じんましん
じんましん(蕁麻疹)
皮膚が赤く腫れ、短時間で消える症状。原因はアレルギー、物理的刺激、発汗など。市販薬にもある抗ヒスタミン薬の飲み薬が有効。原因不明で長引く場合もある
16人の医師がチェック 246回の改訂 最終更新: 2024.04.04

蕁麻疹は誰にもどんな時でも起こりうる

蕁麻疹(じんましん)は、いつ誰に出てもおかしくありません。体調や環境など、原因はいたるところにあります。かゆみや痛みの症状は非常につらいものです。蕁麻疹が出たらどうすれば良いのか、架空の症例をもとに考えていきましょう。

1. 体育の時間に体がかゆくなってきた

大翔くんは8歳で小学校3年生の健康な男の子です。活発な大翔くんは運動が大好きで、ある日いつもと同じように4時間目の体育の授業を受けていました。ドッジボールをやっていると身体がかゆくなってきましたが、気のせいと思って体育を続けていました。

突然、お友達が「あれ、大翔どうしたの?」と言います。

何を言われているかわからなかった大翔くんが「何が?」と言うと、お友達は「首がいっぱい蚊に刺されているよ。」と教えてくれました。

大翔くんが首を触ってみると、確かに蚊に刺されたような跡がありかゆみが強くなってきました。お腹や背中もかゆいので、服を脱いでみると同じ虫刺されのようなものがたくさんあります。

先生は「蕁麻疹(じんましん)かな。体育は今日はお休みして見学していなさい。」と言いました。

チェックポイント1:蕁麻疹は元気な人にも突然やってくる

たいていの場合は蕁麻疹は突然やってきます。蕁麻疹というとアレルギーや体質のせいというイメージがあるかもしれませんが、健康な人に急に蕁麻疹が出てしまうということもよくあります。

健康に自信がある人でも、思いがけないときに蕁麻疹が出るかもしれません。なんだか体がかゆいと思ったら皮膚を観察してみましょう。

チェックポイント2:蕁麻疹は皮膚が赤く腫れて盛り上がり、かゆみがある

皮膚に症状(皮疹)が出ていたら、それが蕁麻疹なのかどうかが気になります。このとき、「いつ症状が出たか」「どれぐらい続いているか」「どんな見た目か」「かゆみがあるか」といった視点で症状を観察することがポイントになります。

蕁麻疹は、急に現れて数時間ほど出ていることが多いです。見た目の特徴としては、数mmから数cm程度の範囲に赤みがあり、蚊に刺されたように腫れて盛り上がっています。ブツブツと塊のような形で盛り上がることはありません。かゆみや痛みを伴うことも特徴です。

蕁麻疹(じんましん)

蕁麻疹なら、まず原因を除くことで悪化を防げるかもしれません。次に説明します。

チェックポイント3:蕁麻疹の原因は状況から考える

蕁麻疹の原因はいろいろあります。ストレス、食べ物、感染、疲労、運動、薬剤などが代表的ですが、ほかにも数えきれないほどの原因があります。また、いくつもの原因が絡み合っているため、原因を特定できないことも多いです。詳しくは、「原因のわかっている蕁麻疹」の項で説明しています。

実際に症状が出てしまったときは、そのときの状況を振り返って原因を探すことになります。

大翔くんの先生は、運動をしている最中に症状が出たことから、運動が原因かもしれないと考えて、体育を見学させました。この時点では正しい判断と言えるでしょう。

2. 急に現れて急に消える蕁麻疹

帰りの時間になったらさっきまでのかゆみや皮膚の赤みがウソのようになくなっています。

正直者の大翔くんは家に帰ってお母さんに今日の出来事を報告しました。心配になったお母さんは「大翔、まだ近くの皮膚科がやっているから先生に見てもらおう。」と言って、大翔くんを近くの皮膚科のクリニックに連れて行きました。

皮膚科にやってきた大翔くんは「5時間目の体育の授業中に」「体がかゆくなって」「蚊に刺されたような赤い腫れがあり」「家に帰る少し前まで続いた」ことを自分でお医者さんに説明しました。

チェックポイント1:症状が消えても相談するべき?

たいていの蕁麻疹は、数時間経つと症状が消えていきます。このため、気になって病院やクリニックにかかった時には症状がなくなっていることもよくあります。

では蕁麻疹だと思ったら病院には行かず、症状が消えるのを待っていればいいのでしょうか?そうとも限りません。

違う病気ではないか、蕁麻疹だとすれば原因は何で、再発させないためにはどうすればいいかなど、大事な情報がもらえるかもしれません。気になったら一度は皮膚科で相談してみましょう

また、まれに重い全身の症状に進行することがあり、この場合は緊急の対処が必要です。次に説明します。

チェックポイント2:蕁麻疹のこんな症状には要注意!

蕁麻疹の症状は、皮膚だけとは限りません。蕁麻疹の一部はほかの内臓にも変化を起こします。代表的なのは、胃腸の症状と気管や肺の症状です。胃腸の症状として下痢、吐き気、腹痛など、気管や肺の症状として咳や息苦しさが挙げられます。

実は息苦しさがある時には、蕁麻疹が皮膚に出るのと同じように、気管から肺への空気の通り道(気道)でも蕁麻疹に似た変化が起こっています。つまり気管などの表面が腫れて盛り上がります。すると空気の通り道が狭くなってしまい、息苦しくなるのです。

この状況は進行すると息が全くできなくなるので危険です。咳や息苦しさがある時は緊急事態の前触れと考えてください。蕁麻疹に伴って咳や息苦しさが出てきた場合は、急いで近くの病院・クリニックに行きましょう。もし苦しくて顔が赤くなるようなことがあれば、救急車を呼んでも構いません。

チェックポイント3:診察では症状を詳しく伝えよう

診察では症状を言葉で説明することが大事になります。症状が「いつ始まったのか」「いつまで続いたのか」「どんな見た目だったのか」「かゆみはあったのか」が、蕁麻疹を診断するポイントになります。蕁麻疹は診察室に着いたときには症状が消えていて、話して伝えることが唯一の手がかりになることも多いです。

この手がかりをうまくお医者さんに伝えることで、本当に蕁麻疹なのか、原因は何かといった問題の答えが近づいてきます。

3. 食事と運動が原因かもしれない

大翔くんの話を聞いたお医者さんは「いままでごはんを食べたあとにかゆくなったことはない?」と聞きました。

大翔くんは正直に「そんなことはないよ。」と答えました。

するとお医者さんは「多分食事と運動による蕁麻疹だね。」と言いました。なぜそう考えたのでしょうか?

チェックポイント1:食事による蕁麻疹は遅れて出ることがある

食べ物のアレルギーは蕁麻疹の原因になります。しかし、大翔くんは今まで食べ物による蕁麻疹がなかったようです。今日から急に症状が出ることはあるのでしょうか?

答えは「ある」です。蕁麻疹は突然あらわれるのが特徴ですので、今まで食べても平気だったものが、たった今から蕁麻疹の症状を引き起こすようになることはあります

しかも、食事に関連した蕁麻疹は、食べてから数分で症状が出るものと、数時間経ってから症状の出るものがあります。分類について詳しくは「蕁麻疹の症状はどんなものがありますか?」の項で詳しく説明します。

このように、食事から数時間は食べたものが原因で蕁麻疹が出る可能性があるので、大翔くんにこれまで蕁麻疹がなかったとしても、食事が原因かもしれないのです。

チェックポイント2:食物のあとに運動すると出るタイプの蕁麻疹がある

食事をして数時間経ってから蕁麻疹が出る、食物依存性運動誘発アナフィラキシーという病気があります。原因となる食べ物を食べたあとに運動すると蕁麻疹が出てきます。

大翔くんの症状は午後の体育の時間に始まっているので、食物依存性運動誘発アナフィラキシーの特徴に当てはまっています。そこでお医者さんは「食事と運動による蕁麻疹」だろうと見当をつけることができたのです。

4. 食物依存性運動誘発アナフィラキシーは小麦や甲殻類が原因になりやすい

食物依存性運動誘発アナフィラキシーだとしても、原因となるものを食べて運動すると必ず症状が出るわけではありません。また、運動をしなければ症状が出ません。

しかし、このタイプの蕁麻疹は、症状が出たときには重くなってしまうことが多いものです。そこで、原因となる食べ物を把握しておき、疑わしいものは食べない、もし食べてしまっても運動をしないという対策が必要になります。

では、原因となる食べ物をどうやって突き止めればいいのでしょうか。蕁麻疹が出る前に食べたものの全てが疑わしいということになりますが、特に原因になりやすい食べ物があります。それは小麦と、エビ・カニなどの甲殻類です。「食物アレルギー診療ガイドライン2012」の統計では、原因となる食べ物全体の9割が小麦と甲殻類とされています。そこで、小麦か甲殻類を食べていたら最も疑わしいと考えて良いと思われます。

大翔くんのお話に戻りましょう。

お医者さんは「大翔くん、今日の給食はなんだったかな?」と聞きました。大翔くんはお昼を思い出しながら「チャーハンとなすの味噌汁と豆腐だったよ。今日はチャーハンにエビが入っていたから嬉しかったんだ。」と言いました。

話を聞いていたお医者さんは「お母さん、これからエビは食べないようにした方が良いかもしれません。実際のところの原因はわかりませんが、エビが最も怪しいと思います。」と伝えました。

5. 原因がはっきりしなくても対策はできる

大翔くんのお母さんには、この短い話だけで本当に原因がわかるのかという疑問が浮かんでいます。本当にエビを食べてはいけないのでしょうか?

チェックポイント1:もしものときに備えよう

実はお母さんの疑問は正しいのです。食物依存性運動誘発アナフィラキシーだろうという判断も、エビが原因だろうという判断も、ここまでの情報だけでは確実とは言えません。

しかし、この場面で大事なのは、最悪の事態を予防することです。もしエビが原因の食物依存性運動誘発アナフィラキシーだったとしたら、エビを食べることで危険な状態が引き起こされてしまうかもしれません。そして、その可能性は無視できない程度には大きいと考えられます。

めったにない病気まで気にしすぎて生活のバランスを崩してしまうのは賢いこととは言えませんが、大翔くんの症状は、エビによる食物依存性運動誘発アナフィラキシーにかなり当てはまっています。用心としてエビを食べないようにする理由は十分にあるケースです。

チェックポイント2:蕁麻疹の原因が分からなくても焦ることはない

蕁麻疹の原因は特定できないことの方が多いと言われています。原因がわからないことを特発性(とくはつせい)と言います。特発性蕁麻疹で原因がはっきりしなくても、治療することは可能です。

症状が繰り返す場合、軽い症状なら治療の必要はありません。かゆみや痛みが強くて楽にしたいときには薬が使えます。特発性蕁麻疹で最初に使う薬は抗ヒスタミン薬というものです。抗ヒスタミン薬は、実際に使った結果、特発性蕁麻疹に効きやすかったという報告があります。

また、原因が正確に特定できなくても、生活を改善したり、ストレスを発散することで蕁麻疹が出にくくなる場合もあります。

大翔くんはエビを食べたあとに運動をすると蕁麻疹が出ることが分かりました。つまり、エビによる食物依存性運動誘発アナフィラキシーの診断となりました。

その後、エビを食べないように気をつけることで蕁麻疹は出なくなりました。特に薬を使うこともありませんでした。

6. 誰にでも突然現れる蕁麻疹に詳しくなろう!

ここでは食物依存性運動誘発アナフィラキシーを例にとって、蕁麻疹の典型的な現れかたや、原因がわからなくても対策ができることなどを説明しました。架空の例ですが、蕁麻疹を言葉だけで漠然と知っていた人にも、いっそうはっきりとしたイメージが湧いてきたのではないでしょうか。

この例のように、蕁麻疹は誰にでも突然現れます。このサイトでは蕁麻疹の原因、症状、治療などについて詳しく解説しています。ぜひ蕁麻疹のことを知って、自分や親しい人に蕁麻疹が出てしまったときに役立ててください。

参考文献
・日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会, 食物アレルギー診療ガイドライン2012, 協和企画, 2011