傷ついた神経が細胞移植で回復
一度傷ついた神経を再生させるのは非常に難しく、脊髄損傷やパーキンソン病でダメージを受けた脳や脊髄を元の状態に戻す治療が長年求められてきました。傷ついた場所に神経細胞を移植する方法が考えられてきましたが、実際の治療に結びついたものはまだありません。京都大学などの研究班が、傷ついた神経の表面に神経細胞を移植する方法で、ラットの聴神経の機能を回復させることに成功しました。
◆傷ついた神経の表面に移植
神経細胞がダメージを受けたあと、瘢痕組織と呼ばれる傷痕ができますが、この瘢痕組織があると神経の再生が難しくなると言われています。研究班は、実験のためにラットの聴神経を傷つけ、瘢痕組織ができた状態から聴神経を回復させられるかを試しました。
神経の回復を促すと言われているコンドロイチナーゼABC(ChABC)という物質を使いながら、傷ついた神経組織の中に細胞を移植すると、回復の効果は見られませんでしたが、移植のときに神経組織の表面にこぼれた細胞の一部が、移植先の組織の中に入り込んでいくらしい様子が見つかりました。
そこで研究班は、傷ついた組織の内部ではなく表面に神経細胞を移植することで、神経を再生させられないか試しました。
◆聴神経の電気信号が回復
神経の表面に細胞を移植すると、音を聞かせたときの脳波の変化(聴性
この方法が人工的に傷つけたラットの聴神経以外に当てはまるかどうか、また治療としてどの程度の改善に結びつくかは、今後の研究にかかっています。神経損傷は依然として難問ですが、こうした発見が積み重なる中から、治療への道がしだいに見えてくるかもしれません。
執筆者
Cells transplanted onto the surface of the glial scar reveal hidden potential for functional neural regeneration.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jun 15 [Epub ahead of print]
[PMID: 26080415 ]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。