2015.06.13 | ニュース

東大発、がんに集まる物質をMRIで狙って、がん細胞を破壊

東大などのチームが開発

from ACS nano

東大発、がんに集まる物質をMRIで狙って、がん細胞を破壊の写真

がんの放射線療法を応用した、中性子線捕捉療法という先端技術があります。がんに集まって働く物質を注射し、熱中性子線という無害な放射線を照射することで、体内の物質が反応し、がんを攻撃するというものです。東京大学などの研究チームが、中性子線捕捉療法に使える新しい物質を開発し、MRIでがんの位置を狙って熱中性子線を照射することで、マウスのがんを治療する実験に成功しました。

◆体内で放射線を出すガドリニウムをがんに届けたい

中性子捕捉療法は、熱中性子線に反応する物質を利用して、がん細胞を狙って放射線を照射することでがんを治療する方法です。

熱中性子線は人体を傷つけずに通過しますが、ある種の物質は熱中性子線を吸収して高エネルギーのガンマ線を放出し、周りの細胞を壊します。このような物質を、がん細胞にだけ集まるようにすることができれば、そこに熱中性子線を照射することによって、がん細胞を集中的に破壊することができます。

研究班は、中性子捕捉療法に使える候補と考えられていた物質のうち、ガドリニウムに注目しました。ガドリニウムはMRIの画像上でよく見えるため、MRIの造影剤としても使われています。

造影剤に使われるガドリニウム-ジエチレントリアミン五酢酸(Gd-DTPA)というガドリニウム化合物はがん以外の場所に広がってしまうため、この物質をがん細胞にだけ集まらせることが課題になりました。

 

◆ガドリニウムの場所=がんの場所をMRIで狙って照射

研究班は、リン酸カルシウムという単純な物質が作る、ミセル体という分子サイズの構造の中にGd-DTPAを組み込んだもの(Gd-DTPA/CaP)とすることで、ガドリニウムががん細胞に集まり、十分な時間だけがん細胞の中にとどまるようにすることに成功しました

さらに、このことによって、ガドリニウムを取り込んだがん細胞がMRIで見分けられるようになったため、がんがある場所にだけ熱中性子線を照射することができるようになりました。

つまり、

  • 細胞を攻撃するガドリニウムががんに集まっている
  • ガドリニウムに細胞を攻撃させる熱中性子線をがんの場所にだけ照射する

という二点によって、がんだけを狙って攻撃することができました。

マウスに人間の大腸がんの細胞を移植してがんを成長させ、Gd-DTPA/CaPを注射したうえ、MRIでがんの場所を見て照射位置をガイドしながら熱中性子線を照射したところ、照射後12日までがんの成長がなく、その後もがんの成長が抑えられていました。さらに、照射の副作用の目安となる体重減少は、この実験で使ったマウスには見られませんでした。

 

研究班は、「この研究はリン酸カルシウムミセルの放射線療法への応用可能性を広げ、画像ガイド下の腫瘍の中性子捕捉療法のためにナノキャリアをデザインし開発する戦略を提示した」と述べています。実際の治療に使われるまでにはまだ多くのステップを通過しなければなりませんが、がん治療の未来に希望を感じさせる成果です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Hybrid Calcium Phosphate-Polymeric Micelles Incorporating Gadolinium Chelates for Imaging-Guided Gadolinium Neutron Capture Tumor Therapy.

ACS Nano. 2015 Jun 1. [Epub ahead of print]

 

[PMID: 26033034]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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