2017.01.14 | ニュース

オキシトシンで子宮破裂!帝王切開との関係は?

ノルウェー130万人の登録データから

from American journal of obstetrics and gynecology

オキシトシンで子宮破裂!帝王切開との関係は?の写真

オキシトシンは子宮を収縮させるホルモンです。薬として使うと陣痛を促す効果があります。お産をする施設では欠かせない薬ですが、注意するべきリスクもあります。子宮破裂の背景の研究から、オキシトシン使用との強い相関関係が報告されました。

ノルウェーの研究班が、出産の統計データをもとに子宮破裂と関連する要因を探した研究の結果を、産婦人科専門誌『American Journal of Obstetrics & Gynecology』に報告しました。

 

子宮破裂とは、分娩のときなどに子宮が裂けたり破れたりしてしまうことです。以前に帝王切開をした女性では子宮破裂が起こりやすくなります。帝王切開をした人でも子宮破裂はごくまれにしか起こりません。しかし、万一子宮破裂が起こってしまった場合、大量の出血などの危険があります。

子宮破裂の中でも、傷が貫通して子宮の壁に穴が開いてしまった状態を全子宮破裂と言います。子宮の内側だけが傷付いていて穴が開いていない状態を不全子宮破裂と言います。この研究は全子宮破裂に着目しています。

 

この研究は、ノルウェーで1967年から2008年にあった出産の統計をもとにしています。全子宮破裂が起こった人と起こらなかった人を比較して、背景の違いを調べました。帝王切開をしたことがない女性の出産1,317,967件と、以前に帝王切開を経験したあとの出産57,859件を分けて調べました。

 

全子宮破裂の件数は以下のとおりでした。

全子宮破裂は、以前に帝王切開の経験がない51例(10,000出産あたり0.38)および以前に帝王切開の経験がある122例(10,000出産あたり21.1)に起こった。

全子宮破裂は、帝王切開をしたことがない女性では出産1万回あたり0.38件、帝王切開をしたことがある女性では出産1万回あたり21.1件起こっていました。

帝王切開の経験がある人でもない人でも、プロスタグランジンとオキシトシンを続けて使った場合で最も明らかに全子宮破裂が多く発生していました。

自発分娩に比べて、最も強いリスク要因は、以前に帝王切開の経験がない人でも(調整オッズ比48.0、95%信頼区間20.5-112.3)、帝王切開の経験がある人でも(調整オッズ比16.1、95%信頼区間8.6-29.9)、プロスタグランジンとオキシトシンによる連続した分娩誘発であった。

プロスタグランジンは、オキシトシンと同様に、陣痛を促す薬です。日本でも使われています。ただし、「妊娠末期における陣痛誘発並びに陣痛促進」を効能・効果とするプロスタグランジン製剤の添付文書では、オキシトシンを使用中の患者には禁忌(使ってはならない)とされています。

ほかの要因について以下の結果がありました。

ほかの有意なリスク要因として、オキシトシンによる陣痛促進(帝王切開の経験なしで調整オッズ比22.5、95%信頼区間10.9-41.2、経験ありで調整オッズ比4.4、95%信頼区間2.9-6.6)[...]があった。

帝王切開の経験がない女性がオキシトシンを使ったときには全子宮破裂が多く発生していました。危険度の近似値とされるオッズ比は、オキシトシンなしの場合に比べてオキシトシン使用で22.5倍でした。帝王切開の経験がある女性では、オキシトシン使用で全子宮破裂のオッズ比が4.4倍になっていました。

 

オキシトシンはもともと体の中で作られているホルモンです。オキシトシンを薬として補うことで、いろいろな面から出産を助けることができます。

オキシトシンは子宮を収縮させます。すると、出産にともなう子宮からの出血を抑えることができます。オキシトシンが有効な場合のひとつが弛緩出血(しかんしゅっけつ)です。

出産直後の女性では誰でも、子宮から胎盤が離れることなどにより、子宮の内側が傷付いている恐れがあります。分娩時の500ml未満の出血は一般に正常とされ、誰にでも起こりうることです。赤ちゃんが出て行ったあとに子宮は自然に収縮します。すると傷口が圧迫されるようにして出血が止まります。

人によっては、子宮の収縮が不十分で、しばらく出血が続いてしまうことがあります。これを弛緩出血と言います。弛緩出血が止まらなければ出血量がどんどん増えてしまい危険です。オキシトシンを薬として補うことで、子宮の収縮を助け、弛緩出血を止めるための治療となります。

実際にオキシトシン製剤(商品名アトニンなど)は以下のような場面で使うことができます。

  • 分娩誘発
  • 微弱陣痛
  • 弛緩出血
  • 胎盤娩出前後
  • 子宮復古不全

微弱陣痛や弛緩出血はとても多くの母親が経験します。お産を安全に進めるためにオキシトシンの備えは欠かせません。しかし、どんな薬にもまれなリスクはあります。そして、薬を使うか使わないかにかかわらず、お産には無数のリスクがついて回ります。

めったに起こらない子宮破裂には備えたうえで目の前の弛緩出血を解決するためにオキシトシンを使うなど、リスクをバランスよく考えに入れて判断することが合理的です。

お産のスタイルは母親自身の希望が反映できる場合もあります。そんなときも、予想されるリスクの説明をよく聞いて、万一のときの対処にも納得できるまで担当の医師などと話し合い、いろいろな面から安全性を一緒に考えてください。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Risk factors for complete uterine rupture.

Am J Obstet Gynecol. 2016 Oct 22. [Epub ahead of print]

[PMID: 27780708]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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