足底筋膜炎の治療:安静、ストレッチ、インソール、テーピングなど
足底筋膜炎の治療は原因となった日常生活や運動習慣の改善が中心になります。痛みが強い場合には一時的に鎮痛薬を使うこともあります。ストレッチなども自分で行うことができて効果的な治療です。8割の人はここまでの治療で改善しますが、症状が持続する場合には手術も検討されます。
目次
1. 足底筋膜炎を考えた時にかかる病院・医療機関:整形外科
歩行時や運動時に足が痛むことが増えた場合には、まずは整形外科にかかってください。足の痛みは足底筋膜炎以外の病気が原因の可能性もあります。診察や検査を受けて、原因が何かを調べてもらってください。
足底筋膜炎と診断された場合、治療は生活の見直しや、マッサージやストレッチなどのセルフケアが中心になります。痛みが強い時は、一時的に痛み止めを使用することもあります。また、整形外科で一人ひとりにあったインソールや装具をつくることもあります。これらの治療で改善が見られない場合には手術が検討されることもあります。
足のマッサージやストレッチを受けるために整体院などにかかりたいと思うこともあるかもしれません。受診しても構いませんが整体院のみでストレッチをするより、家でも継続してストレッチを行うことが重要です。
2. 足底筋膜炎の治し方
足底筋膜炎に対する治療では運動習慣や靴などを含めた日常生活の見直しや、ストレッチやマッサージなどの自分で行うケアが中心となります。それでも改善しない場合には痛みのある部分に薬を注射したり、手術したりすることを検討します。足底筋膜炎の治療方法は次の通りです。
- 日常生活や運動方法の見直し
- 安静
- 体重コントロール
- アイシング
- 靴の見直し
- 運動方法の見直し
- 薬物治療
- 装具療法
- インソール(中敷き)
- サポーター
- Night Splints(就寝中の装具)
- テーピング
理学療法 - マッサージ
- ストレッチ
- 運動
- 局所注射療法(局所注入療法)
- 体外衝撃波治療
- 手術療法
- 足底筋膜切離術
- 腓腹筋退縮術
足底筋膜炎の治療でもっとも重要なことは日常生活や運動方法の見直しです。その他にもストレッチやマッサージをしたり、インソール(中敷き)などを用いたり、運動時にはテーピングを用いたりなどの
このような保存的な治療を行うことで8-9割の人は症状が改善します。しかし改善までの治療期間が数ヶ月から1年以上かかることがありますので、根気よく治療を継続する必要があります。半年以上の保存的な治療で症状の改善がない場合には、手術などが選択肢として考えられます。
次に生活の見直し方法から、整形外科などで行われる治療について、具体的に説明します。
3. 日常生活や運動方法の見直し
まずは日常生活の中で、痛みの原因となったものがないか見直します。足底筋膜炎は中高年やスポーツ愛好者に多く起こります。
運動習慣のない中高年者が足底筋膜炎になった場合には、長時間の立ち仕事や歩行がなかったかを見直したり、体重や靴が適切か見直したりすることが重要です。
スポーツが要因と考えられる場合には靴やインソールを変えてみたりすることが有効です。
日常生活や運動方法の見直しでは次のようなことを行います。
- 足の安静
- 体重コントロール
- アイシング
- 靴の見直し
一つひとつ詳しく説明します。
足の安静
足の安静は重要な治療方法です。足底筋膜炎は足底筋膜に負担がかかることで起こります。足を休ませることで足底筋膜にかかる負担を軽減し、痛みを和らげることができます。
具体的には長時間の立ち仕事や歩行が原因と考えられる場合には、立ち仕事の合間に座る時間を設けたり、歩行時間を短くしたりできるかどうか検討してみてください。足への負担を軽くすることができます。
スポーツが原因となった場合には、症状が改善するまでできるだけスポーツを避けてください。特にジャンプや足の踏み込み、長時間のランニングなどは足裏に強い衝撃や繰り返しの衝撃が起こるため避けてください。
足の安静は、全く歩いてはいけないという意味ではありません。長時間に渡っての足裏への衝撃や繰り返しの衝撃はできるだけ避けてください。
体重コントロール
体重が重いと足裏への負担が増えます。歩行やジャンプでも通常の体重の人よりも足底筋膜にかかる負担が増えます。特に
◎BMIについて
BMIとはボディマス指数(Body Mass Index:BMI)とも呼ばれ、体重と身長から計算ができる肥満度を表す指数です。
BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))
肥満の判定基準は国によって異なります。日本では、日本肥満学会によりBMI25以上が肥満とされ、BMIが22になる時がもっとも病気になりにくい状態で標準体重と呼ばれています。WHO(世界保健機構)の基準では30以上が肥満とされています。
アイシング
運動が原因となった場合には、足の安静とともに痛む場所を冷やすことも効果的です。20分程度冷やすことで一時的に痛みを緩和する効果があります。
アイシングは運動後だけでなく運動前にも行うと効果的です。あわせて運動前に足裏のマッサージをすることも足底筋膜炎の痛みを軽減する効果があります。
ただし、アイシングは一時的な効果のみなので、原因となる運動を控えるようにしないと痛みは再発します。
靴の見直し
足に合っていない靴やクッションが少ない靴なども足底筋膜炎の原因になります。そのため適切な靴を履いているかを見直すことも必要です。
運動靴はクッションなどのサポートが多いので症状の改善に効果的です。足のアーチを維持するサポートがついている靴などもありますので、検討してみてください。
フロアが硬い仕事場は足の裏への負担が大きいため、クッションの多い靴を使用することで症状を緩和できることがあります。運動靴が履きにくい仕事場でも、足裏のクッションが多いビジネス用の靴が色々と販売されていますので試してみてください。
自宅では、スリッパや裸足で歩くことは症状を悪化させる可能性があるため、できれば避けてください。足のアーチに合わせたサポートがついたサンダルなどを履くと、症状を和らげる効果が期待できます。その他にも、足裏にサポーターをつけてみたり、かかとにパッドがついた装具を使用することで、症状を緩和できることがあります。
◎インソール(中敷き)について
インソールの使用も効果的です。足のアーチを整えるとともに、痛みのある部分に衝撃を吸収する素材を用いたインソールを使用することで症状を緩和することができます。
使用するインソールは、一人ひとりの足にあったカスタムメイドではなく既製品でも十分効果があるという報告があります。また、ゴムやフェルトのクッションよりもシリコン製のものが効果的と言われており、磁気などのインソールは効果がないという報告もあります。
既製品のインソールで症状が改善しない場合には、足の形に合わせたカスタムメイドのインソールを作って治療が行われることがあります。
その他の運動方法の見直し
ランニングで症状が起こった場合には、靴の見直しなどを行うとともに、ランニングコースを見直すことも効果が期待できます。硬い地面を走ると衝撃が強いため、より柔らかい地面のコースに変更することを検討してみてください。
4. 薬物治療
薬物治療は痛みの強い時期に行われます。痛み止めの
NSAIDs:ロキソニンなど
NSAIDs(エヌセイズ)とは一般的に、
主なNSAIDsにはロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)、アスピリン(アセチルサリチル酸)(主な商品名:バファリン配合錠A330)、イブプロフェン(主な商品名:ブルフェン®)、ジクロフェナクナトリウム(主な商品名:ボルタレン®、ナボール®)、ナプロキセン(商品名:ナイキサン®)などがあり、一般的に「痛み止め」と呼ばれる薬の多くがこのNSAIDsに含まれます。
NSAIDsは痛みや発熱、炎症などを伴う多くの
また、NSAIDsはアセトアミフェン同様、一般用医薬品(市販薬)としても多くの製剤に使われていて、近年ではロキソプロフェンナトリウムの市販薬(例:ロキソニン®Sシリーズなど)も発売されています。
外用薬:湿布など
外用薬も痛みの強いはじめの段階には使用されることもあります。NSAIDsなどの鎮痛、抗炎症作用が含まれている湿布薬には痛みを抑える効果があります。ただし、効果は一時的なため、継続して使用しても症状は改善しません。湿布でかぶれる場合には塗り薬などを使用する方法もあります。
5. 装具療法:インソール・サポーター・テーピングなど
足のアーチ(土踏まず)を作るとともに、痛みのある部分に衝撃を吸収する素材を用いた装具を使うことで、症状が和らぎます。このような装具には次のようなものがあります。
- インソール(中敷き)
- サポーター
- Nght Splints(就寝中の装具)
- テーピング
インソール(中敷き)
足のアーチを整えるとともに、痛みのある部分に衝撃を吸収する素材を用いたインソールを使用することで症状を緩和できます。
使用するインソールは既製品でも十分効果があると報告されていますが、症状が改善しない場合には一人ひとりの足の形に合わせたカスタムメイドのインソールを作って治療が行われることがあります。カスタムメイドのインソールは医療機関でもスポーツ店などでも作ることができます。医療機関の場合には保険診療で作ることができますが1万円以上かかることが多いです。どのようなものが良いかお医者さんとよく相談してみてください。
サポーター
足底筋膜炎用のさまざまなサポーターがあります。足の裏の衝撃を和らげ、痛みを緩和する効果が期待できます。土踏まずをサポートするタイプやかかとをサポートするタイプなどさまざまな形があります。靴がなくても使える足に固定するタイプもあり、自宅でも使用することができます。運動時にはかかとの衝撃を吸収してくれるパッドタイプのサポーターがお勧めです。
Night Splints(就寝中の装具)
Night Splintsとは、就寝中に足首を少し反らせるように固定する装具です。足首を反らせることで足底筋膜を伸ばし、痛みを改善させる効果があると考えられています。効果についてはあるという報告とないという報告がありますが、寝ている間に装着するのみの治療なので使いやすく、副作用が少ないという利点があります。なかなか痛みが改善しない場合には整形外科で装具について相談してみてください。
テーピング
テーピングは足のアーチを維持することができ、痛みを軽減させる効果があります。スポーツをする際はできるだけテーピングをすることが望ましく、普段の生活においても痛みを軽減できる可能性があるので、ぜひ行ってみてください。色々なテーピング方法があるので、整形外科でやり方を聞いてみてください。
テーピングをする際は強く巻きすぎないように注意してください。またテープによるかぶれなどを起こすことがあるので注意してください。
色々なテーピング方法がありますが、一つの例を上げておきます。
テープは全部で4カ所に貼ります。
- 1本目:足の親指の付け根から小指の付け根にかけて横に貼ります。
- 2本目:小指の付け根から土踏まずを通してかかとに向かって貼ります。かかとの周りを回した後に小指の外側まで貼ります。
- 3本目:2本目と同じ小指の付け根に貼って、かかとを回した後に親指の付け根に貼ります。
- 4本目:3本目に重ねて同様に貼ります。
他にもさまざまな方法がありますので、自分に合った方法をお医者さんに相談してみてください。
6. 理学療法:ストレッチ・マッサージ
ストレッチやマッサージなどの理学療法はすぐには効果が出ませんが、1-2ヶ月継続することで徐々に症状が改善してきます。足の裏の足底筋膜のみではなく、アキレス腱を含めたふくらはぎのストレッチも行うことで症状を緩和させることができます。
具体的な方法を次に説明します。
足裏のストレッチ・マッサージ・運動
足裏のストレッチやマッサージでは足底筋膜をほぐしたり、よく伸ばしたりします。その他に足裏の筋肉を鍛えるような運動も効果的です。
◎足裏のマッサージ
椅子に座って、痛みのある足をもう一方の足の膝の上に載せます。載せた足の指を同じ側の手で反らせながら、もう一方の手で足の裏を指からかかとに向かってこすってマッサージをします。「10秒間こすることを10回行う」を1セットとし、1日3セット行います。
◎足裏のストレッチ
足を伸ばして座り、タオルを2つに折って、折った部分を片方の足の裏にかけます。足先を反らせるように、タオルを引っ張ります。10-30秒そのままキープする動作を1セットで5回行います。これを1日に2回行います。
その他、手で足の指を持って足首を反らせる方法や、壁に足の指をつけて伸ばす方法も効果的です。
◎足裏の運動
台や階段などのへりなどに立って足指だけ出し、足の指の曲げ伸ばしを2分間行います。これを1日2セット行います。転ばないように手すりなどにつかまって行ってください。
また同様に足裏の筋肉の鍛える運動方法として「タオルギャザー」と呼ばれる方法もあります。床の上にタオルを広げて、椅子に座り、タオルを足の指で握ったり、たぐり寄せるように運動を繰り返します。膝をなるべく伸ばして行うことがポイントです。
ふくらはぎやアキレス腱のストレッチ
足の裏のストレッチのみではなく、アキレス腱からふくらはぎにかけて全体的なストレッチを行うことも足底筋膜炎の症状に効果があります。
◎アキレス腱のストレッチ1
台や階段のへりに足先半分を乗せて、かかとを下げながらふくらはぎやアキレス腱を伸ばし、次にかかとを上げます。かかとの上げ下げは短くても3秒程度かけて行い、まっすぐに戻して2秒休むくらいのペースで行います。かかとの上げ下げは、もっとゆっくり行ってもかまいません。1日10回程度を目安に行ってください。転んだりしないように手すりなどにつかまって行ってください。
◎アキレス腱のストレッチ2
いわゆる体操の時に行うアキレス腱を伸ばすストレッチも効果的です。アキレス腱と足の裏を伸ばすように片足ずつ15秒間伸ばして数秒休む動作を5回繰り返します。
7. 局所注射療法(局所注入療法):ステロイドなど
局所注射療法は炎症を抑える目的でかかとの部分に
ステロイドの局所注射療法は注射後1ヶ月程度は痛みを抑える効果があるものの、注射後3-6ヶ月後には効果がなくなるとされています。また繰り返し注射をするとかかとの脂肪組織
上記のようにステロイドの局所注射療法には注意が必要になるため、最近ではステロイドの代わりにヒアルロン酸を注射する方法などがあります。ヒアルロン酸では一定の効果の報告もありますが、現在は
8. 体外衝撃波治療
体外衝撃波治療は体の外で衝撃波を発生させて体内まで届かせる治療です。以前から主に尿路結石の治療方法として行われていました。超音波検査をあわせて行うと足底筋膜が炎症を起こしている位置を確認しながら的確に衝撃波を当てることができます。最初は弱く当てて、衝撃波による痛みの程度を確認しながら行います。その後少しずつ強さを強めてあてます。麻酔が必要なほどの痛みにはなりません。1回の治療は15分から20分程度です。1ヶ月に1回程度治療を行い、たいてい合計3回程度の治療が行われます。
9. 手術治療:治らない時の治療方法
日常生活の見直しやストレッチなどの積極的な保存治療を行っても、半年以上症状の改善がない場合には手術治療を検討します。手術を受ける人は足底筋膜炎の人の2-5%程度です。
足底筋膜切離術
足底筋膜切離術は、足底筋膜がかかとの骨に付着する部位の近くを切断する手術です。
腓腹筋退縮術
足底筋膜切離術のみでは効果が一定しないため、最近は腓腹筋退縮術も併用して行われることが多いです。腓腹筋退縮術とはふくらはぎの筋肉である腓腹筋の筋膜を一部切り離す手術です。かかとの痛みを和らげる効果があります。
10. 足底筋膜炎を改善させる漢方薬はある?
足底筋膜炎に対して効果がはっきりあるとされる漢方薬はありませんが、疎経活血湯(そけいかっけつとう)などが使われることがあります。疎経活血湯は足の血流をよくする効果があると言われる漢方薬です。漢方薬は「証」と言って、それぞれの体格や体調に応じて選ばれます。人に効果のあるものが必ずしも自分に効果があるかはわかりません。お医者さんとよく相談して効果が期待できそうな場合には漢方薬を試してみてもいいかもしれません。
11. 足底筋膜炎に効果のあるツボはある?
足底筋膜炎にはっきりと効果があるとされるツボはありませんが、足の血行を改善したり、足の裏の痛みを改善したりするツボはいくつかあります。試しにツボ押しをしてみても良いかもしれません。ツボを押す時は、親指などでできるだけ皮膚に垂直にゆっくりと押してください。
◎湧泉(ゆうせん)
足の指を握ったときにもっとも凹む、足裏の真ん中の部分です
◎太渓(たいけい)
内側のくるぶしとアキレス腱の間の凹んだ部分です
◎照海(しょうかい)
内くるぶしのすぐ下の部分です
◎三陰交(さんいんこう)
内くるぶしの約10cm上のふくらはぎの部分です
ツボを押して痛みが悪化する場合には、すぐに中止してください。
12. 足底筋膜炎の名医はどこにいる?
名医の基準は人それぞれ異なるでしょう。あなたにとっての名医の基準はどれでしょうか。
- たくさんの手術を行っている
- 難易度の高い手術ができる
- たくさんの知識をもっている
- 最先端の治療を行っている
- 診察能力に優れて的確な診断ができる
- 話をよく聴いてくれて親身になってくれる
足底筋膜炎の治療は数ヶ月以上と長期間に渡るため、できるだけ早く痛みをとってくれる名医を探したいと思うかもしれません。しかし、痛みがすぐとれるような治療方法はなく、根気よく日常生活や運動習慣の改善やストレッチなどを行うことが重要です。
最近は体外衝撃波治療などの新しい治療が行われていますが、どんなに最先端の治療を行っていても、自分の身体に合わなければ良い治療とは言えません。
治療が長期間におよぶため、治療のためには医師と患者の人間関係も大切です。そこで、出会った医師を「名医」と思えるかどうかは相性にもよるということになります。手術件数など目に見える客観的な指標のみならず、自分と相性が合うかどうかを見極めて、治療施設を選ぶといいかもしれません。
13. 足底筋膜炎の治療期間はどれくらい?
80%の人で数ヶ月から1年で症状が改善すると報告されています。何も治療しない場合でも多くは1年以内に症状が改善します。しかし、人によってはなかなか治らない場合もあります。また、原因となったスポーツを再開することで悪化を繰り返す場合もあります。
一旦改善した場合でも、再発しないように運動前後のストレッチやアイシングなどをこまめに継続することをおすすめします。
【参考文献】
・Foot Ankle Int. 1994 Oct;15(10):531-5.
・J Bone Joint Surg Am. 2003 Jul;85-A(7):1270-7.
・Scand J Med Sci Sports. 2015 Jun;25(3)