日本医科大学付属病院
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医師は何を診ているのか?―患者に寄り添う人間力

医師は何を診ているのか?―患者に寄り添う人間力

PR 日本医科大学 脳神経外科 大学院教授 森田明夫医師


クモ膜下出血、慢性硬膜下出血、脳腫瘍、脳梗塞といった病気はいずれも頭の中の病気である。頭の中の病気はきちんと治療しないと治すことは難しい上に、麻痺などの後遺症が残る場合もある。麻痺などの後遺症は生活に直結するから一大事である。

一般的に頭の中の病気というと、とてつもなく強力な見えざる敵といった印象がないだろうか。もしそういった病気に立ち向かってくれる人がいたらどれほど心強いだろう。まして病気だけでなく生活や人生にまで広く気をつかってくれる医師がいてくれれば、その安心感は計り知れない。

今回は脳神経外科のミクロな世界の手術に尽力しながら、人間同士の関わりという医療の根底にあるものを重視している日本医科大学の森田明夫医師に話を聞いた。

適正な判断にもとづく脳腫瘍・脳動脈瘤の治療

日本医科大学脳神経外科の手術件数は、関連病院と合わせるとなんと年間2000件を超える。これはすさまじい数であるが、その中でも特に多いのは脳腫瘍や血管障害だ。「脳腫瘍や脳動脈瘤に対して、ここ(日本医科大学病院)では本当に適正な判断に基づいて手術しています」と森田医師は話す。脳腫瘍にはグリオーマ、髄膜腫、神経鞘腫、聴神経腫瘍などさまざまなタイプがあり、手足の麻痺や聴覚機能の低下といった症状があらわれる。また、脳下垂体にできる下垂体腺腫はさまざまなホルモンの分泌に関与し、クッシング病やアクロメガリー(先端巨大症)など、身体の一部肥大化や視覚機能の低下などを引き起こす。

脳腫瘍の手術は、頭を開けて行うものや鼻の奥からアプローチして行うものがあり、状態によって手術法が選択される。日本医科大学病院ではいろいろな得意分野を持った複数の医師が集まって話し合い、最善の施術方法を選択している。森田医師は「みんなでどれが一番いい治療かということを考えられるのがうちの一番の強みですね」とチームで医療に取り組む姿勢を強調する。

下垂体に関わる疾患の治療では、外科領域を越えたホルモンのバランスまで総合的に考えることが求められる。ここでもチームの力が重要となる。「内分泌を専門とする先生がとても親密にみてくださっています」と森田医師は話す。「若手の脳外科医は、基礎的な領域から、内科的な領域、内分泌科的な領域などについてベテランの医師から実際に見て聞いて学習しています。そうやってエキスパートの言ったことを耳学問で身につけています」というコメントからエキスパート同士が高め合う環境が伝わってくる。こうした医師一人ひとりの総合力と互いのチームワークを高めようとする姿勢こそが、患者にとっての最善の判断へとつながっているのだ。

12神経の術中モニタリングによる安全な施術を心がける

実際の手術ではどのくらいの時間がかかり、患者の体にはどの程度の負担がかかるのだろうか。「下垂体の手術はものすごく早いです。1日2件、午前と午後でそれぞれ終わるくらいになります。ただ、頭を開ける手術になるとやはり時間はかかります」と話す森田医師によると、下垂体腺腫で2〜3時間、聴神経腫瘍で6時間、髄膜腫で3〜6時間がおよその手術時間だという。
頭部を開ける「開頭手術」では、治療箇所にたどり着くまでに1時間かかり、開いた部分をしっかり閉めるのも1時間かかる。つまり手術時間に前後1時間ずつを加えたものが手術室に滞在している時間となる。「時間はかかりますが、それほど体への負担にならないように配慮しているので、高齢者であっても手術はできます。例えば、聴神経腫瘍による歩行障害の80歳の方は、手術後に歩けるようになり、再びカラオケを楽しんでおられるそうですよ。一番重要なのは、長時間の手術で神経の後遺症やあざ、褥瘡(床ずれ)を残さないことです。そうすることで手術後のリハビリテーションに早く入れます」。

脳腫瘍などの手術は、視覚や嗅覚、運動などに関わるあらゆる神経を傷つけないようにしなければならない。たとえば運動神経がある部分に腫瘍があり、その部分を手術で傷つけると手足の麻痺などの後遺症が残ってしまう。そこで行われるのが「術中モニタリング」である。脳から出る12の神経それぞれに対して刺激を与え、問題なく機能しているかを確かめながら手術を進めていくというものだ。「関係があると考えられる神経をモニタリングしているので、比較的安全な手術ができています。術後に物が二重に見えるとか、耳が聞こえなくなるとか、顔が麻痺するとか、日常生活に影響の出る事態にならないように努めています。そのために、手術に関わる執刀医や麻酔科医、看護師などの全員が患者に対して十分に気を配れる体制を整えるようにしなければと考えています」。

手術後は一般的に10日目くらいで抜糸をする。特に神経的な障害がなければ、問題なく家に帰ることができる。入院期間は平均2週間くらいになるそうだ。森田医師は「1〜3ヶ月のリハビリが必要な麻痺などの合併症が起こる確率は2〜3%になります」と付け加える。

森田明夫医師の写真01

医療の「すきま」に取り残される患者を救いたい

「治療の適否の判断基準として『患者を家族だと思って考えろ』といつも言っていますね」。森田医師は「自分の家族ならどうするか?」というモットーを常に掲げている。「安直に『手術をしても意味がないからやりません』『あなたは私の治療範囲じゃありません』とは言いません。自分の目の前に患者さんがいるのだから、何かしてあげられることはないか考えたいのです。1年でも2年でも長く、その患者さんが満足する時間を過ごせるような治療ができればいいなと思うんですよね」と語る森田医師の表情は温かい。

確実なエビデンス(根拠)があり、良い結果が見込める治療をしようという風潮は、時に細分化された医療の「すきま」に取り残される患者を生み出してしまう。例えば、脳神経外科と耳鼻科の間にも脳神経外科と眼科の間にも「すきま」がある。実はこの「すきま」に陥っている患者は多い。「『すきま』を埋める医療をしなきゃいけない」と訴える森田医師は、そんな患者をできる限り受け入れるようにしている。そもそも、この「すきま」は、「部署同士や診療科同士のコミュニケーションが面倒くさいと思ってしまうような体制にも原因がある」と森田医師は指摘する。診療科同士の間に高い壁があると、コミュニケーションすることが煩わしくなってしまうのだ。できるだけ科と科の壁を低くして、あらゆる患者を受け入れる雰囲気をつくらなければならない。

一方、日本医科大学病院はコミュニケーションをとりやすい土壌があるという。「みんな学生時代に同級生だったりして、お互いをよく知っているんですよ。あの科のあの先生に電話すればだいたいわかるな、つながるなって。それはここの良いところだと思います」。森田医師は続ける。「手術にもならないかもしれない。この科の業績にはならないかもしれない。でも僕たちは患者さんを受け入れます。お人好しなのか、出しゃばりなのかもしれませんが、診療科としてそういう心持ちは大事じゃないでしょうか」。

森田明夫医師の写真02

「自分の手でできることをしたい」という思いで脳外科医の道へ

治療に対して気になることは尽きないが、患者にとって知りたいことはほかにもある。それは、自分が診てもらう医師の人柄やその人生ではないだろうか。自らの身を任せる医師がどんな人なのかは気になるものである。

森田医師は自らの人生を「環境に伸ばしてもらった」と振り返る。のどかな環境で過ごした幼少期は、才気煥発な姉のあとをくっついていくような大人しい性格だったそうだ。元来の性格である物事を着実に重ねていく姿勢が功を奏し、当時周囲ではあまり前例のない、名門中高一貫校、開成中学校・高等学校への進学を叶えた。
「勉強を始めるのが遅かったんですが、たまたま運よく行けたんですよね」という森田医師は、入学後、同級生の頭のよさに圧倒されてしまう。「ほとんど下の方でうずくまっている感じでしたね」。しかし、レベルの高い環境に育てられ、大学受験を控えるころには学年トップクラスになっていた。当時の開成高校では珍しい東京大学理科三類を目指し合格を勝ち取った。

すると今度は周囲の学力ではなく人間性にショックを受けることになる。「まわりの人が多方面な広い人格をもっているんですよ。自分の視野は狭いんじゃないかと思いました」。そこから森田医師は、いろいろな人と親交を深めて視野を広げることを学生生活の中心に据えた。「あまりがつがつ勉強せずに、社会勉強ということでかなり遊んでいましたね(笑)」と笑みがこぼれる様子からは、まさに学生時代に培われた温かい人柄が感じられる。この「人間性」こそが森田医師の思いを知る上で大切なキーワードとなる。

森田医師はこれまでの人生を振り返り、自らの成長の仕方を説明する。「一定の目標を持つ集団、それも背の高い、容量の大きいかたまりに自分が含まれないとダメなんです。こてんこてんにされてもかまわないから、そのなかで自分をどんどん盛り上げていって、さらに上のかたまりに行くんです。ひたすらに頑張ってきたような気がしますね。僕は努力するのを惜しまないというか、面倒くさいと思わないんですよ」。

森田明夫医師の写真03

「医師には教養が欠かせない」多彩な趣味に垣間見える温かな人間性

森田医師は趣味も多彩だ。「僕は昔から好きなことが広くて。旅行がほんと好きで、旅行中は絵を描いたり写真を撮ったり料理を学んだり、やはり手を動かしていますね。大学1年生のときにいったソビエト(ロシア)が一番楽しかったなぁ。モスクワからシベリア鉄道に乗ったりして」。
現場で患者と向き合い、限りを尽くす日々を送る森田医師だが、家族と過ごす時間も大切にしている。「家では妻が待っていてくれます。夜9時に帰ったら料理を一品つくって妻と一緒にいただきます。1時くらいまでテレビを見たりしながら一緒に過ごしていますよ」。休日は夫婦でゆっくり買い物に出かけることもあるという。

仕事だけでなく趣味や私生活にも積極的な森田医師は「教養」の大切さを呼びかける。人と向き合う医師は自らの「人間性」も軽んじてはいけない。その教養と人間性は診察や回診のときの「世間話」に現れる。「僕はよく患者さんから教わっています。どこに旅行してどうだったのか、とか。短い時間ですが、患者さんが普段どういうことを考えているのかをなるべく聞くようにしています。するとね、何に本当に困っているのか自然とわかってくるんですよ」。

こうした森田医師の姿勢は、かつてのアメリカ留学時代に培われたという。特に強く影響を受けたという、恩師の一人、David G. Piepgras教授の回診の様子を振り返る。その教授は毎日回診をするが、手術のない土曜日は、なんと患者一人30分も話すというのだ。日本における回診といえば、病室のベッドで横になっている患者を立ったままの医師が診てまわる。ところが、Piepgras教授は患者のベッドのそばの椅子に腰掛けて会話を始める。いつも何をやっているのか、それはなぜか。どこに住んでいて、近所の人たちはどんな様子なのか。患者の生い立ちから日常生活、趣味嗜好までなんでも聞き出す。
「それが医療の何に役立つのかは一見わからないんですけど、患者さんにとってはすごく印象深い。僕にとっても印象深かったんですけどね」。10人患者がいて、ざっと300分。午前10時から始めて、午後3時を軽く回ってしまう。「さすがに最後の30分間は、これはもうどうにかならないのかって思っちゃうんですよ(笑)」と当時を思い出して微笑む。森田医師自身に対するインパクトの大きさがうかがえる。それは時間の長さゆえではない。患者と医師の人間くさいコミュニケーションを目の当たりにしたからなのだ。

アメリカで見た医療は常に患者の存在が中心にあり、森田医師も新たに学んだり気づいたりすることが多くあった。その新鮮で濃密な体験が、医師自身の人間力を高め、患者を第一に考えるという現在の姿勢につながっている。「患者さん本位ってこういうことなのかって思い知らされましたね」と語る。

広く自由な視野を持った人間力豊かな医師を育てたい

豊かな人間力を重んじる森田医師は、日本の医師について「専門領域にあまりにも早く特化しすぎていて、広い視野でものを見られなくなっているのでは」と懸念する。医師自身が人間力を高めるには豊かな教養を育む必要があり、幅広い視野が欠かせない。診療科の壁を越えて、医療の「すきま」に取り残された患者を救うためにも、やはり幅広い視野を持っていなければならないのだ。

視野を広げるために必要なのは「苦労してチャレンジする精神」だという。「僕もやっぱり苦労しました。僕らのころからもうアメリカに行っても意味ないよって言われていました。それでも得るものはたくさんあるし、その価値は十分にあったと信じています。なんでも関係あると思って、買ってでも苦労して、辛い思いをしながら学んだほうが将来役に立つ力になるはずです」。

これまで森田医師が話してきたように、未知の領域に勇気をもって足を踏み入れ、苦労を重ねることではじめて新しい世界が見えるようになるのだ。「自由な広い目で見える人が少しでも増えたらいい。そういう人たちを育てられればいいなって思っています」。患者に身近に寄り添う森田医師は、日本の医療の未来も見つめている。

森田明夫医師の写真04

聞き手のひとこと

森田明夫先生の「患者を自分の家族と思って治療に臨む」という思いは、多くの医師が学ぶべきものである。近年のエビデンス重視の医療を尊重する一方で、患者に有益と判断できれば一般的に無理と判断されるような治療も検討するとおっしゃる。そこには、患者の思いがなによりも最優先であるというメッセージと豊富な経験に基づいたInnovativeな姿勢を感じるのである。

聞き手:MEDLEY医師 園田唯

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施設名

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ニホンイカダイガクフゾクビョウイン

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アクセス 千代田線 千駄木下車 徒歩7分 南北線 東大前下車 徒歩5分 三田線 白山下車 徒歩10分
駐車場 無料 - 台 / 有料 41 台
病床数 合計: 897 ( 一般: 870 / 療養: - / 精神: 27 / 感染症: - / 結核: -)
Webサイト /institutions/564a9c771c1b604d59c0a10d/articles/58201eba2899a384028b456b/

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