2015.08.30 | コラム

病気はたまたま治ったり、たまたま治らなかったりする〔論文の読み方シリーズ〕

飲んだ、治った、効いたかな?

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薬よりも「体にいい食べ物」が効いたように見えることや、逆に効くはずの薬が効いていないように見えることはよくあります。病院で出される薬はすべて「効く」と認められたものですが、効くか効かないかの違いとは何でしょうか。

◆薬はどう効くのか?

とても大切な、そのわりに医師も患者もついつい忘れがちなことがあります。

薬は「ちょっとだけ」効きます。

ちょっとだけです。1回飲めば糖尿病が治る薬、1日飲めば血圧が上がらなくなる薬、1週間飲めばがんが消える薬、どれも世の中にありません。その中でも「本当にちょっとだけ」効く薬から、「本音を言えばだいぶ」効く薬まで幅があり、人によっても個人差があります。

効かないなあ、と思ったときは、次のどれに当てはまるか考えてみてください。

  • 実は効いているが、ちょっとだけである
  • 実は効いているが、実感がない(または、効くとどうなるのか知らないので実感しようがない)
  • 実は効くのだが、まだ効き目が現れる時期ではない
  • ほかの人には効くのだが、個人差で効いていない
  • 本当に効かない薬である

効かない薬は処方されないはずなので、最後は例外的です。ただ「効くと思われていたが、研究で確かめてみたら効かないことがわかった」というのもまれにあることです(誤診・誤処方についてはここでは考えないでおきます)。

「効く」と「効かない」の違いは、最後の2つの間にあります。ここにどうやって線引きすればいいのでしょうか。

 

◆たまたまでは治らないぐらいに治るのが「効く」ということ

薬が個人差で効いたり効かなかったりするのと同じように、病気も個人差で治ったり治らなかったりします(話を簡単にするために大まかに言っています)。効かない薬を飲んでもたまたま治る人がいて、効く薬を飲んでもたまたま治らない人がいるのが普通です。

表にするとこうなります。

  治った 治らなかった
飲んだ a b
飲まなかった c d

薬を飲むなら、aが大きく、bが小さいほうがいいでしょう。飲んだ人のうち、治った人の割合はa/(a+b)で計算できますが、この数字が大きいほどよく治るということになります。

ただし、aとbだけを見ても「効くか、効かないか」は判断できません。病気は自然に治るかもしれないので、飲まなかったときと比べる必要があります。飲まなかった人のうちで治った人の割合はc/(c+d)ですので、(a/(a+b))/(c/(c+d)) が1より大きければ薬は効いていて、大きいほどよく効いているということになります。

数式が出てきて頭が痛くなった人のために大まかに言うと、「飲んだ・治った」と「飲まなかった・治らなかった」が多くて「飲んだ・治らなかった」と「飲まなかった・治った」が少ない薬がよく効く薬だ、ということです。

決して「飲んだ・治った」だけで効いたかどうかは判断できません。

 

この表について大事なことがもうひとつあります。

医師は「効く薬」を出しますが、どんなに効く薬でも、「治らなかった」はあります。大勢の人に使ったときに全体として、平均として「効く」か「効かない」かは予測できますが、実際に使う個々人が「治る」か「治らない」かは使ってみなければわかりません。サイコロを6000回振ったら1000回ぐらい6の目が出るのは予測できても、次の1回で6の目が出るかは予測できないのと同じです。

患者が「薬を飲んでも治らないんですが」と言っているときに医師が「効く薬なんです」と答えたとすれば、話がかみ合っていません。ニュースや広告で薬の情報を見たときや、医師と相談するとき、「効く・効かない」と「治る・治らない」は同じではないということを気に留めてみてください。

執筆者

大脇 幸志郎

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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