2021.01.08 | コラム

緊急事態宣言が出されたこの社会で、医療崩壊の音は誰の耳に聞こえる?

医療崩壊は音をたてずに起こるものです
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2021年も新年早々から新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威が席巻しています。振り返れば、2020年11月頃から多くの臨床医からアラートサインが飛ばされていましたが、その予想は決してオーバーではなかったという結果になりそうです。
かねてから「医療崩壊」という言葉が多方向から叫ばれていましたが、臨床医でもある筆者はこの医療崩壊はすでに始まっていると感じています。一方で、この状況を「医療崩壊の危機」や「医療崩壊寸前」と表現する人も少なくなく、感じ方や表現の仕方には少々ギャップがあるようです。

1. 医療崩壊とは

「医療崩壊とは何を指すのか」と尋ねられても筆者は明快に100点満点の答えを返せる自信がありません。そもそも医療崩壊に明確な定義はないかもしれません。とはいえ、あやふやものをあやふやなまま情報発信するのは不誠実なので色々と調べてみると、「医療の需要と供給を比較した場合に、需要が上回ること」というものもあれば「診察する必要がある患者が医療現場にたどりつけなくなること」というものもあります。これ以外にも医療提供の安定性に言及したものや医療者の士気の維持に言及したものまであります。正直な感想として、そのどれもが間違っていないし、いずれも切り込み方の違いと感じます。要は考えるポイントが複数あるのです。

 

【筆者の考える医療崩壊のポイント】

  • 医療が適切に提供できない
    • 患者の急増
    • 医療の効率性の低下
  • 医療の提供が維持できない
    • 医療機関の支出の増加
    • 医療者の不足
    • 医療機材の不足
    • 医療者の士気の低下

 

日本では医療費が高くなりすぎず提供されるように政策で規定されているため、日頃はこれらの多因子が絶妙なバランスをとることで成り立っているわけです。裏を返せば、どこかでバランスを崩せば医療は崩壊しうるわけです。

結論として「原因は何であれ、医療という欠かせないものが必要であるのに享受できない可能性があるのであれば医療崩壊の状態にある」と考えて良いと思います。この必要というところになかなか判断が難しい部分が残りますし、社会背景などでケースバイケースになりますが、放っておいたら重症化する患者やなくなってしまう患者は医療の必要度が高いのは間違いありません。例えば、治療が必要な状態にある心筋梗塞の患者やがん患者はまさにそれにあたります。こうした人に対応するキャパシティーが不足したら医療は間違いなく崩壊していると思います。

 

2. 現在(2021年1月)の状況は医療崩壊なのか

では現況は医療崩壊に当たるのでしょうか。

その答えは「イエス」で間違いないと思います。

自分の勤めている医療機関では入院依頼の全てに応えることができなくなってきていますし、医師仲間の話を聞いていても、各々の病院で同じようなことが起こっています。コロナ患者のみならず、他の病気の患者においてもすぐに受け入れられないという事態がすでに起こっているわけです。この状況こそ医療崩壊だと思います。

一方で、「インフルエンザなどの他の感染症が減っているんだから、医療機関には余裕があるはずだ」という意見を耳にすることがあります。こうした数字の議論は一見正しいように見えますが、大事なものが抜け落ちていると感じます。前提としてコロナ患者には厳格な感染管理が必要なので、人的リソースも物品リソースも通常の何倍も必要になります。また、適切な診察と検査を行うまで新型コロナウイルスに感染しているのかどうかはわからないため、来院時は全力で感染管理をしながら結果が出てから対応を変えていくわけです。体力的にも経済的にも疲弊した病院組織はたった今もこうした対応をギリギリの線で行っているのです。余裕があるというのは無理があると感じます。

また、批判を承知であえて述べると、医療者の士気もじわじわと下がってきていると思います。医療者の端くれである筆者も医療に対してやりがいと矜持を持っていますし、おそらくほとんどの医療者も同じ気持ちだと思います。しかし、コロナの診療は普段よりもストレス度が高く、長期戦による心身の疲労は著しいです。また、病院経営の不安定さによって給料の低下も重なれば、モチベーションを保つのが難しくなる人が出てくるのはなんら不思議ではありません。医療者のモチベーションの維持は喫緊の課題になっていると思います。

このように多方面からバランスが崩れかかっていたところに患者数が急増しているわけで、すでに医療崩壊は始まっています。

 

3. 医療崩壊に音はない

医療は健康な人に無縁なものですので、医療者あるいは患者として現場にいないと崩壊が起こっているのかどうか実感しにくいかもしれません。崩壊という言葉には、なんとなく大きな建物が崩れたり山が発破されたりというイメージが根付いていますが、医療崩壊はそういった類の爆音とともに崩れ去るようなものではありません。じわじわと毒が回るかのごとく歪みが生じ、限界点を超えたときに静かに崩れて、必要時に提供を受けられなくなってから初めて実感するものです。

また、全域において同時に起こるものではなく、地域差もあるため、ニュースで医療崩壊と言っていてたけど自分の地域は大丈夫ということもありえます。しかし、医療というインフラは危険度の分散を図る必要があるため、隣の地域が医療崩壊したら自分の地域がヘルプを出していきます。そうしているうちにどんどん余力がなくなるということは2020年から多くの地域で見られていたことです。うちの地域は罹患者も少なく大丈夫と思っていたのに、突如として医療崩壊が始まるということはどこででも起こる話なのです。

専門家の意見を踏まえて政府が勝負の3週間と言っていた昨年11月には、こうした良くない未来がすでに見え始めている状況でした。今はその頃よりも多くの人が毎日罹患し、入院患者もだいぶ増えているわけですから、のっぴきならない非常事態といえます。2020年に緊急事態宣言が出されたときの罹患者数と比較して1桁も2桁も違うわけですから。

 

4. 一致団結しないと難局は乗り切れない

すでに医療崩壊が多発的に始まっているという難局をどうやって乗り切るか。皆さんができることは、自分がかからないように努め人にうつさないように努めることがなによりの貢献になります。コロナと付き合って約1年が経ち、幸か不幸かほとんどの人の感染予防リテラシーが急上昇してきました。もはや手洗いの重要性は述べる必要もないと思いますし、マスクの正しい装着方法や種類による違いを熟知している人も少なくないと思います。3密を回避し、基本的な感染予防策を実践することこそが必要とされています。

また、コロナにかかっても自分は大丈夫と思っている人もいるようです。確かに重症化しにくいという観点からは持病がない人や若い人は重症化リスクが低いかもしれませんが、広い視野で考えると大丈夫とは言えません。軽症の自分からハイリスクの人にうつしてしまい罪悪感を覚えるということもありえますし、感染者が増えていることで医療が逼迫して、自分が交通事故にあっても大病を患っても治療を受けられないということがあり得るわけです。自分のためにも周りのためにも、今はコロナ患者の数を減らすべきタイミングです。過度な自粛は必要ありませんが、不要不急の外出は避け、出かける先も密を避けることはみんなで心がけたいところです。

他方、医療者も2020年の経験から学んだことが多かったわけで、前回の非常事態宣言が出されたことろよりは、コロナ診療がより良いものになり、感染管理も効率化されています。そのため、今のこの逼迫した状況であっても新規の患者の数さえ抑えられれば状況が好転する未来が見えてきます。国内でもワクチンという切り札が現実化しつつありますし、医療者も今は踏ん張りどころと感じます。

 

今の苦境から這い上がるには、一致団結が必要なのは間違いないと思います。みなさんが頑張ることで医療者がモチベーションをもらう、医療者が頑張るからみなさんが自粛を心がける、こうした相互関係で難局を乗り切りましょう。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。