薬で良くならない耳鳴りの治療:補聴器、認知行動療法、TRTなど
病院を受診し、処方してもらった薬を飲んでも、耳鳴りが止まらずに困っている人はまれではありません。そんなときには薬以外の治療法を検討してもいいかもしれません。具体的には、補聴器や、
1. 補聴器の使用
補聴器の使用で耳鳴りが改善することがあります。
耳鳴りに補聴器が有効なのには理由があり、それは耳鳴りと難聴が実は一緒に出やすいことと関係しています。
難聴の原因の一つは耳の異常です。耳に異常が起こると、音の信号が脳に伝わりにくくなると、難聴となります。この時、脳が音の信号に対する
このため、補聴器を使って正常な音の信号が脳に届くようになると、脳は感度を上げる必要がなくなり、関係ない信号を拾いとらないようになるので、耳鳴りが改善すると期待されます。
他にも、補聴器を使って生活するのに必要な音や声が聞き取れるようになると、耳鳴りの音をあまり意識しないようになることも考えられます。
2. バイオフィードバック療法
耳鳴りがあると、身体や精神の緊張が高まります。緊張によって
どうしたらリラックスできるかを自分で見つけていくためには、バイオフィードバック療法を利用が有効です。
バイオフィードバック療法では、
3. 認知行動療法
認知行動療法は、ものごとの受け止め方や考え方を良い方向に変えていく心理療法です。
耳鳴りが薬で治らず、長年耳鳴りを感じている人もいます。どうしても治療で耳鳴りを止められない時は、耳鳴りと上手く付き合っていく必要があります。上手く付き合うためには耳鳴りに対する受け止め方や考え方を望ましい方向に変えてなければなりません。
- 自分の耳鳴りは一生治らないんじゃないだろうか
- 耳鳴りのせいで仕事も勉強もできなくて、恋愛もうまくいかないのではないか
- 耳鳴りが続くのは自分の頭に悪い病気があるからではないだろうか
上のようなネガティブな考えは、精神的な負担を悪化させてしまいます。認知行動療法はこうした認知のゆがみを改善することを狙います。
認知行動療法は具体的にどんな治療なのか
認知行動療法の「認知」とは、ものごとの受け止め方、考え方を意味しています。認知が悪い方向に向かって悪循環に陥ってしまったとき、ものごとの捉え方や考え方を良い方向に変えていく心理療法が認知行動療法です。
簡単に言ってしまえば、ネガティブな考えをポジティブな考えに変えていく治療法です。治療には臨床心理士などが関わっています。カウンセリングの中に認知行動療法が組み合わされていることもあります。
「耳鳴りのせいで仕事も勉強もできなくて、恋愛もうまくいかない」という考えから、耳鳴りがない理想的な生活を思い描くあまり、いろいろなことを一度に達成しなければと自分を追い詰めてしまうこともあるかもしれません。対して、耳鳴りと上手く付き合いながら過ごす生活をイメージし、いま自分にできることを前向きに考えて行動することもできます。
認知行動療法では、症状と結び付いた考え方に注目して、考え方を良い方向に変えるよう働きかけるのです。
4. TRT(耳鳴り再訓練法)
TRT(耳鳴り再訓練法)は耳鳴りを意識しないように訓練する方法です。
私たちは普段、周りの人が出す雑音、自動車が走る音、風の音、クーラーの音など、様々な音に囲まれていますが、実際にはそれらの音を意識せずに生活しています。しかし、周りの人が出す音を不快だと意識してしまうと、ますます気になってしまいます。そこで、TRTでは耳鳴りを意識しないように治療します。
TRTには、カウンセリングによる方法があります。耳鳴りはいつ始まったのか、耳鳴りはどんなときに悪化するか、耳鳴りのせいでどんな悩みがあるのかを話し合いながら振り返ります。すると、耳鳴りに関する間違った認知が見つかることがあります。間違った認知のせいで不安が大きくなっていれば、認知を変えることが不安への対処になることが考えられます。
また、TRTには音響療法という方法もあります。補聴器とサウンドジェネレーター(様々な音を出す機械)を組み合わせて使い、「耳鳴り」と「耳鳴り以外の音」を一緒に聞きます。それぞれ次のような目的を持っています。
- 補聴器:正常な音の聞こえを良くすることで、耳鳴りが生じにくくする
- サウンドジェネレーター:耳鳴り以外の音を聞くことで、耳鳴りに注意が集まらないようにする
最近では、補聴器とサウンドジェネレーターが一緒になった機械も開発され、実際に医療機関で使用されています。TRTを受けることのできる医療機関は限られているので、関心のある方は耳鼻咽喉科(じびいんこうか)のある病院・クリニックで相談してみてください。