ざこつしんけいつう
坐骨神経痛
坐骨神経が圧迫されることで、脚の痛みやしびれが生じる状態の総称
13人の医師がチェック 178回の改訂 最終更新: 2023.02.15

坐骨神経痛の原因とは? 腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、梨状筋症候群、妊娠など

坐骨神経は腰から足まで通っている神経です。この神経が何らかの原因で圧迫されると、坐骨神経痛として神経に沿った痛みやしびれが出ます。主な原因は骨や筋肉によって神経が圧迫されている場合です。感染や腫瘍が関わっている場合は早く治療する必要があります。妊娠とも関係しています。

1. 坐骨神経痛の原因一覧

坐骨神経痛の原因として以下の病気や状態が挙げられます。

  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)
  • 梨状筋症候群(りじょうきんしょうこうぐん)
  • 腫瘍
  • 感染
  • 妊娠

それぞれの特徴と治療法を説明します。

2. 腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の症状と治療

画像:椎間板と脊髄の位置関係の図。椎間板ヘルニアで近くの神経が圧迫されると坐骨神経痛などの症状が現れる。

腰椎椎間板ヘルニアは、坐骨神経痛の原因になる代表的な病気です。

腰のあたりの背骨(腰椎)の間には椎間板(ついかんばん)というクッションが挟まっています。椎間板が何らかの原因で本来の場所からずれて飛び出してしまうことを椎間板ヘルニアと言います。

坐骨神経痛は、神経が圧迫されると同時にその部分で炎症が起きているときに痛みがあらわれます。坐骨神経は腰から足にかけて通っている神経ですので、腰椎の椎間板で起きた異常がお尻や足に伝達されるのです。

腰椎椎間板ヘルニアの症状は?

腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の症状を挙げます。

  • お尻や足のしびれ
  • お尻や足の麻痺
  • お尻や足の痛み

実は無痛性の腰椎椎間板ヘルニアというものもあります。椎間板に同じような変形が起こっていても痛みがあらわれないのです。どうして痛みが起こらないのかはまだわかっていないのですが、その理由の一つとして精神状態が関連しているのではないかと考えられています。

腰椎椎間板ヘルニアの治療は?

腰椎椎間板ヘルニアの主な治療を挙げます。

  • 手術
  • 神経ブロック注射
  • 装具(コルセットなど)
  • 温熱療法
  • 牽引(けんいん)療法
  • 認知行動療法

治療方針は手術をするかしないかで大きく違います。手術で改善が見込めるのですが、必ずしびれがなくなるとは限りません。さまざまな可能性を考えて、一人一人に適した治療法を選ぶ必要があります。

詳しくは「病院やクリニックではどのような治療をする?ヘルニアやギックリ腰に手術はやるべきか?」で説明しています。

3. 脊柱管狭窄症による坐骨神経痛の症状と治療

脊柱管狭窄症は坐骨神経痛のもう一つの代表的な原因です。脊髄の通り道である脊柱管が狭くなることで、坐骨神経痛の原因になります。

脊柱管狭窄症の症状は?

脊柱管狭窄症による坐骨神経痛で出やすい症状を挙げます。

  • お尻や足のしびれ
  • お尻や足の麻痺
  • お尻や足の痛み
  • 間欠性跛行(かんけつせいはこう)

脊柱管狭窄症が原因の場合は間欠性跛行が特徴です。

間欠性跛行とは?

間欠性跛行とは、少し歩くと足がしびれたり痛くなったりして歩けなくなり、少し休むと再び歩けるようになる症状です。

脊柱管狭窄症の治療は?

脊柱管狭窄の主な治療に次の方法があります。

  • コルセット(サポーター)
  • 手術

手術をしない治療法(保存療法)と手術治療では治し方が大きく違います。しびれや痛みが激しいときは手術が勧められます。

4. 筋肉が原因の坐骨神経痛:梨状筋症候群

筋肉が原因の坐骨神経痛:梨状筋症候群

梨状筋という筋肉はお尻にあります。梨状筋が硬くなったり、お尻にある骨(仙骨)の動きが悪くなったりすることで梨状筋症候群が起こります。

坐骨神経は梨状筋の近くを通っているので、硬くなった筋肉に神経が圧迫されて坐骨神経痛を起こすことがあります。

梨状筋症候群の治療

梨状筋症候群による坐骨神経痛は、筋肉が軟らかくなると改善することがあります。マッサージなどで筋肉を軟らかくしたり、筋肉の表面を覆う筋膜の状態を整えることができます。

5. 腫瘍が原因の坐骨神経痛:神経鞘腫、骨転移など

腫瘍によって坐骨神経が圧迫されたり、腫瘍の周りに炎症が起こったりすることで、坐骨神経痛の原因になることがあります。

腫瘍の種類によって次のように治療が違います。

  • 神経そのものや、神経を覆う膜の腫瘍:手術で取り除く
  • 神経の近くの骨の腫瘍:抗がん剤治療化学療法)など

神経の腫瘍の治療

神経自体や周りの組織の腫瘍は主に手術で治療できます。次のような腫瘍が坐骨神経痛の原因になります。

神経の近くの骨の腫瘍の治療

がんが骨に転移して坐骨神経痛の原因になっている場合、抗がん剤などの治療法があります。坐骨神経痛以外の症状として、強い痛み、骨がもろくなって骨折するなどがあります。

骨に転移があるがんは普通、手術ができません。主な治療に次のものがあります。

  • 化学療法(抗がん剤治療)
  • 放射線療法
  • 痛みを抑える薬(モルヒネなど)

ほとんどの場合、上の治療で根治は期待できず、余命を伸ばすことや痛みを抑えることが治療の目的になります。

6. 感染が原因の坐骨神経痛:化膿性椎間板炎など

骨やその周囲に細菌が感染して坐骨神経痛の原因になっている場合、抗生物質を使った治療が必要です。

化膿性椎間板炎(化膿性椎体炎)の治療

感染によって起こる坐骨神経痛の原因として、化膿性椎間板炎(かのうせいついかんばんえん)あるいは化膿性椎体炎(かのうせいついたいえん)という病気があります。背骨や椎間板に細菌が感染している状態です。感染が進行すると骨が破壊されていきます。

抗菌薬(抗生物質、抗生剤)を使った治療が必要です。

硬膜外膿瘍の治療

硬膜膿瘍(こうまくがいのうよう)は、脊髄の周りにが溜まった状態です。硬膜外膿瘍が神経を圧迫したり、感染が広がると坐骨神経痛の原因になります。

硬膜外膿瘍の治療には抗菌薬が必要です。細い針を刺して膿を吸い出す治療を行うこともあります。

7. 妊婦に坐骨神経痛が出る原因は?

妊婦の坐骨神経痛は決して珍しくありません。お腹が出ることで腰に負担がかかることはもちろん、赤ちゃんが大きくなるに連れて骨盤の状態も変わり腰痛や股関節痛も起きやすくなります。

【妊娠中に腰の痛みが生じやすい要因】

  • 子宮が大きくなることで腰に負担がかかる
  • お腹を支えるために腰を反らすので腰に負担がかかる
  • 姿勢が変わって筋肉が硬くなり神経を圧迫する
  • ホルモンバランスが崩れて痛みやしびれを感じやすくなる
  • 心の状態が不安定になり痛みを感じやすくなる

痛みがあると日常生活に必要な動作がしにくくなり、出産のときにいきめなくなることもあります。ただでさえ妊娠生活には不安なことも多く、痛みやしびれといった生活の質を下げる要因はできるだけ避けたいものです。そのためには予防をしつつ、もし坐骨神経痛を発症したとしても落ち着いてお医者さんに相談してください。

8. 妊婦の坐骨神経痛の治療法は?

まず大事なことは、無理をしないことです。薬や神経ブロックでの治療もありますが、休息、ストレッチ、温熱療法といった対処法から試してみると良いです。

【妊娠中の坐骨神経痛の対処法】

  • 無理に動かない
  • ストレッチ
  • 温熱療法
  • 固定ベルト、コルセット
  • 痛み止めの薬
  • 神経ブロック注射

無理に動かない

坐骨神経痛の症状が出たらまずは無理に動かないで、できるだけ休養を取ってください。

妊娠中でもまだ仕事や家事をしていると、休むのも簡単ではないかもしれません。しかし、ただでさえ負担がかかる妊娠期間を乗り切るには、家族や周りの人に助けてもらって、身体を休めることが大切です。

ストレッチ

ストレッチは妊婦に限らず坐骨神経痛に対する治療になります。詳しくは「坐骨神経痛(座骨神経痛)に効くストレッチ方法とは?」で説明しています。

妊婦ではお腹が出ているので、ストレッチをするにも取れない体勢があります。個々の状況に合わせたストレッチ方法があるので、お医者さんやリハビリの先生に相談してみてください。

温熱療法

腰や太ももの裏を温める温熱療法が坐骨神経痛の治療法として知られています。お風呂に入って温まるのも良いです。

固定ベルト、コルセット

骨盤ベルトは妊娠中の腰痛を予防することで坐骨神経痛を予防します。

妊娠中には骨盤が不安定になることが坐骨神経痛の原因になります。骨盤ベルトは不安定な骨盤を安定させる役割があります。骨盤が安定することで腰への負担を減らし、坐骨神経痛も改善できます。

妊婦の坐骨神経痛に使える薬

妊娠中に使う薬には注意が必要ですが、安全性の高い痛み止めの薬もあります。医師に相談して、妊娠中でも使える薬を処方してもらってください。

神経ブロック注射

神経ブロックは妊娠中でも使えます。詳しくは「坐骨神経痛(座骨神経痛)の治し方とは?手術とブロック注射について解説」で説明しています。

9. 肥満、冷え、ストレス、ランニング、帯状疱疹は坐骨神経痛の原因か?

坐骨神経痛は原因不明の症状として始まることも多く、何が原因だったのかと気になります。いくつか例を挙げて説明します。

肥満は坐骨神経痛の原因か?

肥満は坐骨神経痛に関係していますが、肥満だけで坐骨神経痛は説明できません

ある医学研究によると、肥満の人では坐骨神経痛の診断、坐骨神経痛による入院が若干多かったというデータがあります。

参考文献:Shiri R, et al. Obesity as a risk factor for sciatica: a meta-analysis. Am J Epidemiol. 2014 Apr 15

冷えは坐骨神経痛の原因か?

冷えが坐骨神経痛の原因とは言えません。ただ、治療中に体力を温存する意味では、なるべく冷えを感じない過ごしやすい環境を作るほうが望ましいでしょう。

ストレスは坐骨神経痛の原因か?

ストレスは腰痛に関係しています。坐骨神経痛との関係については、うつ症状が強く出ている人は坐骨神経痛の症状も強かったという研究結果があります。

参考文献:Uher T, Bob P. Neuropathic pain, depressive symptoms, and C-reactive protein in sciatica patients. Int J Neurosci . 2013 Mar;123(3):204-8.

ランニングは坐骨神経痛の原因か?

ランニングで坐骨神経痛は説明できません。身体運動を活発にする人では坐骨神経痛の発生が少なかったとする研究データもあり、坐骨神経痛を恐れて運動を控える必要はないでしょう。

ただし、すでに坐骨神経痛が出ているときには無理な運動は避けてください。

参考文献:Shiri R, et. al. Leisure-time physical activity and sciatica: A systematic review and meta-analysis. 2016 Nov;20(10):1563-1572.

帯状疱疹は坐骨神経痛の原因か?

帯状疱疹は正確には坐骨神経痛ではありませんが、症状が似ていることがあります。

帯状疱疹はピリピリした痛みとともに水ぶくれが出る病気です。症状は全身どこにでも出るので、お尻や足にピリピリした感じが出て坐骨神経痛に似た症状になることもあります。

さらに、帯状疱疹の痛みは水ぶくれよりも数日先に出ることが多く、坐骨神経痛かと思ったら水ぶくれが出て帯状疱疹だったと気付くことはありえます。