2020.04.06 | コラム

人工呼吸器、ECMO(エクモ)とは? 重症肺炎に対する呼吸サポート治療について

重症肺炎の治療で使われることのある「人工呼吸器」や「ECMO」について解説します
人工呼吸器、ECMO(エクモ)とは? 重症肺炎に対する呼吸サポート治療についての写真
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本でも拡大しています。感染者の80%以上は自然に治癒するのに対し、約15%の人では入院が必要になり、約5%の人がICU(集中治療室)に入室すると言われています(1-5)。
ICUに入るのは重症の肺炎の患者さんです。経鼻カニューレや酸素マスクといった、入院患者に行われる通常の酸素投与法では十分に酸素の取り込みができなくなった人が主になります。このような患者さんの呼吸のサポートをするのが「人工呼吸器」や「ECMO」と呼ばれる治療法です。このコラムでは重症肺炎患者さんに行われる呼吸管理法について紹介します。

重症肺炎とはどういう状態?

鼻や口から吸いこんだ空気は気管という管を通って肺の中に入っていきます。気管は次々に枝分かれをし、枝分かれの終着地点には「肺胞」という小さなスペースがあります。肺胞の周りには毛細血管が張り巡らされており、ここで血液の中の二酸化炭素と空気の中の酸素が交換されます(ガス交換新型コロナウイルス感染症による肺炎では主に肺胞に炎症が起こりガス交換の機能が失われることによって、血液への酸素の取り込みが不十分になったり血液中に不要な二酸化炭素がたまってしまう状態になります。

肺と肺胞

酸素が取り込めなくなると身体のいろいろな臓器がダメージを受けるため、入院して酸素投与が必要になります。まず行われるのは、経鼻カニューレや酸素マスクを使った酸素投与です。空気中の酸素濃度は21%ですが、カニューレやマスクを使うと吸い込む空気の酸素濃度を最大で60%程度まで上げることができます。

これらの器具を使っても十分に酸素を取り込めない場合、つまり肺の機能が著しく低下している場合には強力に呼吸をサポートする器具が必要になります。詳細は後で説明しますが、この器具が人工呼吸器と呼ばれるものです。また、このような状態を一般的に重症肺炎と呼びます(医学的な定義とは少し異なりますが、大まかにはこのように理解してください)。

重症肺炎になると肺機能だけでなく全身のバランスが乱れてきます。具体的には次のようなことが考えられます。

 

【重症肺炎合併しやすい状態】

  • 心不全
  • 腎不全
  • 敗血症(感染による炎症に関連する物質が全身に悪影響を与える)
  • 血圧が低下したショック状態
  • 意識障害

 

重症肺炎にこれらを合併した場合には、人工呼吸器に加えて、患者さんの状態にあった治療法がアレンジされることになります。

 

人工呼吸器とは

人工呼吸器(Mechanical ventilation)は呼吸のサポートを行うための医療機器です。息を吸うタイミングでは肺に圧力をかけて空気を送り込み、息を吐くタイミングでは圧力を低くして肺から空気を出します。また、患者さんが十分な量の空気を吸ったり吐いたりできない場合にはこれを感知して後押しするように呼吸をサポートし(補助換気)、患者さんの呼吸自体が弱まってしまった場合にはすぐさま呼吸器が肺胞内への空気の出し入れをして呼吸をサポートします(強制換気)。

通常は、気管挿管(挿管チューブを口から気管まで挿入すること)を行い、挿管チューブに人工呼吸器を接続して呼吸のサポートを行います。「肺~挿管チューブ~人工呼吸器」がひとつながりになるので効率よく補助換気ができるとともに、呼気(吐いた息)中のコロナウイルスが空気中に出なくなり二次感染のリスクが低下します(これを閉鎖回路といいます)。

人工呼吸器のメリットは以下の2点です。

 

【人工呼吸器のメリット】

  • 圧力をかけることでつぶれた肺胞をふくらませて呼吸の効率を高める(陽圧換気)
  • 吐き切った時に肺胞が完全に潰れないようにすることで、次に送り込まれた空気を肺胞に入りやすくする(呼気終末陽圧)
  • 高濃度の酸素を肺に送り込める(最高酸素濃度100%)

 

肺炎では肺胞に炎症が起こり、その結果浸出液と呼ばれる水分が肺胞の中にたまります。水がたまった肺胞では表面張力によってスペースがつぶれてしまい、有効なガス交換ができなくなります。人工呼吸器で陽圧をかけてつぶれてしまった肺胞をふくらませることで、ガス交換を改善させることが期待されます。また、カニューレや酸素マスクでは実現できない高濃度の酸素を投与することで血液中の酸素濃度を上げることができます。

一方で、人工呼吸器には以下のようなデメリットがあります。

 

【人工呼吸器のデメリット】

  • 気管挿管と人工呼吸器の不快感が強い(鎮静薬が必要)
  • 陽圧や高濃度酸素を長い時間使用すると肺がダメージを受ける(Ventilator-induced lung injury, VILI)
  • 人工呼吸器が原因で肺炎になることがある(Ventilator-associated pneumoniae, VAP)
  • 血圧が低下する
  • 長期間挿管しているとチューブの刺激で気管が狭くなる(狭窄)

 

ICUではこれらのメリット、デメリットと患者さんの病状を総合的に判断しながら治療が行われています。

なお気管挿管を必要としない人工呼吸器としてNPPV(非侵襲的陽圧換気療法:Non-invasive positive pressure ventilation)という方法もありますが、新型コロナウイルス感染症ではエアロゾル発生による医療従事者への二次感染が懸念されることなどから使用は限定的です。

 

ECMOとは

人工呼吸器を使用することで重症肺炎の患者さんの呼吸をサポートすることができますが、中には一部、人工呼吸器を使用しても命を救うことができない患者さんがいます。高濃度酸素を強い圧力をかけて送り込んでも、十分に酸素を取り込むことができないほど肺がダメージを受けているような場合です。

このような場合に最終手段として使われるのが、ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)と呼ばれる医療機器です。肺の代わりにガス交換をしてくれる機器で、日本語にすると「体外式膜型人工肺」になります。ECMOでは患者さんの静脈に太いカテーテルを挿入して二酸化炭素が多く含まれる血液を身体の外に取り出し、「人工肺」と呼ばれる装置でガス交換を行います。血液はポンプを使って循環しており、二酸化炭素を取り除き酸素が補充された血液は別のカテーテルを通して患者さんに戻されます。このように、患者さんの肺がまったく働いていなくても人工的にガス交換ができる機器なのです。

 

ECMOの本来の役割

ECMOは肺を治す機械ではありません。強い炎症で傷ついたり十分に働けない肺を一時的に休ませ、その間患者さんの命をつなぐための機械です。最終的に患者さん自身の肺が回復してきた段階でECMOによる治療は終了し、患者さんは再び自分の肺で呼吸をするようになります。もともと肺の状態がとても悪い患者さんに使われる治療法なので、ECMOの平均治療日数は10~14日と長期にわたります。

ECMOを使用するためには、熟練した医師・看護師・臨床工学技士がそろっている必要があります。つまりどこの病院でも行える治療ではなく、限られた医療機関のみで行える治療です。また、1台のECMOを稼働するためには多大な人員と労力が必要で、さらに多額の医療コストがかかります。このため、ECMOの適応(どの患者さんに使用するのが適切かという基準)は比較的若年で重い持病がない人に限られています。

 

日本の重症新型コロナウイルス感染症治療の現状は?

現在、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本呼吸療法医学会、PCPS/ECMO研究会の専門家が合同で「日本COVID-19対策ECMOnet」を立ち上げ、重症新型コロナウイルス感染症の患者さんを治療する医療機関に対する助言を行っています。現状は時々刻々と変化しているのでこのコラムで数字を書いてもあまり意味がありません。詳しく知りたい人は、その都度次に紹介するサイトを確認するようにしてください。

日本集中治療医学会のホームページでは、日本の人工呼吸器およびECMOの台数(2020年3月4日現在)COVID-19に対するECMO治療状況(2020年3月30日現在)などの情報が公開されています。ぜひ参考にしてください。

 

まとめ

今回のコラムでは、新型コロナウイルス感染症でも重要な役割を果たすと思われる人工呼吸器、ECMOについて解説しました。気を付けなければならないのは、これらの治療法はあくまで呼吸のサポートをするものであって、肺炎そのものを治すための治療ではありません。これらの治療法を生かして救える命を最大限救いながら、新型コロナウイルスに対する有効な治療薬・ワクチンの開発を待つ必要があります。

また、日本国内の人工呼吸器・ECMO台数には限りがあるため、これらの機器を使用しなければならない重症患者さんの数はできるだけ減らさなければなりません。そのためには、引き続き個人個人ができる感染防護策(首相官邸:新型コロナウイルス感染症に備えて)を実行して感染拡大を防止することが大切です。

 

執筆者

佐藤 達也

参考文献

1. SSCG COVID-19 guideline

2. Wu Z, et al. JAMA. 2020 Feb 24. doi: 10.1001/jama.2020.2648. Online ahead of print. PMID: 32091533

3. Guan WJ, et al. N Engl J Med. 2020 Feb 28. doi: 10.1056/NEJMoa2002032. Online ahead of print. PMID: 32109013

4. Zhou F, et al. Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1054-1062. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30566-3. Epub 2020 Mar 11. PMID: 32171076

5. 日本集中治療医学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。