覚が鈍くなっている
  • 特に高齢者や糖尿病患者が、原因不明に全身が疲弊して意識朦朧としている

これらの症状がある場合には、人食いバクテリア以外のものによる可能性もありますが、いずれにせよ病院を受診して治療を受けるべきと考えられます。

 

人食いバクテリア感染症は「通常流行しない病気である」とする一部の研究報告があります。またインフルエンザウイルスなどと異なり、人から人へ感染が広がるものでもありません。

それではなぜ近年患者数が増えているのでしょうか。

考えられる一つの可能性としては、医療者の中でこの病気の認知度が上がってきたために、正しい診断がつくようになったということが挙げられます。培養検査などで感染の原因を追求する努力がこうした結果を生んでいるとも考えられます。

また、この感染症は5類感染症と言って、診断をした医師は1週間以内に保健所に届け出をしなければならない特殊な感染症です。人食いバクテリアの重要性が社会的に認識されてきたために、忙しさもあってそれまで届け出を行う医師の割合が低かったのが、正しく届け出が行われるようになったと考えることもできます。

これらは実際に患者数が増えたわけではないのに患者数は増えているように見えるという「からくり」を生みます。

一方では、様々な未知の理由によって溶連菌や感染者が本当に増えている可能性も確かにあり、この点については今後の報告を待つ必要があります。

 

最後になりますが、人食いバクテリアの症状や治療法など、より詳しい情報をまとめたこちらのページもご覧ください。

壊死性軟部組織感染症の症状・原因・治療

http://medley.life/diseases/item/55d3aea30003dee31ad3f70d

 

注:このコラムは2015年8月19日に作成されたものですが、2017年12月5日付で弊社内医師の園田が内容を改訂しています。

執筆者

沖山 翔

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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