NTT東日本関東病院
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脳外科手術に必要な力とは何か―強靭な集中力と精度、そして自信

脳外科手術に必要な力とは何か―強靭な集中力と精度、そして自信

PR NTT東日本関東病院 脳神経外科部長 井上智弘医師

脳神経外科では、脳腫瘍・クモ膜下出血・脳動脈瘤・頭部外傷など頭の中の多くの病気を治療している。その手術の多くは、顕微鏡を見ながらミクロの単位で切ったり縫ったりを行うのである。 手が震えただけで致命傷になる世界で、手術の成功率を高めるために日々の鍛錬を怠らない医師がいる。毎日の地道な積み重ねが患者の明日へ繋がることを胸に努力し続けるのである。もはやそれは求道者そのものである。

全国屈指の経験症例数を誇る脳外科手術のジェネラリスト

NTT東日本関東病院の脳神経外科は、脳卒中センター、ガンマナイフセンター、神経内科とともに、診療科同士の垣根を越えた最先端の医療を行っている。迅速で抜かりない治療はもちろん、病気の背景にある患者の心身状態や社会的環境など、細部にまで気を配る全人的な治療が可能となっている。

脳神経外科と脳卒中センターをあわせた年間の外来患者数はのべ1万5000人を超える。手術件数は年間300件以上。脳腫瘍のほか、破裂動脈瘤や未破裂動脈瘤などの脳血管障害に対する脳神経外科的手術、動脈瘤塞栓術などを用いる脳血管内手術など、対象となる病気と手術方法は多岐にわたる。

「脳神経外科に関する病気で僕らのカバーできないものはないと思います」と胸を張る井上医師自身は、かつて脳神経外科に特化する病院で手術を取り仕切っていた経歴がある。この10年間で開頭術や血管内治療といった直達手術についてありとあらゆる手術を経験してきた。その総数は3000件を優に超えるというから驚きだ。

頭を開けて動脈瘤の根本をクリップで閉じる開頭脳動脈瘤クリッピング手術はおよそ760件。その半数は未破裂の予防的な手術だという。首を通る動脈内にできたプラーク(動脈硬化部分)を取り除く頸動脈血栓内膜剥離術は約500件。脳血管のバイパス手術約280件、開頭脳腫瘍摘出術約250件と続く。さらに、脳梗塞で運ばれてきた意識障害の患者に対して、カテーテルや開頭によって塞栓を取り除いて血流を改善するといった緊急脳血行再建術に関してもなんと150件を上回っている。

「私は来るもの拒まずで治療してきました。経験症例の幅広さはあくまで結果ですよ」と控えめな井上医師だが、語られる数字はどれもすさまじく、全国屈指の経験の豊かさを物語っている。

顕微鏡下でミリ単位の血管をつなぐ高精度な施術にこだわる

井上医師は「高い精度で丁寧にやる」という治療方針を掲げている。「1分でも短くとか、キズを小さくとか、そういうことに特化して患者さんに来てもらおうとは考えていません」。この言葉を聞けば、治療による心身への負担、いわゆる侵襲度を下げることを追求する一般的な流れに逆らっているのかと私たちは感じてしまう。しかし、誤解してはいけない。脳という身体の極めて重要で複雑な器官を治療するときは、効率性よりも正確性にこそこだわらなければならないのだ。

頭を開ける際に切り開いた皮膚や筋肉、骨は、しっかり縫って閉めればほとんどもとに戻ってくれる。ただ、脳の機能はそう簡単にはいかない。何か少しでも神経や血管を傷つけると、麻痺などの障害が後遺症としてずっと残ってしまう。「時間がかかったり、傷口が大きくなったりして侵襲度は少し高くなるかもしれません。しかし、侵襲度と引き換えに安全性と根治性(病気を完全に治すこと)をおろそかにすることはできないのです」と強調する。侵襲度を安易に縮小するのではなく、むしろオーソドックスにちゃんと頭を開いた見えるところで、難しい治療を精度高く安全に行うというポリシーだ。「開頭手術は中途半端にやってもう一回というわけにはいきませんので、一回に集中して丁寧に治療させていただきます」。

脳神経外科の手術では、極めて細い血管や神経を扱うため顕微鏡を用いることが多い。顕微鏡手術では、通常の手術よりも格段に緻密で繊細な技術が求められる。幅広い手術に対応する井上医師だが、特に脳血管の手術に強いという。「顕微鏡下で血管をミリ単位でつなぐことに関しては、人後に落ちないという自負を持っています」と冷静に語るが、その確かな口調と鋭い眼差しからは井上医師の力強い自信が伝わってくる。



“10万針の井上”― 圧倒的な練習量と集中力に裏付けられた腕への自信

冷静沈着な井上医師が常にのぞかせる自信は、いったいどこからやってくるのだろうか。それは「10万針の井上」という呼び名に隠されている。

井上医師は、日々、手術練習用の顕微鏡とガーゼを使って擬似的に血管を縫い合わせるトレーニングを続けている。使用するのは10-0(ジュウゼロ)という最も細い手術用の糸(縫合糸)である。髪の毛の細さにも満たない約0.025mmの糸で、血管に見立てたガーゼの繊維と繊維を縫っていく。ひと針で3回縛る。井上医師はこれを一日50針こなし、年間200日ほど練習している。「10年は続けているので、少なくとも10万針はやっています」というから驚きだ。最初は時間がかかっていたそうだが、今では50針縫うのに30分を切るまでになった。「外科医にとっての素振りのようなものです。非常に簡便なので書類業務の合間にもできるんですよ。特にちょっと手術が空いたなっていうときにやって、いつになっても技術を維持・向上させるように心がけています」と自らの技術を磨くことには余念がない。

かつて「5万針の井上」で学会に売り出したところ、大きな注目が集まり、特に若手から熱心に練習方法を聞かれたという。「当時の手術練習用マイクロ(顕微鏡)のモデルは僕だったんですよ。もうそのパンフレットはなくなりましたけど」と井上医師はうれしそうに振り返った。

長時間に及ぶ脳外科手術では強靭な集中力も欠かせない。「患者さんのためにも医者の集中力は無尽蔵でないといけないんです」と井上医師はここでもストイックな姿勢を見せる。なんと8時間程度であれば休むことなく集中力が持続するというのだ。「スポーツ的な体力はありませんが、顕微鏡手術の体力はあるんです」。大きな聴神経腫瘍の手術や、血行再建を伴う動脈瘤の手術では実際に8時間を超えるケースもある。その間ずっと顕微鏡を覗いていても肩凝りすら感じないのだそうだ。3時間から4時間かかる一般的な手術ともなれば、もはや集中力が問題になることはないだろう。

精度の高い技術とそれを支える集中力、豊富な症例経験、なによりも自らの腕への自信。すべてを備えている井上医師は、まさに脳外科手術のエキスパートだといえる。


大切なのは患者に納得して手術を受けてもらうこと

いくら自らの持つ技術に自信があっても、医師はそれぞれの人生を背負った患者と向き合っていることを忘れてはならない。井上医師も「人様の頭を手術させていただくという自覚を強く持つようにしています」と手技を超えた人間的な部分にも言及する。

微細な神経や血管が張り巡らされた脳を手術する場合、手足の麻痺や失語症、構音障害といったあらゆる合併症のリスクを避けて通ることはできない。慎重な施術はもちろん、神経伝達や血流のモニタリングなど二重三重の努力はするものの、およそ3%の患者に麻痺などの機能障害が残る。リハビリで治る一時的な麻痺を含めると5%になる。手術で亡くなる患者は1%未満。「当然ですが、後遺症について患者さんは非常に気にされます」と井上医師が話すように、手術を受ける患者が最も心配するのは合併症のリスクだ。命が助かるに越したことはないが、手足が不自由になったり、言葉がうまく操れなくなったりしたら自分はどうなってしまうのか。手術を選択しようとする患者は常に葛藤している。「患者さんにもそれぞれの生活があります。何か障害が出た場合、患者さんはその後遺症を背負ったまま元気に生きていかなければならないのです」。

もし、十分な説明もなく、自分の身体に麻痺が残ることがあれば、その患者は心がくじけて目の前の医師すら信じられなくなるかもしれない。井上医師が大切にしているのは、いかに患者に納得して手術を受けてもらうかということだ。いかに手術の必要性と合併症のリスクを丁寧に患者に説明できるか。そして万一、後遺症が残ったときにも、いかに患者に信頼し続けてもらえるか。そんな命題が井上医師にはある。「手術にはリスクがあった。でも、手術をしなかったら、動脈瘤が破裂したり脳梗塞になったり、もっと深刻な結果になったかもしれない。だから自分は手術を選んだ。それで合併症が出た。なんとかリハビリでカバーしていこう」。どんなときでも患者に意欲をもってもらえるようにするのもまた医師の役割なのである。

手術を通して誠意を尽くす― 技術はすべて患者を救うためにある

「とにかく手術を通して患者さんに誠意を尽くすということです」と井上医師は自らの思いを一つの言葉にまとめる。「患者との人間関係において、僕はナイスで優しい医者ではないかもしれません」と謙虚な姿勢は崩さないが、「せめて手術においては患者さんに真摯で優しくありたいと思っています」と頬を緩める。こうしておけばよかったという後悔を持ち帰らないように、手術室でできることは手術室でやり切るんだという、患者の治療に全力で向き合う思いだ。これは井上医師の「高い精度で丁寧にやる」というポリシーにもつながる。

自分や家族、大切な人が脳に病気を抱えて手術が必要になり、必死で情報を探している人に向けて井上医師はメッセージを送る。「どうしても頭を開ける手術が避けられない方。だけど開頭術は怖いという方はぜひ相談してほしい。大事な脳を手術するわけですから、安全性と正確性、根治性が第一です。私たちは患者さん一人ひとりに全力で応えていきます」。

井上医師の圧倒的な技術力は何のためにあるのか。それは言うまでもなく患者を救うためだ。井上医師の全身全霊を尽くしたひと針ひと針が、患者のあしたをつむいでいくのである。


聞き手のひとこと

井上医師と話していると、「医者として自分はどのくらい全力を尽くしてきのか?」と自問してしまう。そのくらい圧倒的な努力を見せつけられたのだ。手術中に一生懸命であることは医師として当たり前であるが、手術以外の時間でも全く手を緩めない姿勢に刺激を受ける医師は多いであろう。 どんなに自分の力量が上がろうとたゆまぬ鍛錬を続ける姿勢と実績を知れば、手術を受ける患者の不安も少しでも和らぐのではなかろうか。医療界に身を置く者としても、多くの患者が「自分の身体を心からお願いしたいと思える医師」に出会えることを切に願うのである。

聞き手:MEDLEY医師 園田唯

NTT東日本関東病院の基本情報・アクセス

施設名

NTT東日本関東病院

エヌティティヒガシニホンカントウビョウイン

住所 〒 141-8625 東京都 品川区東五反田5-9-22
電話番号 03-3448-6111
アクセス 山手線 五反田下車 徒歩7分 東急池上線 五反田下車 徒歩10分 浅草線 五反田下車 徒歩5分
駐車場 無料 - 台 / 有料 150 台
病床数 合計: - ( 一般: 578 / 療養: - / 精神: - / 感染症: 628 / 結核: -)
Webサイト http://www.ntt-east.co.jp/kmc/

この情報は、厚労省および都道府県が公開する情報に基づいています。最新の情報についてはNTT東日本関東病院へ直接お問い合わせください。

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