2015.09.05 | コラム

なぜ薬で「死亡率」が下がるのか?〔論文の読み方シリーズ〕

割合、比、率

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病気の重さや治療の効果として「死亡率」が挙げられることがあります。死なない人はいないのに、なぜ「死亡率」に違いが出るのでしょうか。「死亡率」とは何でしょうか。

◆「税率」は「率」ではない

統計学の用語では、「率」の定義が日常の言葉と少し違います。「時間あたりの量」というのが統計学での定義です。たとえば年間など一定期間での出生数を表す「出生率」、一定期間での発症数を表す「発症率」はこの定義に当てはまります。

「死亡率」もこの定義に沿って、一定期間のうちに死亡した人の数を表しています。この意味をよく見極めないと、「新薬で死亡率が減少した」といった表現から、ある種の錯覚が生まれることになります。

どういうことか説明する前に、「率」の定義に慣れておきましょう。次のようなものは「率」ではないことになっています。

  • 税率
  • 打率
  • 勝率
  • 混雑率
  • 支持率
  • 未婚率
  • 喫煙率
  • 体脂肪率
  • 罹患率
  • 生存率

どれも「時間あたりの量」ではありません。これらは統計学用語で言うと「割合」または「比」に当たります。

「割合」は「部分÷全体」で計算されたものを指し、上の例では打率、勝率、支持率、未婚率、喫煙率、体脂肪率、罹患率、生存率が「割合」です。

「比」は何でもいいので割り算をした結果を指します。「比」の中に「割合」も「率」も含まれます。上の例では税率と混雑率が「比」ではあっても「割合」や「率」ではないということになります。「比」はマイナスの数字になったり100%を超えたりすることがありえますが、「割合」は必ず0から100%の間になります。

医学用語も混ざっているじゃないか、医学用語は間違っているのか、と思われるかもしれません。これは医学用語の中に統計学の考え方が入ってきたのが比較的最近のことなので、それより前にできた言葉にまで統計学のルールを当てはめられなかったためではないかと思います。

ほかにも世の中で「比率」とか「パーセンテージ」と言われているものはいろいろありますが、統計学の言い方だとどれに当てはまるのか考えてみると、数字が違った角度から見えてくるかもしれません。

 

◆死亡率とは?

死亡率に話を戻しましょう。死亡率は一定期間あたりの死亡数(多くの場合は、死亡の割合)を示すものですから、「一定期間」というのがどの期間なのかによって意味合いが違います。たとえば150年間での死亡率は100%と言っていいでしょうし、1分間での死亡率は非常に小さく、実際に統計を取ろうとすると多くの場合は「死亡率ゼロ」という結果になるでしょう。

医学の研究では1年間から10年間ぐらいでの死亡率がよく取り上げられます。下の記事では、調査期間(およそ7年間)での死亡率に違いがあったとされています。

「辛い食べ物を毎週食べるとどうなる?がん、心筋梗塞などを検証」

http://medley.life/news/item/55c87827fe74a8422e2b7402

同じように、ある種のがんを治療しなければ診断から5年間の死亡率が40%だったとして、治療により20%になったので効果があった、といった使われ方があります。

気を付けてほしいのは、死亡率が半分になったとしても、余命が2倍になるわけではないということです。調べる期間を10年間、20年間と長く取ると、たいていは治療をしたときとしなかったときの死亡率が近くなっていきます。

治療によって短期間のうちに死亡することはある程度防げても、抑えていた臓器のダメージが遅れて出てきたり、再発したり、ほかの原因で死亡したりすることで、長期的には人間にもともと運命づけられた寿命の範囲に収まるということです。治療の目的は、いわば事故のように特定の原因で早く死亡してしまうことを防ぎ、寿命をまっとうすることだと言えます。

 

死亡率はどの期間で見たのかによって意味合いが変わります。「人はいつか死ぬ」ということを忘れなければ、「死亡率が下がった」という治療によって何が得られたのかを理解しやすくなるでしょう。

執筆者

大脇 幸志郎

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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