たかんしょう
多汗症
汗を必要以上にかいてしまう病気
5人の医師がチェック 71回の改訂 最終更新: 2023.06.01

多汗症の治療について:手や足に電流を流す治療や塗り薬、注射、手術、漢方薬など

多汗症には「全身から多量の汗が出る全身性多汗症」と「手のひらや足の裏、腋などのある一部分のから多量の汗が出る局所性多汗症」の2つがあります。全身性多汗症は、ホルモンの病気や薬の副作用が原因となっていることが多く、原因となっている病気の治療や薬の中止によって改善が期待できます。(全身性多汗症の原因については「こちらのページ」を参考にしてください)。ここでは局所性多汗症の治療について説明します。

1. 多汗症の治療について

多汗症(局所性多汗症)の治療法には次のものがあり、汗の多い部位を踏まえて選ばれます。

  • 手や足に電流を流す治療:イオントフォレーシス
  • 塗り薬:塩化アルミニウムの外用
  • 注射:A型ボツリヌス毒素の局所注射療法(ボトックス)
  • 神経ブロック
  • 医療機器による治療:マイクロ波・超音波・高周波・レーザー
  • 手術:交感神経遮断術
  • 飲み薬

それぞれの治療について個別に説明していきます。

手や足に電流を流す治療:イオントフォレーシス

イオントフォレーシスは手のひらや足の裏の汗が多い人に行われる治療です。具体的には、手のひらと足の裏を水道水の入った容器の中に浸して、電流を流します。手のひらを治療する場合は手のひらを陽極(プラスの電極)にして足の裏を陰極(マイナスの電極)にします。反対に足の裏を治療する場合は、足の裏を陽極にして手のひらを陰極にします。1回の治療には30分程度かかり、これを10回程度繰り返すとだんだん汗の量が減ってきます。

塗り薬:塩化アルミニウムの外用薬、ソフピロニウム臭化物(エクロックゲル)、グリコピロニウムトシル酸塩水和物(ラピフォートワイプ)

塗り薬としては3種類が利用可能です。脇や手のひら、足の裏の汗が多い人に塗り薬(外用薬)が使われます。

■塩化アルミニウムの外用薬、ソフピロニウム臭化物(エクロックゲル)

10%から35%の塩化アルミニウムが含まれた薬を汗が多い部位に塗ります。また、腋窩(脇)の多汗症にはソフピロニ効果が出るまで数週間かかるので、それまでは毎日塗り続けます。効果が出てきたら、薬を塗る回数をだんだん減らすことができます。ただし、中止してしまうと再発することがあるので、中止して良いかどうかはお医者さんと相談してください。 また、副作用で薬を塗っていた場所が炎症を起こしてかさつきや赤みが出ることがあります。かさつきや赤みが目立つ時は、炎症を抑える塗り薬を使って皮膚の状態をよくしてから、治療を再開します。

■グリコピロニウムトシル酸塩水和物(ラピフォートワイプ)

アセチルコリンという物質が汗腺に作用するのをブロックすることによって、汗の量を減らす薬です。2022年現在では脇のみの使用が認められています。ワイプ製剤といって、薬を布にしみこませた剤型になります。薬がしみ込んだ布で脇をぬぐって薬を汗腺に行き届かせます。
誰にでも使える薬というわけではなく、多汗症スコアで重症と診断された人が対象になります。また、前立腺肥大症緑内障といった持病を持つ人には副作用の影響を鑑みて使うことができません。

注射:A型ボツリヌス菌毒素製剤の局所注射療法

イオントフォレーシスや塗り薬の効果がない時には、A型ボツリヌス菌毒素製剤の注射が検討されます。ボツリヌス菌毒素はボツリヌス菌が作り出す毒素のことで、発汗の司令を出すアセチルコリンを抑える効果があると考えられています。ボトックスという名前で説明されることがありますが、ボトックスはボツリヌス毒素の薬剤名の1つです。

ボツリヌス菌毒素の注射には効果がある一方で、注射時の痛みや筋力が一時的に低下する副作用があります。痛みに対しては注射した部位を冷やすことで和らげることができ、一時的な筋力の低下は、自然に回復することがほとんどです。

神経ブロック

発汗に関係する交感神経の働きを麻酔薬やレーザー照射によって抑える治療です。神経の位置を超音波検査CT検査によって確認し、そこに向かって針を刺したりレーザーを照射します。次に説明する手術よりは体の負担が小さいので、手術の前に検討することが多いです。

医療機器による治療:マイクロ波・超音波・高周波・レーザー

医療機器(マイクロ波・超音波・高周波・レーザー)によって汗腺(汗を出す構造物)を変化させることによって汗を減らす治療法です。効果については質の高い研究が存在していないため、他の治療を優先するのが望ましいです。

手術:交感神経遮断術

イオントフォレーシスや薬の効果が乏しい「手のひらの多汗症」に対しては、手術(交感神経遮断手術)が検討されます。手のひらの発汗を司る自律神経(交感神経)を手術で遮断して汗が出ないようにします。手術は胸にいくつか穴を開けて行う胸腔鏡手術によって行われることが多いです。手術の効果は高く手のひらの汗は少なくなりますが、その代わりとして背中や胸、お尻などからの汗が手術前より多くなります。

飲み薬

多汗症の保険適応の飲み薬にはプロ・バンサイン®︎(臭化プロバンテリン)があります。主に顔面の多汗症に使われます。副作用は口の渇きや便秘尿閉などです。また、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)といった漢方薬が多汗症に効能があるとされていて、プロ・バンサイン®︎の副作用が強い人には代わりとして使われることもあります。また、汗を気にして落ち着かなかったり過度な緊張があったりする人には、気持ちを落ち着ける薬が使われることがあります。

2. 多汗症の治療ガイドラインはあるのか

多汗症のガイドラインとしては日本皮膚科学会によって作成された「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023」があります。ガイドラインは、治療の成績や安全性の向上を目的にして作られ、過去の治療結果などを根拠に、最適だと考えられる検査や治療の方法が示されています。ガイドラインを踏まえて検査や治療を計画することで、より成功率が高い治療方法を選ぶことができます。

一方で、ガイドライン通りに治療することが最適だとは限りません。医療は日進月歩で次々と有効な治療がみつかります。進歩についていくために、ガイドラインも数年に1回は改訂が行なわれますが、改訂前に新しい治療が浸透することもあれば、不明だった治療の効果が明らかになって治療法が変わることもあります。

また、ガイドラインは患者さん一人ひとりの身体の違いを鑑みて作られているわけではありません。一人ひとりに最適な治療を行えるように、最新の知見や患者さんの状態を加味し、アレンジして使うことでガイドラインはよりその力を発揮することができます。

参考:

原発性局所多汗症診療ガイドライン2023
・UpToDate:Primary focal hyperhidrosis Authors:C Christopher Smith, MD David Pariser, MD