手術中の「汗っ!」「はいっ!」のやりとりは本当にあるの?
医療もののドラマや映画で、汗をかいた医師が「汗っ!」と看護師に言い、看護師が「はいっ!」と答えて汗を拭くシーン、観たことがあるという方も多いと思います。あのやりとりは、実際の手術現場で行われているやりとりなのか?とよく聞かれる事が多いのでお答えします。
◆「ごめん、汗拭いてもらえる?」「は〜い」
「汗っ!」「はいっ!」といういかにも緊迫した手術中のやりとりは、本当に行われているのでしょうか?
私の答えは「ちょっと違う」です。
確かに、手術中に医師の汗を拭く事はあります。手術中の医師は汗をかきやすい状態にあると言えます。緊張、精神的興奮状態、清潔なガウンを着ている事による暑さ、空調など、様々な要因が挙げられますが、このように汗をかいた時、医師は看護師に汗を拭くよう依頼してくる事があります。しかし、「汗っ!」などという命令に近い”指示”を受ける事はほとんどなく、「ごめん、汗拭いてもらえる?」などという”依頼”を受ける事はありました(少なくとも筆者の元職場では、の話です)。
医師も看護師も人間同士。手術を円滑に進めるためにコミュニケーションを取り合いますが、過剰に緊迫したコミュニケーションよりも、多少ユルさを含んだコミュニケーションの方がより円滑なコミュニケーションになる場合が多いのです。
◆汗と医師と手術
では、なぜ医師は手術中に汗を自分で拭かないのでしょうか。
手術中は、手術する場所を清潔な状態に保つために、手術部位を消毒し、手術部位の周りに滅菌された布をかけ、手術する医師も滅菌されたガウンを着てさらに滅菌された手袋をはめ、手術部位が不潔にならないように努めます。手術を受ける患者さんの感染予防のためです。しかし、医師の首から上は露出しており滅菌状態ではなく、汗には多くの雑菌が含まれているため、清潔な手袋をした医師の手で拭いてしまうと、その手を介して手術部位に雑菌が移ってしまいます。そのため医師は自分で汗を拭く事ができず、看護師に依頼するしかないのです。
そもそも、なぜ汗を拭く必要があるのでしょうか?
単純に、汗が顔や首をつたう感覚が不快だからという理由だけではありません。皮膚の表在菌を含んだ汗が手術部位に垂れ落ちる事により、手術創の感染の原因となる可能性があるため、汗が垂れ落ちる可能性は排除しなければならないのです。
要するに、手術を受ける患者さんが術後感染を起こさないようにするとともに、医師が手術により集中するために、看護師が医師の汗を拭いてあげる事が必要なのです。
◆ドラマや映画における手術シーン
近年の医療ドラマや映画では、より現場に近いリアリティが求められていると思います。しかし、ドラマ中の「汗っ!」「はいっ!」といういかにも緊迫したやりとりを、「ごめん、汗拭いてもらえる?」「は〜い」というユルめなやりとりに起き変えて想像してみたとき、クライマックスである手術シーンをよりドラマチックにするためには、「汗っ!」「はいっ!」というやりとりの方が適当である事は間違いなさそうです。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。