等張電解質輸液[細胞外液補充液](水・電解質輸液製剤)
水・電解質(イオン)を主な成分とし、電解質の浸透圧が体液とほぼ同じであるため細胞外へ分布し、細胞外液(組織間液、血漿)の量を増やすことができる輸液剤

等張電解質輸液[細胞外液補充液](水・電解質輸液製剤)の解説

等張電解質輸液[細胞外液補充液](水・電解質輸液製剤)の効果と作用機序

  • 水・電解質(イオン)を主な成分とし、細胞外へ分布して細胞外液(組織間液、血漿)量を増やせる輸液
    • なんらかの原因によって、体内の水分量や電解質濃度が崩れると生命活動が正常に維持できなくなる
    • 水分や電解質を含む輸液剤を点滴により補給することで体液のバランスを整え病態の治療効果を高められる
    • 本剤は電解質の浸透圧が体液とほぼ同じで細胞外へ分布して細胞外液量を増やせる
  • 本剤は「細胞外液補充液」とも呼ばれる
  • 本剤には、生理食塩液、リンゲル液、乳酸(酢酸)リンゲル液などがある
    • 生理食塩液
      ・0.9%の食塩液で電解質のナトリウムとクロールを含み浸透圧が体液と同じ
      ・注射(点滴)以外にも皮膚・粘膜・創傷面などの洗浄、医療用器具の洗浄、吸入薬などの基剤として使用するなど多くの用途で使われる
    • リンゲル液
      ・生理食塩液より血漿に近い電解質組成を有する輸液剤(生理食塩液には含まれていない電解質のカリウムやカルシウムも含む)
      ・名称の「リンゲル」は創製者の「S.Ringer」に由来
    • 乳酸(酢酸)リンゲル液
      ・通常のリンゲル液より血漿に近い電解質組成を持つ輸液でナトリウム、カリウム、カルシウム、クロールと体内で重炭酸イオンに変換される乳酸(酢酸)イオンを含む
    • 糖加乳酸(酢酸)リンゲル液
      ・糖質を配合した乳酸(酢酸)リンゲル液
    • 重炭酸リンゲル液
      ・乳酸(酢酸)イオンのかわりに重炭酸イオンを含むリンゲル液

等張電解質輸液[細胞外液補充液](水・電解質輸液製剤)の薬理作用

ヒトは水を飲んだり食事などから水分や電解質(イオン)を摂っていて、それとほぼ同等の量を体外に排泄することで体内バランスを保っている。このように体内の水分量や電解質の濃度を一定に保つことを「からだの恒常性(ホメオスタシス)」といって生命活動に不可欠なものになる。

なんらかの原因によってこの恒常性が崩れてしまった場合に、水分や電解質を含む輸液剤を点滴により補給することで、体内の水(体液)のバランスを整え病態の治療効果を高めることなどが期待できる。

本剤は輸液剤の中でも等張電解質輸液に分類され、電解質の浸透圧が体液とほぼ同じで、投与した輸液が細胞内へは移動せず、細胞外に分布して細胞外液量を増やす。このため本剤は細胞外液補充液とも呼ばれ血管内や組織間に水分や電解質を補給できる。

本剤には生理食塩液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液があり用途などに合わせて使い分けられている。また乳酸(酢酸)リンゲル液に糖質を加えた糖加乳酸(酢酸)リンゲル液もある。

乳酸リンゲル液に含まれる乳酸ナトリウムや酢酸リンゲル液に含まれる酢酸ナトリウムは体内で代謝を受けて重炭酸イオン(HCO3)に変換され細胞外液の補正を行う。重炭酸リンゲル液は最初から重炭酸イオンを含み体内での代謝を必要としないため、代謝が遅延する肝機能低下時、ショック状態による循環不全時、救命救急領域などで、より有用となることが考えられる。

等張電解質輸液[細胞外液補充液](水・電解質輸液製剤)の主な副作用や注意点

  • 浮腫
    • 本剤を主に大量・急速投与することで脳浮腫肺水腫、末梢の浮腫などがあらわれる可能性がある
    • 通常(緊急時を除き)急速投与を避け、患者の循環機能や腎機能輸液製剤の内容などに合わせて点滴投与されるが注意は必要
  • カリウムを含む製剤に関する注意
    • 大量・急速投与することで高カリウム血症があらわれる可能性があるため輸液濃度、投与速度、投与量などを十分に守って投与する
    • 腎機能不全、腎機能障害、抗アルドステロン薬(エプレレノンなど)、ACE阻害薬、ARBの使用時などは高カリウム血症により注意が必要

等張電解質輸液[細胞外液補充液](水・電解質輸液製剤)の一般的な商品とその特徴

大塚生食注、テルモ生食 など

  • 生理食塩液
  • 大塚生食注TNやテルモ生食TKのように、注入針が一体化された製剤もある

ラクテック注、ソルラクト輸液、ハルトマン輸液 など

  • 乳酸リンゲル液
  • 糖質を加えた乳酸リンゲル液(糖加乳酸リンゲル液)の製剤例
    • ラクテックD輸液:5%ブドウ糖加乳酸リンゲル液
    • ラクテックG輸液:5%ソルビトール加乳酸リンゲル液
    • ポタコールR輸液:5%マルトース加乳酸リンゲル液
      ・従来の糖加乳酸リンゲル液より(糖質を含めた)浸透圧を血漿に近づけ浸透圧の影響を少なくした製剤
    • ソルラクトD輸液:5%ブドウ糖加乳酸リンゲル液
    • ソルラクトS輸液:5%ソルビトール加乳酸リンゲル液
    • ソルラクトTMR輸液:5%マルトース加乳酸リンゲル液
      ・従来の糖加乳酸リンゲル液より(糖質を含めた)浸透圧をより血漿に近づけ浸透圧の影響を少なくした製剤

ヴィーン輸液、ソルアセト輸液 など

  • 酢酸リンゲル液
  • 糖質を加えた酢酸リンゲル液(糖加酢酸リンゲル液)の製剤例
    • ヴィーンD輸液:5%ブドウ糖加酢酸リンゲル液
    • ソルアセトD輸液:5%ブドウ糖加酢酸リンゲル液
    • フィジオ140輸液:1%ブドウ糖加酢酸リンゲル液
      電解質のナトリウムを140mEq/L含む(「140」は名称の由来の一つ)、マグネシウムを2mEq/L含む
      ・上記により細胞外液の電解質組成により近づいたものになっている
      ・ブドウ糖を1%含むことにより生体内脂肪の異化亢進を抑えつつ血糖の過度な上昇を起こしにくい

ビカネイト輸液、ビカーボン輸液

  • 重炭酸リンゲル液
    • 重炭酸イオンを含み、乳酸(酢酸)リンゲル液に含まれる乳酸(酢酸)イオンに比べ体内での代謝を必要とせずに重炭酸イオンを補給できる
      ・乳酸(酢酸)イオンの代謝が遅れる肝機能低下時や救命救急領域などでより有用となることが考えられる
    • ビカネイト、ビカーボン共に電解質のマグネシウムを含み、細胞外液のマグネシウム維持・補正効果も期待できる