2017.10.06 | ニュース

ダイエット・精力増強サプリで筋肉が溶け手術・入院になった28歳男性

薬物相互作用によるセロトニン症候群と急性コンパートメント症候群の症例報告

from The American journal of case reports

ダイエット・精力増強サプリで筋肉が溶け手術・入院になった28歳男性の写真

健康食品やサプリメントは思わぬ害を引き起こすことがあります。激しい足の痛みとけいれんなどから入院になり、サプリメントによるセロトニン症候群が原因と思われた人の例が報告されました。

足が痛くて救急受診した男性

イリノイ大学シカゴ校薬学部の研究者2人が、セロトニン症候群などの原因としてサプリメントが疑われた28歳男性の例を、専門誌『The American Journal of Case Reports』に報告しました。

この人は、ランニングマシンで5分間走ったあと、突然始まった急激で鋭い両足のけいれん・硬直・痛みなどで救急受診しました。

以前に双極性障害と心的外傷後ストレス障害(PTSD)を診断され、両肩の脱臼に対して関節鏡手術、繰り返すアキレス腱炎に対して右足首の手術を受けたことがありました。

抗うつ薬のセルトラリンなどで薬物治療中でしたが、処方された用法・用量を自己判断で変えて飲んでいました。

以前にアルコール乱用を指摘されたことがありますが、最近は飲酒を急にやめ、またジョギング、ウェイトリフティングなどの運動を始めていました。

診察では興奮した様子があり、血圧149/54mmHg心拍数109/分と高い数値でした。筋肉が勝手に動く様子(攣縮、クローヌス)が観察されました。血液検査ではCK 5,038U/lなど、筋肉が激しく損傷していると思われる数値がありました。尿からベンゾジアゼピン系薬剤とオピオイド系薬剤が検出されました。

足の激しい痛みとともに腫れや感覚が鈍る症状があったため、コンパートメント症候群と見て両足の筋膜切開の手術が行われました。

両足の手術後、さらに右腕にもコンパートメント症候群と見られる症状が現れ、右腕も筋膜切開で治療されました。

 

コンパートメント症候群とは?

コンパートメント症候群とは、筋肉の損傷などにより、筋膜で包まれた区画(コンパートメント)の中が腫れあがって血管がしめつけられ、さらに血行が悪くなる悪循環に陥った状態です。けがなどで引き起こされますが、薬剤による筋肉組織の障害(横紋筋融解症)によってコンパートメント症候群に至った例も報告されています。

 

21種類以上のサプリメント

手術後の質問で、患者は救急受診した日に21種類以上のサプリメントを飲んでいたことがわかりました。体重を減らすことと精力増強が目的でした。サプリメントの中には5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を含むものがありました。

セロトニン症候群と診断され、ロラゼパムなどを使った治療が行われました。傷の治療などをしたうえで退院となり、精神科医に通院して治療が続けられました。

 

セロトニン症候群とは?

セロトニン症候群は、体内物質であるセロトニンの働きが過剰になった状態です。体内では5-HTPが代謝されてセロトニンになります。5-HTPは日本では医薬品成分に区分され、食品としての販売は認められていません。この男性については5-HTPとセルトラリンなどを飲んでいたことによりセロトニン症候群が引き起こされたと推定されました。

セロトニン症候群の典型的な症状として以下が知られています。

  • 興奮
  • 幻覚
  • 心拍数の増加(頻拍)
  • 発熱
  • 過剰な発汗
  • 震え
  • 筋肉のけいれん、こわばり
  • 体をバランスよく動かせない
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢

セロトニン症候群はほとんどが治癒しますが、まれに死亡に至った事例も知られています。この男性ではセロトニン症候群がコンパートメント症候群の原因にもなっていたと推定されました。

 

サプリメントの思わぬ影響に注意

サプリメントがセロトニン症候群とコンパートメント症候群を引き起こしたと思われた人の例を紹介しました。

これは極端な例ですが、サプリメントは体に思わぬ影響を与えることがあり、特に持病で薬を飲んでいる人では薬と相互作用することもあります。

セロトニン症候群を例にとれば、たとえばセントジョンズワートは日本でも市販され簡単に手に入りますが、オピオイド鎮痛薬(痛み止めの薬)と同時に使うとセロトニン症候群の危険性があるとして、2016年に米食品医薬品局(FDA)が警告を出しています。

関連記事:幻覚や発汗を起こす「セロトニン症候群」の危険性、米政府機関が警告

ほかにも飲み合わせなどで危険性を指摘されているサプリメントはたくさんあります。すべてを覚えるのは現実的ではありません。サプリメントも薬と同じように副作用があること、ほかの薬と相互作用する可能性があることを意識して、治療中の病気があれば主治医に相談したうえで飲むなどの注意が、思わぬ害を最小限にとどめるために必要です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Dietary Supplement-Drug Interaction-Induced Serotonin Syndrome Progressing to Acute Compartment Syndrome.

Am J Case Rep. 2017 Aug 25.

[PMID: 28839121]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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