せっぱくそうざん
切迫早産
早産になる危険性が高い状態のこと
6人の医師がチェック 111回の改訂 最終更新: 2022.01.28

切迫早産の治療は?手術・薬の効果は?

切迫早産の治療には子宮収縮抑制剤のほか、感染がある場合には抗菌薬頸管無力症に対する子宮頸管縫縮術などがあります。早産のリスクが高い場合の治療として、胎児の肺を成熟させるためのステロイド薬もあります。

1. お腹の張りを抑えるための治療:子宮収縮抑制薬

日本で切迫早産に保険適用のある子宮収縮抑制薬は塩酸リトドリン(ウテメリン®錠、ウテメリン®注)と硫酸マグネシウム(マグセント®注)の2つです。子宮収縮の自覚症状や子宮頸管長の経過に合わせて2つの薬の併用や投与量の調整を行います。

塩酸リトドリン(ウテメリン®錠、ウテメリン®注)

妊娠16週以降の妊婦に対して使用されます。切迫早産の症状によって、経口投与(飲み薬)か点滴による24時間の持続点滴の2つの方法があります。飲み薬は、外来で処方をされ自宅での内服が可能ですが、点滴の場合には24時間の持続投与になるため入院して管理が必要になります。

経口投与の場合には、1日15mgから20mg(3から4錠)を朝昼晩の食後、就寝前などに分けて投与されます。点滴による持続投与の場合には入院して管理が必要になり、1分間に50μgから投与し始めます(μgはマイクログラムと読みます。1,000μg=1mgです)。症状に合わせて最大200μg/分まで投与量を増やすことでお腹の張りを抑える効果があります。塩酸リトドリンは交感神経を刺激することによって副交感神経を抑制する薬なので、副作用として動悸や手先の震え、顔が赤くなる、気持ちが悪くなるなどの症状があらわれることがあります。しかしこれらの副作用は2から3日で軽快することが多く、軽度の副作用が出ても経過を見ることがほとんどです。体に影響の大きい副作用としては、肺水腫顆粒球減少症横紋筋融解症などがあげられます。それらの副作用が出ていないかどうかを症状や血液検査などで確認しながら塩酸リトドリンの投与をしていきます。

硫酸マグネシウム(マグセント®注)

硫酸マグネシウムは、妊娠22週以降の妊婦で塩酸リトドリンの持続投与が無効な場合に併用、もしくは塩酸リトドリンが副作用などによって使用できない場合に単剤で使用します。初回量として10%硫酸マグネシウム40ml(4g)を20分から30分かけて投与し血中濃度を治療域(4mg/dlから7.5mg/dl)に上げ、その後10mlから20ml/時間の速度で点滴して24時間持続的に投与をすることで子宮の収縮を抑制します。現れやすい副作用としては、倦怠感、熱感、紅潮、動悸などがあげられますが、症状は数日で軽快することも多いです。重大な副作用として高マグネシウム血症(眼瞼下垂、筋緊張の低下、心機能の抑制、呼吸麻痺など)があります。高マグネシウム血症の対策として、定期的な採血により血中のマグネシウム濃度を測り、治療域に保つようにします。体内のマグネシウムは尿として腎臓から排出されるため、十分に尿量が保たれていることも確認します。また一度に大量のマグネシウムが体内に入ることを予防するために、硫酸マグネシウム投与の際には持続注入ポンプを使用します。

2. 早産を予防するための手術:子宮頸管縫縮術

子宮頸管無力症と診断された場合には、切迫早産の予防として子宮の頸部を糸で縫うことで物理的に子宮口の開大や子宮頸管の短縮を防ぐ子宮頸管縫縮術が有効な場合があります。

子宮頸管無力症とは?

子宮頸管無力症とは、妊娠16週以降に出血や子宮収縮などの切迫早産の自覚症状がないにもかかわらず子宮口の開大、子宮頸管の短縮などの出産前の変化(子宮頸管の熟化)が現れる状態をいいます。過去に流産や早産になったことがあるがその原因がはっきりしていない場合や、妊娠中に胎児異常や感染などを疑わせる様子がないのにもかかわらず子宮頸管の熟化が進行する場合がその例です。

子宮頸管縫縮術はいつ行う?

子宮頸管縫縮術をいつ行うとよいかは明確にわかっておらず、病院によっても違います。過去の妊娠歴から頸管無力症と診断されていて予防的に子宮頸管縫縮術を行う場合には、妊娠12週以降でなるべく早い時期に行うことが勧められています。

しかし、切迫早産の大半の原因である感染の兆候がある場合(妊婦の発熱、血液検査上の白血球数やCRPの上昇など)には、手術を行うことで感染を悪化させてしまう可能性があるため、原則として感染の治療を優先することが勧められています。

3. 胎児の肺を成熟させる薬:ステロイド薬

胎児の肺機能は妊娠34週頃に完成します。そのため、それ以前に早産となった赤ちゃんは肺の発達が未熟であるために呼吸が上手くできない状態である新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を引き起こしやすいとされています。

早産の可能性のある妊婦への副腎皮質ステロイド製剤(ステロイド薬)の投与は、胎児の肺で作られる物質の産生を促進させ、RDSを減少させることが明らかになっています。そこで早産の可能性が高いと判断された場合には副腎皮質ステロイド製剤を使うことがあります。

具体的には妊娠22週以降34週未満の妊婦が1週間以内に早産になると予想される場合にステロイド薬を使用することが推奨されています。日本ではステロイド薬としてベタメタゾン(リンデロン®)が保険適用とされています。この用途ではベタメタゾンは12mgを24時間ごとに2回筋肉注射します。

ステロイド薬はその他にも胎児の脳室内出血や壊死性腸炎、動脈管開存症といった疾患を減少させることも分かっています。またRDSの発症を抑制する目的でステロイド薬を使用した場合の出産の最適期間は投与開始から24時間以上7日以内の際に効果が最大とされています。投与開始から7日経過した際にステロイド薬を繰り返し使用することに関しては安全性が確立していないため、治療の経過や出産の時期を予測しながら投与を検討していきます。

ステロイド薬の副作用は?

ステロイド薬は副作用にも注意が必要な薬剤です。「ステロイド内服薬の副作用とは」にも説明があります。

注意が必要な副作用として血圧上昇や高血糖などがあります。妊娠糖尿病もしくは糖尿病合併している妊婦がステロイド薬を使用する場合には、ステロイド薬の投与後2日間から3日間は高血糖となる場合があるためインスリンによって血糖値を下げる必要がある場合があります。

4. 切迫早産で抗菌薬を使うことはある?

血液検査などで感染の兆候がある場合には抗菌薬(抗生物質、抗生剤)による治療が検討される場合があります。

たとえば破水を伴う切迫早産の場合には子宮内が卵膜によって守り切れなくなってしまうため、子宮内感染リスクが高くなります。そのため、抗菌薬を投与して子宮内への感染を予防するという考え方があります。

感染を疑う場合には、母体発熱(38℃以上)や母体の頻脈(100回/分)、下腹部痛、膣分泌物や羊水の悪臭・混濁、血液検査での白血球数の増加などから絨毛膜羊膜炎が起こっているかどうかを検討します。また胎児心拍数や経腹超音波検査で定期的に胎児の元気さを確認しながら、母体と胎児の状態に応じて治療を行います。

抗菌薬を使う場合には、原因となっている細菌などを特定する狙いで膣分泌物の培養検査を行いますが、結果が出るには時間がかかるため、培養検査の結果を待たずに有効である可能性が大きい抗菌薬を使って治療を開始します。

ただし、絨毛膜羊膜炎に対しては帝王切開などで分娩することが選択される場合もあります。また、状況によっては抗菌薬を使っても早産防止にはならないとする研究報告もあり、切迫早産でいつでも抗菌薬が使われるわけではありません。

参考文献
・Antimicrobials for Preterm Birth Prevention: An Overview.
・Infect Dis Obstet Gynecol. 2012; 2012: 157159.

5. 切迫早産で入院するのはどんな時?

切迫早産で入院加療が必要かどうかは、その病院の治療方針によっても異なります。しかし、子宮頸管長の短縮が進行している場合や子宮口の開大が認められる場合、破水を伴う切迫早産の場合には入院管理が必要になります。入院管理を行う目安として以下のような早産指数というものがあります。

 
子宮収縮 なし 不規則 規則的    
破水 なし   高位破水   低位破水
出血 なし 点状の出血 出血    
子宮口開大 なし 1cm 2cm 3cm 4cm以上

高位破水とは子宮の上方(子宮口から遠い位置)の卵膜が破れ破水した状態を刺します。低位破水に比べると羊水の流出が少量であり子宮内の羊水量が保たれやすいことが特徴です。一方、低位破水とは、子宮の下方(子宮口付近)の卵膜が破れることをいい、羊水の流出が多くなりやすく子宮内の羊水量が保たれにくい状態になります。

内診や検査を行って子宮収縮、破水、出血、子宮口の開大といった症状がないかを医師が判断し、当てはまる症状の程度別に分けられた点数を足すことで早産指数とします。一般的に早産指数が2点以下は外来管理、3点以上は入院での管理が必要とされています。しかし妊娠週数が早い場合、感染の兆候がすでにある場合、以前に早産のリスクとなるような病気を指摘されている場合などは、点数によらず入院管理が必要と判断される場合もあります。そのため、このスコアが入院が必要な条件になるわけではありません。

6. 分娩を選ぶのはどんな時?

その人の妊娠週数や病院の体制などによって差はありますが、一般的に以下のような場合には、切迫早産の治療は中断し帝王切開や経腟分娩を検討する場合があります。

  • 子宮収縮の抑制が困難であり陣痛発来している場合
  • 症状から絨毛膜羊膜炎と診断された場合
  • 妊娠34週0日以降に破水を伴う場合
  • 胎児機能不全が疑われる場合

それぞれについて説明します。

子宮収縮の抑制が困難であり陣痛発来している場合

子宮収縮抑制剤を投与、増量しているのにもかかわらず、子宮の収縮が増強し子宮口の開大や子宮頸管長の短縮などの分娩進行がみられる場合には治療は中断し早産に至る場合があります。

症状から絨毛膜羊膜炎と診断された場合

妊娠中は以下のような臨床症状から絨毛膜羊膜炎の診断を行います。

  • 母体に38℃以上の発熱が認められ、かつ以下の4項目中1項目以上認める場合
    • 母体の頻脈(脈拍数が100回/分以上)
    • 子宮の圧痛(押すと痛い)
    • 膣分泌物や羊水の悪臭
    • 採血データ上の母体白血球数の増加(≧15,000/μl以上)

妊娠26週以降に絨毛膜羊膜炎と診断された場合には、赤ちゃんが元気かどうかを慎重に観察しながら一般的に24時間以内の分娩が考慮されます。妊娠26週未満の場合には、赤ちゃんの推定体重や施設の早産児の対応能力によって分娩の時期が個別に考慮されます。

妊娠34週0日以降に破水を伴う場合

妊娠34週0日まで赤ちゃんが成長すると肺も成熟しており基本的には産まれてからの状態も良いことが予想できます。破水をすると、子宮内と外の交通ができてしまうため、子宮内の細菌感染のリスクが高くなります。また、羊水の量が急激に減ることによって子宮壁が臍帯などを圧迫し赤ちゃんの元気さに影響を及ぼす場合があります。そのため、病院の施設の状況などにもよりますが、妊娠34週0日以降に破水をしている場合には子宮収縮抑制剤などの投与はせずに、分娩を考慮する場合があります。妊娠34週0日以前の破水の場合には、原則として感染の兆候や赤ちゃんの元気さなどを慎重に確認しながら治療をし、妊娠の継続を目指します。

胎児機能不全が疑われる場合

胎児心拍モニタリングや経腹超音波検査によって赤ちゃんが元気ではないと判断された場合を胎児機能不全といいます。胎児機能不全と診断された場合、胎児の救命をする目的で緊急で帝王切開などの分娩を検討する場合があります。