2016.03.28 | コラム

タケプロン、パリエットなど、消化性潰瘍や胃食道逆流症(逆流性食道炎)などの治療薬であるPPIについて解説

PPI

タケプロン、パリエットなど、消化性潰瘍や胃食道逆流症(逆流性食道炎)などの治療薬であるPPIについて解説の写真
1.胃酸と消化性潰瘍・胃食道逆流症(逆流性食道炎)について
2.PPIとH2ブロッカーの作用の仕組みの違い
3.PPI① オメプラゾール(主な商品名:オメプラール、オメプラゾン など)
4.PPI② ランソプラゾール(主な商品名:タケプロン など)
5.PPI③ ラベプラゾールナトリウム(主な商品名:パリエット など)
6.PPI④ エソメプラゾールマグネシウム水和物(主な商品名:ネキシウム など)
7.「新しいPPI」ボノプラザンフマル酸塩(商品名:タケキャブ)について

食べ物の消化や殺菌に不可欠な胃酸。有益な作用を持つ一方で、胃粘膜などへの攻撃因子や消化性潰瘍の増悪因子などにもなります。ここでは多くの消化器疾患の治療薬として使われる胃酸抑制剤のPPI(プロトンポンプ阻害薬)について解説します。

◆胃酸と消化性潰瘍・胃食道逆流症(逆流性食道炎)について

胃酸は胃の壁細胞から分泌され塩酸(強酸)などを含み消化液などとしての役割を担う一方、胃粘膜や食道粘膜などに対しての攻撃因子となります。

胃潰瘍や十二指腸潰瘍といった消化性潰瘍の主な発症原因はヘリコバクター・ピロリや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用などによるものとされています。胃酸はこれら潰瘍の増悪因子になると考えられていて、消化性潰瘍の治療にはピロリ菌除菌の他、胃酸を抑える薬剤などが使用されます。

胃食道逆流症は胃酸を含む胃液が胃から食道へ逆流し、食道の粘膜がただれて炎症がおきてしまう病気です。胸やけ、飲み込みづらさ、胸の痛みなどの他、咳・息切れ、呑酸(喉の奥に胃液がこみ上げる)などの症状があらわれる場合もあります。この胃食道逆流症の治療にも胃酸を抑える薬剤は使用されています。

胃酸を抑える薬(胃酸抑制剤)はその作用の仕組みによりいくつかに分かれます。次の項目では胃酸抑制剤の中でも消化性潰瘍や胃食道逆流症などへ治療効果が期待できるPPI(Proton Pump Inhibitor)を同じく胃酸抑制剤のH2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)と比較し仕組みの違いなどをみていきます。

 

◆PPIとH2ブロッカーの作用の仕組みの違い

PPIとH2ブロッカーの作用の仕組みを考えるには、胃酸がどのように分泌されているかを考える必要があります。

胃酸の分泌には分泌を促進させる神経伝達物質が関与しています。主にヒスタミン、アセチルコリン、ガストリンの3種類であり、これらの伝達物質が胃壁細胞にある各々の受容体に作用することで胃酸分泌への指令が伝わっていきます。この中でヒスタミンは主にECL細胞から放出されH2受容体に作用し、H2受容体の活性化→cAMP→プロテインキナーゼを介して最終段階であるプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)が活性化させ胃酸が分泌されます。

アセチルコリン及びガストリンはECL細胞を刺激し、ヒスタミン分泌を促進させます。またアセチルコリンは自身のムスカリン受容体に作用しプロテインキナーゼを介してプロトンポンプを活性化、ガストリンは自身のガストリン受容体に作用しプロテインキナーゼを介してプロトンポンプを活性化することでも胃酸分泌を促進するとされています。

胃酸分泌の最終段階であるプロトンポンプを阻害するのがPPIであり、オメプラゾール(主な商品名:オメプラール®、オメプラゾン® など)、ランソプラゾール(主な商品名:タケプロン® など)などの薬剤があります。一方、ヒスタミンの作用するH2(ヒスタミン2)受容体を阻害するのがH2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)で、ファモチジン(主な商品名:ガスター® など)、ラニチジン塩酸塩(商品名:ザンタック® など)などの薬剤があります。

両者の作用の仕組みを考えると、胃酸抑制作用においては胃酸分泌の最終段階を阻害するPPIの方がH2ブロッカーより強いことが考えられ、実際に患者個々の体質や他の薬剤との相互作用(複数の薬物を併用した際、薬効が減弱あるいは増強されたり、好ましくない作用などが起こること)などを除けば一般的にはPPIの方がH2ブロッカーに比べ胃酸抑制作用は強いとされています。もちろん、H2ブロッカーにはPPIにはない特徴もあり例えば、シメチジン(主な商品名:タガメット® など)などが石灰沈着性腱板炎の原因とされるカルシウムの石灰化を改善する作用をあらわすとされることや、ニザチジン(主な商品名:アシノン® など)は唾液分泌促進作用により口腔内乾燥症などの改善に効果が期待できるとされています。またH2ブロッカーは一般的に即効性に優れ、主に胃痛、胸やけ、胃のむかつきなどの改善目的とするOTC医薬品(市販薬)としてもいつくかの薬剤が販売されているため臨床上の有用性が高い薬剤の一つとなっています。

PPIは一般的に強い胃酸抑制作用を持つ一方で、胃内が中性化することで他の薬剤の吸収などに与える薬物相互作用に注意が必要となります。特にアタザナビル硫酸塩(主な商品名:レイアタッツ®)、リルピビリン塩酸塩(主な商品名:エジュラント® など)はPPIの服用によって吸収が低下し血液中の濃度が低下する薬剤として、現在(2016年2月)日本で発売されている全てのPPIと併用禁忌(禁止)とされている薬剤です。

PPIには疾患などにより保険適用上の投与日数の制限が設けられている薬剤があります。通常、胃潰瘍では8週間、十二指腸潰瘍では6週間、胃食道逆流症では8週間(ただし、効果不十分な場合などで更に継続する場合もある)などの投与制限があります。しかし、それぞれの症状などにより継続して維持する治療法が推奨される場合や低用量アスピリン投与時における消化性潰瘍の再発抑制目的などにおいて医師の診断の下、PPIをある程度長期に渡り継続服用する場合もあり自己判断でむやみに中止しないように注意することが大切です。

その他、PPIにはヘリコバクター・ピロリのウレアーゼ活性を抑制する作用や抗菌薬の抗菌活性を高める作用などにより、ピロリ菌の除菌治療において抗菌薬と併用する薬剤としても使われています。またピロリ菌検査(13C-尿素呼気試験法)時にPPIを服用しているとピロリ菌陽性でも静菌作用により「偽陰性」となる可能性があります。そのため、除菌前などの感染診断の実施は通常、薬剤の使用中止又は終了後2週間以上経過して行うことになっています。また除菌後の感染診断(除菌判定)は通常、除菌治療の薬剤が終了した後、4週間以降(3ヶ月以上あけて検査するのが望ましいという見解もある)で実施するとされています。(ただし、PPIの中にはピロリ菌のウレアーゼ活性に対する抑制作用をあらわさない薬剤もあります)

 

◆PPI① オメプラゾール(主な商品名:オメプラール®、オメプラゾン® など)

世界で最初に登場したPPIです。

オメプラゾールの原末は胃酸のような強い酸性下においては不安定で胃内で急速に分解されてしまうため、内服薬は弱アルカリ性の腸内で溶けるように造られた腸溶錠となっています。腸で溶けるように工夫されているため、錠剤を分割したり粉砕して服用することは原則として避けるべきとされています。消化性潰瘍、胃食道逆流症などの治療に用いられ、抗菌薬との併用によるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助への保険適用も持ちます。オメプラール®には剤形として注射剤もあり用途などに合わせて選択が可能です。

 

◆PPI② ランソプラゾール(主な商品名:タケプロン® など)

日本で初めてヘリコバクター・ピロリ除菌に対して抗菌薬と本剤を含む3剤併用療法が認められた薬剤です。本剤の主な製剤であるタケプロン®を造る武田薬品工業株式会社からは除菌専用製剤として、ランソプラゾールと2種類の抗菌薬(アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン)の1日分の薬剤を1シートに組み合わせたランサップ®や、一次除菌が不成功の場合に行う二次除菌に対する1日分の薬剤(ランソプラゾール、アモキシシリン水和物、メトロニダゾール)を1シートに組み合わせたランピオン®パックが発売されています(現在、新規PPIのボノプラザンを含む除菌専用製剤のボノサップ®及びボノピオン®が登場したことを受け、ランサップ®とランピオン®の両製剤は共に2019年3月末をもって薬価収載から削除されています)。

ランソプラゾールの15mg製剤(製剤例:タケプロン®OD錠15mg など)には低用量アスピリン投与時及びNSAIDs投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制に対する保険適用もあります。またタケプロン®には注射剤の剤形もあり用途などに合わせた選択が可能です。

 

◆PPI③ ラベプラゾールナトリウム(主な商品名:パリエット® など)

オメプラゾール、ランソプラゾールよりも比較的他の薬剤との相互作用が少ないとされているPPIの一つです。その理由の一つとして薬物代謝酵素であるCYP2C19への関与が少ないことが挙げられます。オメプラゾール及びランソプラゾールではこのCYP2C19の関与により、併用注意の薬剤としてジアゼパム(主な商品名:セルシン® など)やフェニトイン(主な商品名:ヒダントール® など)が添付文書上に表記されていますが、ラベプラゾールではこれらの薬剤が併用注意に設定されていません。もちろん相互作用が少ないといっても全くないわけではなく他のPPIでも注意とされている薬剤(ジゴキシンなど)を含めいくつかの薬剤が併用注意となっています。

ラベプラゾールナトリウムも抗菌薬との併用によるヘリコバクター・ピロリ除菌の補助への保険適用を持ちます。主な製剤であるパリエット®を造るエーザイ株式会社からは除菌専用製剤として、ラベプラゾールナトリウムと抗菌薬2種(アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン)の1日分の薬剤を1シートに組み合わせたラベキュア®パックや、一次除菌が不成功の場合に行う二次除菌に対する1日分の薬剤(ランソプラゾール、アモキシシリン水和物、メトロニダゾール)を1シートに組み合わせたラベファイン®パックが発売されています。

またパリエット®には10mg、20mgの規格に加え、5mgの規格がありこの規格は主に低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制などで使われています。

 

◆PPI④ エソメプラゾールマグネシウム水和物(商品名:ネキシウム®

オメプラゾールを元に造られた薬剤で、オメプラゾールよりも患者個々の体質などによる薬の効果の差などが少ないとされています。消化性潰瘍、胃食道逆流症などの疾患の他、NSAIDs投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助としても使われます。

 

◆「新しいPPI」ボノプラザンフマル酸塩(商品名:タケキャブ®)について

これまでのPPIとは異なる仕組みで作用をあらわすPPIで、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB:Potassium-Competitive Acid Blocker)と呼ばれる種類の薬剤になります。主な商品である「タケキャブ®」の名称は田薬品工業株式会社のP-CABから由来します。

ランソプラゾールなどの本剤以前に開発されたPPIは体内の酸によって活性化しプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)を阻害するのに対して、本剤は既存のPPIに比べ塩基性が強く胃の壁細胞にある酸分泌部位(分泌細管)に高い濃度で集積・長時間残存し、カリウムイオン(K+)と競合することでプロポンポンプの活性を阻害し、酸による活性が必要ないことから一般的に既存のPPIに比べて早く作用があらわれるとされています。また、塩基性が強く酸性環境下でも比較的安定していて酸分泌部位(分泌細管)に長時間残存する性質から、新たに酸分泌部位に移動してきたプロトンポンプに対しても阻害作用をあらわすとされています。

消化性潰瘍、胃食道逆流症、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指 腸潰瘍の再発抑制、NSAIDs投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制などの他、ヘリコバクター・ピロリ除菌の補助にも使われます。ピロリ除菌に関してはタケキャブ®を造る武田薬品工業株式会社から専用製剤も発売されていて、ボノプラザンと2種類の抗菌薬(アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン)の1日分の薬剤を1シートに組み合わせたボノサップ®パックや、一次除菌が不成功の場合に行う二次除菌に対する1日分の薬剤(ボノプラザン、アモキシシリン水和物、メトロニダゾール)を1シートに組み合わせたボノピオン®パックが使われています。

なお、ボノプラザンはピロリ菌のウレアーゼ活性に対して明らかな抑制作用をあらわさないため、本剤の服用により理論上はピロリ菌検査(13C-尿素呼気試験法)で「偽陰性」を示す可能性がないとされています。

 

ここでは主に消化性潰瘍や胃食道逆流症などの治療薬として使われるPPIに関して紹介してきました。胃痛、胸焼け、呑酸、(風邪をひいたわけでもないのに)咳が出るなどの症状は胃酸が関与する消化器疾患のシグナルかもしれません。数日たってもこれらの症状が改善しないなどの場合では医療機関への早めの受診などを考慮することが大切です。

執筆者

菊地友佳子

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る