2017.05.28 | ニュース

溺れて心肺停止!心臓マッサージは救助ボートの上でもできる?

人形で実験

from Emergency medicine journal : EMJ

溺れて心肺停止!心臓マッサージは救助ボートの上でもできる?の写真

海で溺れて心肺停止に陥った人には、1分でも早く心肺蘇生(心臓マッサージと人工呼吸)をすることが救命につながります。しかし救助ボートが陸に戻るにも時間がかかります。ボートの上でも心肺蘇生はできるのでしょうか。

スペインの研究班が、人形を使った実験により、救助ボート(IRB)の上で有効な心肺蘇生ができるかを確かめ、専門誌『Emergency Medicine Journal』に報告しました。

研究班は、スペイン領カナリア諸島のテネリフェ島で実験を行いました。胸骨圧迫(心臓マッサージ)の加速度と圧力を計測できる「CPRメータ」と人形を使って、サーフィン救護員10人が4種類の状況で2分間ずつの心肺蘇生を行いました。

  • 陸上
  • 漂泊しているボートの上
  • 5ノット(時速およそ9.5km)で動いているボートの上
  • 10ノット(時速およそ19km)で動いているボートの上

 

次の結果が得られました。

すべてのCPRの変数の複合はすべての状況において84%を超えたが、CPRが船上で行われた場合はより低かった。陸上(96.49±3.58%)に対して、漂泊時(91.80±3.56、p=0.04)、5ノットで航行時(88.65±5.54、p=0.03)、10ノットで航行時(84.74±5.56, p=0.001)。

状況ごとに計測値を総合すると以下のとおりでした。

  • 陸上:96.49%
  • 漂泊:91.80%
  • 5ノット:88.65%
  • 10ノット:84.74%

研究班は「サーフィン救護員は動いている救助ボートの上でさえ良質な心肺蘇生を実行できる。しかし、彼らの成績は陸上よりも低かった」と結論しています。

 

救護員は救助ボートの上でもある程度の質で心肺蘇生ができるという報告を紹介しました。

通常、IRBには2人が乗り込んで救助に向かいます。しかし、現実にはIRBの上はかなり不安定で、溺れている人や救助者の体を固定することさえ簡単ではありません。無理に水上で心肺蘇生をするのではなく、安全確保の観点からもまず陸に戻ることを優先される場合が多いと思われます。また日本では海水浴場などでIRBを備えているところもありますが、環境の違いなどからすべての場所にIRBがあるわけではありません。

この実験では、浮かんだIRBの上でも心肺蘇生はできるという結果が出ましたが、水上では若干質が低下したという面もあります。波の状態や救護員の訓練度によっても結果が変わる可能性はあります。

また、心肺蘇生が必要な状態の人はほかにも多くの面からの治療を必要とする可能性が大きく、心肺蘇生を急ぐことでほかの治療が遅れる可能性があるなら両面を考えなければなりません。仮に最適な治療が行われたとしても必ず救命できるわけではありません。無理をして救助者をさらなる被害の危険にさらすことは避けなければなりません。

水上でも十分安全に心肺蘇生ができる状況で、かつ陸に戻るまでの時間を省いて心肺蘇生を始めることにより効果が期待でき、さらにほかの治療を遅らせる可能性があっても期待される効果が上回るような場合にだけ、水上で心肺蘇生を始めることが検討可能と考えられます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Can surf-lifeguards perform a quality cardiopulmonary resuscitation sailing on a lifeboat? A quasi-experimental study.

Emerg Med J. 2017 Jan 27. [Epub ahead of print]

[PMID: 28130348]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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