2017.02.11 | ニュース

覚醒剤による性機能異常の特徴、35人の経験者のインタビューから

イラン、薬物乱用・薬物依存研究センターの報告
from International journal of high risk behaviors & addiction
覚醒剤による性機能異常の特徴、35人の経験者のインタビューからの写真
(C) JenkoAtaman - Fotolia.com

薬物依存の治療には、薬物による体や心への影響をよく理解する必要があります。乱用がたびたび問題視される覚醒剤のメタンフェタミンは性機能に影響があります。乱用者35人にインタビューした研究から、詳しい特徴が報告されました。

イランの社会福祉リハビリテーション科学大学薬物乱用・薬物依存研究センターの研究班が、インタビューによる研究の結果を専門誌『International Journal of High Risk Behaviors & Addiction』に報告しました。

研究班は、メタンフェタミン乱用を経験した35人の男性などにインタビューを行い、メタンフェタミン乱用によって性行為に関して起こる変化の特徴をまとめました。

対象者はイランの首都テヘランの医療機関で集められました。

多くの人から発言があった特徴として以下のものがありました([]内は引用者注)。

  • 性欲が強くなり、性行為では快感が増す人が多い。
    • 「全身のすべての細胞に快感がある」(44歳男性)
    • 「これ以上のものは何もない」(28歳男性)
    • 「唇にキスすると果物のような味がした」(37歳男性)
  • メタンフェタミンを使用するパートナーとの性行為を好む傾向がある。
    • 「彼女はメス[メタンフェタミン]を使うと僕よりも情熱的になった」(30歳男性)
    • 「薬を使う女性は普通の人には絶対にできない快感を与えてくれる」(30歳男性)
  • 性行為の持続時間が長くなる人が多い。
    • 「15分ごとにオーガズムに達したけど、何も起こらなかったようだった」(30歳男性)
    • 「いくらでも続けたくなる。体も心も疲れない」(30歳男性)
    • 「いろいろな体位で3時間続けた。二人とも少しも疲れなかった」(35歳男性)
  • 最初の数か月で強い効果を感じる人が多い。
    • 「メス[メタンフェタミン]で初めてセックスしたときの快感は二度とありえない」(35歳男性)
  • どうしても性行為をしたくてたまらなくなる人が多い。
    • 「セックスのためなら何でもやった。パートナーを満足させるためにとても努力して何でもやった」(35歳男性)
  • 不適切な場所での性行為を経験する人が多い。
    • 「廃墟の中で女の子と一緒にいた」(30歳男性)
  • マスターベーションが増える人が多い。性欲が強くなるのに勃起不全になる人もいる。
    • 「24時間で7回マスターベーションをした」(35歳男性)
    • 「ペニスが硬くならない状態では、それが一番トラブルのないセックスだった」(28歳男性)
  • 強引に性交を求める人もいる。
    • 「従わせるために叩いたり蹴ったりもした」(22歳男性)
    • 「彼はとても残酷になって、少しも楽しくなかった」(30歳男性の妻)
  • のぞき見を好むようになる人が多い。

研究班は、これらの結果をふまえて「薬物乱用の予防、薬物依存の治療、適切な性行動の教育、害を減らす対処が優先的課題である」と結論しています。

 

メタンフェタミンは日本で合成された薬物です。「ヒロポン」などの名前で流通し、第二次世界大戦時に軍需工場の労働者が徹夜作業を行う時に使用されたなどの歴史があります。

現在でも「ヒロポン®(成分名:メタンフェタミン塩酸塩)」は医療用医薬品として製造・販売されています。「覚醒剤」という名前のとおり、中枢神経系(脳・脊髄)の興奮作用があります。用途として、日中に耐えられない眠気などの症状を起こす「ナルコレプシー」のほか、各種の昏睡、麻酔剤などによる急性中毒の改善などが効能・効果として承認されています。

本来の医療用の用法・用量に従っていても、依存性などは副作用として注意喚起されています。「インポテンス、性欲変化」も添付文書に記載されている副作用のひとつです。医療用に処方される場合には、医師の診断に基づいた適切な用途の中で、用量・使用期間に注意して慎重に扱われます。

 

しばしば乱用が問題となる「密造覚醒剤」としてのメタンフェタミンは、医療用として製造されたメタンフェタミンとは大きく異なる危険性があります。密造覚醒剤の多くに、ストリキニーネなどの異物が混入されています。ストリキニーネは少量では神経の興奮剤となりますが、過剰摂取により強直性痙攣などを引き起こし、場合によっては呼吸停止などが現れます。こうした異物が含まれることで、密造覚醒剤はさらに危険なものになっています。

乱用されるメタンフェタミンは、「クリスタル」「シャブ」あるいは類似物質のアンフェタミンと同様の「スピード」といった通称で呼ばれます。ここで紹介したイランのほか、アジアの国々でも大きな問題を起こしています。日本も例外ではありません。

覚醒剤乱用は死に至ることも珍しくありません。覚醒剤自体や不純物の毒性だけでなく、乱用を続けたことによる栄養障害や感染症なども大きな危険になります。ここで紹介したように、性機能異常が反社会的な行動に結び付き、乱用した人だけでなく周りの人にまで被害を及ぼす場合もありえます。決して見過ごしてはならない問題です。

 

薬物乱用から立ち直るためには、周りの人からのサポートも大切です。ほかの研究では、覚醒剤とは異なる薬物ですが、麻薬乱用者への聞き取りの中で、家族から責められるとむしろ再び薬物乱用をしてしまう傾向が指摘されています。アメリカでオピオイド鎮痛薬(モルヒネなど)を乱用した人を対象に行われた調査では、治療を受けていた人が26%にとどまっていたことが報告されています。

覚醒剤をはじめとする薬物乱用は、社会全体で立ち向かうべき問題です。ただ乱用を悪と扱うだけでは解決しません。ここで紹介した研究が主張するように、「害を減らす対処」という前向きな視点が必要です。特に性機能異常は行動の大きな変化や周りの人への影響に結び付く可能性もあり、重要な点です。この調査から改めてその重要さが確かめられたと言えるでしょう。

性行動は薬物を使う「引き金」になりやすいことが知られています。薬物乱用をやめようとしている人でも、いつも薬物を使っていた状況に出会うことが「引き金」となって再び使ってしまう場合があります。「引き金」を避けることは治療のための重要な要素です。聞き取りで挙げられた点は、個々の患者と治療者が「引き金」となっている状況を話し合うための参考になるかもしれません。

危険な性行動はHIV感染症などのリスクにもなります。患者の性行動を理解することは感染対策のためにも重要です。

また、マスターベーションが増えたという回答も挙げられています。薬物乱用をやめるには部屋にこもる生活は望ましくないとされるため、性行動が引きこもりにつながっているような人では、やはり治療のために話し合うべき点となります。

さらに、長時間の性交や暴力によってパートナーが巻き込まれる状況や、パートナーも乱用を誘われてしまう状況などに対してケアが必要であることも読み取れます。

家族やパートナーが薬物乱用を始めてしまった人にとって、こうした問題は患者本人とよく話し合うべきことです。そのために、共通点がある人の事例を知ることには意味があります。

患者が置かれている状態を理解しようとすることが、前向きで具体的な対策のための第一歩になります。

 

松本俊彦・今村扶美『SMARPP-24 物質使用障害治療プログラム』(金剛出版、2015年)

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

A Qualitative Study of the Relationship Between Methamphetamine Abuse and Sexual Dysfunction in Male Substance Abusers.

Int J High Risk Behav Addict. 2016 Jun 13.

[PMID: 27803891]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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