一過性脳虚血発作(TIA)の基礎知識
POINT 一過性脳虚血発作(TIA)とは
脳の血流が一時的に悪くなり、脳梗塞の様な症状が現れる病気です。症状は数十分で消えることが多いのが特徴です。脳や首の血管についた老廃物や心臓でできた血栓が一時的に脳の血管に詰まることが原因になります。脳梗塞と見分けるために検査が必要となり、問診(症状と症状の持続時間)・超音波(エコー)検査・頭部MRI/MRA検査などを行います。抗血小板薬や降圧薬を使って再発を防ぎます。一過性脳虚血発作は脳梗塞の前触れでもあるため、片方の手足が動かしづらさ・片方の手足のしびれ・喋りづらさ・突然の視野の暗さといった症状がある場合は必ず医療機関にかかり、できれば脳神経内科・脳外科にかかることが望ましいです。
一過性脳虚血発作(TIA)について
- 脳の血流が一時的に悪くなり、脳梗塞のような症状が短時間現れて消える病気
- 脳細胞が死んでしまう前に血流が回復するため、脳細胞は再び元気になり症状は回復する(1時間以内に回復することが多い)
- 一過性脳虚血発作は脳梗塞の「前触れ」でもあり、48時間以内に脳梗塞を
発症 することが多いため、脳梗塞を予防する治療が必要になる - 主な原因:下記のようにいくつかの原因が考えられる
- 60歳以上や、高血圧、糖尿病などのある人に起こりやすい
- ABCD2スコアという経過の予測スコアがある
- A (age):年齢が60歳以上⇨1点
- B (blood pressure):
収縮期血圧 140mmHg以上または拡張期90mmHg以上⇨1点 - C (clinical features) :身体の片側が脱力する⇨2点、脱力はないが喋りづらい⇨1点
- D (duration) :症状の持続時間が60分以上⇨2点、症状の持続時間が10-59分⇨1点
- D (diabetes) :持病に糖尿病がある⇨1点
- 上の5項目の点数を合計して、TIA発症後2日以内に脳梗塞になる確率を推定する
- 0-3点:1.0%
- 4-5点:4.1%
- 6-7点:8.1%
- 6−7点の人は1年以内に脳梗塞を起こすリスクが高い
- ABCD2スコアという経過の予測スコアがある
一過性脳虚血発作(TIA)の症状
- 症状の特徴は「短時間で消える脳梗塞のような症状」
- 片方の手足の動かしづらさ(
麻痺 ) - 片方の手足のしびれ(感覚障害)
- しゃべりづらさ(舌がもつれる、言葉がでてこない、口がうまく閉じない)
- 突然片目の視界が真っ暗になったり、欠けたりする
- 片方の手足の動かしづらさ(
- 症状は数分から30分程度で消えることが一般的
一過性脳虚血発作(TIA)の検査・診断
- いつ、どのような症状が起きて、どのくらい続いたのかという情報が診断において重要
- 画像検査:首や頭の血管の状態などを詳しく調べる
頚動脈超音波検査 :首の血管の詰まり具合を調べる頭部MRI 検査:脳の血管で狭くなっている部分がないかを調べる
頭部血管造影検査 :必要に応じてカテーテルを使って、脳の血管が狭くなっていないかを調べる- 心臓の詳しい検査
心電図 ・ホルター心電図 :心房細動がないか調べる心臓超音波検査 :心臓の中に血栓 (血のかたまり)、あるいは血栓を作る原因がないか確かめる
一過性脳虚血発作(TIA)の治療法
- 一過性脳虚血発作を起こした場合、その後脳梗塞を
発症 する可能性が高いことが分かっている- 一過性脳虚血発作が疑われる場合は、リスクを判断して予防的治療(アスピリンの内服またはアスピリンとクロピドグレルの併用内服)を検討する
- 症状が完全に消えていても、入院して検査・治療することがある
- 再発や脳梗塞への進行を予防するため、原因に応じた、薬物治療を行う
- 手術
- 首の血管の一部だけ細くなっていて脳の血流が悪くなっているような場合は、血管を拡げる手術を行うことがある
- 手術方法は主に2つ
- それぞれメリット、デメリットがあるので、個々の場合によって適した治療が選択される
- 頚動脈内膜剥離術(CEA)
- 首の皮膚を切って頚動脈をあらわにして、動脈を切開し血管内にできた塊(脂肪や石灰化部分など)を切除する
- 細くなっていた血管の通りが良くなり、脳への血流が良くなる
- 頚動脈
ステント 留置術(CAS)- 近年手術方式や手術器械の進化により発展してきている
カテーテル治療 のこと - 太ももの血管から管を入れて治療を行うので、
全身麻酔 で皮膚を大きく切ったりする必要がなく全身への負担も少ない
- 近年手術方式や手術器械の進化により発展してきている
一過性脳虚血発作(TIA)に関連する治療薬
FXa阻害薬(抗凝固薬)
- 体内の血液が固まる作用の途中を阻害し、血栓の形成を抑え脳梗塞や心筋梗塞などを予防する薬
- 血液が固まりやすくなると血栓ができやすくなる
- 血液凝固(血液が固まること)には血液を固める要因になる物質(血液凝固因子)が必要である
- 本剤は血液凝固因子の因子Xa(FXa)を阻害し、抗凝固作用をあらわす
ADP阻害薬(抗血小板薬)
- 血小板の活性化に基づく血小板凝集を抑え、血栓の形成を抑えることで血管をつまらせないようにする薬
- 血小板が凝集すると血液が固まりやすくなり血栓ができやすくなる
- 体内にADP(アデノシン二リン酸)という血小板凝集を促進させる物質がある
- 本剤は血小板でのADPの働きを抑えることで、血栓形成を抑える作用をあらわす
クマリン系抗凝固薬(ワルファリンカリウム製剤)
- ビタミンKが関与する血液凝固因子の産生を抑え、血液を固まりにくくし、血栓ができるのを防ぐ薬
- 血液が固まりやすくなると血栓ができやすくなる
- 体内で血液を固める要因になる物質(血液凝固因子)の中にビタミンKを必要とするものがある
- 本剤は体内でビタミンKの作用を阻害し、ビタミンKを必要とする血液凝固因子の産生を抑えることで抗凝固作用をあらわす
- ビタミンKを多く含む食品などを摂取すると薬の効果が減弱する場合がある
- 納豆、クロレラ、青汁などはビタミンKを多く含む
- 本剤を服用中は上記に挙げた食品などを原則として摂取しない
一過性脳虚血発作(TIA)の経過と病院探しのポイント
一過性脳虚血発作(TIA)が心配な方
一過性脳虚血発作では、急にろれつが回らなくなったり、手足が動かなくなったりします。脳梗塞と同様の症状が出ますが、症状がずっと続いてしまう脳梗塞と異なり、数十分以内に大抵は治まるのが特徴の一つです。
一過性脳虚血発作は、神経内科、脳神経外科、脳外科が専門の診療科です。注意が必要な点としては、病院によっては神経内科と脳神経外科(脳外科)が両方ありながら、病院ごとにどちらの科が一過性脳虚血発作や脳梗塞といった病気を診療しているかが異なるという点があります。どちらの科を受診しても(もしその後入院が必要そうであれば)適切に案内してもらえるはずですが、事前に確認しておきたければ、病院に直接問い合わせてみるのも良いかもしれません。
一過性脳虚血発作を主に診療する専門医は、神経内科専門医、または脳神経外科専門医です。神経の病気といっても脳出血や脳腫瘍のように手術を必要とする病気から、アルツハイマー病やパーキンソン病のように脳そのものに変化が生じる病気まで様々ですが、これらの専門医であれば一過性脳虚血発作についても一定以上の経験があると言えます。ただし、専門医でなければ一過性脳虚血発作の診断ができない、治療が行えないというわけではありません。
一過性脳虚血発作の診断は、特定の検査ではなく診察と問診で行います。CTでは診断をつけることができません。MRIは一部のケースでは有用ですが、一過性脳虚血発作ではMRIで異常が見つからないことも多く、検査だけでは診断することが難しい病気です。
脳梗塞のような症状が出てから短時間(通常は数分〜十数分)で症状が消えてしまうというのが一過性脳虚血発作の特徴ですが、少しでも症状が残っている時には、一過性脳虚血発作ではなく脳梗塞の可能性があります。そのような場合では、MRIの検査を行える医療機関を受診することが勧められます。MRIの機械があっても、たとえば夜間は専門の放射線技師が不在の場合がありますので、機械さえ病院にあれば土日や夜間でも行える検査だというわけではない点には注意が必要です。
一過性脳虚血発作(TIA)でお困りの方
一過性脳虚血発作は、いわば「脳梗塞になりかけたが、一旦治まって元通りになった」という状態ですから、その診断が確実であれば根本治療は必要ありません。しかし、一度脳梗塞になりかけたということは二度目、三度目の危険性が高いということであり、また一過性脳虚血発作の直後数日間は特にそのリスクが高いことが知られています。一過性脳虚血発作では入院が必要となることが多く、脳梗塞への進展を予防するために血液をさらさらにするような治療を行います。
一過性脳虚血発作の治療は特殊な設備を要するものではなく、入院が可能な医療機関ならばどこでも行うことができます。
一過性脳虚血発作を起こした場合、その後に血液が固まりにくくする薬を飲み続ける場合があります。こちらについては、もし入院したのであればそちらの科の外来に退院後もかかり続けることがあるでしょうし、すでに高血圧や脂質異常症などでかかりつけの病院、クリニックがあるのであれば、そちらで薬をまとめて処方してもらうことも可能です。
現在の日本の医療体制では、「通院は近所のかかりつけ医、入院は地域の総合病院」といった分業と、医療機関同士の連携が重視されています。重症の患者さんが安心していつでも総合病院にかかれるように、総合病院でなくとも診療が行える病状の方はできるだけ地域のクリニックを受診してもらって、住み分けを行うという形です。これには、地元に自分のかかりつけ医(主治医)を作ることで、その人の病状全体が把握できるというメリットもあり、必要あればその都度、病気ごとに専門の医師や医療機関と連携して診療を行います。一過性脳虚血発作後の通院については、内科のクリニックであれば、特に専門を限らずに定期的な処方と対応が可能です。