歯周病(歯周炎・歯肉炎)の人が知っておきたい注意点
歯周病は生活習慣と深く関わる病気です。歯周病の人が気をつけるべき生活上の注意点や、歯周病になるとかかりやすくなる病気などについてみていきます。また、歯周病はうつるのかなどの疑問や歯周病を予防するための方法についても説明します。
目次
1. 歯周病の人が気をつけるべき生活習慣
歯周病になった人には、歯垢ができやすい食生活を見直したり禁煙したりすることをお勧めします。下記で詳しく説明します。
食生活の見直し
歯垢が付きにくい食生活が望ましいです。例えばクッキーなどの歯にくっつきやすい食べ物や柔らかい食べ物は歯垢を作りやすいと言われているため、さける方がいいかもしれません。また糖分の多い食べ物も歯垢を作る
食後にはすぐ歯磨きをするのが理想的ですが、不十分な歯磨きを1日3回行うよりは、夜寝る前にしっかりと行き届いた歯磨きをした方が効果的です。寝ている間は唾液の分泌が少なくなるため口の自浄効果が低下し細菌が増えます。寝る前の歯磨きは必ず行うようにしてください。
禁煙
喫煙は歯周病を悪化させる大きな要因です。喫煙は歯周組織の細菌に対する抵抗力と傷がついた時の修復力を低下させるだけではなく、バイオフィルムを強くして治りにくくさせます。(詳しくは「生活習慣に関わる要因:喫煙、ストレス、食生活など」を参考)。いくら治療を行なっても、喫煙をしていると治療の効果が現れにくいことがあります。禁煙すると歯肉の血流が回復しやすくなるため、歯肉の
禁煙はいつはじめても遅いことはありません。禁煙して1年で歯を失うリスクが低下しはじめ、10年以上の禁煙で喫非喫煙者と同じレベルに達すると言われています。
2. 歯周病が影響する生活習慣病・全身の病気など
心血管の病気:心筋梗塞・狭心症
心筋梗塞や狭心症は
誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)
誤嚥とは食べ物などが本来は入らない気管に入ってしまうことで、主に喉の機能が低下した高齢者で起こります。誤嚥によって起こる肺炎を誤嚥性肺炎と呼びます。歯周病は口の中の細菌が多い状態です。口の中の細菌が多いと、誤嚥が起きた時に食べ物とともに細菌が気管に入リやすく肺炎の原因となります。そのため誤嚥性肺炎の予防には歯周病の治療が重要です。
早産・低出生体重児
妊婦が中等度以上に進行した歯周炎の場合には、
糖尿病
糖尿病があると歯周病になりやすくなるとともに、逆に歯周病があると糖尿病が悪化することが知られています。糖尿病の人は
関節リウマチ
関節リウマチは自分の身体を攻撃する物質ができることで関節が腫れたり、痛んだり、壊されたりする病気です。歯周病があると関節リウマチが悪化するとともに、逆に関節リウマチがあると歯周病が悪化するとも言われています。歯周病で作られる炎症に関わる物質によって、関節リウマチが悪化すると考えられています。また、関節リウマチで手の関節変形が進行すると十分な歯磨きができずに
その他
歯周病を起こす細菌による菌血症や、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪性肝炎などの病気との関連も報告されていますが、詳しいことはわかっていません。
歯周病をの治療や予防は、上記の病気にかかるリスクを下げることにもつながります。適切な歯磨きや定期的な歯科でのケアが重要です。
3. 妊娠と歯周病との関連
妊娠中はう歯(むし歯)や歯肉炎などを起こしやすい状況です。妊娠中はつわりなどで歯磨きが不十分になりやすかったり、
歯肉に炎症が起こると、炎症を起こす
4. 歯周病は治るのか
歯周病は治すこともできます。
- 治癒
歯周ポケットの深さが4mm未満で、周囲に炎症がない状態 - 病状安定
歯周ポケットの深さが4mm以上で、根分岐部病変 などがあるが炎症を認めず、病状が安定している状態
根分岐部病変とは、奥歯の根元の枝分かれ部分に歯周炎が起こっている状態です。
治癒の状態になった人は半年に1回程度歯科でのメンテナンスを続けるように言われます。病状安定の人は、もう少し短い間隔で受診し歯肉の観察が行われます。歯ぎしりなどの癖や糖尿病などの病気がある人は悪化する可能性があるため、病状安定という状態になっても定期的な通院が勧められます。
5. 歯周病はうつるのか
保護者の口にいる菌が子どもの口の中にうつることはあります。しかし、うつったからといって全員が歯周病を
6. 歯周病の予防・対策はできるのか
歯周病の予防には毎日の歯磨きが最も重要です。予防になるだけでなく、歯周病を発症した後の治療にもなります。
- 半年に1回は歯科でチェックをしてもらう
- 食後は丁寧にブラッシングを行う
- 1日に1回はデンタルフロスを使って磨く
- 歯間に隙間ができたら歯間ブラシも併用する
少なくとも1日1回は歯垢(プラーク)をしっかり落とすことが重要です。歯周病を起こす細菌は酸素が嫌いな細菌であるため、歯周ポケットからプラークを掻き出して酸素に触れるように歯磨きをします。はじめは歯茎から出血したりしますが、プラークをかき出すような歯磨きを続けると、炎症がおさまり次第に出血しにくくなります。
歯周病予防のための歯ブラシの選び方
歯周病の予防を行う場合と治療を行う場合では、適した歯ブラシの形が少し異なります。歯周病予防のためには、まんべんなく歯が磨ける表面が一直線にカットされた通常の歯ブラシがおすすめです。歯周病の治療用の場合には毛先が歯周ポケットに届きやすいものが適しているため、山型にカットされた柔らかい毛のものを選びます。
◎予防用の歯ブラシの選び方
- 奥歯まで届くヘッドが小さめのもの
- 毛は「硬め」は避ける
◎治療用の歯ブラシの選び方
- 奥歯まで届くヘッドが小さめのもの
- 毛は柔らかいもの
- 毛先が細くなったタイプ
上記のような点を参考にして自分にあった歯ブラシを選んでみてください。しかし、歯ブラシの形などより、きちんとした歯磨き方法が重要です。治療用にお勧めの柔らかいく毛先の細い歯ブラシは、力を入れすぎると毛が倒れて歯垢をこそぎ落としにくくなります。歯の表面に毛先をきちんと当てて、1-2本ずつやさしく小刻みに磨くことが大切です。
歯周病予防の歯磨き方法:磨きにくい奥歯のお手入れ方法など
歯周病予防の時と歯周病の治療の時では歯磨きの方法も異なります。予防目的であれば歯茎を痛めにくい方法で歯磨きを行います。歯周病の人は歯茎ケアのために歯茎も磨く方法を行います。健康な人が歯茎も磨くと歯茎の根元が露出することがあるので注意してください。
歯周病の人の歯磨き方法については、「歯磨き(ブラッシング)などのセルフケア」を参考にしてください。
歯周病の人と健康な人での歯磨き方法の異なる点は歯ブラシを歯に当てる角度の違いです。歯周病治療の場合には歯肉(歯茎)に45度に当てて磨きます。健康な人ではこの当て方では歯肉を痛める可能性があるため、直角に当てて磨いてください。
7. 歯周病に効果のある食べ物はあるか
歯周病予防になるとはっきり効果のある食べ物はありません。同じように歯周病の治療に効果的なと考えられている食べ物もありません。しかし、歯垢がたまりやすくなる食べ物を避けることで、歯周病の予防や治療に役立つ可能性があります。具体的にはクッキーやチョコレートなどの糖分が多く歯に付きやすい食べ物は、歯垢を作りやすいとされているため避けると良いかもしれません。
【参考文献】
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・T. Dietrich, et al. Tobacco use and incidence of tooth loss among US male health professionals. J Dent Res. 2007 Apr; 86(4): 373–377.
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・Moneet Walia and Navdeep Saini. Relationship between periodontal diseases and preterm birth: Recent epidemiological and biological data. Int J Appl Basic Med Res. 2015 Jan-Apr; 5(1): 2–6.
・「歯周治療の指針2015」(日本歯周病学会)