2型糖尿病の強化療法で血糖値を下げても死亡率には差がなかった

糖尿病は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の原因になります。血糖値を下げる治療が行われますが、血糖値が低いほどよいかどうかは確かではありません。アメリカで通常の治療よりも厳しい強化療法を5年余り続けた研究では、心血管疾患は減っていないという結果が出ています。この研究の対象者を別の研究としてさらに4年余り追跡したところ、心血管疾患は減っていましたが、全体としての死亡率には差が見られませんでした。
◆ランダム化試験終了後を追跡
研究班は、アメリカで2000年から2008年にかけて行われた「VADT研究」の参加者をさらに追跡しました。VADT研究では参加者がランダムに通常の治療と強化療法に振り分けられ、中央値5.6年にわたって治療されましたが、VADT研究終了後は、どんな治療をするかに研究班が介入せず、
◆イベント減、死亡率に差なし
追跡の結果は次のとおりでした。
中央値9.8年のフォロー期間のうちで、強化療法群では最初に心血管疾患の大イベントを起こすリスクが通常治療群よりも低く(ハザード比0.83、95%信頼区間0.70-0.99、P=0.04)、絶対リスク差では1,000人年あたり8.6件の心血管疾患大イベントが減っていたが、心血管疾患による死亡率には差がなかった(ハザード比0.88、95%信頼区間0.64-1.20、P=0.42)。全死因死亡率の差は
有意 でなかった(強化療法群でハザード比1.05、95%信頼区間0.89-1.25、P=0.54、フォロー期間中央値11.8年)。
VADT研究開始から中央値9.8年の間で、強化療法のグループのほうが心血管疾患のイベント(心筋梗塞や脳卒中の発症などの出来事)が少なくなっていましたが、心血管疾患による死亡率には差がなく、ほかの死因を合わせた全体としての死亡率にも差がありませんでした。
心血管疾患の中には脳卒中などその後の生活を大きく変えてしまうものも含まれているため、死亡率に差がないからといって強化療法に意味がなかったとは言えません。とはいえ、何を治療の目的にするのかを考えるうえで参考になる結果かもしれません。
執筆者
Follow-up of glycemic control and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes.
N Engl J Med. 2015 Jun 4
[PMID: 26039600]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。