2016.09.20 | ニュース

食べ物が通らず激ヤセ、胃をふさいでいた塊の正体は…

スーダンからの症例報告

from Journal of medical case reports

食べ物が通らず激ヤセ、胃をふさいでいた塊の正体は…の写真

何度も吐いてしまい、体重も減ってきたら、病気だと思いますか?嘔吐の原因にはいろいろな病気が考えられます。胃がんもそのひとつです。さらに忘れてはいけない問題の例が報告されました。

アフリカの国スーダンから『Journal of Medical Case Reports』に報告された事例を紹介します。

54歳男性が、噴き出すような嘔吐が続いていることを訴えて診察を受けました。

2年前から胃のあたりの痛みがあり、体重が目立って減っていました。診察時にはBMI(体重÷身長÷身長)が18と、かなりのやせ状態でした。アルコール依存症はありませんでした。

診察では顔色はよく、胃の中に液体がたまっている音が聞こえました。

 

嘔吐の原因として最も多いのは胃腸炎です。ノロウイルスやロタウイルスの感染、食中毒などでも嘔吐の症状があります。しかしこの男性では2年間続く腹痛があり、胃腸炎や食中毒らしくはありません。

メニエール病、片頭痛、さらに脳出血やくも膜下出血、高血圧緊急症でも嘔吐がありますが、やはり症状が似ていません。

ほかに胃の炎症や、胃腸の流れがふさがっていること(腸閉塞)でも激しい嘔吐が出ることがあります。特に体重減少はがんを疑わせる症状です。

胃を調べるために胃カメラ(内視鏡)の検査が行われました。

 

胃カメラで、胃の出口の部分をふさいでいる塊が見つかりました。塊から組織を切り出す検査(生検)によって、炎症の様子が確認されましたが、がんではないと見られました。

食物を通過させるために、胃と小腸(空腸)をつなぐ手術が行われました。手術とともに生検が行われ、結核が確かめられました。

術後は問題が起きることなく、4日目から食事ができ、無事に退院となりました。退院後には体重も戻り始めました。結核の薬が始められました。肺には結核はありませんでした。

 

結核は肺だけの病気ではありません。痰を飲み込むことなどで腸結核が起こります。腸結核では腸に炎症が起こり、腸閉塞などの状態を引き起こします。この人のように胃に変化が起こることは少ないですが、腸結核は結核に感染した人の数%には起こるとされます。

この人が住んでいるスーダンは非常に結核が多い国です。日本も先進国の中では決して少ないとは言えません。

日本では現在、毎年2万人近くの人が結核にかかっています。東京都だけでも2千人ほどです。

たとえば、マンガ喫茶利用者の間で結核にかかる人の例が報道されたこともあります。

アメリカでは、日本の3倍近い人口の中で、結核にかかる人は年間1万人ほどです。

東京オリンピックが開かれる2020年に向けて、日本で発生する結核をいまの半分ほどに減らそうとするプランがあります。しかし、現状のままでは間に合いません。

結核対策のためにひとりひとりにできることがあります。

  • 予防接種(BCG)を1歳までに確実に打つ。
  • 2週間以上続く咳、痰、発熱があれば病院に行くか、結核検診を受ける。
  • もし結核と診断されたら、薬を確実に飲んで治し、同時に空気感染対策をする。

結核は決して過去の病気ではありません。空気感染し、肺だけでなく全身の臓器を危険にさらします。結核対策をぜひ周りの人にも広めてください。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Primary gastric tuberculosis presenting as gastric outlet obstruction: a case report and review of the literature.

J Med Case Rep. 2015 Nov 18.

[PMID: 26577440]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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