患者とともに痛みの治療を― 痛みと全人的に向き合う水先案内人

患者とともに痛みの治療を― 痛みと全人的に向き合う水先案内人

PR NTT東日本関東病院 ペインクリニック科部長安部洋一郎医師

例えば、肺がんになったら多くの場合は呼吸器内科や呼吸器外科にかかることになる。がんは進行すると痛みを伴うことが多く、その痛みは非常に強いことで知られている。もちろん呼吸器内科や呼吸器外科の医師は痛みを取るために尽力してくれるのだが、簡単に良くならないことが痛みの難点である。なぜなら、痛みには身体の状態だけでなく精神の状態や社会の状態までもが複雑に関わっているからだ。肺がんは極端な例と感じるかもしれない。しかし、痛みの抱える複雑な状況は、帯状疱疹の痛みであっても骨折の痛みであっても、基本的には同じなのである。

もし、痛みのスペシャリストがいたらかかってみたいと思う人はどのくらいいるだろうか?痛みが取れるということは、苦痛がなくなるだけでなく、生活の幅が広がって充実したものにつながるのだから本当にありがたい。

そのような痛みと向き合うスペシャリストの集まるペインクリニックという科がある。ペインクリニックの先駆者である安部洋一郎先生に貴重なお話を伺う。

痛みの刺激の通り道を抑える神経ブロック ー 年間4万人の痛みを治療する

「痛み」は「第5のバイタルサイン」とも呼ばれる。バイタルサインとは、脈拍や血圧などの身体の状態を示す重要なサインのことだ。痛みは身体に何らかの異常があることを教えてくれているのである。そのため、痛みは身体の異変を知らせる警告サインだという考え方から、「痛みは闇雲に取ってはいけない。死ぬもんじゃないから我慢しなさい」という意見が出るほどである。もちろん、痛みの原因を調べることは重要だが、痛みをそのままにして我慢する必要はない。痛みを楽にすることで生活の質が向上することは軽視できないのである。また、痛みによって気持ちが落ち込むこともあり、痛みを放置していると心身がどんどん弱ってしまうこともあるのだ。

そこでNTT東日本関東病院でペインクリニック科が主に行うのが「神経ブロック」である。この治療法では、痛みの神経に対して局所麻酔薬などを直接用いることで、痛みの通り道の神経経路をピンポイントで遮断する。飲み薬の鎮痛剤などを使う薬物療法と比べて、少ない副作用で確かな鎮痛効果が期待できるのだ。なにより、痛みを伝達する現場となっている神経の伝達のみならず炎症自体も抑えることができるため、身体のさまざまなところでプラスに作用することが確認され始めているのだ。

「ほかの診療科にはない痛みへのアプローチ」だと話す安部医師自身は、年間のべ7000人というすさまじい数の患者を診ている。科全体の外来患者数は年間のべ4万人前後で総勢18人のスタッフが患者の痛みに向き合う。患者の60%以上が腰痛、頸部痛、四肢の痛みといった整形外科的な症状を抱えており、そこに帯状疱疹後神経痛などの慢性疼痛が加わる。治療の効果に関しては、全体のおよそ55%の患者が神経ブロックにより1年ほどで痛みを感じなくなり、25%は神経ブロックを続けながら痛みを抑えていく形になる。また、残りの20%は痛みが治まらないために手術などのほかの治療方法を検討するという。



患者が自ら参加するオーダーメイドの痛み治療

同院のペインクリニック科には、すでに鎮痛剤などの薬を飲んでいる患者が多く訪れる。薬の効果がほとんど出ていない代わり、副作用に悩まされ、眠気やふらつきで日常生活動作(ADL)が損なわれてしまっていることも少なくない。一方、神経ブロックであれば、飲み薬を併用するとしても飲む量を減らすことができる。また、局所的に治療するため、副作用が少なく、頭もクリアな状態で身体はより動かしやすい状態になる。

痛みを治す上で安部医師が患者に勧めるのは「自分で身体を動かす」ことだ。「痛いから休むのではなく、痛いけれどやれる範囲で動くぞという考え方をしていただく。自分で身体を動かし、自身の筋力やバランス感覚を鈍らせないことで、痛みをなくす方向に身体が自然と動いていくのです」と説明する。そのために、リハビリテーション科と連携しながら、痛みが緩和してきた段階から、理学療法士からのアドバイスをもとに効果的に身体を動かしていく。

このように安部医師が重要視するのは患者が自ら治療に参加することだ。医師が一方的な治療を提供するのではなく、患者の置かれている立場を理解した上で、一緒にゴールを話し合うというオーダーメイドの痛み治療に取り組んでいる。働き盛りの人はADLを向上させていち早い社会復帰を目指す。お年寄りは痛くない時間、つまり自分らしい生活のできる時間を伸ばすことを目指す。「人それぞれに目指すゴールがあること」を安部医師は強調する。

前向きになった患者は痛みが治りやすい ― メンタル面も重要視する全人的な治療

治療に対して意欲的な患者は、治療が進みやすく、痛みを感じにくい。痛みを取る治療を行うには、治療に対して前向きになることが重要なのである。

実際、身体にずっとつきまとう痛みがあると、その歯がゆさからうつ状態に陥ってしまうことも少なくない。また、コンプレックスを感じてしまい、それが足かせになることもある。痛みは物事に取り組むやる気をなくし、身体活動量を減少させ、ますます痛みを深刻化させてしまうことになる。安部医師は「メンタル面でのアプローチも大切にしなければならない」と指摘する。同院のペインクリニック科には臨床心理士が2人在籍しており、身体面だけではなく精神面でも積極的なケアを行っている。

今の痛みがこのままずっと続くのではないか、このまま歩けなくなってしまうのではないか― 患者はこうした不安を通り越した恐怖を抱いていることを安部医師はよく理解している。「みなさんに言っているのは、同じ状況がそのまま続くっていうのはまずあり得ないということ。自分で身体を動かすと、心身ともに良い方向に進むという医学的根拠があるんですよ」と安部医師は穏やかに語りかける。

「今の痛みがずっと続くことはないんだ」と不安を取り除き、「自分が治療に参加することで良くなるんだ」と希望を持ってもらう。こうすることで、患者は治療に前向きに取り組むようになるという。



痛みから開放された喜び― 高校時代の医療体験が原点に

話を聞けば聞くほど、患者の痛みの苦悩を理解する安部医師。それは、安部医師もまた、かつて痛みに苦しみ、今もなお痛みと向き合い続けているからだ。

今から30年以上前、所属する高校のバレーボール部で強力なスパイクを受け、手首をひどく痛めてしまう。整形外科や整体院で温めたり、引っ張ったり、吊ったりしても手首は良くならなかった。そんなとき、神経ブロックを受ける機会があったという。すると、なかなか取れない痛みが取れた上に、なんと局所麻酔薬が切れても痛みが戻ってこなかった。「これは本当に新鮮な出来事でした」と振り返る安部医師の表情には当時の驚きがよみがえる。毎日悩まされていたしつこい痛みが、今までが嘘だったかのように突如として消え去ったのである。

その後、スポーツが好きなことから整形外科医への道も考えたが、かつての医療体験に惹きつけられ、ペインクリニシャンの門を叩くことになった。「今、痛みの治療をしているのは、高校時代に痛みから急に開放された喜びに原点があるんです」と振り返る。

安部医師にはそうした自身の経験をいかに患者に還元するかという思いもある。バレーボールだけでなく、テニスやスキーなど多様なスポーツに励む安部医師は、これまでに何度もケガをしており、スポーツ障害のひとつである腰椎分離症も抱えている。「ある程度姿勢よく、適切に筋肉を鍛えておかないと今でも痛みが出てきます。痛みが出るとやる気がなくなり、反対に痛みが減ると自信が湧いてくる自分を感じるんですよね。患者さんを全人的に診ることで、少しでも多くの人を痛みから開放してあげたいんですよ」。ここまで聞けば、安部医師が患者の痛みに寄り添うことができるというのは言うまでもないだろう。

「ペインの医者はスポーツ監督のようだ」痛みと向き合う患者の水先案内人

患者にとってペインクリニック科の医師とはどういう存在だろうか。安部医師は自らを「相手のいるスポーツの監督」と例える。相手とは痛みのことである。「現時点の私たちが出せる医療のテクニックでもって、いかに試合を乗り切っていくか。しかも1試合1試合だけじゃなくて、1シーズン、2シーズンと長期的な思考を持ちながら、今の判断もしなければならない」とスポーツ経験ならではの話しぶりだ。「背伸びした医療はできない。でも負けるわけにはいかない」と語る“監督”からは熱気が感じられる。 こうした長期的な見通しにより戦略を立てることは、患者を安心させることにもつながる。痛みの変化の予想図の中にある現在位置を患者に示しつつ、どう対処していくかを一緒に考えていく。すると、そうするだけでも患者は楽になるという。

言うまでもなく患者と医師の信頼関係は極めて重要である。安部医師は自身が目指す理想像を次のように語る。「確固たる信頼関係があれば、『何メートル先に穴があるけど右に避ければ大丈夫です』って言うと、その人はたとえ目隠しをしていても安心して歩いていくんですよ。私はそんな、痛みと向き合う患者の水先案内人でありたいのです」。

痛みの治療というのは、本当に難しく、いまだに不明なところも多く残っている。それでも、治療に希望と意欲を持ち、良くなるに違いないという思いを持つことができれば、不思議と良い方向に向かう。それには全体を見渡して自分を診てくれる存在が必要だ。NTT東日本関東病院のペインクリニック科には、痛みと一緒に向き合ってくれる“監督”がいる。その采配できょうも多くの人を笑顔にするのである。



聞き手の一言

痛みは誰しもが経験する難題である。今回伺った話の端々に「痛みは全人的に治療する。そのためにはどんなに忙しかろうが、努力は怠らない」という安部医師の思いを痛切に感じた。なんと心強いことであろう。
善い医師の基準として、小生はいつも「自分が患者なら診てもらいたいか」を考える。安部医師の話を聞いているうちに、自分が患者の気分になって惹き込まれているいくのを感じた。安部医師の「少し他人より回り道をした分、医師として幅が広がったのかもしれない」という言葉も非常に存在感を見せる。医師としてだけでなく、人間としての深みがそうさせるのだ。

MEDLEY社医師 園田唯

NTT東日本関東病院の基本情報・アクセス

施設名

NTT東日本関東病院

エヌティティヒガシニホンカントウビョウイン

住所 〒 141-8625 東京都 品川区東五反田5-9-22
電話番号 03-3448-6111
Webサイト 医療機関のWebサイトへ
アクセス 山手線 五反田下車 徒歩7分 東急池上線 五反田下車 徒歩10分 浅草線 五反田下車 徒歩5分
駐車場 無料 - 台 / 有料 150 台
病床数 合計: 627 ( 一般: 577 / 療養: - / 精神: 50 / 感染症: - / 結核: -)

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