2015.09.09 | コラム

「片頭痛の人は何を食べているか」で何がわかるか〔論文の読み方シリーズ〕

横断研究とは

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ニュースや読み物で、「体にいい食べ物」「体にいい習慣」が毎日のように紹介されていますが、根拠とするデータを拡大解釈しているものも少なくありません。「このデータからは何がわからないか」を見分けるのには、実は医学の知識は要りません。

◆「片頭痛の人は何を食べているか」では片頭痛の原因はわからない

仮に、片頭痛を持っている知り合いから「ダイエットソーダが好き」と言われたとします。

ダイエットソーダを飲むと片頭痛になるのでしょうか。

1人だけではわかりませんね。たまたまかもしれません。片頭痛がある人5人に聞いてみました。なんと全員が「ダイエットソーダが好き」と言っています。これでも、片頭痛がない人と比べてみないとわかりませんので、片頭痛がない人も集めて、「週に1回以上ダイエットソーダを飲むか」と聞いてみたら、こんな結果が出たとします。

  飲む 飲まない
片頭痛がある 5 0
片頭痛がない 1 4

これは仮定の話です。実際に調べたわけではありませんし、実際に調べたときにこれと似た結果が出るかどうかも予想できません。あくまで論文の読み方の例だと思ってください。

さて、統計的にも「たまたまではなさそうだ」と言える数字が出ましたが、やはりダイエットソーダを飲むと片頭痛になるのでしょうか。

この表からはわかりません。ダイエットソーダを飲むと片頭痛になるかどうかを知りたければ、この調べ方ではだめです。なぜでしょうか。

「ダイエットソーダが片頭痛を起こすしくみがわからないから」と思った人は、間違いです。

正解は、「ダイエットソーダと片頭痛のどちらが先かが調べられていないから」です。

もし「片頭痛の痛さが甘い飲み物を飲むと紛れる」と言っている人がいたらどう思いますか?片頭痛があるとダイエットソーダを飲むようになるかもしれない、と思いませんか?

もちろん「ダイエットソーダを飲むと片頭痛になる」という考えが否定されたわけではありません。しかし、このデータは時間的にダイエットソーダと片頭痛のどちらが先かを調べていないので、どちらが原因で、どちらが結果かを決められないのです。

 

◆横断研究からわかること

このように、ひとつの時点だけを調べる研究を横断研究と言います。横断研究では、関係がありそうに見えた2つのことのどちらが原因でどちらが結果かを決めることができません。こんな例があります。

「ビタミンKと認知症の関係は?高齢者の食事摂取量を調査」

http://medley.life/news/item/55d6856657f56e3d02a9ecfb

ビタミンKが認知機能に良いのか、認知機能が落ちると食生活が偏るのか、このデータからは決められません。

では、横断研究には意味がないのでしょうか?

そうではありません。横断研究は比較的少ない労力でできますので、こうしたデータをまずは手掛かりにして、「別の方法で因果関係を調べよう」と考えるヒントにすることができるかもしれません。

ほかにこんな例もあります。

「脳卒中のときは眼底検査に違いが出る?脳血管疾患、一過性脳虚血発作との関連」

http://medley.life/news/item/55a50f4e6b4b3a03015548ab

どちらが原因か結果かという違いはあまり重要でなく、脳卒中そのものを観測できないとき、ほかの方法で言い当てるために、横断研究のデータが役に立つことがあります。

 

「○○病の人は××を食べている」、「◎◎を食べている人には△△病が少ない」といった横断研究からは、その食べ物が病気の原因かどうかはわかりません。

では、因果関係を知りたいときにはどうやって調べればいいのでしょうか?このシリーズで少しずつ紹介していきますので、一度考えてみてください。

執筆者

大脇 幸志郎

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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