インフルエンザに新薬ゾフルーザ®は正しい治療法なのか? | MEDLEYニュース
2019.04.23 | コラム

インフルエンザに新薬ゾフルーザ®は正しい治療法なのか?

新たな抗インフルエンザ薬として2018年3月から使用可能になったゾフルーザ®について感染症内科医師の目線で考えてみます
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(c)bong hyunjung-iStock.com

毎年冬になるとインフルエンザの流行を知らせるニュースを目にします。実際、流行期には多くの患者さんが風邪症状(発熱、鼻汁、咽頭痛など)を訴えて外来を訪れ、多いときには1年で1000万人以上がかかっていると考えられています。春先には患者さんの数は減っていきますが、また冬になると沢山の人が感染してしまいます。
このような私たちの生活と非常に身近なインフルエンザには治療薬があり、それはタミフル®を代表とする抗インフルエンザ薬と呼ばれるものです。2018年3月には新たな治療薬(ゾフルーザ®)が発売されました。

世界に流通している抗インフルエンザ薬の大半が、実は日本で消費されています。インフルエンザにはワクチンが有効ですが、今回はかかってしまった後の治療薬のあり方について考えてみたいと思います。(ワクチンのメリットについてはこちらのコラムインフルエンザについてもっと詳しく知りたい人はこちらのコラムも参考にしてください。)

 

1. 抗インフルエンザ薬にはいろんなものがある

インフルエンザの治療薬は種類が豊富です。先ほど述べた新しい薬を加えると、現在発売されているものは次になります。

 

【国内で使用されている抗インフルエンザ薬の例】

 

また、これらの治療薬は性質が異なるので、使用方法が異なります。

 

【各々の抗インフルエンザ薬の使用方法のまとめ】

薬の名前 使用方法 一般的な使用期間
オセルタミビル(タミフル®など)
  • 内服(1日2回)
  • 5日間
ザナミビル(リレンザ®)
  • 吸入(1日2回)
  • 5日間
ラニナミビル(イナビル®)
  • 吸入(単回)
  • 1日のみ
ペラミビル(ラピアクタ®)
  • 点滴(単回)
  • 1日のみ
バロキサビル(ゾフルーザ®)
  • 内服(単回)
  • 1日のみ

 

上の表のポイントは薬剤によって使用方法と使用期間が異なることです。つまり、「飲み薬なのか吸入薬なのか点滴薬なのかの違い」と「5日間使用するのか1回だけでよいのかの違い」が重要になります。

使用方法については、吸入薬をきちんと吸い切ることが難しい人もいれば内服が難しい人もいるので、本人の状況に応じてケースバイケースで考える必要があります。一方で、使用期間に関しては、5日よりは1日のほうが良いと考えるのがシンプルです。ですが、この「使用期間は短いほうが良い」という考え方にこだわりすぎると落とし穴が潜んでいるので注意が必要です。

 

1回だけで済むからありがたいとはならない理由

新薬として注目されている「ゾフルーザ®」以外で、国内にある抗インフルエンザ薬の中で1回の使用で済むものは、「イナビル®」と「ラピアクタ®」の2つです。これらに関する良い点/注意点ついてもう少し詳しく説明します。

 

◎イナビル®の良い点/注意点

イナビル®は1回吸入するだけ良いので使い勝手が良いことが利点になります。確実に吸ってもらうために、受診した医療機関で吸ってもらうという方針でこの薬を処方する医師も少なくありません。

この薬の効果はタミフル®に劣らないという報告があり、もし適切に吸入することができる人であれば効果が期待できます。しかし一方で、薬を飲まない人と比べて有効であるとはいえないという報告もあるため注意が必要です。実際のところ、この報告を受けて世界各国で製造中止となり、2019年現在でイナビル®を使用しているのは日本だけです。

「効果が優ること」と「効果が劣らない」ことの違いなど少し難しい話になるので詳細をここでは書きませんが、この薬を使用することに関して慎重を期す必要があるのは事実と思われます。

 

◎ラピアクタ®の良い点/注意点

ラピアクタ®は唯一の点滴薬ですので、この点に関してとても優れています。意識がない人は飲むことも吸うこともできないので、意識朦朧としているような人にとても重宝されます。

その効果はタミフル®と同等(ただし、使用して24時間後に限ってはラピアクタ®のほうが解熱率が高い)で、薬を使用しない人と比べて解熱が早いことが報告されています。

この薬で注意すべき点は、「値段が高いこと」と「点滴で痛い思いをすること」です。ラピアクタ®は1回300mgの点滴バッグで6216円しますので、タミフル5日分の10錠で2720円(後発薬だと1360円)であることを考えると割高と言えます。また、これに加えて点滴料が医療機関で徴収されます。

 

世界を見渡すと抗インフルエンザ薬は限られた人にしか使われていない

インフルエンザ薬はインフルエンザウイルスの増殖を抑えることで治療効果を発揮します。しかし、実は身体が感じる効果(臨床効果)は解熱期間を半日から1日程度短くするくらいです。極論で語ると解熱剤を半日から1日使ったのとあまり変わりません。一方で、吐き気や嘔吐などの副作用が出やすいので、必ずしも良いことばかりではないことに注意が必要です。

この状況を踏まえてCDC(米国疾病予防管理センター)で抗インフルエンザ薬を使用したほうが良い人を絞っています。

 

【抗インフルエンザ薬の使用が推奨される人】

・5歳未満の子ども(特に2歳未満)
・65歳以上の高齢者
・妊婦・産後の女性(分娩後2週間以内)
・老人ホーム・長期療養施設に入所中の人
・以下の病気をもつ人
 ・気管支喘息
 ・神経疾患
 ・慢性肺疾患
 ・心疾患(先天性心疾患慢性心不全など)
 ・血液疾患
 ・糖尿病などの内分泌疾患
 ・慢性腎疾患
 ・慢性肝障害
免疫機能が低下している人(悪性腫瘍の人、ステロイドを使用中の人、HIVに感染している人)
・長期アスピリン投与を受けている19 歳未満の人
BMI 40≧の肥満のある人

 

これらに当てはまらない人は、重症でない限り抗インフルエンザ薬を使用するメリットに乏しいと考えられています。

事実として、世界中の抗インフルエンザ薬の大半が日本で消費されています。日本と世界の人口比と照らし合わせてみても不思議な現象です。各国の事情が異なるとはいえ、薬の効果と必要性について少し冷静に考えてみても良いかもしれません。(インフルエンザの治療薬についてもっと詳しく知りたい人はこちらのコラムも参考にしてください。)

 

2. ゾフルーザ®の特徴は?

インフルエンザ薬の中でゾフルーザ®だけ少し性質が異なります。ゾフルーザ®以外はノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれる種類なのですが、ゾフルーザ®はキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬と呼ばれます。つまり、それまでの薬とは違う作用によってインフルエンザウイルスの増殖を抑える画期的なものなのです。

 

ゾフルーザ®の良い点

内服すると体内に残りやすい(半減期が長い)性質があるので、一回使用するだけで効果を発揮します。また、使用するとタミフル®と同程度の解熱効果が見られます。

 

ゾフルーザ®の注意点

一方で、体内に残りやすい薬では、副作用の出現にとても注意が必要です。一度副作用が出現してしまうと、いつまでも薬の影響を受けて副作用が治らないということが起こりえます。ゾフルーザ®では下痢や吐き気などの副作用が起こりやすいですし、一部では重度の副作用が見られます。また、どんな薬でもアレルギー反応(アナフィラキシーショック薬疹など)は起こりえますので、こうした副作用が長引いてしまうのは非常に問題です。

また、ゾフルーザ®にはもう一つ注意しなくてはならないことがあります。ゾフルーザ®が効かない耐性ウイルスの出現が報告されています。この点についてもう少し説明したいと思います。

 

3. ゾフルーザ®と耐性ウイルスの関係

ゾフルーザ®の開発過程における試験ですでに効きにくい性質がある耐性ウイルスが報告されていました。I38T/M/Fのアミノ酸変異と呼ばれる変化が起こったインフルエンザウイルスでは薬の効果が低下することがわかっており、2段階で行われた試験の解析から2.2%、9.7%が耐性ウイルスであったとされています。

国立感染研究所がゾフルーザ®を使用した人の中にどの程度耐性ウイルスがいるのかを分析したところ、2019年3月時点でA型香港株インフルエンザウイルスの70%強が耐性であったと報告しています。また、ゾフルーザ®を飲んでいない人にも耐性ウイルスが見られており、耐性化の拡大が懸念される結果となっています。まだ解析数が多くない状況ですので確定的なことは言えませんが、ゾフルーザ®を使用することによって、かなりのスピードで効かないウイルスが生じてしまう心配が残ります

 

4. ゾフルーザ®は役に立たない薬なのか?

ゾフルーザ®には耐性ウイルスの報告が多いという話をしたので、ゾフルーザ®は役に立たない薬じゃないかと思われた人もいるかもしれません。結論から言うと、ゾフルーザ®は使い方次第で有用な薬です。というのも、タミフル®などの他の抗インフルエンザ薬とは違う仕組みで効果を発揮するため、他の薬が効かない耐性ウイルスに対して効果を発揮する可能性があるからです。つまり、困ったときの切り札としてとても大きな存在価値があるということです。特にタミフル®などのノイラミニダーゼ阻害薬が効かないインフルエンザにかかって重症になってしまった人に効果が期待できます。

こうした状況を踏まえて日本感染症学会では適切に抗インフルエンザ薬が使えるようにガイドラインを制定する動きがあります。

 

5. まとめ

医療は日進月歩です。新薬開発の努力によって我々の治療選択肢は広がっています。しかし、どんな薬にも長所と短所があるので、その両面を踏まえた使い方が望まれます。選択肢が多いのであればなおのことです。

処方する側の医師も薬をもらう側の患者も、新しい薬と言われるとどうしても飛びつきがちです。今回のゾフルーザ®と耐性ウイルスの一件は、「自分の健康がかかっているのだからこそ医療を自分ごとにして、盲目的な判断はしないほうが良い」というメッセージを私たちにくれているのかもしれません。メドレーでは、引き続き病気についても予防についても情報を発信していきます。医療者と非医療者の分け隔てなく、皆で協力しながら健康を守っていく社会にしていきたいと願っています。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。