ふんりゅう
粉瘤
皮膚の下にできた袋状の構造物に皮膚の老廃物が溜まってこぶのようになったもの
8人の医師がチェック 225回の改訂 最終更新: 2023.06.18

粉瘤の治療について:潰すな危険!手術時間5分・痛みなしの「へそ抜き法」で粉瘤は完治が可能

粉瘤は皮膚の中に袋ができて老廃物がたまった状態です。手術で完治が期待できます。特に最近主流となっているへそ抜き法手術は、傷が小さく、早ければ5分程度で終わります。潰すと再発するだけでなく感染の原因になりますので、完治を望む人には医療機関で診てもらうことをお勧めします。

1. 粉瘤(アテローム)とはどんなものなのか:似た病気・症状(特徴・場所)・原因について

粉瘤とは、正常な皮膚の中に嚢胞(のうほう)という袋ができ、袋の中に角質や皮脂などの老廃物がたまったもののことです。類表皮嚢腫(るいひょうひのうしゅ)、表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)、粉瘤腫(ふんりゅうしゅ)、アテローム、アテローマとも言います。

アテロームという言葉は、動脈硬化で血管の壁にたまっているコレステロールが多い成分(粥腫)のことも指しますが、粉瘤と動脈硬化は関係はありません。たまたま同じ名前で呼ばれているだけなので、関連が気になった人は安心してください。

粉瘤を身体の表面から見ると、しこり・できものとして、ときにはニキビや脂肪の塊のようにも見えます。

粉瘤(アテローム)の原因について

粉瘤の原因は、皮膚の一部に袋状の構造(嚢胞)があることです。なぜ嚢胞ができてしまうのかはわかっていません。粉瘤を予防する方法は知られていません。また、不潔にすることや、ストレス、タバコなどが原因だと考えていてる人はいますが、いずれも原因とは考えられてはいません。

画像:粉瘤の中の構造の図解。表皮の下に袋状の構造(嚢胞)ができ、角質や皮脂が溜まっている。

粉瘤の外見上の特徴について

粉瘤をよく観察すると、嚢胞の内側につながる黒い穴が開いています。
皮膚開口部と言うのですが、「へそ」とも呼ばます。

【粉瘤の外見上の特徴のまとめ】

  • 皮膚がドーム状に盛り上がっている
  • 大きさは数mmから10cm以上までさまざま
  • 真ん中に小さな黒い点(へそ)が見える
  • 押すと白か黄色のドロドロした臭いが出る

ただしこれらの特徴に当てはまらない粉瘤もあるので、見た目だけで粉瘤かどうかを自己判断するのは避けてください。

粉瘤ができやすい場所について

粉瘤は以下のように身体のどこにでもできます

  • 顔面
  • 耳たぶや耳の裏
  • 背中
  • おしり
  • お腹
  • 手足
  • 股の間、陰部

見た目が粉瘤の特徴に似ていれば、上に挙げた場所以外でも粉瘤かもしれません。

珍しいパターンですが、女性の外陰部に粉瘤ができて歩きにくくなったという報告や、男性の乳房に粉瘤ができてマンモグラフィーで検査されたという報告もあります。

参照文献:Int J Surg Case Rep. 2015  Jan 21

参照文献:BMJ Case Rep. 2015 Dec 7

粉瘤(アテローム)と似た病気とその見分け方について

粉瘤と見た目が似ている病気の例を挙げます。

それぞれの特徴と見分け方を説明します。

■ニキビ

ニキビは顔だけでなく全身どこにでもできます。ニキビと粉瘤で違う特徴を挙げます。

  • 大きさ
    • ニキビは数mmです。粉瘤は大きければ10cm近くにもなります。
  • へそ
    • 粉瘤の中心あたりに小さな黒い点があります。「へそ」とも呼ばれるものです。ニキビには「へそ」はありません。
  • 手触り
    • 粉瘤は触るとつまめるくらいの塊です。ニキビは普通つまめるほどにはなりません。
  • 臭い
    • 粉瘤の中身が臭うことがあります。ニキビに異臭はありません。

ニキビは自然に治ります。ニキビの原因には睡眠不足やストレスが関係しています。生活習慣を見直してニキビを予防することも対策になります。

脂肪腫

脂肪腫は皮下脂肪が異常に増殖した良性腫瘍です。放置しても害はありません。見た目をよくするために手術で取り除くことができます。普通は痛みがありません。

粉瘤と違う点はへそがないことです。ほかの見た目は粉瘤とよく似ています。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は血液の細胞からできた悪性腫瘍です。典型的には以下の特徴があります。

  • 触ると硬い
  • 押しても動かない
  • 数ヶ月のうちに大きくなる
  • 痛みはない

急速に成長して痛む場合など、例外もあります。全身の症状をともなうことがあります。

  • 発熱
  • 寝汗
  • 体重減少

化学療法抗がん剤治療)や放射線療法で治療が行われます。

■がんのリンパ節転移

がん細胞がリンパ節転移して、皮膚のしこり・できものとして触れることがあります。がんの手術後やがんの治療中には考える必要があります。治療法はもともとのがん(原発巣)の種類や進行度によって大きく違います。手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法などが考えられます。

ガングリオン

ガングリオンは関節の一部が袋状に飛び出したものです。手首によくできます。症状がなければ放置しても害はありません。一部は症状を起こします。

  • 痛み
  • しびれ
  • 手に力を入れにくい

ガングリオンも粉瘤と同様に手術で取り除けます。

■毛母種

毛母腫は皮膚の良性腫瘍です。石灰化上皮腫(せっかいかじょうひしゅ)とも呼ばれます。石のように硬いのが特徴です。放置しても害はありません。ただし、皮膚がんと紛らわしい場合があります。区別しにくければ手術で取り除きます。

2. 粉瘤(アテローム)の治療について:「へそ抜き法」手術の内容や費用、痛み、傷痕などの疑問についても説明

粉瘤に対して、近年は傷が小さくて済み、より簡便なへそ抜き法(くり抜き法)という手術方法が普及してきています。

画像:粉瘤のへそ抜き法(くり抜き法)手術の図解。パンチで穴を開けて内容物を絞りだしたあと、嚢胞を取り切る。

粉瘤のへそ抜き手術法について

へそ抜き法の手順は以下の通りです。

  1. 局所麻酔をする
  2. 4mmディスポーザブルパンチという丸い穴を開けることのできるメスを使って、粉瘤の部分に穴を開ける
  3. 内容物を絞り、出しきる
  4. 粉瘤がしぼむので、内容物を取り囲んでいた、袋の壁を取り切る

へそ抜き法(くり抜き法)の場合、手術時間は5分から20分程度で終えることができます。

粉瘤の従来の手術について

従来の切開手術では、粉瘤の真上の皮膚をひし形に切って、嚢胞を作っている壁を丸ごと、摘出していました。

画像:粉瘤の従来の切開手術の図解。ひし形に切って嚢胞を取り出し縫い合わせる。

切開にかかる時間は大きさなどによっても違いますが、10分から30分程度です。一回でも感染を起こしていると、袋の壁が周りとくっついてしまっているため、手術が難しくなり、時間もかかることが多いです。

粉瘤の手術では、切開手術でもへそ抜き法でも、袋の壁を取りきったあとは、皮膚を縫合する場合もあれば、縫合しない場合もあります。また、袋をとったあとの空間にガーゼをつめることもあります。

粉瘤ができている場所や大きさ、感染していたかどうかなどで縫合したほうがよいかどうかが決まります。たとえばひどい感染を起こした場合には縫合をしない方が傷の治りがよいと考えられる場合もあるからです。

粉瘤(アテローム)の手術の痛みや傷痕について

粉瘤の手術は皮膚に穴を開けるので、痛くないか心配になるところです。

粉瘤の手術は麻酔がしっかり効いた状態で行われます。麻酔の針を刺す時にチクッと痛いくらいで、あとは痛みはあまりありません。もし痛みを感じるようでしたら、医師に伝えれば麻酔を調整してもらうことができます。

手術の後、傷痕はどうしても残ってしまうのですが、多くは半年から1年ほどで目立たなくなります

粉瘤(アテローム)の手術費用について

保険が効く場合、粉瘤の手術自体の自己負担額は5,000円から25,000円程度です。顔など「露出部」の手術のほうが、背中など「露出部以外」の手術よりも高額になります。手術自体の費用に加えて、初診料、検査費用、薬代などを支払うことになります。

粉瘤の手術費用は病院によって違うのか

粉瘤の手術をするときは、病院によって費用がかなり違うことに注意してください。理由は保険診療として手術する病院と、自由診療で手術する病院があるからです。自由診療で手術する場合の費用は病院によって違い、多くは保険診療よりもかなり高額になります。

粉瘤の手術は保険が効くところで受けたほうがいいのか

顔など目立つ部分の手術で、見た目が気になるなら、形成外科美容外科、美容皮膚科などの専門性の高い病院・クリニックで自由診療の手術を相談する選択肢もあります。

ただし、自由診療のほうが必ず良い結果が出るとは限りません。治療の質を左右するのは標榜している科よりも、粉瘤治療の実績の有無の方が大事です。医療施設がどの程度粉瘤の手術に慣れているかの目安として、病院のウェブサイトなどで手術件数などが参考になります。

病院を探すにはこのサイトの検索機能をぜひ利用してください。

たとえば「東京都新宿区で皮膚科などを標榜している病院・クリニック」のように、条件に合う病院を検索できます。粉瘤の手術ができるかどうかなど、詳細は各医療機関にお問い合わせください。

 

3. 粉瘤のよくある疑問について

ここまで粉瘤の概要やその治療内容などについて説明してきました。粉瘤についてはまだまだ疑問があると思いますので、患者さんからよく受ける質問をベースにして疑問に答えていきたいと思います。

粉瘤は自分で潰しても治せるのか

粉瘤を自分で治そうとして潰したりする人がいます。結論からいうと、粉瘤を潰すのはよくないことばかりです。「粉瘤を潰すとどうなるのか」、「粉瘤を潰すと治るのか」という疑問に答えていきます。

■粉瘤を潰すとどうなるのか

まず、粉瘤は潰さないでください。一度気になると押したり潰したりしたくなりますが、粉瘤は潰しても治らないだけでなく、悪化の原因になります。

粉瘤を潰すと、細菌が入り込んで感染してしまう可能性があります。

嚢胞の中に細菌が感染した粉瘤を、感染性粉瘤と言います。炎症性粉瘤、化膿性粉瘤とも言います。感染性粉瘤では以下の症状が現れます。

  • 痛み
  • 腫れ
  • 臭い

粉瘤の中央にある黒い点(へそ)から、内容物が出てくることがあります。膿が出たように見えます。すでに炎症を起こした感染性粉瘤からは、白色から黄色のどろっとした膿が出てきます。

さらに、感染が起こるとすぐに手術できなくなります。感染していない粉瘤なら、簡単な手術で治せます。ところが、感染していると嚢胞の壁が破れやすく、きれいに取り除けません。

感染による臭いや痛みを治すため、また根治手術を可能にするためにまず感染を止める必要があり、抗菌薬抗生物質、抗生剤)を使ったり、粉瘤を切開して中の膿を出したりしなければなりません。

感染の自然治癒は期待できません。嚢胞の中は細菌が繁殖しやすい環境です。一度細菌が入るとどんどん繁殖して臭いを出し続けます。

粉瘤を完治させるには手術が必要です。手術で治すためには、まず潰さないことです。

■粉瘤は潰すと治るのか

また、粉瘤は潰しても治りません。潰しても中身の袋(嚢胞)は残っているためです。

皮膚開口部から中身が自然に出てきたり、粉瘤を潰して中身を絞りだしたりすると、一時的に粉瘤がしぼむので治ったように見えます。しかし嚢胞の構造が残っている限り、また老廃物がたまって、大きい粉瘤になってしまいます。

粉瘤は自分で潰しても再発します。再発しないように完治させるためには、手術で嚢胞を取り切る必要があります。

粉瘤は薬で治せるのか

粉瘤は薬では治りません。感染して炎症が起こっていれば、炎症を和らげる薬はあります。しかし粉瘤をなくす薬はありません。

「たこの吸い出し」という薬はお勧めできません

たこの吸い出しの有効成分は、硫酸銅とサリチル酸です。硫酸銅には腐食作用があり、サリチル酸には角質軟化作用があります。たこの吸い出しを粉瘤に塗ると、皮膚と嚢胞の壁が溶けて、穴が開きます。穴から内容物が出てきます。

つまり、たこの吸い出しを塗ると、粉瘤を潰したのと同じことになります。嚢胞は残っているので粉瘤はまた大きくなります。また、感染して悪化する恐れもあります。

粉瘤を完治させるには手術が必要です。

粉瘤の臭いの原因や対策について

粉瘤の臭いの原因は、嚢胞の中にたまった老廃物です。皮膚開口部から臭い汁や膿のようなものが出てくるときは、細菌が感染して炎症が起きているかもしれません(感染性粉瘤、炎症性粉瘤、化膿性粉瘤と言います)。粉瘤からの臭いに有効な対症療法はほとんどありません。臭いを抑えるには根本的な治療が必要です。感染をしていれば、抗菌薬(抗生物質、抗生剤)を使って症状を抑えたうえで、手術をします。