ゆうきりんちゅうどく
有機リン中毒
神経毒のサリンや、殺虫剤のパラチオンなどの有機リン化合物によって起こる中毒
6人の医師がチェック 37回の改訂 最終更新: 2018.03.01

有機リン中毒の基礎知識

POINT 有機リン中毒とは

サリン、VXガスなどの有毒ガスや、一部の農薬に含まれる有機リンによる中毒です。農薬を誤って、あるいは自殺目的で摂取する、テロで用いられるなどして有機リン中毒が発生することがあります。症状としては頭痛、震え、けいれん、脱力、発汗、涙が止まらない、嘔吐、失禁、瞳孔が小さくなる、息苦しい、などが見られることがあります。診断は病歴と身体診察、採血検査から行います。中毒の中では症状が特徴的なので、症状をよく観察することで診断がある程度つくことが多いです。治療としては胃腸を洗浄する、ヨウ化プラリドキシム(PAM)による解毒治療、アトロピンの使用などが行われます。有機リン中毒が心配な方や治療したい方は救急科を速やかに受診してください。

有機リン中毒について

  • 神経毒のサリンやVXガス、殺虫剤のパラチオンなどの有機リン化合物によって起こる中毒
    • 喘鳴などの呼吸の症状、脱力などの筋肉の症状、低血圧徐脈など循環の症状などさまざまな症状が出て、最悪の場合、死亡することがある
  • 有機リンは、副交感神経を刺激する効果がある
    • 副交感神経は、呼吸、循環、消化、排泄、分泌、筋肉の運動、意識など体の様々な働きを調節している
    • 副交感神経は、アセチルコリンという物質によって刺激を受け取ったり、伝えたりしている
    • 有機リンは、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼを阻害する
    • するとアセチルコリンが分解されず、アセチルコリンの濃度が高まると、副交感神経の働きが高まりすぎてしまう
  • 有機リン剤は誤飲する他に、皮膚、結膜、呼吸によって体内に吸収される
  • 有機リン化合物は有機リン系とカーバメイト系に分けられる
    • 有機リン系の方が症状は重症で脳にまで症状を起こす
    • カーバメイト系は重篤化することは少ない
    • 有機リン化合物は農薬や殺虫剤に含まれる

有機リン中毒の症状

  • 神経の症状
    • 頭痛、めまい、意識障害
  • 呼吸の症状
    • 喘鳴、湿性咳嗽
  • 消化の症状
    • 腹痛、下痢
  • 循環の症状
    • 血圧の低下、徐脈(脈拍数が少なくなる)、胸部圧迫感
  • 排泄
    • 失禁
  • 運動
    • 脱力、不随意運動
  • 分泌の症状
    • 発汗、気管の分泌物が増える、涙や唾液が増える
  • 目の症状
    • 目の動きがおかしくなる、目が霞む、縮瞳(黒目が小さくなる)
  • 適切な処置をしないと死亡することもある
  • 健忘、うつ状態、精神分裂病などの症状が数日〜2週間後に遅れて現れることもある

有機リン中毒の検査・診断

  • 問診
    • 有機リン剤を扱わなかったか(殺虫剤など)
    • 自宅に有機リン剤がある、など誤飲する状況はないか(子供や高齢者)
  • 症状
    • 縮瞳などの特徴的な症状はないか
  • 血液検査での血清コリンエステラーゼ値の検査
    • 血清コリンエステラーゼは有機リン化合物によって阻害される
    • 有機リン化合物が体内に入っているほど、コリンエステラーゼが低下する
  • 血液検査での血糖値の上昇、尿糖陽性(尿から糖が検出される)、低カリウム血症、アミラーゼの上昇などがみられることがある

有機リン中毒の治療法

  • 呼吸や循環の症状が出るので、まずはその症状を安定させ、命を救うことが優先される
    • 気道の確保や人工呼吸などの酸素化が行われる
  • 体内にまだ吸収されていない有機リンを取るために、消化管洗浄を行う
  • 症状改善のために硫酸アトロピンやヨウ化プラリドキシム(PAM:パム)が使われる
  • 急性期の死亡は、未治療で24時間以内、治療すると10日以内が多い
  • 治療の効果が出れば、10日以内で症状は改善する

有機リン中毒の経過と病院探しのポイント

有機リン中毒が心配な方

有機リン中毒では、めまい、頭痛、冷や汗、目のかすみといった症状が出現します。縮瞳といって、目の瞳孔(目の茶色い部分の更に内側にある、黒い部分)が小さく縮むのも特徴的な症状の一つです。

有機リンは殺虫剤などに含まれます。ご自身のことであれば誤って飲んでしまったとしてもすぐに分かるかと思いますが、お子さんや、介護が必要な方が「もしかしたら置いてあった薬品を飲んでしまったかもしれない」という事態も救急の現場ではしばしば見られることです。

もしそのような事態が起きたら、近くで空いている小児科のクリニックまたは救急外来を受診しましょう。いわゆる内科や外科というよりも、誤飲(誤って不要なものを飲み込んでしまうこと)の対応に慣れているのは小児科医と救急医です。クリニックで対応ができないような重症の場合には、そこで初期対応を行った後に総合病院へ転院することになります。

「おそらく飲んでいないとは思うけれど不安」「口に入ったとしてもごく少量」というような場合には、民間の情報提供サービスがあります。中毒110番(072-727-2499、24時間対応)では、殺虫剤を含めて様々な異物の誤飲に対する情報提供を行っていますので、まずこちらで相談するというのも手の一つです。一方で、それなりの量を飲み込んでしまったことが確実であれば、近くの救急外来をすぐに受診するか、救急車を呼んでの受診が適切です。近所であれば、救急車が到着するのを待つよりも自家用車で駆け込んだ方が早いことも多いです。

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有機リン中毒でお困りの方

先述のように、有機リン中毒の場合には救急外来や小児科のクリニックを受診すること、そして中毒110番といったような民間のサービスで情報を集めることが有効です。

病院では症状を抑える薬を使用しますが、飲み込んでしまった有機リンの成分を取り除いてくれるわけではありません。体から成分が抜けるのを待つ間は対症療法を行うこととなります。重症の場合には自力で呼吸ができなくなりますので、人工呼吸器を使用して呼吸を代わりに機械で行うことが必要です。

病院を受診する際には、誤って飲み込んだ薬品の現物をなるべくお持ちください。成分の詳細や濃度を確認することで、迅速な対応が可能となることがあります。

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