まんせいこうじょうせんえん(はしもとびょう)
慢性甲状腺炎(橋本病)
自分の免疫の異常によって甲状腺が炎症を起こし、甲状腺の細胞が破壊される病気
10人の医師がチェック 105回の改訂 最終更新: 2019.01.09

Beta 慢性甲状腺炎(橋本病)のQ&A

    慢性甲状腺炎(橋本病)の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    慢性甲状腺炎(橋本病)は自己免疫性疾患と呼ばれる病気の一つです。本来は微生物などと戦う免疫細胞(リンパ球)が、甲状腺に集まって、自らの甲状腺を破壊してしまうことが原因です。免疫細胞の働き(甲状腺の破壊)によって慢性的な炎症が起こります。

    甲状腺は、甲状腺ホルモンを作る臓器です。その甲状腺が破壊されると、体内をめぐる甲状腺ホルモンの量が少なくなり、このことを「甲状腺機能の低下」と呼びます。逆に体内をめぐる甲状腺ホルモンの量が多くなった状態が「甲状腺機能の亢進」です。

    慢性甲状腺炎(橋本病)は、一般的には甲状腺機能が低下する病気です。しかし、病気が進行する最中では、甲状腺が破壊されるにつれて一時的に甲状腺ホルモンが放出されるため、甲状腺機能が亢進する場合もあります(無痛性甲状腺炎)。

    慢性甲状腺炎(橋本病)では、どんな症状が出るのですか?

    慢性甲状腺炎(橋本病)では、甲状腺が腫れるとともに様々な症状が生じます。甲状腺機能が低下するに伴う症状には、以下のようなものがあります

    • 疲れやすい
    • 脈がゆっくりである(徐脈)
    • 便秘
    • 以前よりも寒がりになる
    • 皮膚の乾燥
    • 声がかれる(嗄声)
    • むくみ など

    妊娠の異常をきっかけに発見されることもあります。血液検査ではコレステロール値が上昇するため、これをきっかけで発見されることもあります。また、全くの無症状であっても橋本病に特徴的な検査所見(ホルモン値や自己抗体)で指摘されることもあります。

    慢性甲状腺炎(橋本病)は、どのように診断するのですか?

    血液検査により甲状腺ホルモンの値と、橋本病に特徴的な自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体)を検出することで診断します。

    慢性甲状腺炎(橋本病)の治療法について教えて下さい。

    甲状腺機能低下症になっていれば甲状腺ホルモンの補充を行います。最も一般的に使用される薬剤はレボサイロキシン(商品名 チラーヂンS)です。

    この薬は、原則的に生涯に渡って内服を続ける必要があります。

    慢性甲状腺炎(橋本病)は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    慢性甲状腺炎(橋本病)は、20-40歳代の女性によく起こる病気です。そして、中年女性のおよそ10%程度の方がこの病気を持っていると言われています。

    男性と比べて女性の方が顕著に発症しやすいのも特徴です。

    慢性甲状腺炎(橋本病)が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    橋本病によって重度の甲状腺機能低下症がある場合、昏睡状態になることがあります。

    慢性甲状腺炎(橋本病)の、その他の検査について教えて下さい。

    甲状腺の超音波検査を行うことがあります。この検査で、橋本病であることの診断を確定させることはできませんが、腫瘍などその他の病気を除外するために行うことがあります。

    また、結節や腫瘤がある場合は、注射針を指して細胞を採取する検査(細胞診)を行う場合があります。

    慢性甲状腺炎(橋本病)では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    慢性甲状腺炎(橋本病)では、重症である場合を除き入院は必要ありません。

    また通院に関しても、無通性甲状腺炎になっている場合を除けば安定していることが多いので、数ヶ月に一回から半年に一回など、長い間隔であっても問題はありません。

    慢性甲状腺炎(橋本病)とバセドウ病の違いについて教えて下さい。

    橋本病もバセドウ病も、甲状腺に対する免疫の異常が原因で生じる病気です。その点では共通していますが、症状と臨床像は異なります。

    橋本病の場合は、免疫細胞が甲状腺を破壊してしまうことが原因ですが、バセドウ病は甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体が出来ることで、甲状腺が常に活性化されてしまうことが原因です。

    したがって、橋本病では長期的には甲状腺機能が低下し、バセドウ病では甲状腺機能が亢進(向上しすぎること)することになります。

    しかしながら、橋本病の場合でも無痛性甲状腺炎を起こした場合は一時的に甲状腺機能亢進状態となりますので、バセドウ病と鑑別が難しい場合があります。

    慢性甲状腺炎(橋本病)と診断が紛らわしい病気はありますか?

    無痛性甲状腺炎といって、一時的に甲状腺機能が亢進している場合(血液中の甲状腺ホルモンの量が多くなっている場合)には、バセドウ病との区別が問題となります。その場合は、アイソトープ検査といって、甲状腺がヨードと呼ばれる物質をどの程度取り込む機能があるか、という点から区別を行うことがあります。

    また、橋本病と同じく甲状腺機能低下症を起こし得る病気としては、腫瘍や、ヨードの過剰摂取が挙げられます。

    慢性甲状腺炎(橋本病)に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    薬を毎日飲まなければいけないので大変ですが、飲み忘れのないように気を付けて下さい。また、ある種の薬(例えば貧血で使われる鉄剤やある種の胃薬など)が甲状腺ホルモン製剤の作用を弱めてしまうことがあるので、飲むタイミングをずらすなどといった調整が必要になることがあります。他に内服薬がある場合には、担当医師、薬剤師とよく相談して下さい。

    その他、ヨード類の過剰摂取(海草類などの海産物に多く含まれます)により甲状腺機能が低下してしまう場合もあるため、これらの食品を人よりも多く摂ることは避けた方がいいでしょう。また、喫煙も甲状腺機能低下のリスクになると言われています。

    慢性甲状腺炎(橋本病)は、遺伝する病気ですか?

    正確な確率や様式はわかっていませんが、遺伝の要素は一部あると言われています。

    ただし、いわゆる遺伝病ではありませんので、「親が橋本病ならば子も大半の場合に橋本病を発症する」というようなことはありません。

    慢性甲状腺炎(橋本病)だと、必ず甲状腺機能に異常が生じるのですか?

    紛らわしいところではありますが、「橋本病=甲状腺機能低下」というわけではありません。橋本病であっても、自己抗体が血液中に見つかるというだけで、特に薬が必要でない人も沢山います。明らかな甲状腺機能低下症を起こす方は10%程度だろうと言われています。

    ただし、甲状腺ホルモン値が正常であったとしても、もう一つのホルモンである「甲状腺刺激ホルモン」の値が高いというだけで(潜在性甲状腺機能低下症と言います)心臓病などその他の病気になりやすくなるという報告もあります。ですから、甲状腺機能低下症の症状がなかったとしても、治療が必要かどうかは一概には決められず、担当医師とよく相談し、納得の上で治療を選ぶことが勧められます。