2016.03.30 | コラム

新生活での「過剰適応」にご注意。入学、就職、異動の時期に気をつけるべきメンタルヘルスの問題

過剰適応とは

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生活環境が変わるとき、メンタルヘルスの問題も起こりやすくなります。中でも「過剰適応」という状態は気付きにくいことも多く、注意が必要です。過剰適応とはどんな状態なのでしょうか。

4月、就職したり、入学したり新しい環境で生活を始める方も多いと思います。どうも気分がダラダラする、学校や仕事に行きたくない、やる気が出ない、気が滅入って集中できない。ゴールデンウィークが明けたころから、そういった症状に襲われる人が増えてきます。医学的な表現ではないですが、昔から日本では「五月病」と呼ばれてきました。

日本で新年度が始まる4月に、入学や就職異動や一人暮らしといった新しい状況環境への変化があり、その環境への適応が難しい場合、適応への意欲、努力が1ヶ月程度は続くものの、五月のゴールデンウィークの休みを挟んだのち、不適応の症状としてうつ状態に似た症状がみられるようになることがあります。

平成26年3月に健康保険組合連合会が発表した「メンタルヘルス関連疾患の動向に関するレポート」では、平成24年度の「うつ病」を含むカテゴリである「気分障害」と「適応障害」を含むカテゴリである「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」の受診者は1年の中で6月が最も多いという結果が示されています。

これは4月に新しい環境に入り、5月頃から徐々に不適応の症状が出現し、少し自身で改善を図るけれどもうまくいかない方が、6月以降受診されるという行動になるのではないかと考えることができます。

医学的には不眠、疲れやすい、食欲が落ちる、やる気が出ない、会社や学校に行くことが億劫になる、などうつ状態に近い症状が出ることが多く、医療機関に受診した場合は「適応障害」という診断名が付く場合が多いです。

 

適応障害には、環境にうまく適応できない「不適応」とともに、「過剰適応」という状態も含まれます。

不適応の状態では、新しい環境に馴染めなくて、ストレスを感じるのですが、新しい環境への不適応は時間とともに改善する場合も多いです。

対して、過剰適応は表面的には問題が見られない場合も多く、見抜くことがむずかしい状況が多いため、この状態をよく理解したうえでの注意が必要です。

過剰適応とは適応の行き過ぎた状態です。

本人が意識する、しないに関わらず、その環境の状況に応じて自分を適応させようとする過程で起こる反応です。

適応できることは素晴らしいのですが、自分の能力の限界を超えるポイントに気づけていないと過剰適応を引き起こします。

しばしば見られるケースとしては、いろいろな仕事に協力を惜しまず、周囲からも頼られ自分の仕事が評価され、残業も苦ではない、というような人が異動で突然業務が変わり、同じように頼まれては引き受けるということをくりかえしているうちに体調を崩し始める、というような状況です。優秀だと言われている人に起こりやすいパターンと言えるでしょう。

自分の感情の状態に気づけなれば、「ここらへんが限界かな」「これ以上はいやだな」と気づくことができず、社会的に適応はしているが、内的に適応していない、ストレスのある環境に身を置いたままになってしまいます。

過剰適応になっている人の多くは「疲れている」「こんな仕事を押し付けるなんておかしい」「人が仕事をしないのを見ているとイライラする」などのネガティブな感情は見ない、感じないようにすることで自分を保ちます。これを、感情を言語化できない、アレキシサイミアと言います。

感情を意識することなく閉じ込め、仕事をし続け、疲労がたまり、爆発するのです。

 

過剰適応に注意が必要であることを解説してきました。では、過剰適応はなぜ起こるのでしょうか。

そもそも適応には内的適応と外的適応の2つのレイヤーがあると言われています。

内的適応とは心理的適応とも言われており、幸福感や満足感を経験し、心の状態が安定していることを意味します。

それに対して外的適応とは、社会的適応とも言われており、個人が存在する社会的、文化的な環境に対する適応のことを意味しています。

この2つの適応の側面は協調して働くことが多いので、一般的に「適応している」というときには内的適応も外的適応も良好であるということを意味します。

ところが、状況によっては一方の適応のために他方の適応が犠牲になる場合があります。

社会的に適応しているが、幸福感や満足感を得られていない状況や、逆に外的適応は出来ていないのに、内的には不満や悩みを持っていない状況などです。

そして、過剰適応とは、外的適応が過剰となって、内的な適応が不良な状態のことと考えることができます。

 

こういった適応の様式は幼少時から青年期に至る発達の過程で獲得する適応の様式に影響を受けています 

良い子、優等生、として育ってきた子は、外的適応すなわち社会的適応がよく、児童期は社会化の過程が優先され、外的適応が確立されていきます。

ところが、青年期に自己意識が高まり、自身が納得し、満足しているか、自分の内側を観察することが始まります。これを個性化といい、外的適応、社会科の側面と対立する軸として重要な課題になってきます。すなわち外的適応に重きを置かれてきた児童期から一転、内的適応の重要性が高まってきます。この時期に内的適応に重きをおくことができず、適切な自己主張や、感情を表現することができない状況が続くと、外的適応を優先し、内的適応を犠牲にした、表面的な適応、すなわち過剰適応として問題が表面化してくることがあります。

過剰適応を完全に防ぐのは難しいですが、異動をした時に過剰適応が問題になるのは、周囲の理解や感謝といった情緒的なかかわりから生まれる内的な適応への支えが失われやすいからでもあります。そのため、環境が変わっても適切な自己主張をしたり感情を表現することで、過剰適応による内的適応の不適応の影響を和らげることができます。仕事は同じように頑張りつつも、疲れていることやイライラする自分の気持ちにもきちんと目を向けて、それを周囲にも発信し理解をしてもらうことで、内的な適応を促進することができます。

 

環境の変化がある方、これを機に一度自身の適応の形を、振り返ってみてはいかがでしょうか?過剰適応になっていませんか?

執筆者

来田 誠

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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