2015.11.07 | ニュース

ヒトラーの左手に現れていた症状は、何が原因だったのか

症状の記録と鑑別診断
from Neurosurgical focus
ヒトラーの左手に現れていた症状は、何が原因だったのかの写真
(C) Stephen VanHorn - Fotolia.com

ナチス・ドイツを率いたヒトラーは、1945年に自殺する数年前から、左手をポケットに入れたり、右手で抑えた姿が写真や映像に多く残されています。ヒトラーの左手には何が起こっていたのでしょうか。

◆左手の症状は1941年に始まった

ここで紹介する論文は、ヒトラーにパーキンソン症候群と見られる症状があったことについて、これまでに報告された研究を概観しつつ、その原因と、晩年の行動に及ぼした影響に対しても考察を加えています。

パーキンソン症候群は、寡動(動きが鈍い)、筋固縮(筋肉がこわばる)、振戦(体が震える)、姿勢反射異常(姿勢をうまく保つことができない)などを特徴とする症状の総称です。原因不明の脳の変化によって起こるパーキンソン病などで現れます。

ヒトラーの主治医だったテオドール・モレルは、ヒトラーにパーキンソン症候群が見られることを認めていました。

これまでの研究によれば、1941年にはヒトラーの左腕に運動性の低下が始まっていました。さらに、のちには歩行障害、振戦の症状も現れていました。左手の振戦に見える様子が写った映像も残っています(Youtubeでも見られます)。

ほかにも寡動、筋固縮、前屈みの姿勢、足を引きずって歩くといった症状が記録から読み取れ、ヒトラーの署名には小字症という、字が小さくなる症状が現れているとされています。

 

◆何がパーキンソン症候群を起こしたのか?

パーキンソン症候群は、パーキンソン病以外にもさまざまな原因で起こります。当時のドイツでしばしば報告された原因として、感染症である嗜眠性脳炎により、脳炎後パーキンソン症候群が起こることが知られています。

ヒトラーのパーキンソン症候群についても、パーキンソン病と見る立場、脳炎後パーキンソン症候群と見る立場のそれぞれから根拠が提示されています。

この論文は、症状が始まった1941年時点で50歳を超えていたことが脳炎後パーキンソン症候群の典型例に当てはまらないこと、脳炎後パーキンソン症候群に特徴的とされる注視クリーゼなどの症状も記録にはないことなどから、パーキンソン病だった可能性を支持しています。

ヒトラーの行動に病気が影響していた可能性については、1940年以降に多くの人の前に立つことが少なかったことや、軍事上の失敗が相次いだことと結び付ける説がこれまでに唱えられていますが、明らかな関係を示す根拠は挙げられていません。

著者らはいくつかの説を取り上げつつ、「ヒトラーにパーキンソン症候群があったことは疑いがないが、その症状を数々の複雑な出来事、政治的関心、また性格の非常に強い特徴と重ねて考えることは軽率である」と述べています。

 

パーキンソン病パーキンソン症候群は、脳の変化による病気としては頻度の高いもので、歴史上も多くの人を苦しめてきました。症状や経過の特徴に着目した研究は今も積み上げられつつあります。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Hitler's parkinsonism.

Neurosurg Focus. 2015 Jul

[PMID: 26126407]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。