こうけつあつしょう
高血圧症
140/90mmHgより高い血圧が持続している状態。原因には加齢、喫煙、肥満、ホルモンの異常などがある。高血圧症があると心筋梗塞や脳出血などの危険性が増加する。
17人の医師がチェック 164回の改訂 最終更新: 2022.02.18

Beta 高血圧症のQ&A

    高血圧の診断基準を教えて下さい。

    血圧の分類は以下のようになっており、この中で「I度高血圧」以上のものが高血圧と定義されています。

    (以下、「収縮期血圧 拡張期血圧」の順で記載。単位はいずれもmmHg)

    • 至適血圧:120未満 かつ 80未満
    • 正常血圧:120-129 かつ/または 80-84
    • 正常高値血圧:130-139 かつ/または 85-89
    • I度高血圧:140-159 かつ/または 90-99
    • II度高血圧:160-179 かつ/または 100-109
    • III度高血圧:180以上 かつ/または 110以上

    参考:「高血圧治療ガイドライン2014 日本高血圧学会

    上記の基準をみると、高血圧ではない範囲についても3段階に分類されていることが分かります。

    高血圧か否かだけが大切というわけではなく、「正常」と名のつく範囲の血圧であっても、正常高値血圧より正常血圧、正常血圧より至適血圧の方が死亡率が低いことが示されているためです。

    高血圧はどんな症状で発症するのですか?

    高血圧であるというだけでは、特別な症状が出ないことが一般的です。急激な血圧上昇で一時的な動悸や頭痛、めまいなどが出ることもありますが、多くの患者で認められる症状とは言えません。

    一方で、高血圧が続くことによって他の病気を発症し、それらによる症状が起こることはあり得ます。例えば、心不全による呼吸困難や体重増加、慢性腎臓病による蛋白尿などです。

    測定するたびに血圧が違います。どれを信じたら良いのでしょうか?

    望ましいのは、自宅で日々測定している血圧の平均値です。病院や医師の前で測定すると、緊張して平常時よりも血圧が上昇する場合がある(白衣高血圧と呼ばれます)ことが知られています。また、これとは逆に病院で測定する血圧の方が正常化して低い場合(仮面高血圧)もあり、こちらは自宅で観察される高い方の血圧の値にしたがって、一般的な高血圧と同様に治療を進めるべきと考えられています。

    高血圧の治療法について教えて下さい。

    高血圧治療の基本は、生活習慣の見直しと降圧薬の内服です。

    生活習慣に関しては、以下のうち満たしていないものがあればその達成を目指します。

    1. 食塩1)の1日摂取量 < 6g
    2. 食事内容1,2):野菜、果物の積極的な摂取。コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控え、魚(魚油:EPA, DHAを含む)を積極的に摂取する
    3. 体重3):BMI < 25
    4. 運動4):有酸素運動を中心に、毎日30分以上を目標とする
    5. 飲酒:1日のエタノール量として、男性は20-30ml、女性は10-20ml以下
      (飲酒量にアルコール度数をかける。アルコール度数5%のビール350mlであれば、0.05×350 = 17.5ml)
    6. 禁煙:受動喫煙の防止も含む

    参考:「高血圧治療ガイドライン2014 日本高血圧学会

    高血圧の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    血圧とは、血管の内側にかかっている圧力のことです。ここでは、血管と血圧の関係を、ホースとその中を流れる水の圧力(水圧)になぞらえて説明します。

    血管をホースとみなしたとすると、水圧が高まれば高まるほど、ホースの先から飛び出る水は遠くまで届くことになります。水を遠くに届かせるためには、ホースの先(またはホース全体)をつぶして狭くするか、同じホースのまま流れる水の量を増やすかの2つの方法があります。つまり、水圧が上昇するためには入れ物(ホース)の容積が小さくなるか、または中身が増えるかの2通りがあるということです。

    血圧が上がるのもこれと同じで、以下の2つのメカニズムがあります。

    1. 血管が細く縮むことによる血圧上昇
    2. 血液量(血液に含まれる水分量)が増えることによる血圧上昇

    上記2つの現象が生じる原因は多岐にわたり、単一の原因で説明することはできません。その中でも主要な原因を、ここで引き続き紹介します。

    ・血管が縮む、もしくは血液量が増える原因

    • 交感神経系の異常:
      ストレスや興奮などで交感神経系が高まると、血管が縮んで血圧が上昇します。

    ・血液量(血液に含まれる水分量)が増えることによる血圧上昇

    • 塩分の摂り過ぎ:
      食事からナトリウム(塩分として含まれる)を摂り過ぎることで、血液の量が増加して、血圧が上昇します。
    • 腎臓のはたらき(腎機能)の異常:
      腎臓は不要なナトリウムを体外へ排泄する役割を担っています。例えば糖尿病や糸球体腎炎といったような腎臓病で腎機能が低下すると、体内にナトリウムが溜まってしまい、血圧が上昇します。また、高血圧そのものによっても腎機能は低下するため、腎機能低下は高血圧の原因でもあり、結果にもなります。
    • レニン-アンジオテンシン系というホルモンの異常:
      副腎と呼ばれる臓器や、脳、血管などの病気が原因で特定のホルモンの分泌量が増えてしまうことがあります。これらのホルモンは、体内のナトリウム量を増やすことで血圧を上昇させます。

    これらはあくまでも一例ですが、実際には様々な原因が、互いに関連し合って少しずつ積み重なることで、高血圧が発症します。一つの原因を改善すれば血圧が正常化する、というものではありません。

    高血圧が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    高血圧が続くと、脳卒中1)、心筋梗塞1)、慢性腎臓病2,3)などを発症する可能性が上昇します。また、高血圧ではない人に比べて死亡率も上昇します4)

    血圧が高いということは、血管の中を通る血液の圧力が高いということですから、もろい部分で血管が破れて出血する(脳出血など)可能性があります。また、高い圧力によって血管内には絶えず小さな傷がついては修復されるということが繰り返されています。血管では、修復されるたびに、内部にかさぶたのようなものができます。血管内が少しずつ狭くなって、ついには詰まって血液が流れなくなってしまう(心筋梗塞、脳梗塞など)ことがあります。

    血圧はいくつを目標とすれば良いのでしょうか?

    治療上の一般的な目標は140/90mmHg(収縮期血圧 < 140mmHg かつ 拡張期血圧 < 90mmHg、以下同様)です。ただし、糖尿病または尿蛋白のある慢性腎臓病を発症している方は130/80mmHg未満を目標とします。

    75歳以上の方の場合には急激に血圧を下げ過ぎるとめまいやふらつきなどの症状が出ることがあるため、まずは150/90mmHg未満を目標とした上で、問題がなければ次に140/90mmHg未満を目指します。

    参考:「高血圧治療ガイドライン2014 日本高血圧学会

    高血圧は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    国内の高血圧者数は、約4,300万人と推定されています。

    参考:「高血圧治療ガイドライン2014 日本高血圧学会

    高血圧を「病気」と捉えるかどうかは考え方次第ですが、高血圧を改善させる(治療する)ことによって死亡率が低下するという点については、様々な研究で強い証拠が見つかっています。高血圧に起因する死亡者数は国内で年間約10万人と推定されています。

    また、厚生労働省が策定した「健康日本21(第2次)」では、国民の収縮期血圧を10年間で4mmHg低下させることを目標としています。4mmHgの低下だけで、脳卒中による死亡者が年間約1万人、冠動脈疾患(心筋梗塞など)による死亡者が約5,000人減少すると推計されています。

    食塩の摂取量は、どの程度を目指して減らせば良いのでしょうか。

    2011年の国民健康・栄養調査結果では、国民の平均食塩摂取量は、1日あたり10.4gであったと報告されています。

    厚生労働省が策定した健康日本21(第2次)では、2022年までに国民の平均食塩摂取量を8gに減らすことを目標としていますが、その一方で高血圧治療ガイドライン2014では個人の減塩目標を(8gではなく)6gとしています。

    世界保健機関 (WHO) のガイドラインでは、成人の食塩摂取量は1日5g未満にすべきとされており、日本の現状からすると、この倍近くを摂取しているということになります。

    高血圧は、遺伝する病気ですか?

    高血圧の原因は多岐に渡り、その原因の中には遺伝するものも多いです。両親が高血圧だと子も100%高血圧になるというわけではありませんが、親子間の高血圧の発症率には相関関係が認められています。

    高血圧の治療薬の使い分けについて教えて下さい。

    高血圧の治療薬(降圧薬)には様々な種類のものがありますが、その中でもカルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬(場合によってはβ遮断薬も)と呼ばれる種類が基本的なものとして用いられます。この中でどれを用いるかは、個々の患者さんの状況によって異なります。

    糖尿病やメタボリックシンドロームのある方ではARBもしくはACE阻害薬、骨粗しょう症のある方では利尿薬、狭心症のある方ではカルシウム拮抗薬やβ遮断薬など、積極的に勧められる降圧薬に差があります。病気だけでなく併用している薬との飲み合わせや、患者さんの置かれている状況によって、薬自体の飲みやすさや薬価なども含めて総合的に相談、検討した上で、どの治療薬を使用するのが良いかを判断します。

    血圧は1日の中でどのくらい上下するものですか?

    血圧は、間を置かずにすぐ測定しても10~20mmHg程度変動するものです。1日の中で50mmHgほど変動する人もいます。1日内での変化があり過ぎるのも問題ではありますが、日中の血圧の変動よりも重要なのは日々の平均的な血圧です。

    これは血圧に限ったことではありませんが、人は毎日血圧や体重、体温など様々な数値を測る中で、平均的な数値だけを自身の値(ここでは血圧)と捉えてしまいがちです。それと比べて「今日は高い、今日は低い」と心配するのは、少し本質からずれてしまっているかもしれません。平均的な血圧と、少し高い血圧、少し低い血圧があり、これらを全て含めたものが自身の日常的な血圧と考えることができます。

    ある程度の上下は気にしすぎる必要はありません。逆に血圧の平均値が全体的に上がってきた場合には、むしろそちらの方としっかり向き合い、塩分を控えたり、体重が増加してきているようであれば減量を試みることなどが重要です。

    一方で、医師の指示の下で24時間の血圧を測定し続けるという検査を行うことがあります。24時間の血圧の値を見て、「変動が大きい」、「朝方に血圧が上がる」、「夜の血圧が低下しない」といった理由で、例えば血圧の薬をより適切なものに調整できることもあります。心配になるというマイナスの意味ではなく、より自分に適した治療を受けるという観点から、血圧の上下を把握することにはプラスの面もあると言えます。

    上の血圧(収縮期血圧)と下の血圧(拡張期血圧)は、どっちが大切なのですか?

    どちらも高過ぎると健康状態に悪影響を及ぼすことが分かっています。このことを前提とした上で、ということになりますが、心筋梗塞や脳卒中などとより強い相関関係にあるのは収縮期血圧です。

    参考:「高血圧治療ガイドライン2014 日本高血圧学会

    血圧がいくつ以上の場合に、薬を飲むべきなのですか?

    血圧の薬を飲むべきかどうかということは、数値だけで決めることができません。120/80mmHgであっても内服した方が良い場合があれば、それ以上でも必ずしも内服が適切でない場合もあります。

    また薬を飲むべきか否かの医学的判断については、年齢、喫煙歴、その他の病気の有無(心筋梗塞、慢性腎臓病、糖尿病など)によって細分化された状況ごとで異なってきます。また、あらゆる薬について言えることですが、医学的に妥当かどうかだけで薬の内服は決められません(個人的な価値観や、経済的な事情などが影響する場合もあります)。

    その中で、高血圧を治療する(薬を内服する)ことで、心筋梗塞など様々な病気にかかるリスクを減らすことができるというしっかりとした過去の研究結果(エビデンス)があります。また高血圧の薬には、血圧を下げることだけでなく、腎臓や心臓の機能低下を防ぐことなど、様々な他の効果が期待できる場合があります。つまり、血圧が高くなくても高血圧の薬(降圧薬)を内服するような場合があるということです。

    最後になりますが、一時的に血圧が上昇したからといって、普段の薬の量を自己判断で増量して内服することは、危険ですので控えた方が良いと考えられます。

    若くても高血圧の治療はした方が良いのですか?

    年齢にかかわらず、高血圧は治療すべきです。そして、若い人の高血圧には何かしら別の病気が隠れていることがありますので、必要あればそちらの検査を行うことも重要です。

    相談のために受診されるのであれば、(一般)内科、もしくは循環器内科が適切です。

    高血圧の場合に行う検査には何がありますか?

    高血圧の検査の目的は2つあります。

    1. 高血圧の影響で動脈硬化が進んでいないか、その他の病気を起こしていないかを調べる
      • 頭部MRI、心エコー、心電図、血液検査、尿検査、頸動脈ドプラなどを行うことがあります
    2. 高血圧が、何か隠れた別の病気によって引き起こされている可能性を調べる
      • 腹部エコー、睡眠時無呼吸の検査(アプノモニターなど)、血液検査(各種ホルモンの濃度)を行ったりします。

    高血圧の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    基本的には、血圧が下がらない限り内服を続けます。しかし高血圧の原因には体質(病気や遺伝を含む)と生活習慣の両方の因子があるため、生活習慣の改善のみで血圧が改善することもあり得ます。そのような場合には、内服薬を飲み続ける必要はありません。

    また、甲状腺機能亢進症や腎動脈狭窄症など特定の病気が背景にある高血圧の場合、元となっている病気の治療を行うことで血圧が正常化することがあります。