2017.05.14 | ニュース

甲状腺がん検診の効果は不明、過剰治療は発がんの可能性も

USPSTF推奨作成のための調査

from JAMA

甲状腺がん検診の効果は不明、過剰治療は発がんの可能性もの写真

症状がないのに検査で甲状腺がんを探すと、治療が必要ないものまで多く見つかってしまうという意見があります。検査の効果を見積もるため、研究報告の調査が行われました。

米国予防医学作業部会(USPSTF)が甲状腺がんの検査を勧められるかの判断のために参照した研究報告を紹介します。この報告は医学誌『JAMA』に掲載されました。

 

USPSTFは、医学研究から得られている証拠をもとに、予防医学として何が勧められるかを選ぶことを目的とした専門家の団体です。

USPSTFは大きな影響力を持っています。たとえば2012年にUSPSTFが前立腺がんの血液検査を行わないよう勧めたことで、アメリカでは50歳以上の男性に対して行われる検査が減りました。対して日本泌尿器科学会が「USPSTFの勧告(案)を今のわが国に適用することは適切でない」とする見解を示すなど、国際的に反響がありました。

関連記事:前立腺がんの検診は過剰医療なのか?アメリカでのPSAスクリーニング検査非推奨の効果

 

ここで紹介する報告は、症状のない成人に対して、隠れた甲状腺がんを見つけ出す目的の検査(スクリーニング)を行うことで、どんな利益と害があるかをまとめたものです。

一般に、スクリーニングには良い面と悪い面の両方があります。

良い面は病気を早期発見し早期治療することで悪化を防ぐこと、特に死亡を防ぐことです。

悪い面は、健康な人にまで検査をして時間や費用の負担を強いること、悪い検査結果が出た場合に不安や抑うつなどの心理的負担につながること、さらには本来治療の必要がなかったはずのものまで見つけてしまい過剰な治療に結び付くことなどが考えられます。

良い面を重視して、悪い面がいくらあってもスクリーニングを行うべきとする考え方もできるかもしれません。しかし、良い面と悪い面のそれぞれを量で評価することで、より現実に即した判断が可能になります。

 

この報告が出された背景として、アメリカで近年甲状腺がんの診断数が増えていることがあります。
1975年には10万人あたり4.9件の甲状腺がんが診断されていましたが、2014年には10万人あたり14.3件に増えています。にもかかわらず、甲状腺がんによる死亡は10万人あたり0.5人で変わっていません。

つまり、結果として死亡に至らない甲状腺がんが増えています

仮に「ずっと見つからなかったとしても死亡に至らない甲状腺がん」が以前からあったとして、スクリーニングによりそうした甲状腺がんを多く見つけてしまったと考えると、診断数が増えても死亡数が増えないことの説明がつくかもしれません。この点は事実に基づいて検証する必要があります。

 

甲状腺がんの大部分を占めるタイプ(甲状腺乳頭がん)は、進行が非常に遅く、死因になる場合も限られています。

国際対がん連合(UICC)の基準では、大きさ2cm未満の甲状腺がんで、甲状腺の外に広がりがなく、リンパ節転移や遠隔転移がない場合は最も軽度の「ステージI」(1期)に分類されます。スクリーニングではステージIの甲状腺がんもよく見つかります。

日本各地の病院から報告されたデータによれば、ステージIの甲状腺がんが見つかり治療されたあとの5年相対生存率は「1.000」、すなわち甲状腺がんがない人と違いがないとされています。

 

もちろん甲状腺がんの中には少数ながら急速に進行するものや命に関わるものもあります。スクリーニングで早期治療することにより救われる人もいるかもしれません。

そこで、実際に行われた検査結果の報告をもとに、スクリーニングからどの程度の効果が得られているかが調査されました。

研究班は文献データベースを検索し、関係する研究報告を集めました。症状のない成人を対象として甲状腺がんのスクリーニングを行った研究を調査対象としました。甲状腺がんが見つかった人の数、甲状腺がんによる死亡の数、検査や治療による害についての結果を統合しました。

 

採用条件を満たす67件の研究が見つかりました。見つかった研究の結果は次のようなものでした。

妥当ないし良好な質の研究で、甲状腺がんスクリーニングの利益を直接試したものは存在しなかった。

甲状腺がんのスクリーニングによって将来の病気や死亡を防げるかどうかを推定できる研究結果は1件もありませんでした。そのため効果は不明でした。

害については次の結果でした。

36件の研究に基づくと(n=43,295)、手術による害の率の95%信頼区間は100件の甲状腺切除術に対して恒常的な副甲状腺機能低下症が2.12から5.93例、100件の手術に対して再発する喉頭神経麻痺が0.99から2.13例だった。16件の研究に基づくと(n=291,796)、放射性ヨウ素による分化型甲状腺がんの治療は二次性原発性悪性腫瘍のリスクのわずかな増加および口渇などの持続する唾液腺への有害作用のリスクの増加と関連した。

甲状腺がんの代表的な治療法に、手術や放射線療法があります。

手術では、甲状腺に張り付いている副甲状腺という小さな臓器を一緒に取り除いてしまったり、周りの組織を傷付けたりする可能性があります。

実際の研究報告によれば、手術後に副甲状腺機能低下症と喉頭神経麻痺がそれぞれ100回の手術あたり1件から数件程度の割合で起こっていました。

放射線療法では一般に、狙ったがんの周りの正常組織にも放射線が当たってしまうため、正常組織の機能が損なわれる場合や、ごくまれには発がんを引き起こす場合もあります。

実際の研究報告では、唾液を出す機能が障害されて口が渇くなどのほか、まれにがんを発生させていることが統計的に確かめられました。

研究班は「[...]スクリーニングが死亡率を減らすことができるか、あるいは重要な患者の健康上の帰結を改善することができるかははっきりしない。不活性の甲状腺がんを同定してしまうスクリーニングおよび、それらの過剰診断されたがんの治療は、患者に害を与えるリスクを増やすかもしれない」と結論しています。

 

USPSTFは、この報告が掲載された『JAMA』の同じ号で、「症状のない成人に対して甲状腺がんのスクリーニングを行わないことを勧める」という見解を提示しています。

検査の効果が不明で害は確かめられているなら、多くの人に勧めることはできません。

 

実際に甲状腺がんの検査を公的な検診として健康な人に行っている国はわずかです。韓国では甲状腺がんの検査が盛んに行われている結果、甲状腺がんが見つかる数は急増しましたが、アメリカと同じように、甲状腺がんで死亡する人はほとんど増えていません。

関連記事:韓国では無駄な検査で甲状腺がんが6倍に?

 

一口に「がん」と言っても種類によって性質は大きく違います。また、がんを調べる検査の性質もそれぞれに違います。検査の効果と害を検証することなく多数の人に検査をしてしまうと、期待した効果が得られないだけでなく、取り返しのつかない害を与えてしまうことにもなりかねません。

検査の害を受ける人に視線を向けることが、医学の観点から求められています。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Screening for Thyroid Cancer: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force.

JAMA. 2017 May 9.

[PMID: 28492904 ] http://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2625324

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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