子どもの成長
子どもの体に見たことのないものができると、重い病気ではないかと心配になります。危ないものもありますが、自然に治るものも多いです。子どもの体に現れやすい、あまり心配の要らない変化について説明します。
最終更新: 2020.12.14

赤ちゃんの睾丸がない?停留精巣の原因や、治療、不妊の可能性

停留精巣はお腹の中にある精巣が陰嚢内に降りてきていない状態を指します。男の子の数%に見られますが、多くは3か月までに自然に治ります。不妊、精巣捻転症などの原因になるので、治らない場合は手術を行います。

1. 赤ちゃんの睾丸がない?停留精巣とは?

画像:男性の骨盤の断面図。精巣は陰嚢の中に納まっている。停留精巣では精巣が陰嚢以外の場所にある。

停留精巣とは赤ちゃんの精巣(睾丸(こうがん))が陰嚢の中にない状態です。精巣は精子をつくる臓器で、たいていの赤ちゃんでは精巣は陰嚢(いんのう)の中に入っています。

平たくいうと、停留精巣は「袋の中に玉が入っていない」です。片側だけのこともあれば、両側のこともあります。

停留した精巣は足の付け根(鼠径部)にあることが多いです。盛り上がって見えることがあり、触れられることもあります。鼠経に見当たらな場合はお腹の中にあることがほとんどです。

2. 停留精巣の原因について

停留精巣の原因は精巣の陰嚢への移動が遅れていることです。

精巣はお腹の中にでき、徐々に陰嚢に移動します。出てくるときに、足の付け根にある鼠径管(そけいかん)という場所を通ります。たいてい出産までには陰嚢の中に収まります。精巣の移動が遅れていると、出生時点で停留精巣になります。

精巣が移動するタイミングにはかなり個人差があり、停留精巣でも多くは生後3か月までに自然に陰嚢に収まります。
また、早産低出生体重児の子どもは停留精巣になりやすいことが知られています。

停留精巣と似た病気はあるのか

停留精巣と区別が必要な病気には次のものがあります。

  • 移動性精巣(遊走精巣)
    • 精巣が陰嚢から外に動きやすい状態です。
    • 下に降りてきたときに陰嚢に収まっていれば正常
    • 手術で精巣を固定することがある
  • クラインフェルター症候群
    • 生まれつきの異常
    • 成人した男児に女性化乳房などが現れる
    • 停留精巣をともなう場合がある
    • 不妊の原因になるが、不妊治療で出産できる場合もある
  • アンドロゲン不応症(精巣性女性化症候群)
    • 生まれつきの異常
    • 男の子の性器が女性化する
    • 外見上は女性に見えるが卵巣がない
    • 精巣が鼠径部に見つかることがある

停留精巣が考えられる場合には、似通った特徴をもつ上記のような病気の存在がないことも確認されます。

3. 停留精巣と不妊の関係について

停留精巣が不妊の原因になることがあります。片側の停留精巣があった男性のうち13%が無精子症になるとした研究があります。両側の停留精巣では、治療しなければ98%、治療すれば32%で無精子症になったとした研究があります。

参考文献:Can Urol Assoc J. 2011 Jun.

 

停留精巣で不妊になるのはなぜなのか

停留精巣で不妊になる原因は明らかにはなっていません。お腹の中は精巣のためには温度が高すぎるので、それが不妊症の原因だという説があります。精巣が陰嚢の中にあれば精巣の温度は下がり、精巣にとっていい具合の温度と考えられています。しかし、温度だけでは説明できない部分があり、停留精巣と不妊症の関係はまだ完全には解明されていません。

停留精巣で不妊以外の危険性はあるのか

停留精巣は不妊のほかにも以下の問題につながると言われています。

【停留精巣によって起こる問題】

停留精巣の人はそうでない人に比べて、精巣腫瘍(精巣がん)を発生しやすいことが分かっています。また、精巣に栄養を与える血管が捻じれたりもします。

4. 大人の停留精巣について

停留精巣に気付くのは難しくないので、大人になるまで停留精巣が放置されている人は少数です。しかし、現代の日本でも、停留精巣は男性不妊の原因の一部になっているので、大人になっても停留精巣のままである人は少ないながらもいると考えられます。

5. 停留精巣の治療:手術・ホルモン療法

停留精巣の主な治療は手術です。

日本では主に手術が行われています。手術で精巣を陰嚢の中に移動させます。6か月ごろまでは精巣が自然に降りる場合があります。一方、将来の影響を最小限に抑えるには、手術は早いほうがよいと考えられます。ですので、手術は生後6か月から2歳の間が勧められることが多いです。
また、ホルモン療法といって、精巣の下降に関わるテストステロンというホルモンの産生を刺激する方法もあります。

精巣固定術について

精巣固定術は代表的な停留精巣の手術です。腹腔鏡を使う方法と、使わない方法があります。

お腹に切り口を開けて精巣を引きおろし、陰嚢の中に固定します。片側で1時間から2時間程度かかることが多いです。傷痕や手術時間、入院期間は腹腔鏡を使うかどうかで違いがあります。お医者さんと相談して、自分の子どもに合いそうな方法を選んでみてください。

停留精巣の手術費用について

停留精巣の手術にかかる費用は、自治体によっても違います。子どもの医療費は自治体から助成が受けらることがあり、無料になる場合もあります。助成については都道府県などの窓口に問い合わせてください。

診療報酬点数から計算すると、一般的な手術代は2万円から8万円程度となります。加えて初診料や検査費用などがかかります。

しかし、助成などによってこの計算に当てはまらない場合は多いです。正確な費用は手術を受ける医療機関にあらかじめ問い合わせるのが確実です。