しきゅうないまくしょう(ちょこれーとのうほうをふくむ)
子宮内膜症(チョコレート嚢胞を含む)
子宮内膜が子宮以外の場所にできる病気。月経のたびに強くなる腹痛、性交時・排便時の痛みなどを起こす。
13人の医師がチェック 189回の改訂 最終更新: 2022.04.15

Beta 子宮内膜症(チョコレート嚢胞を含む)のQ&A

    チョコレート嚢胞について教えてください

    卵巣に発生した内膜症性の病変は月経のたびに少しずつ大きくなっていきます。それは卵巣で月経と同様のことがおこったあと、卵巣には血液の出口がないため、少しずつ血液が溜まっていくことが原因です。例えるなら、卵巣の中にある水風船が少しずつ膨らんでいくイメージです。風船の中に溜まった血液は古くなりチョコレート色になります。故にチョコレート嚢胞とよばれています。実際の手術でもどろっと溶けたチョコレートのような内容液が卵巣から出てきます。チョコレート嚢胞では月経困難症や不妊などの症状が現れます。

    また、チョコレート嚢胞は破裂したり感染したりすることにより、急激な腹痛や発熱を引き起こすことがあります。

    治療は子宮内膜症と同様のことが行われますが、ある程度の大きさになると年齢と共に、チョコレート嚢胞ががん化(正常の細胞からがん細胞が発生すること)しやすくなるため、手術によって切除することが勧められます。

    チョコレート嚢胞と間違えやすい病気はありますか?

    チョコレート嚢胞と間違われやすい病気に卵巣がんを含む卵巣腫瘍や出血性黄体嚢胞があります。

    卵巣がんについては、以下の場合にチョコレート嚢胞と合併しやすくなると言われているので注意が必要です。

    • 卵巣にできた嚢胞の直径が10cm以上になる
    • 年齢が40歳以上になる

    チョコレート嚢胞は良性の多くの場合、(先ほどの例えで)風船の壁は均一です。しかし、その風船の一部が分厚くなっていたり隆起したりすると、がんを合併している可能性が高くなります。超音波検査で異常がないかを検査し、疑わしい場合あさらにMRI検査を行います。他、血液検査で腫瘍マーカーが上昇していないかなどを確認することもあります。

    子宮内膜症の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    子宮内膜症は子宮内膜組織が子宮内腔以外の部分に生着し、炎症を起こす病気です。原因は完全には解明されておらず、月経時に経血が卵管から逆流することで内膜組織が腹腔内に入り生着すること、免疫機構による腹腔内に侵入した内膜組織の排除が行われない場合があることなどが原因として提唱されています。 生着した子宮内膜組織はその場で炎症を引き起こし、月経周期に合わせて出血を繰り返します。症状は、生着した場所により様々です。

    子宮内膜症は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    軽症なものを含めれば、生殖可能年齢女性の約10%が罹患していると言われています。

    子宮内膜症はどんな症状を起こしますか?

    症状は腹痛が最も多く、特に月経時(内膜症患者全体の90%)や排便時(62%)、性交時(46%)に痛みを強く感じます。月経痛を強く伴うことから、月経困難症として認識されていることも多くあります。また、不妊をきっかけに見つかることも多く、子宮内膜症患者全体の38%が自覚症状として不妊を訴えると報告されています。また子宮内膜症が骨盤内以外の臓器に起こると、それぞれの臓器特異的な症状を生じます。例えば消化器ならば便秘や血便、肺ならば気胸や血痰、尿路系ならば血尿や排尿時痛などを起こす可能性があります。

    子宮内膜症は良性の病変ですか?

    子宮内膜症自体は良性の病変ですが、慢性的に炎症を引き起こすことで生着した組織をがん化させる可能性があります。特にチョコレート嚢胞と呼ばれる、卵巣にできる子宮内膜症性嚢胞からは卵巣癌が発生することが知られています。特に①40歳以上、②大きさが10cm以上、③内部に充実成分を認める場合、④充実成分に血流を超音波で認める場合は悪性の可能性が高いと言われています。

    子宮内膜症は、どのように診断するのですか?

    最終的な診断は直接お腹の中を覗く腹腔鏡や体内組織を生検する病理組織診断で行いますが、内診や超音波、MRIなどで高率に診断がつくようになってきています。子宮内膜症では子宮と周囲組織の癒着する、卵巣に子宮内膜症性嚢胞ができるため、内診では子宮の可動性不良、ダグラス窩(子宮と直腸の間)の硬結や圧痛などの症状を認めます。経膣超音波では子宮の後屈や卵巣のチョコレート嚢胞を認めますが、他の卵巣腫瘍と区別がつきにくいこともあります。MRIでも経膣超音波と同様の所見を認めますが、こちらの方が超音波よりもよりチョコレート嚢胞と他の卵巣腫瘍の区別がつきやすく、周囲臓器との関係性もわかりやすいという特徴があります。血液検査ではCA125という腫瘍マーカーの上昇を認めることが多いですが、CA125は他の卵巣腫瘍や病気でも上昇することがあるためこの値だけで子宮内膜症の有無を判断することはできません。

    子宮内膜症の治療法について教えて下さい。

    子宮内膜症の治療法には経過観察、薬物療法、手術療法があり、それぞれの症状の強さに応じて適切な治療法を行います。疼痛だけであれば、まずはロキソニンなどの痛み止めや、当帰芍薬散などの漢方薬の内服を行います。痛み止めだけでは効果不十分な場合、子宮内膜症自体への治療が必要な場合は低用量の経口避妊薬や黄体ホルモン製剤の一つであるジェノゲストなどの投与を行います。薬物療法が無効な場合や不妊症を伴う場合は手術による子宮内膜症性病変の除去や、癒着剥離を行います。手術後、挙児希望のある場合は早期の妊娠成立を目指して不妊治療が行われることが多いです。挙児希望がない場合は上記低用量経口避妊薬やジェノゲストと知ったお薬の投与を行います。チョコレート嚢胞の治療は、年齢や嚢胞の大きさ、挙児希望の有無を考慮して方針を決定します。破裂や悪性化のリスクがある場合は手術療法が選択されます。

    子宮内膜症の手術について教えて下さい。

    方式としては腹腔鏡手術と開腹手術が、また手術内容としては付属器(卵巣と卵管)切除術、卵巣嚢腫核出術、子宮内膜症病巣除去術、癒着剥離術などがあります。多くの場合では腹腔鏡手術が選択されますが、悪性の可能性が高い場合、癒着が激しい場合などは開腹手術が選択されることがあります。チョコレート嚢胞に対する付属器切除術、嚢腫核出術の選択は卵巣機能温存の必要性や、嚢腫の大きさ、癒着の程度によってなされます。

    子宮内膜症では入院が必要ですか?術後に再発することはありますか?

    子宮内膜症だけであれば外来で管理可能ですが、重度の子宮内膜症やチョコレート嚢胞に対する手術が必要な場合は入院が必要になります。手術後退院までの期間は病院や手術の内容によって異なりますが、チョコレート嚢胞の手術のみであれば術後3−4日程度での退院が一般的です。子宮内膜症は慢性・進行性の炎症性疾患であり、完全に治ることはなく、再発を起こすことは十分考えられます。そのため術後、症状の緩和や再発予防のために薬物療法を継続して行うのが一般的です。

    子宮内膜症と不妊症の関係について教えてください。

    不妊全体の5-15%が子宮内膜症によるものだと言われており、健常なカップルが1回の成功で妊娠する確率は15-20%と想定されていますが、子宮内膜症のカップルでは2-10%と低くなるという報告もあります。また、子宮内膜症患者全体の38%が不妊を訴えるとの報告もあります。子宮内膜症による不妊の原因は癒着による子宮や卵巣・卵管の偏位、閉塞、炎症による卵子・受精卵・卵管機能への悪影響など様々な要因が考えられています。

    子宮内膜症による不妊に対する治療法を教えてください。

    子宮内膜症による不妊に対する治療には一般的な不妊治療や、手術療法を行います。薬物療法は疼痛に対しては有効ですが、妊孕性を改善する効果はありません。手術療法について、R-ASRM分類という子宮内膜症の重症度分類で軽症〜中等症までの症例では、内膜症性病変の除去や癒着剥離が妊孕性向上につながったという報告が多く、多くの研究をまとめた論文では約8%程度の妊娠率向上を認めています。一方重症子宮内膜症に対する癒着剥離術の有効性についてはまだ多くの報告がありませんが、妊娠率改善につながったとの報告もあります。4cm以上のチョコレート嚢胞がある場合は嚢腫核出を行った群で、行わなかった群と比較して有意に妊娠率の改善を認めるとされますが、手術による卵巣機能低下を起こす可能性もあり、年齢や他の要素を考え手術療法より先に不妊治療を行った方が良い場合もあります。前述の通り子宮内膜症は慢性・進行性の炎症性疾患であるため、手術加療からあまり長く時間が経つと再発し手術による妊娠率向上の効果は低下していきます。そのため他の不妊の原因となるような要素の検索や治療を行ってから手術加療に臨む場合もあります。

    妊娠中の子宮内膜症の影響について教えてください。

    妊娠中子宮内膜症病巣は縮小し、症状は軽くなる方が多いです。子宮内膜症患者の妊娠では、早産や妊娠高血圧症候群、胎盤位置異常、帝王切開率が上昇するといった報告もありますが、治療に伴う上記産科合併症の予防効果は認められておらず、また妊娠中に子宮内膜症の治療を追加で行うことは一般的ではありません。