にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
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最終更新: 2024.11.07
乳がんの基礎知識
POINT 乳がんとは
乳房の中の乳腺という部位に発生する悪性腫瘍です。40歳代から50歳代にかけて見つかる人が多いです。女性ホルモンや遺伝などが関与しているとされます。乳房のしこりを自覚することが多く、しこりをきっかけにして発見されることも多いです。画像検査(マンモグラフィ、超音波検査、CT検査など)や病理検査(がんが疑われる部分を取り出して調べる)が乳がんの診断に用いられます。手術や薬物療法、放射線療法などが治療に用いられ、がんの進行度(ステージ)などを鑑みて選ばれます。乳房にしこりがあるなど、乳がんが心配な人は乳腺外科を受診して詳しく調べてもらってください。
乳がんについて
- 乳腺に発生する
悪性腫瘍 - 乳房には、母乳を作る乳腺がある
- 罹患者数97,812人(2022年)、死亡者数14,830人(2021年)
- 乳がんの発生や成長には女性
ホルモン (エストロゲン )が関わっている- エストロゲンが出ている期間が長いと乳がんができやすくなる
- エストロゲンが長く分泌される原因
- 初経年齢が若い
- 閉経が遅い
- 出産歴・授乳歴がない、高齢出産
経口避妊薬 (ピル)を使っていたことがある- ホルモン補充療法の経験がある(更年期障害の治療など)
- その他に、乳がんの危険が高くなる例として以下のものが挙げられる
- 乳がんの家族歴
- 飲酒
- 肥満
- BRCA1、BRCA2という遺伝子の異常により乳がんと卵巣がんのできる確率が上がる例があり、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とも呼ばれる
- ただしこれは一部の乳がんのみに当てはまることであり、この遺伝子異常がなくても乳がんになることは十分にありえる
- 遺伝子異常があっても乳がんにならない場合もある
- 頻度
- 40歳代から患者数が増加し、50歳前後での
発症 が最も多い
- 40歳代から患者数が増加し、50歳前後での
乳がんの症状
- 乳房のしこり(硬い塊に触れること)
- 乳房の上外側(脇の下の近く)に最もできやすい
- 乳がん以外の
良性 の病気でもしこりはできる
- 乳房の皮膚のくぼみ
- 乳がんが皮膚の近くにあると皮膚を引っ張って、えくぼのようなくぼみができる
- 脇の下の
リンパ節 に触れる- 乳がんがあると脇の下のリンパ節に
転移 をきたしやすい - 脇の下のリンパ節に転移した場合は、こりこりとした硬いリンパ節を触れることがある
- 乳がんがあると脇の下のリンパ節に
乳がんの検査・診断
マンモグラフィ - 乳房を上下、斜めから挟んで撮影する
レントゲン - 40歳以上の女性は2年に1回検診を受けることが推奨されている
- 乳房を上下、斜めから挟んで撮影する
- その他の画像検査:
がん の大きさ、位置、転移 があるかどうかなどを確認する超音波検査 CT (リンパ節転移 、また全身への転移についても診断できる)胸部MRI (MRI のほうがCTよりも乳腺自体は見やすいと言われている)
生検 腫瘍 の存在が疑われた場合に、(超音波で病変 を見ながら)針を刺して細胞を吸い取って、それが良性腫瘍 か悪性腫瘍 かなどを確認する(針の太さが太いほど取れる組織が大きく診断の正確性、またホルモン 製剤などへの反応性、乳癌の中での悪性度 の高さを示す指標を調べることができる)- 生検でとりだした細胞を顕微鏡で見ることで、悪性腫瘍の診断が確定される
- 乳がんの
ステージ は「腫瘍の大きさ」「周囲のリンパ節 への転移」「離れた臓器への転移」の3つから決定される
乳がんの治療法
- 乳がんの主な治療法
- 手術
放射線療法 - 薬物療法
- 治療法は以下の要素を総合的に判断して決定する
ステージ がん の悪性度 ホルモン 製剤への反応性 など
- 手術について
- 比較的早期のがんであれば手術を検討
- 手術は大きく2種類
- 乳房部分切除術(乳房を残してがんの部分とその周りを切り取る手術)
- 乳房切除術(乳房を全部切り取る手術)
- 乳房再建術:乳房切除後に乳房を再建する手術
- 脇の下の
リンパ節 を取って検査したり、転移 がある可能性を考えて取り除く(腋窩リンパ節郭清)場合が多い - 乳がんでは放射線療法や薬物療法を組み合わせる場合が多い
- 乳房部分切除術をした場合には術後再発予防で
放射線治療 を行う
- 乳房部分切除術をした場合には術後再発予防で
- 薬物療法について
- 薬物療法は大きく3種類
化学療法 - 分子標的薬(HER2タンパクが多い乳がんの細胞を狙い撃ちする薬を使う)
- ホルモン療法(
エストロゲン を抑える治療、閉経前後で使う薬剤が異なる)
- 乳がんのタイプ(サブタイプという)によって効果的な治療法が異なる
- 薬物療法は大きく3種類
5年生存率 (5年間生きる人の割合)は早期(ステージ1か2)で見つかれば90%以上である- 転移する臓器としては骨、肺、脳、肝臓などが一般的に多いとされる
乳がんに関連する治療薬
アロマターゼ阻害薬
- アロマターゼ阻害作用によりエストロゲンの生成を阻害し、乳がんの発生や成長を抑える薬
- 乳がんは乳腺や乳管にできたがんであり、乳がんの発生や成長には女性ホルモンのエストロゲンが関与する
- 閉経後の女性ではエストロゲンは主に男性ホルモンであるアンドロゲンから変換され作られる
- アンドロゲンからエストロゲンへ変換する酵素をアロマターゼという
- 本剤の特徴的な副作用として関節痛、骨粗しょう症などがあらわれる場合がある
- 本剤は成分の化学構造などにより、非ステロイド性とステロイド性に分かれる
抗がん性抗生物質(アントラサイクリン系)
- 細胞の増殖に必要なDNAやRNAの合成を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす薬
- がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
- 細胞の増殖には遺伝情報をもつDNAやRNAの合成が必要となる
- 本剤は細胞内のDNAに結合するなどしてDNAやRNAの合成を阻害するなどして抗腫瘍効果をあらわす
- 本剤は土壌などに含まれるカビなどの微生物由来の薬剤であり抗がん性抗生物質などと呼ばれる
NK1受容体拮抗薬
- 抗がん薬による嘔吐中枢への刺激を阻害し、悪心(吐き気)・嘔吐を抑える薬
- 抗がん薬投与による悪心・嘔吐は延髄に嘔吐中枢に刺激が伝わりおこる
- 脳のCTZや中枢神経に多く存在するNK1(ニューロキニン1)受容体が作用を受け嘔吐中枢に刺激が伝わる
- 本剤はNK1受容体を阻害することで嘔吐中枢への刺激を抑える
- 原則として、5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め)と併用する