さいきんせいはいえん
細菌性肺炎(総論)
細菌感染が原因で起こる肺炎。様々な原因菌や分類があり、治療は抗菌薬(抗生物質)が用いられる。
4人の医師がチェック 37回の改訂 最終更新: 2017.12.06

Beta 細菌性肺炎(総論)のQ&A

    細菌性肺炎の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    細菌性肺炎とは、肺の中で菌が繁殖して、周囲に炎症が引き起こされた状態です。

    細菌性肺炎の原因となる菌は肺炎球菌、インフルエンザ桿菌などの頻度が多いとされていますが、それらは元々人間の鼻、のど、口の中に住みついています(常在菌と呼ばれています)。

    一方、気管支や肺には通常菌がいません。口から気管に菌が侵入しても、痰に絡めて咳などにより外に追い出す仕組みが働いているためです。かぜなどの影響で気管が荒れている場合や免疫力が低下している場合などに、菌が侵入しても追い出すことができないが故に細菌性肺炎を発症することが一般的です。

    普通に暮らしていてかかる肺炎(市中肺炎)と、病院や施設に入所中にかかる肺炎(院内肺炎、医療・介護関連肺炎)では重症度や原因菌が異なるため、これらを区別して対応を考えます。

    細菌性肺炎は、どんな症状で発症するのですか?

    細菌性肺炎では、咳、痰の増加、高熱、呼吸困難などが数日間の急な経過で発症します。

    高齢者であると咳や発熱が軽くて済んでしまうことがあり、一見重篤に見えないため注意が必要です。

    細菌性肺炎はどのように診断するのですか?

    細菌性肺炎は、症状、背景・状況、呼吸音の聴診、胸部レントゲン写真で診断することが基本となります。菌の種類によって有効な抗菌薬も異なるため、痰の検査(顕微鏡検査、培養)で原因菌を調べることも重要です。血液検査でもある種の菌(マイコプラズマ、百日咳、クラミジアなど)に対する反応を検索し、原因菌を推測することができます。また、血液検査は肺炎自体以外に炎症の程度や他の臓器に影響が及んでいないかなど、全身状態の把握にも有用です。

    細菌性肺炎の治療法について教えて下さい。

    抗菌薬(抗生物質)の使用が基本となります。体内の酸素が少なくなっていれば酸素を吸入します。

    菌との戦いで産生された痰は可能な範囲で出した方が気道浄化の点で好ましく、酸素の体への取り込みも改善しやすいです。咳は痰を出すための必要な生体反応でもあり、いたずらに咳止めを使いすぎることは慎むべきと考えられています。

    重症で他の内臓に影響が出ている場合は、その補助療法も考慮されます(昇圧剤や人工透析など)。

    細菌性肺炎は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    米国での調査によると、年間1,000人につき13人が細菌性肺炎にかかるという報告があります。高齢になるほど肺炎の患者さんは増加する傾向があります。

    細菌性肺炎は、重症化するとどのような症状が起こりますか?

    細菌性肺炎では肺の周囲に水や膿が貯まってしまうことがあり(胸膜炎や膿胸)、その場合は胸の痛みが出ることが多いです。肺化膿症といって肺自体の組織が部分的に死んでしまうこともあります。また、肺の炎症が強いと全身に影響が波及して全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症という状態になり、他の臓器まで影響が及びます。

    また、肺の炎症が強い場合には器質化肺炎といって、免疫反応が過剰に働いて起こるタイプの肺炎が起こることがあります。その場合は細菌性肺炎の治療が済んでから、別途ステロイドなどの薬剤を用いた治療を検討します。

    細菌性肺炎の、その他の検査について教えて下さい。

    細菌性肺炎では、肺炎球菌やレジオネラなどが原因の場合に尿検査も診断に有用です。

    また胸部CT検査ではレントゲンよりも詳しく肺の状態を把握することができ、レントゲンでは分からなくてもCTで肺炎と診断されるというケースがあります。

    細菌性肺炎では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    細菌性肺炎は重篤化することも多いので入院も考慮される病気ですが、体に酸素が取り込めていて食欲も保たれているなど、全身状態が悪くない場合には外来通院で治療可能なこともあります。順調であれば1週間程度の抗菌薬内服で軽快するイメージです。但し治療反応がゆっくりな場合には、それ以上の時間を要すこともあります。

    少し詳しい話になりますが、A-DROPといったような重症度判定スコアを基準に医療者は入院適応を判断しています。A-DROPとはAge(年齢)、Dyhydration(脱水)、Respiration(酸素状態)、Orientation(意識状態)、Pressure(血圧)の頭文字をとった略号です。これら項目の変化の有無も参考にしながら、入院の必要性を判断します。

    細菌性肺炎が発症しやすくなることはありますか?

    例えば高齢者では細菌性肺炎を発症しやすいとされますが、その原因は一般的に咳反射が弱い点、加齢や他の基礎疾患などのために体力が低下しがちな点などが挙げられます。他の病気のために免疫抑制剤などを内服している方も注意が必要と言えます。

    入院中などで人工呼吸器を使用している場合は、それ自体が誘因となって細菌性肺炎が起こることがあります(人工呼吸器関連肺炎と呼ばれています)。

    細菌性肺炎と診断が紛らわしい病気はありますか?

    原因が細菌ではない肺炎(間質性肺炎など)との区別は難しく、症状や画像で判断がはっきりつかないことがあります。また、細菌性肺炎と似た画像を呈する肺がんもあります。さらに、肺がんがベースにありながら細菌性肺炎を発症するような場合は、肺炎の陰影にがんが隠れて発見しにくいということもあります。これらを区別するために気管支鏡という肺の内視鏡カメラによる検査が時に有用です。

    細菌性肺炎は再発を予防できる病気ですか?

    完全に予防することはできませんが、細菌性肺炎の原因菌の中で最も頻度が高い肺炎球菌についてはワクチンがあります(肺炎球菌ワクチン)。現在65歳以上の方には公費での接種も行われています。

    ひと昔前では肺炎球菌ワクチンは一生に一回打てばよいといわれていましたが、最近は5年以上経ったらもう一度接種することを検討しても良いとされています。但し、3回以上の接種についての有効性は示されていません。

    テレビでの宣伝などもあり、ワクチンの存在をご存知の方も増えてきましたが、5年ごとに打たなければいけないと思い込んでいる患者さんが時々おられます。そのような場合は肺の基礎疾患などがなければ特別に心配することは無く、2回接種で十分と説明しています。

    細菌性肺炎は他人にうつる病気ですか?

    菌の侵入を撃退できる体力のある状況では基本的にうつりません。ただしマイコプラズマなど一部の特殊な病原体は他者にうつり、若年者でも肺炎を発症しやすいという特徴があり注意が必要です。また、大きなくくりでは細菌性肺炎に含まれる病気の一つである結核は、病状により人にうつる可能性があります。そのため感染症法という法律により隔離入院などの患者管理について厳密に規定されています。

    細菌性肺炎について、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    細菌性肺炎や、それ以外の通常のかぜを予防するという意味で、手洗い、うがい、マスクは重要です。マイコプラズマなど人にうつる菌については、患者の唾液などがくしゃみ、手などを介して他者の口、鼻に入ることで他者にうつります。その経路を断つには手洗い、うがい、マスクが基本となるためです。

    また口の中の状態を清潔に保つことも余計な常在菌を増やさないという意味で重要です。虫歯などは放置せず治療をしっかり行いましょう。

    細菌性肺炎は完治する病気ですか?あるいは後遺症が残りますか?

    細菌性肺炎の大部分は完治します。しかし一部では、肺化膿症や膿胸といった病状を通じて肺に損傷が残ったり、膨らみにくくなったり、肺の機能面で影響を残すことがあります。

    細菌性肺炎が命に関わることはありますか?

    日本国内の統計では、肺炎は高齢者に限れば死因の1位とされています。全年齢を対象としても死因の4位です。

    頻度が高く身近な感染症と言えますが、やはり重症化し命に関わることがあるため楽観視はしない方がよいと思われます。