2015.05.12 | ニュース

前立腺がん術後の放射線療法は、遺伝子の組み合わせで変えるべき?

アメリカでの前立腺がん患者解析から

from Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology

前立腺がん術後の放射線療法は、遺伝子の組み合わせで変えるべき?の写真

前立腺がんの治療として、根治的な前立腺摘除術(RP)という手術が一般的です。この手術のあと、取り残されたがん細胞を殺す狙いで放射線療法(RT)が行われることがありますが、放射線療法の最適な治療期間はまだ確立されていません。 筆者らはがん細胞の遺伝子発現の特徴を数値で表した「ゲノム分類(GC)」が、前立腺がんが転移しやすいかどうかを予測するために役立ったと報告しました。

◆188人の前立腺がん患者のGC解析

筆者らは、次の方法を用いてGCが前立腺がんの転移を予測できるかを検証しました。

GCは、1990年から2009年にかけてトマス・ジェファーソン大学とメイヨー・クリニックでRP RT治療を受けた、188人の pT3すなわち外科切除断端陽性の前立腺がん患者から求めた。癌の転移を主要評価項目とした。

つまり、前立腺がん治療を受けた患者188人に対し、術後のがん転移の頻度とGCの相関関係を調べました。

 

◆GCスコアによって、転移抑制の効果が異なる結果を示す

統計解析の結果、以下のことがわかりました。

RT後5年における累積の転移発生率は、低値、平均値、および高値GCスコアではそれぞれ0%、9%、および29%であった。多変量解析の結果、GCとRP前のPSAは、独立の転移予測因子だった。


低GCスコア(0.4未満)の中で、アジュバントRTまたはサルベージRTを受けた転移患者の間で累積発生率には差がなかった。しかし、より高いGCスコア(0.4以上)における5年間累積の転移発生率は、アジュバントRTで治療した患者は6%である一方、サルベージRTを受けた患者では23%であった。


つまり、患者をGCの数値が低い・中間・高いという3つのグループに分けてそれぞれの転移発生率を調べたところ、GCが高いグループでは転移率が高くなっていました。この傾向は前立腺がんの指標として用いられるPSAでは説明できませんでした。さらに、最初から術後RTを行う場合(アジュバントRT)と、術後すぐはRTを行わず、再発が疑われたときにはじめてRTを行う場合(サルベージRT)を比較したところ、GCが低いグループではアジュバントRTとサルベージRTで同程度の転移率があったことに対し、GCが高いグループではアジュバントRTを受けた方がサルベージRTよりも転移が少なかった事が分かりました。

 

これらの結果は、GC解析が前立腺がん術後における転移発生の予測に有効である事を示しています。特に放射線療法に対しては、GCが高いグループでは術後RTを行うと転移を少なくすることができ、GCが低いグループでは再発が疑われた場合のみRTすれば、治療のための放射線被曝を最小限に抑えられる、という可能性が示唆されています。
遺伝子の個人差を捉えた治療法の選択が鍵となる訳ですが、この結果をより確かなものにするためには、今後多くの症例を調べていくべきと思われます。

執筆者

高田

参考文献

Genomic Classifier Identifies Men With Adverse Pathology After Radical Prostatectomy Who Benefit From Adjuvant Radiation Therapy.

J Clin Oncol. 2015 Mar 10

[PMID: 25667284] http://jco.ascopubs.org/content/33/8/944.full

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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