ししついじょうしょう(こうしけっしょう)
脂質異常症(高脂血症)
悪玉コレステロールが多い、または善玉コレステロールが少ない状態。動脈硬化を速め、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくする
16人の医師がチェック 139回の改訂 最終更新: 2023.07.16

脂質異常症の原因:肥満、更年期、アルコール摂取など

脂質異常症は肥満、更年期、アルコールの過剰摂取などが原因で起こります。また甲状腺機能低下症クッシング症候群などホルモンの病気で起こることもあり、この場合、ホルモンの病気の治療も必要になります。

1. 脂質異常症の原因には何があるか

脂質異常症は、血液中の悪玉の脂質であるLDLコレステロール中性脂肪トリグリセリド)が多い状態や、善玉の脂質であるHDLコレステロールが少ない状態をいいます。脂質は食べ物から体内に吸収され、皮下脂肪・内臓脂肪として貯蓄され、身体を動かすエネルギー源やホルモンの材料として消費されます。脂質の吸収や貯蓄と消費のバランスが崩れることで、脂質異常症は起こると考えられています。具体的な脂質異常症の原因には以下のようなものがあります。

  • 肥満
  • 更年期
  • アルコール過剰摂取
  • 糖尿病
  • ホルモンの病気
  • 遺伝

以下でそれぞれの原因と脂質異常症の関係について説明していきます。

2. 肥満

食べ物から摂取するカロリーが運動で消費するものより多い場合、余ったものはエネルギー源として内臓や皮下に脂肪として貯蓄されます。この貯蓄された脂肪は、お腹のたるみや体重増加の原因となります。肥満の人は身体にたまった過剰な脂質が蓄積しているので、脂質異常症にもなりやすくなります。

肥満は昔に比べると増加傾向にあります。これは欧米の食事が日本で広まったことや、身の回りの利便性が増すとともにあまり身体を動かさなくても生活できるようになったことが関係しています。

食べすぎに気をつけることや、運動をして消費カロリーを増やすことは、肥満の予防だけでなく、脂質異常症の観点からも重要です。

3. 更年期

50歳前後の女性の方では、イライラしたり、のぼせたり、動悸がしたりといった更年期の症状に悩まされることがあるかもしれません。実は更年期を迎えた女性は脂質異常症にもなりやすいことがわかっています。これは、更年期の頃から不足する女性ホルモンと関連があります。女性ホルモンには悪玉コレステロールを下げ、善玉コレステロールを上げる作用があるので、更年期になり女性ホルモンが不足していくことは脂質異常症を悪くしていきます。そのため、50歳前後の女性の方の中には、食事内容や運動不足に気をつけているにも関わらず、脂質異常症の指摘を受ける方もいらっしゃいます。このような方では、食事療法や運動療法に加えて、薬物療法の併用が必要になる場合もあります。治療については「治療の章」でも詳しく説明しています。

4. アルコール過剰摂取

アルコールには中性脂肪やHDLコレステロールを増やす作用があります。善玉の脂質であるHDLコレステロールも増やすので、少量の摂取であれば脂質異常症に良い方向に働くと考えられていますが、摂りすぎると中性脂肪を増やしてしまい脂質異常症を悪化させてしまうことが分かっています。具体的にアルコールは1日20-25g程度が良いとされています。20-25gのアルコールは飲み物の量で言うと以下に相当します。

  • ビール中ビン1本(500ml)
  • ウイスキーのダブル1杯(60ml)
  • ワイングラス2杯(200ml)
  • 日本酒1合(180ml)
  • 焼酎0.5合(90ml)

脂質異常症の人では上記より多い量のアルコール摂取は控えるのが望ましいです。

5. 糖尿病

糖尿病の人も脂質異常症になりやすいことがわかっていますが、それは以下の仕組みによるものと考えられています。

糖尿病血糖値を下げるホルモンであるインスリンが出なくなる(1型糖尿病)ことや、インスリンの効きが悪くなる(2型糖尿病)ことで、血糖値が高くなる病気です。糖尿病の多くの方は2型糖尿病です。2型糖尿病の人ではインスリンの効きが悪くなったことをインスリンの量でカバーしようとするために、大量のインスリンが作られます。インスリンには脂肪の合成を促進する作用もあるため、大量に作られたインスリンが結果として、脂肪の過剰産生を起こすとされています。

脂質異常症は血管がボロボロになり、心筋梗塞脳梗塞などを起こすことが一番の問題となります。一方、糖尿病も血管がボロボロになる病気です。そのため、脂質異常症と糖尿病を両方持っている人は心筋梗塞脳梗塞を起こすリスクが高く、脂質異常症と糖尿病をどちらもしっかりと治療することが重要です。

糖尿病について詳しくは「糖尿病の詳細情報」でも説明しています。

6. ホルモンの病気

甲状腺ホルモン副腎皮質ホルモンは、コレステロールの消費を調整します。そのため、甲状腺機能低下症クッシング症候群ではこれらのホルモンの異常の結果、脂質異常症を起こします。それぞれの病気について以下で詳しく説明していきます。

甲状腺機能低下症

甲状腺とは首の前に位置する臓器で、甲状腺ホルモンを作っています。甲状腺機能低下症は甲状腺の機能が落ちることで、甲状腺ホルモンが作れず、だるさ、疲れやすさ、動悸、むくみなどの様々な症状が現れる病気です。甲状腺が腫れることで首の前にしこりが触れることもあります。甲状腺ホルモンには代謝を良くし、LDLコレステロールや中性脂肪を減らす作用があります。そのため、甲状腺機能低下症になり、甲状腺ホルモンが作れなくなると脂質異常症を起こしやすくなります。

甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの値を測ることで診断することができます。脂質異常症に加えて、だるさや疲れやすさがある、首の前にしこりが触れるなど甲状腺機能低下症が疑われる場合には、甲状腺ホルモンの値をチェックします。脂質異常症が甲状腺機能低下症によって起きている場合には、甲状腺機能低下症の治療もする必要があります。甲状腺機能低下症の治療は甲状腺ホルモンの補充を行います。

クッシング症候群

クッシング症候群は副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されることで起こる病気です。具体的には、以下のような症状があらわれます。

  • 顔やお腹に脂肪がつく
  • 妊娠線のような線がお腹にできる
  • 皮膚が薄くなる
  • ニキビができやすくなる
  • 体毛が増える
  • 筋力が衰える
  • 生理が止まる(女性の場合)
  • 気分が落ち込む
  • 血圧が高くなる
  • 血糖値が高くなる

副腎皮質ホルモンは副腎で産生されるホルモンです。副腎皮質ホルモンは直接的にコレステロールを上げる作用があるだけなく、肥満糖尿病を悪化させることでも脂質異常症に悪影響を与えます。

脂質異常症がクッシング症候群により起きている場合は、クッシング症候群の治療も行う必要があります。具体的にはクッシング症候群を引き起こしている場所(副腎など)を手術で取り除く方法や、副腎皮質ホルモン合成阻害薬を使う方法があります。

7. 遺伝

太りやすい家系や、脂質異常症になりやすい家系があるといった事実から、脂質異常症の発症に何らかの遺伝的な要因(先天的要因)が関わっていると考えられています。ただし、そのような人でも、遺伝子だけで脂質異常症になるかが決まるわけではなく、カロリーの摂りすぎや運動不足などの影響(後天的要因)もあって脂質異常症になる人が多いです。

一部の人ではありますが、脂質の産生や消費に関わる遺伝子に異常があることで重症の脂質異常症を起こすことがあります。このような場合には、家族も同じ遺伝子の異常を持っていることが多いので、家族の何人もが同様の状態になるということが起こります。中でも遺伝性の重症な高コレステロール血症を家族性高コレステロール血症と呼びます。家族性高コレステロール血症は遺伝的な影響を強く受けるため、生活習慣に関わらず、脂質異常症を起こしてしまいます。具体的に家族性高コレステロール血症は以下のような時に疑います。

  • LDLコレステロールの値が極めて高い
    • 15歳未満でLDLコレステロールが140mg/dL以上
    • 15歳以上でLDLコレステロールが180mg/dL以上(250mg/dL以上の時は特に強く疑われる)
  • アキレス腱や皮膚に黄色味を帯びたしこりがある(黄色腫)
  • 男性55歳未満、女性65歳未満で狭心症心筋梗塞を起こした血縁者がいる

家族性高コレステロール血症の診断には、遺伝子検査が必要になる場合もあります。家族性高コレステロール血症は食事療法や運動療法のみでは良くならないことが多く、専門施設で薬物療法を受ける必要があります。

参考文献
日本動脈硬化学会「家族性高コレステロール血症について」