Beta 多発性硬化症のQ&A
視力障害:視神経という神経が障害を受け(球後性視神経炎)、見えにくくなります。片眼に症状が現れることも、両眼に症状が現れることもあります。
複視:眼球運動障害(特に眼球の協調運動が障害される)のため、ものが二重に見えます。特に左右方向で目立ちます。眼を動かした時に痛みが出ることもあります。
視野障害:視野の中心部が見えにくくなることがあります(中心暗点)。
嚥下障害 :ものが飲み込みづらく、むせやすくなります。
構音障害 :しゃべりづらくなります。
四肢の筋力低下:手足に力が入りにくくなります。
四肢の痙性:ひどくなると歩くと膝が笑うようにガクガクふるえます。診察上は腱反射の亢進がみられます。
感覚障害:熱さや痛みが感じにくくなったり、逆に非常に敏感になったりします。始終不快なしびれや痛みが出ることもあります。 手足だけでなく、胸やお腹に帯状に感覚障害があらわれることもあります。
有痛性強直性けいれん:手足に痛みが走り、つっぱってしまうことがあります。体動や温度で誘発されることがあります。
レルミット徴候:うつむくと背骨にそって電気が走るような痛みがでることがあります。
排尿・排便障害:トイレに行く回数が非常に多くなったり、もらしてしまったりすることがあります。逆に尿が全然出なくなってしまうこともあります。また便秘が続くこともあります。
性機能障害:勃起不全などがみられます。
小脳症状:小脳は体の平衡感覚をつかさどっています。ここが障害されると、まっすぐ歩けなかった り、しゃべり方がおかしくなったり(しゃべるスピードがバラバラになったり、強弱がめちゃくちゃになったりする)します。
感染症やストレス、妊娠で症状が悪くなったり再発したりすることがあります。
ウートフ徴候:体温の上昇で症状が悪くなります。長時間の入浴後に目立つことが多いです。また、運動後も要注意です。患者さんの中には、真夏の炎天下に外出していて症状が悪くなった場合は 、クーラーの効いた喫茶店に入るとよくなる、というような方もいます。
易刺激性
多幸的気分
抑うつ
不安
焦燥感
ヒステリー
精神病症状(幻覚や妄想など)
被暗示性の亢進(他人からの影響をうけやすくなる)
多発性硬化症(MS)の診断にどのような検査が必要ですか?
多発性硬化症の診断には、健診でやるような通常の血液検査は役に立ちません。血液検査で特殊な項目をみたり、髄液検査を行ったりすることが必要になります。また、画像検査では頭部や脊髄のMRIが非常に重要です。さらに、誘発電位という非常に特殊な検査を行うことがあります。以下、多発性硬化症を診断するために必要になる検査について簡単に説明します。
◎血液・髄液検査
血液検査では、一般的な検査で異常が出ることはありませんが、他の疾患を除外するために一通りの血液検査を行います。特殊な血液検査として、視神経脊髄炎という病気と区別するために抗アクアポリン4抗体を測定することがあります(視神経脊髄炎では抗アクアポリン4抗体は陽性となりますが、多発性硬化症では陰性です)。 髄液検査では、IgGインデックスという値が高くなったり、オリゴクローナルバンドやミ エリン塩基性タンパクがみられることがあります。
◎頭部・脊髄MRI検査
脳や脊髄、視神経の病変を調べます。病変はMRI検査ではっきり分かることが多いです。
◎視覚誘発電位検査
視覚に刺激を与えて、大脳の視覚をつかさどるところでの電位を調べます。視覚刺激は白黒の格子模様を使います。大脳での電位は、脳波検査で使う電極を頭に貼って測定します。視神経障害の評価に用います。
◎感覚誘発電位検査
手足に弱い電気刺激を加え、大脳の感覚をつかさどるところでの電位を調べます。大脳での電位は視覚誘発電位と同様に、脳波検査で使う電極を頭に貼って測定します。手や足から大脳にいたるまでの感覚の経路に異常がないか調べる検査です。
◎運動誘発電位検査
首や腰、後頭部、頭頂部に対して大きなコイルをあてて刺激し(磁気刺激)、運動の経路に異常がないか調べる検査です。これは非常に特殊な検査でこの検査ができる病院は限られています。
多発性硬化症には、「この症状があれば多発性硬化症」というような特徴的な症状がなく、検査が必要になることが多いです。多発性硬化症の疑いがある場合は、神経内科医のいる病院を受診する必要があります。その病院で診断がつけばよいのですが、診断が難しい場合はより多発性硬化症に詳しい神経内科医のいる大きな病院に紹介されることがあります。
頻尿や尿失禁など排尿障害に対する治療法について教えてください
多発性硬化症の症状には排尿障害があります。尿を押し出す膀胱排尿筋や、尿が漏れないように尿道を締め付ける尿道括約筋を支配する神経が障害されてしまうことにより、尿が上手く出なくなったり(排尿困難)、失禁してしまったりすることがあります。
◎排尿困難に対して
排尿困難が起こっている場合は、膀胱排尿筋の収縮が低下することで十分に尿を押し出せないか、尿道括約筋が締まりすぎて尿が出づらくなっている状態(かその両方の状態)が考えられます。
膀胱排尿筋の収縮力の低下に対してはコリン作動薬という薬剤を、尿道括約筋が締まりすぎている状態に対してはα遮断薬を使用します。
また、薬による治療を行ってるにもかかわらず残尿を100mLを超える場合は、間欠自己導尿を検討します。間欠自己導尿とは患者さんが自分で尿道から膀胱の中にカテーテルと呼ばれる細い管を差し込み、溜まった尿を体の外に排出する方法です。
◎頻尿や尿失禁に対して
頻尿や尿意が強い状態(尿意切迫)、尿失禁などは、膀胱が活動しすぎている状態(過活動膀胱)です。このような症状に対しては抗コリン薬という膀胱の活動を抑える薬を使用します。また、夜間の頻尿がひどく睡眠に支障がある場合は、寝る前にデスモプレシンの点鼻薬を使用することがあります。(ただし、保険適応外ですので詳しくは担当医の方にご相談ください。)
また近年では見た目が気にならないよう工夫されたオムツやパッドがあり、これを使用することで尿もれの不快感や不安が軽減できます。
多発性硬化症(MS)の主な症状について教えてください
多発性硬化症において、どのような症状が出るのかは、脱髄病変がどこに出てくるかによって異なり、「この症状があれば多発性硬化症と診断できる」というような特別な症状はありません。 主な症状については以下の通りです。
◎多発性硬化症の主な症状
上記の症状が、出たり改善したり(時間的多発性)、複数箇所に症状が出たり(空間的多発性)するようなら、多発性硬化症が疑わしくなってきます。 多発性硬化症の場合、上に挙げたような症状は以下の特徴を持ちます。
考えられる症状を色々列挙しましたが、初発症状(最初に現れる症状)としては、視力障害や手足の筋力低下、感覚異常が多いです。特に視力障害は重要で、原因不明の視神経炎と診断されていた人が後年多発性硬化症(あるいは視神経脊髄炎)を発症し、実は視神経炎が初発症状であったと後になって分かることもよくあります。
多発性硬化症(MS)の発症原因となる「脱髄」とは何でしょうか?
多発性硬化症は、神経内科の病気の中で大きく分類すると「脱髄疾患」というものに分類されます。 脱髄とは何でしょうか?神経は電気信号を伝える電線のようなものです。この神経だけでは電気信号の伝わる速さは非常に遅いのですが、速くするために神経の周りにビニールコードのビニールのようにグリア細胞が巻き付き、ところどころある細胞の切れ目を利用し 、電気が飛び石のように速く伝わるような仕組みになっていています。このグリア細胞が形成している、ビニールのようなものを髄鞘(ずいしょう)とよびます。
脱髄とは、何らかの理由でこの髄鞘がはがれてしまうことです。髄鞘を形成するグリア細胞には、神経に栄養を与えたり、守ったりという役割もあるため、髄鞘がはがれると、電気信号の伝わる速さが遅くなるだけでなく、神経細胞そのものにもダメージが生じてきます。
多発性硬化症では、この脱髄が脳や脊髄、視神経といった中枢神経系の色々なところに(空間的多発)、くりかえし( 時間的多発)生じてきます。症状が繰り返したり(再発)おさまったり(寛解)することも特徴です。どうしてこの病気が起きてしまうのかまだはっきりしたことはわかっていませんが、体の中の免疫系が異常に活性化してしまうことが原因だと言われています。
多発性硬化症(MS)と似ている病気はありますか?
多発性硬化症では、ものが二重に見えるなどの視力障害と手足の筋肉のつっぱりや筋力低下、痺れや痛みといった症状が現れます。この多発性硬化症の症状は他の病気でもみられるものが多く、区別しなければならない病気は多岐にわたります。
多発性硬化症に似た病気に視神経脊髄炎と急性散在性脳脊髄炎という病気があります。 まず、この2つの病気について説明します。
①視神経脊髄炎
視神経脊髄炎は、重度の視神経炎と脊髄炎を呈する病気です。いずれも多発性硬化症でもみられる症状であり、かつては多発性硬化症の一亜型と考えられていました。ところが、抗アクアポリン4抗体というこの病気に特異的な抗体が見つかったことで、実は多発性硬化症とは違う病気であるということがわかってきました。多発性硬化症では抗アクアポリン抗体が出現することはありません。多発性硬化症と視神経脊髄炎は非常に似ている病気ですが、治療法に異なる点があり区別する必要があります。
詳しくは「視神経脊髄炎(NMO)と多発性硬化症は違う病気ですか?」のページをご参照ください。
②急性散在性脳脊髄炎
多発性硬化症と同じ中枢神経系の脱髄疾患の仲間です。ウイルス感染後やワクチン接種後にみられることが多いことが知られています。
意識障害やけいれんといった症状は多発性硬化症ではみられにくいのですが、急性散在性脳脊髄炎ではこういった症状がよくみられる点が参考になります。しかし、これだけではっきり区別はできません。また、CT検査やMRI検査などの画像所見もはっきり区別することは難しいです。
この2つの病気の最大の違いは、急性散在性脳脊髄炎は再発することは稀ですが、多発性硬化症では再発を繰り返すということです。再発するかどうかで区別することができる一方で、初発の多発性硬化症の場合では急性散在性脳脊髄炎との区別が問題となります。
上記以外に、多発性硬化症を診断・鑑別するうえで重要となる病気を紹介します。
③視神経炎
視神経炎では視力の低下や視野の異常などの症状が出ます。原因不明の視神経炎では1回治ってしまえばその後再発しないことも多いですが、多発性硬化症や視神経脊髄炎の視神経炎では、治ってからも何回も再発を繰り返します。しかし、症状だけで原因が視神経炎なのか多発性硬化症なのかを区別することは困難です。
④神経ベーチェット病
ベーチェット病は、口内炎(口腔内アフタ性潰瘍)、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状を主な症状とする、自己免疫疾患の一つです。神経症状を合併することがあり、神経ベーチェット病と呼びます。多彩な神経症状が良くなったり悪くなったりする点が多発性硬化症と似ており、区別が難しいことがあります。ベーチェット病の他の症状がないかを調ることで原因が分かることが多いです。
⑤神経サルコイドーシス
全身に肉芽腫といわれるものができる、自己免疫疾患の1つです。眼に症状が出ることが多く、脊髄にも病変ができるので、多発性硬化症と区別しなければならない場合があります。サルコイドーシスは肺に病変を作ることが多いので肺の検査を行い、他にも血液検査で特徴的な異常(ACE高値)がみられることがあります。
非常に稀ですが、多発性硬化症の病変が脳腫瘍のようにみえることがあります(tumefactive型)。脳腫瘍のような腫瘤を形成するのですが、画像上区別がつくこともありますがつかないこともあります。脳腫瘍だと思って手術で組織をとってきて調べた結果、実は多発性硬化症であったということもあります。
他にも考えられる病気はたくさんありますが、代表的なもののみ取り上げて、区別する際に必要な点を中心として解説を加えました。多発性硬化症は神経内科の中でも診断が難しい病気の一つです。
以上のような病気を頭に入れながら、これまでの症状の経過を参考にしつつ診断を進めていきます。
多発性硬化症は、他の病気との鑑別がなかなか難しいとされますので、診断が付かない場合は多発性硬化症に詳しい神経内科のある医療機関に受診されることがよいでしょう。
多発性硬化症(MS)の治療法について教えてください
多発性硬化症の治療は、症状が急に悪くなった時(急性増悪時)と、急性増悪を乗り切った後の再発予防のために行う時で大きく異なるため注意が必要です。それぞれ別々に解説していきます。
◎多発性硬化症の急性増悪時の治療
症状がどんどん悪くなってきている時に試みるべき治療は、ステロイドパルス療法です。メチルプレドニゾロンという薬を点滴で3日間ほど投与します。この治療は非常に効きやすいのですが、これでも十分な治療効果が得られないことがあります。加えて、ステロイドは副作用が多い薬であり、副作用のために使えないこともあります。そういった場合は、血漿交換療法という治療を行います。これで血液中の有害物質を吸着し除去することで、症状を改善するとされています。しかし、血漿交換療法は腎臓の悪い方が透析で使うような体外循環装置というものが必要になり、大がかりな治療法となります。
◎多発性硬化症の再発予防のための治療
次に、急性増悪を乗り切った後の治療について考えていきます。この治療を考える上で非常に重要なことは、本当に診断が多発性硬化症で正しいのか?ということです。実は多発性硬化症の診断をつけることは簡単には出来ません。多発性硬化症に似た病気として、例えば視神経脊髄炎というものがあり、この2つの病気の区別は簡単ではありません。あたりまえだと思われるかもしれませんが、病気の様子(病歴)や体の様子(身体所見)や検査の所見から総合して正しい判断をしていくことが最も大切になります。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の違い、鑑別の仕方について、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
多発性硬化症も視神経脊髄炎も、急性増悪時の治療は大きくは変わらないのですが、この再発予防のための治療については大きく異なり、むしろ逆効果であることさえあります。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の治療方法の違いについてまとめた記事もあわせてご参照ください。
多発性硬化症(MS)の再発予防で使われる薬について教えてください
再発予防のために一般的に用いられるのは、インターフェロンβ1a(アボネックス®)、インターフェロンβ1b(ベタフェロン®)です。インターフェロンβ1aは週1回筋肉注射、インターフェロンβ1bは隔日皮下注射を行います。はっきりした使い分けはありません。インターフェロンβ1aの効きが悪ければ1bを使うこともありますし、逆もありえます。
インターフェロンβの投与により、長期予後の改善が見込まれます。ですが、効果には個人差があり、非常によく効いて全く再発がみられなくなる方から、ほとんど効果が無い方、むしろ悪くなったように思える方までいます。約1/3の方にとっては効きが良くないと言われていますから、そういった方は早くインターフェロン治療に見切りをつけて他の治療法を試してみることが重要だと思われます。
主な副作用としては、インフルエンザ様症状、注射部位の発赤・硬結、肝機能障害、白血球減少、抑うつ状態の誘発などがあります。こういった副作用が強く、薬を続けられない人もいます。
多発性硬化症には有効なのですが、視神経脊髄炎では、効果が無いどころか、むしろ悪くなってしまうことさえあるので注意が必要です。
多発性硬化症(MS)の再発予防薬でインターフェロンβ以外にどんな薬がありますか?
インターフェロンβ以外に、再発予防で使用される治療薬フィンゴリモドとナタリズマブについて、また現在の新薬の動向についてご紹介します。
◎フィンゴリモド
リンパ球はリンパ節やリンパ管を流れるリンパ液中に存在します。リンパ球が移動する際に重要な役割を果たしているのがフィンゴシン1-リン酸という物質です。フィンゴシン1-リン酸を感知して作用するためにスフィンゴシン1-リン酸受容体というものが働くのですが、フィンゴリモドはこの受容体の働きを邪魔します。そのため病気をつくるリンパ球がリンパ節から出にくくなります。
インターフェロンと違ってこちらは内服薬(飲み薬)であり、注射ではない分、患者さんにかかる負担は小さいです。日本では2011年より使えるようになった新しい薬です(商品名はジレニア®、もしくはイムセラ®)。インターフェロンとフィンゴリモドのどちらを最初に使うかについては決まりはなく、担当医師の判断によります。
この薬は、多発性硬化症の再発抑制だけではなく、脳の萎縮が進行していってしまうのを防ぐ効果もあることが示されています。
視神経脊髄炎では有効性が確かめられていないため、使うことはありません。
使われて日が浅い薬なので、安全性の評価についてはまだ定まったものがありません。主な副作用としては、不整脈(徐脈)、リンパ球減少、感染症、黄斑浮腫、肝機能異常などがあります。また、催奇形性(先天性異常が起こりやすくなる)も報告されているため、妊婦や妊娠を考えている方には使えません。徐脈などの副作用が出ないかを観察をするために、この薬を使い始める時には入院(2泊3日程度)する必要があります。また、黄斑浮腫が現れないか必要時に眼科の先生に診察してもらうことがあります。
◎ナタリズマブ
ナタリズマブは、多発性硬化症の病巣を作る原因となる炎症細胞が、血液脳関門というバリアをこえて脳に入っていくのを阻害する新薬です(製薬会社のホームページには白血球に発現するα4β1インテグリンと血管内皮細胞に発現するVCAM-1の相互作用を阻害することにより、白血球の中枢神経系への侵入を阻害すると書かれていますが、非常に大雑把に説明するとこのようになります)。2004年にアメリカで発売されましたが、ナタリズマブを使用した患者が進行性多巣性白質脳症(PML)という病気を発症したために一時販売を取り下げました。ですが、あまりにも治療効果が高いために、患者会からの強い要望もあり、安全に使えるように考えられた上で販売が再開され、2014年から日本でも使えるようになりました。現在では進行性多巣性白質脳症の発症リスクとなる因子がわかってきており、リスクの高い患者には投与しないなど安全に使える方策ができています。
内服薬ではなく点滴で投与する薬ですが、投与頻度は4週間に1回でよく、薬の投与に関わる負担は大きくないとされています。
非常に強力な再発抑制作用があり、これまでどんな薬を使っても再発してしまったという患者さんでも、この薬では再発を抑えることができる可能性があります(当然ながら、必ず再発を抑えられるというわけではありません)。ただし、投与を中止すると薬を投与する前の状態に戻ってしまうと言われており、この薬を中止した場合は速やかに別の治療(フィンゴリモドの内服など)を開始する必要があります。
この薬もフィンゴリモド同様、視神経脊髄炎の治療には用いられません。
以上が多発性硬化症の再発予防のために使われる薬として日本で利用可能なものです。その他にも、フマル酸ジメチル、テリフルノミド、グラチルマー酢酸塩などのように、欧米では認可されているものの日本ではまだ使えない薬もありますし、現在臨床試験が進んでいる薬もたくさんあります。
これまでの薬よりも効果が高くかつ安全性も確認された薬の研究が日々行われているので、早晩良い薬が出現することが期待できます。
多発性硬化症(MS)で抑うつや不安、ヒステリーなどの精神症状が出ることはありますか?
多発性硬化症では脊髄(背骨の中を通る神経)だけではなく脳の神経にも障害が起きるため、精神症状があらわれることがあります。精神症状は若くして発症し、再発を繰り返すことがあり、患者さん自身が悲観的になりやすいため、治療や心理的なサポートが必要になります。 多発性硬化症で生じやすい精神症状は以下の通りです。
このほかにも、脳の障害部位に合わせて神経症状として注意力や集中力の低下、軽度の認知症状といった神経症状があらわれることがあります。
多発性硬化症(MS)の精神症状に対する治療方法について教えてください
多発性硬化症によって現れる精神症状の治療法には精神療法や薬物療法があります。 精神症状に対する薬物治療としては、抑うつ傾向が高まっている場合には脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)を増やすアマンタジンや抗うつ薬、抗不安薬をはじめとした向精神薬を使用します。
自殺企図があるような重症の方の場合は、多発性硬化症の治療薬であるインターフェロンβ治療を中止します。精神科医による治療が必要になりますので専門的な医療機関にかかることが望まれます。
多発性硬化症(MS)の経過について教えてください
多発性硬化症の経過は患者さんによって様々で、予測することが大変難しいです。 後遺症を残さないためにも、急激な症状の悪化を防ぐことと、症状が悪化している期間を短縮することが大切です。
一般的に多発性硬化症の経過は、症状の再発を繰り返しながら何年も過ごす場合と、あるタイミングで症状が消えずに重い後遺症が出る場合があります。
再発するまでの期間は個人差があり、数か月から10年間以上とばらつきがあります。
多発性硬化症がある人の約40%は日常生活に支障をきたさず、約75%は車椅子を使用する必要がないとされます。しかし、再発が頻回におきる場合や急激な炎症反応によって日常生活が困難になることがあるため注意が必要です。この傾向は中年期の男性に特に多いと言われています。
多発性硬化症で死ぬようなことは極めて重症の場合を除いてあまりありません。
再発が起きないように定期的に経過観察を行い、適切な治療を受けるとともに再発を防止することが大切です。そして過度な身体への負荷をかけることはなるべく避け、精神的なストレスを取り除くことが大切になります。
多発性硬化症の場合、ウートフ現象と呼ばれる体温の上昇に伴い症状が悪化する場合があるため、体温管理には注意する必要があります。
妊娠中、授乳中の薬物治療はどうすればよいでしょうか?
◎妊娠中
妊娠中にインターフェロンβ治療を行った場合、流産や生まれてくる赤ちゃんが低体重児で生まれてくるリスクが高いと報告されています。そのため、妊娠中もしくは妊娠の可能性がある場合はインターフェロンβを使用することは出来ません。なお、治療中に妊娠が発覚した場合はすぐさま治療を中断する必要があります。
妊娠に備えてインターフェロンβ治療を中断する場合は、再発が起きないように日々の生活から注意すると良いでしょう。精神的なストレスをかけないよう、身体に負荷をかけすぎないよう注意する必要があります。ストレスを感じたときはリラックスする時間を設けると良いです。
◎出産後
出産後は速やかにインターフェロンβを再開することができます。治療を開始した後は、授乳を中止し人工乳に切り替えます。そのため、赤ちゃんに必要な栄養素や免疫が多く含まれた、出産後1週間の間に出る母乳(初乳)を与えた後にインターフェロンβを再開すると良いです。
◎妊娠中、授乳中の再発
妊娠中や授乳中に多発性硬化症が再発した場合、妊娠14週以降であれば副腎皮質ステロイドを使用することが可能です。また、他には血液浄化療法(血漿交換療法、免疫吸着療法)と免疫グロブリン大量静注療法も使用することができます。ただし、免疫グロブリン大量静注療法については、即時的な効果があるかについてはわかっていません。
どの治療法も使用することができますが、母体への安全性については確かな証拠は得られていないため、担当医と相談のうえ治療方針を選択する必要があります。
妊娠すると多発性硬化症(MS)になりやすいのでしょうか?
以前より、妊娠と多発性硬化症の発症と再発に関係があると考えられています。多発性硬化症の方で妊娠を希望される方は、妊娠との関係性について事前知識をつけておくことが大切です。
◎妊娠と多発性硬化症の関係について
多発性硬化症は20-40代の女性に多く発症し、妊娠が可能になる年齢と重なること、患者の約10%が出産をきっかけに発症していることから、妊娠が多発性硬化症に影響しているのではないかと以前より考えられていました。
多発性硬化症の治療方針について述べている診療ガイドラインによると、妊娠中は多発性硬化症の発症と再発率は低下するものの、出産後3か月の間は再発率が増加し、特に妊娠する前に多発性硬化症の病状が安定していない場合には、再発するリスクが高くなる傾向にあると報告されています。
しかし、長期的にみると妊娠によって、多発性硬化症の病状が悪化したり、日常生活に悪影響を及ぼすことにはつながらないとも報告されています。また、母体への影響に関しては、多発性硬化症によって妊娠中毒や流産の危険性はみられることはないと示されています。
患者さんで妊娠を希望される方は、出産後に再発する可能性が高くなることを事前に把握し、そのうえで担当医に相談をして計画的に治療方針を決めることが重要です。また、多発性硬化症の治療であるインターフェロンβは妊娠中は使用することが出来ないので、妊娠前に適切な治療を受け病状をできるかぎり安定させておくことが大切です。
多発性硬化症(MS)に関して有益な情報サイトがあれば教えてください。
◎MS CABIN
MS CABINという多発性硬化症の情報について掲載しているサイトがあります。このサイトでは多発性硬化症や視神経脊髄炎についての疾患情報が説明されているだけではなく、患者会や治験についての情報を調べられることもできます。(⇒http://www.mscabin.org/)
◎東北大学の多発性硬化症治療学寄付講座
東北大学の多発性硬化症治療学寄付講座のサイトは、多発性硬化症と視神経脊髄炎(NMO)の早期発見と適した治療法の情報を発信しています。最新情報の更新はもちろん、患者やそのご家族、診断に困っている医療関係者を対象にした質問コーナーが設置されています。何か困ったことがある場合は相談してみるとよいかもしれません。(⇒http://www.ms.med.tohoku.ac.jp/)