2017.07.21 | ニュース

早期前立腺がんを手術しないで19年半観察した結果

アメリカ731人の長期追跡

from The New England journal of medicine

早期前立腺がんを手術しないで19年半観察した結果の写真

早期前立腺がんは進行が非常に遅いため、余命を縮めないと判断して経過観察される場合があります。アメリカで手術と経過観察を比較した研究から、最長19.5年追跡しても死亡率に差がなかったことが報告されました。

アメリカの研究班が、早期前立腺がんを診断された男性を対象として、手術した場合と経過観察病気の状態や健康の状態を見守ること。その時点で治療する必要がないと医師が判断した場合や、診断のためにその後の経過を見なければならない場合に行われるした場合を最長19.5年追跡して比較した研究の結果を『The New England Journal of Medicine』に報告しました。

この研究は以前にも、対象者の半数が10年追跡された時点で死亡率に差がなかったことを報告しています。今回の報告はさらに長期間の結果を示したものです。

対象者は75歳以下で余命が10年以上と見込まれた人から選ばれ、参加時点で平均67歳でした。対象者731人がランダムに2グループに分けられ、前立腺男性の尿道の奥の部分を取り囲むようにある臓器。前立腺液と呼ばれる液体を分泌したり、尿の排泄をコントロールしたりしている全摘除術を行うグループ、経過観察するグループとされました。

 

364人が手術のグループ、367人が経過観察のグループに分けられました。実際には手術のグループで53人が経過観察となり、経過観察のグループでは36人が根治的前立腺全摘除術を受けました。

手術のグループで実際に根治的前立腺全摘除術ができた人は281人(77.2%)でした。経過観察のグループで実際に経過観察とした人は292人(79.6%)でした。

割り当てと違う治療法が行われた場合をどう扱うかについてはいくつかの考え方があります。ここではintention-to-treat(治療の意図)によってデータが処理されています。つまり、実際にどの治療をしたかに関わらず、どちらのグループに割り当てられたかを基準に結果を比較しています。この考え方は、通常の診療でも治療について意思決定をしたあとで考えが変わったり予想外の事態が起こったりする可能性はあることに対応しようとするものです。

 

最長19.5年、半数が12.7年以上追跡された時点でデータが解析されました。次の結果が得られました。

19.5年のフォローアップ(中央値12.7年)の間に、手術に割り付けられた男性では364人中223人(61.3%)、経過観察に割り付けられた男性では367人中245人(66.8%)が死亡した(絶対リスク差5.5ポイント、95%信頼区間-1.5から12.4、ハザード比0.84、95%信頼区間0.70から1.01、P=0.06)。前立腺がんまたは治療によると考えられた死亡は手術群の27人(7.4%)、経過観察群の42人(11.4%)に起こった(絶対リスク差4.0ポイント、95%信頼区間-0.2から8.3、ハザード比0.63、95%信頼区間0.39から1.02、P=0.06)。

手術のグループでは61.3%、経過観察のグループでは66.8%が死亡しました。統計的には死亡率に差が確かめられませんでした

前立腺がんまたは治療が原因で死亡したと見られた人は、手術のグループで全体の7.4%、経過観察のグループで全体の11.4%でした。統計的には差が確かめられませんでした。

前立腺の手術によって、尿失禁(尿漏れ)や勃起不全が引き起こされることが知られています。ここでは、勃起不全によって治療を要した人の割合は、手術のグループのほうが大きくなりました。尿失禁についても同様でした。

 

早期前立腺がんに対して、手術と経過観察を比較して最長19.5年追跡すると死亡率に差がなく、勃起不全と尿失禁は手術をしたほうが多いという報告を紹介しました。

死亡率に差がなく、手術が問題を起こす可能性があるなら、条件に当てはまる早期前立腺がんの人は手術しないほうがよいという判断になるかもしれません。

 

ただし、実際に「早期前立腺がん」と診断されて治療法を選ぶタイミングでの情報は、この研究の条件と違っている可能性があります。この研究ではどちらのグループでも2割以上の人が当初の割り当てと違う治療をしています。このことはグループの間で差が出にくくなる方向に働く可能性があります。

手術のグループで61.3%、経過観察のグループで66.8%が死亡という数字は、統計上は偶然としても説明がつく範囲でしたが、経過観察のほうがやや多いようにも見えます。もし研究の設計上差が弱まっていたと仮定するなら、「差がない」という結果が実際の治療選択にちょうど当てはまるかどうかはわかりません。

 

いずれにせよ、死亡率の差は「確認できなかった」というのが結果であり、多少条件が違っても、「差があったとしてもわずか」と想定することは理にかなっています。人の価値観によっては、死亡率がわずかに高いかもしれなくても、勃起不全や尿失禁を避けたいので経過観察を選ぶという考えが成り立つかもしれません。

研究結果を参照することで、より確実さの高い判断に役立てることができます。また長期の研究結果が出ていることは、長い見通しを持って治療後の生活を考えるためにも役立つかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

Follow-up of Prostatectomy versus Observation for Early Prostate Cancer.

N Engl J Med. 2017 July 13.

[PMID: 28700844] http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1615869

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。