ぜんりつせんがん
前立腺がん
前立腺にできたがん。年齢を重ねるとともに発見されることが多くなる。高齢化が進む日本では患者数が急増している。
12人の医師がチェック 329回の改訂 最終更新: 2024.03.08

高齢の男性に多い前立腺がんとはどんな病気?症状や診断、治療について

前立腺がんは男性にしかない前立腺という臓器に発生するがんです。前立腺がんはゆっくりと進行する特徴があり、無症状で見つかることは少なくありません。また、悪性度は低いものから高いものまであります。このページでは前立腺がんの概要(症状・原因・検査・治療など)について説明します。

1. 前立腺がんとは、どんな病気?

前立腺がんは高齢男性に多くみられる病気です。前立腺は男性にしかない臓器なので、女性が前立腺がんを発病することはありません。超高齢社会に突入した日本では前立腺がんを発症する男性が増加の一途をたどっています。

前立腺がんになる人はどのくらいいるのか

前立腺がんと診断される人(罹患者)は年間で94748人でした(2019年)。部位別でがんを分けたとき、男性の第1位になります。また、前立腺がんで亡くなった人は13217人でした(2020年)。これはがんを部位別で分けたとき、男性の6位になります。

前立腺はどこにあるのか?前立腺がんと前立腺肥大症の違いについて

前立腺は男性に特有の臓器で、下の図に示した通り、膀胱の出口の部分にあり、尿道を取り囲むように存在しています。標準的な体積は20cc程度で、少し大きなくるみ程度と表現されます。

【前立腺とその周りの臓器との関係】

前立腺の役割の1つは精液の一部を作ることです。また、前立腺は細かく3つの部分に分けることができます。

  • 移行領域
  • 辺縁領域
  • 中心領域

移行領域は尿道(尿が流れ出る道)に近い部分を指します。前立腺の良性腫瘍である前立腺肥大症は移行領域の部分が大きくなる病気です。良性腫瘍は悪性腫瘍(がん)の対になる言葉です。つまり、前立腺肥大症はがんではありません。前立腺肥大症が進んで尿道周囲の前立腺が大きくなると、尿道が圧迫されて尿が出にくくなります。

一方、前立腺がんの多くは辺縁領域(前立腺の外側の部分)に発生します。前立腺肥大症とは違って、尿道とは離れた位置に発生することが多いために初期の段階では排尿状態にあまり影響を与えません。

【正常な前立腺・前立腺がん・前立腺肥大症の比較】

排尿に問題を起こしやすいのは前立腺がんではなく前立腺肥大症なので、尿の出が悪くなったからといって前立腺がんを過度に心配しなくてもよいです。

2. 前立腺がんの症状

前立腺がんはPSA(前立腺特異抗原:Prostate Specific Antigen)という血液検査項目の異常によって見つかることが多いです。無症状で見つかる人が多く、症状がきっかけになることは多くはありません。
初期には無症状なことが多いですが、かなり進行した状態では、次のような症状が現れます。

【進行した前立腺がんでみられる主な症状】

  • 血尿
  • 尿が出しにくい(排尿障害
  • 尿が出ない(尿閉

また、前立腺がんは骨転移を起こしやすいことが分かっており、骨に転移した影響で起こる腰痛などから見つかることがあります。前立腺がんの症状について詳しく知りたい人は「こちらのページ」を参考にしてください。

3. 前立腺がんの原因

前立腺がんの発病リスクを高めるものとして次のものが知られています。

【前立腺がんのリスク因子

  • 加齢
  • 遺伝

前立腺がんは年齢が高くなるにつれて見つかる人が増加します。50歳以降から前立腺がんの人が増え始め、65歳以降で急激に多くなります。一方で、20歳代や30歳代で前立腺がんが見つかることはまれです。
親兄弟が前立腺がんの人はそうでない人に比べて、がんが発生するリスクが2.4倍から5.6倍高いとされており、何らかの遺伝的要因が関与していると考えられています。今後の研究で前立腺がんと遺伝とのより詳しい関係についての研究結果が報告されるかもしれません。

その他(喫煙や飲酒、食事など)と前立腺がんの関係については「こちらのページ」でも説明しているので参考にしてください。

4. 前立腺がんの検査

前立腺がんが疑われた人や前立腺がんと診断された人には診察や検査が行われます。診察や検査の目的は「前立腺がんかどうかを調べること」と「前立腺がんのステージ・リスク分類」を決めることです。

【前立腺がんの診察や検査】

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査:PSAの測定など
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • CT検査
    • MRI検査
  • 病理検査

前立腺がんが疑われる人では、身体診察に含まれる「直腸診」と血液検査項目の一つである「PSA」が重要です。「直腸診」はお医者さんが直腸越しに前立腺を触れて、硬さや凹凸の有無などを調べます。一方、「PSA」は腫瘍マーカーとして用いられます。PSAが高い人は前立腺がんの可能性があります。直腸診やPSA検査によって前立腺がんがより疑わしい人には、病理検査や画像検査が行われて、「がんの有無」や「がんの悪性度」「がんの広がり」が調べられます。
それぞれの検査の詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。

5. 前立腺がんのステージ・リスク分類

前立腺がんと診断がつくと、診察や検査の結果を基準に当てはめて、ステージやリスク分類がわかります。治療法を選ぶ際に「ステージ」と「リスク分類」が重要になります。

前立腺がんのステージ

前立腺がんのステージはがんの広がりをもとにして、IからIVの4つに大別されます。数字が大きくなるほど進行した状態を現しています。

■ステージI

目では捉えるのが難しいほど小さながんが前立腺にできた状態のことを指します。 具体的には、前立腺肥大症の手術などによって偶然見つかった場合または、PSA値の異常をきっかけにして見つかった場合です。

■ステージII

直腸診で異常が認めるものの、がんが前立腺内にとどまっている状態を指します。また、ステージIとステージIIの状態を「限局性がん」と呼ぶことがあります。

■ステージIII

がんが前立腺を超えて飛び出している状態を指します。ただし、がんの広がりが前立腺とつながった精嚢を超えることはありません。また、ステージIIIの状態を「局所進行がん」と呼ぶことがあります。

■ステージIV

転移がある状態のことを指します。 リンパ節に転移をした場合と他の臓器(肺や肝臓)に転移した場合の両方を含み、精嚢以外の隣り合った臓器に浸潤している場合もステージIVになります。

前立腺がんのリスク分類

ステージとは別にリスク分類という方法でもがんの状態が評価されます。リスク分類は次の3点をもとにしています。

【リスク分類に用いる項目】

  • 前立腺でのがんの広がり
  • PSA値
  • グリソンスコア

前立腺がんはリスク分類により、低リスク、中間リスク、高リスクの3つに分類されます(高リスクを高リスクと、超高リスクのに分けることもある)。リスク分類は治療の効果を予測するのに役立ちます。リスク分類の詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。

6. 前立腺がんの治療

前立腺がんの治療には、次のものがあります。

【前立腺がんの主な治療法】

  • 監視療法
  • 手術
  • 放射線治療
    • 外照射
    • 組織内照射
  • 薬物療法
    • ホルモン療法
    • 抗がん剤治療
  • 緩和治療

次の図で示すように「進行度」や「リスク分類」をもとにして適した治療法を考えていきます。

【前立腺がんの治療法の選択】

前立腺がんの治療法の選択

前立腺がんの手術と放射線治療は主に完治を目的として行われ、根治治療と呼ばれます。一方で、ホルモン療法や抗がん剤治療の目的はがんを治すことではなく、がんの進行を遅らせることを目的としています。

前立腺がんの根治治療が向かない人またはできない人は次の条件に当てはまる人です。

  • すでに前立腺以外にがんが転移している人
  • 75歳以上の高齢者で前立腺がんが余命に影響しないと考えられる人
  • 前立腺がん以外にも他に病気があり、全身状態が芳しくない人 

上の条件に該当する人に対しては、根治的治療で得られるメリットが少ないため、原則として根治的治療が検討されることはほとんどありません。

7. 前立腺がんの人に知っておいて欲しいこと

前立腺がんの人に押さえておいて欲しいポイントとして、「前立腺がんの転移」と、「進行度別の余命」について説明します。

前立腺がんの転移について:骨・リンパ節・肺

転移はがん細胞が血流もしくはリンパ流に乗って前立腺を飛び出して身体の中を移動し、他の臓器などで増殖をすることによって起こります。
前立腺がんが一番転移しやすい場所は骨です。他の転移しやすい部位としてリンパ節や、肝臓、肺などがあります。転移があると聞くと末期の状態をイメージするかもしれませんが、前立腺がんにはホルモン療法がよく効くので、転移がある状態からでも長期に生存できる人がいます。
前立腺がんが転移を起こしている場合はまずホルモン療法が行われることが多いです。ホルモン療法の効果がなくなった場合は新規ホルモン薬もしくは抗がん剤による治療に変更されます。詳しくは「前立腺がんのホルモン療法とは?」で解説しています。

前立腺がんの生存率(余命)

前立腺がんの生存率は進行度別に集計されています。

【ステージごとの生存率(実測生存率:2013年-2014年診断例)】

ステージ 5年生存率
ステージI 89.6%
ステージII 91.1%
ステージIII 86.2%
ステージIV

51.2%

生存率はあくまでも統計上の話であり、もっと長い余命を得る人や逆に短い人もいます。「5年生存率が50%なら2年ぐらいの余命は確実」のように考えるものではありません。一人ひとりの余命を正確に予想するのは非常に困難です。生存率はあくまで目安だと思ってください。統計は参考程度として、日々、がんと向き合いながら正しい診断と治療を継続していくことが重要です。

参考:

がんの統計'23
前立腺がん診療ガイドライン
「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014