2018.01.15 | ニュース

スマホを使った検査装置で寄生虫流行地域の1万5千人が安全に服薬

ロア・ロア感染者での害を回避
from The New England journal of medicine
スマホを使った検査装置で寄生虫流行地域の1万5千人が安全に服薬の写真
(c) maxsim - Fotolia.com

失明の原因にもなるオンコセルカ症は、寄生虫が原因です。有効な薬はありますが、状況によって致命的な害の恐れがあります。新しい検査装置を利用した戦略により、害を抑えて薬を使用できたことが報告されました。

オンコセルカ症を治療するイベルメクチンとその問題点

オンコセルカ症はアフリカ大陸のサハラ砂漠以南に多い感染症で、回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)が寄生することで起こり、長年のうちに失明に至る恐れがあります。治療として、回旋糸状虫の幼虫を駆除するイベルメクチンが有効です(成虫を駆除する効果はなく、繰り返し使います)。

オンコセルカ症の流行地域では、何億人もの人にイベルメクチンを提供して使用してもらう戦略が取られてきました。その結果、60万人の失明を防いだとも言われる成果が挙げられました。

ところがカメルーンなどの国では、有害事象(薬の副作用やその他の原因による症状など)として、まれにイベルメクチンを使用した人で深刻な神経障害が現れ、60人近くが死亡しました

深刻な有害事象には、ロア・ロア(Loa loa)という寄生虫が関係しています。ロア・ロアは回旋糸状虫とは別の寄生虫で、カメルーンなどアフリカ大陸中央部から西部に分布し、単独でも病気を引き起こすほか、回旋糸状虫とロア・ロアの両方に感染している人もいます。

イベルメクチン使用後の深刻な神経の有害事象は、体内のロア・ロアの量が多い人でだけ見つかっています。神経が障害されるしくみについて、薬の作用を受けたロア・ロアにより脳の細かい血管が詰まる、ロア・ロアが持つ物質により脳で炎症が起こるなどの説が唱えられています。

 

スマホを使う検査装置でロア・ロア増殖を判別

カメルーンなど多国から集まった研究班が、医学誌『The New England Journal of Medicine』に寄稿した研究論文で、オンコセルカ症対策として新しい検査装置を利用した戦略を、実績とともに提唱しました。

新しい検査装置はロアスコープ(LoaScope)と名付けられたもので、スマートフォンのカメラと組み合わせて使います。ロアスコープは拡大鏡として働き、検査を受ける人の血液を撮影することでロア・ロアの数を自動的に数えます。

この研究の戦略では、まず対象者の血液をロアスコープで検査し、ロア・ロアが多ければイベルメクチンは使用せず、ロア・ロアが少ない人だけがイベルメクチンを使用することと決められました。対象者はカメルーンの92か所の村で集められました。

 

15,522人が使用して深刻な有害事象なし

5歳以上の対象者16,259人にロアスコープの検査が行われました。

基準に従って15,522人がイベルメクチンを使用しました。使用しなかった737人のうち、340人はロア・ロアが多かったため、228人は健康状態が悪かったまたは酩酊していたため、169人は妊娠中または授乳中だったためでした。

イベルメクチン使用後に深刻な有害事象が現れた人はいませんでした。深刻でない有害事象として、かゆみ(564人)、無力症(389人)、頭痛(326人)などが現れました。有害事象はすべて1週間以内に、無治療または対症療法のみで解消しました。

研究班は考察の中で、この研究にも含まれている地域で1999年に6,000人ほどがイベルメクチンを使用した結果、深刻な神経の有害事象が23人に現れ、3人が死亡したことを挙げています。

 

オンコセルカ症対策に前進?

イベルメクチンを安全に使ってオンコセルカ症の対策をさらに進めようとする研究を紹介しました。検査で安全と判断した人には深刻な有害事象がまったく現れない結果となりました。

この研究をふまえて今後の懸念につながる例として、ケニアでマラリア対策のため大勢の人の検査が行われた際、「症状もないのに検査をされるのは隠された研究目的があるのではないか」といった疑念を持つ人がいたことを挙げる意見が、『The New England Journal of Medicine』の社説として掲載されています。

 

オンコセルカ症はもともとアフリカ大陸のほかイエメンや中南米の広い地域で流行していましたが、イベルメクチンの大量提供などが効果をあらわし、一部の国や地域では撲滅されました。

イベルメクチンはオンコセルカ症のほかにも寄生虫によるいくつかの病気に効果があり、開発に関わった大村智氏は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。その一方で、イベルメクチンにはロア・ロア感染者に対する害という側面もあります。上で紹介した研究はイベルメクチンの力をさらに引き出すかもしれません。

 

将来にわたってオンコセルカ症に苦しむ人を減らすため、効果的な治療をより安全に、効率的に多くの人に届ける努力が今も続いています。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

A Test-and-Not-Treat Strategy for Onchocerciasis in Loa loa-Endemic Areas.

N Engl J Med. 2017 Nov 23.

[PMID: 29116890]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。