下肢静脈瘤の治療について:圧迫療法や手術など
下肢静脈瘤とは、足の血管が目立つようになり、足が
1. 下肢静脈瘤の治療方針について
下肢静脈瘤はそれ自体が命に関わるような病気ではなく、全ての人に積極的な治療がすすめられるわけではありません。しかし、一度できてしまった静脈瘤が自然に治ることはなく、ゆっくりではありますが進行していく病気です。重症になると皮膚に障害が現れたり
治療法には、手術を行わない
【下肢静脈瘤の主な治療法】
- 保存的治療:圧迫療法
- 弾性包帯
- 弾性ストッキング
- サポートストッキング
- 手術による治療
- 抜去切除術(ストリッピング手術)
- 高位
結紮術 - 硬化療法
- 血管内焼灼術(レーザー治療、ラジオ波治療)
内視鏡 下下肢静脈瘤不全穿通枝切離
保存的治療では足を圧迫する圧迫療法が柱になります。下肢静脈瘤があるほとんどの人にとって、症状の程度にかかわらず圧迫療法は最も重要な治療になります。下肢静脈瘤だけでなく、足に浮腫みの症状が現れる深部静脈血栓症やリンパ浮腫がある人にとっても、圧迫療法は重要な方法です。
手術が検討されるのは
なお、日本皮膚科学会が作成した「下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン」というものがあります。この
まず最初に、手術を行わない保存的治療について以下で説明します。
2. 保存的治療(手術を行わない治療):圧迫療法について
下肢静脈瘤がある人の症状の一つに、足の浮腫み(
足を圧迫するために、弾性包帯や弾性ストッキングを朝起きてすぐに装着し、夜寝る時に外します。寝る時は足の下にクッションなどを敷いて、膝から下の足を身体より10cmほど高くして寝ます。
圧迫療法は下肢静脈瘤があるほとんどの人に対して、症状の程度にかかわらず行われる治療です。また、手術治療を行った人も手術後2-3ヶ月は続けることが望ましいといわれています。
ただし、圧迫療法を行わないほうがよい人もいます。
圧迫療法の具体的な内容について以下で説明しています。
弾性包帯
弾性包帯とは、圧迫療法で使われる伸縮性のある包帯のことです。
まず足首から巻き始め、足先に下りて足の甲を圧迫するように2回ほど巻きます。その後にもう一度足首に戻り、そのままふくらはぎから太ももの方へ引き上げながら巻いていきます。足の指先、かかと、膝の部分は隙間を作るようにして、他の部分は包帯の幅が半分重なるように巻いていくといいです。
膝から下側の足には10cm幅の包帯を使い、ふとももまで覆う時は15cm幅の包帯を使うことが多いです。上から下まで均一に圧迫できるように巻いていくのが大切ですが、巻き慣れるまでにやや時間がかかります。
弾性包帯には下記のようなメリットとデメリットがあります。
- 弾性包帯を使うメリット
- 圧迫する強さを自分で調整しやすい
- 圧迫する範囲を自分で決められる
- 値段が比較的安い
- 皮膚の湿疹や
潰瘍 がある人では、患部に当てたガーゼがずれにくく包帯を当てる場所を調整しやすい - 二重に巻くことでより強い圧迫をかけることができる
- 弾性包帯と使うデメリット
- 包帯がずれやすい、ほどけやすい
- 巻き方によっては効果に差が出やすい
- うまく巻けるようになるまで人によっては時間がかかる
上記にあるメリット・デメリットをふまえて、弾性包帯か、次に説明する弾性ストッキングを使うかを決めていきます。
弾性ストッキング
弾性ストッキングは、下肢静脈瘤やリンパ浮腫などがある人に対して作られた治療用のストッキングです。弾性ストッキングは
弾性ストッキングにはいくつか種類があります。膝下までのものや太ももまで全て覆うものがあり、足の太さや長さなどに合わせてサイズや生地の厚さなども選べるようになっています。
弾性ストッキングを使うメリットとデメリットは下記の通りです。
- 弾性ストッキングを使うメリット
- 包帯を巻くより手間がかからない
- 一度履いてしまえば、包帯のようにほどける心配はない
- 弾性ストッキングを使うデメリット
- 締め付けが強く履くのに苦労する(握力が弱い人など自分一人で履けない人もいる)
- サイズが合っていないと効果が乏しい
- 皮膚の観察がしにくい
弾性ストッキングはサイズが合っていないと治療の効果が十分に発揮されません。また、一見簡便なようですが、握力が弱い人などは履くのに苦労するほど締め付けが強いものです。弾性ストッキングを履くためにゴム手袋や専用の補助器具などが使われることがあります。
また、隙間なく皮膚が覆われるので湿疹や傷に気がつきにくく、履いたまま何日も放置していると圧迫のしすぎが原因で皮膚に潰瘍ができてしまいます。夜寝る時など一日に一度はストッキングを必ず外して、皮膚の状態を観察することが大切になります。
弾性ストッキングの治療を始める時には、お医者さんや看護師さんにサイズ合わせをしてもらい、着用方法などの説明を受けます。
サポートストッキング
サポートストッキングとは衣料品として販売されているストッキングで、「ひきしめ用ストッキング」や「圧着ストッキング」として売られています。医療機関にかからなくても簡単に手に入れることができます。
サポートストッキングは、医療用の弾性ストッキングと比べて締め付ける圧は弱いものです。握力が弱くて弾性ストッキングを自分で履くのが難しい人は、サポートストッキングを重ね履きすることで弾性ストッキングに近い効果を得ることができます。
3. 下肢静脈瘤の手術について
一次性(原発性)静脈瘤の人では手術が検討されることがあります。一次性静脈瘤とは、足の表在静脈(皮膚の表面を流れている静脈)の血管内にある逆流防止弁のゆるみが原因でできた静脈瘤のことです。一方、二次性静脈瘤とは深部静脈血栓症や妊娠、腫瘍など、表在静脈以外の原因でできた静脈瘤のことです。二次性静脈瘤の人には手術は行われません。
以下では、下肢静脈瘤に対する手術治療について解説しています。
下肢静脈瘤の手術にはいくつか方法がある
手術による治療にはさまざまな方法があります。皮膚を切って行う方法や、注射を打つだけで済む方法、カテーテルと呼ばれる細い管を血管に通す方法などです。具体的には以下の方法が挙げられます。
- 手術による治療
- 抜去切除術(ストリッピング手術)
- 高位結紮術
- 硬化療法
- 血管内焼灼術(レーザー治療、ラジオ波治療)
- 内視鏡下下肢静脈瘤不全穿通枝切離
患者さんの症状の程度や、他の合併症の状況などから、お医者さんと患者さんの間で十分に話し合って、手術の必要性と最適な方法を検討します。
以下では、具体的な手術の方法について一つずつ説明していきます。
足の静脈を抜き取る:抜去切除術(ストリッピング法)
抜去切除術(ストリッピング法)は、皮膚を切って足の静脈を抜き取る手術です。
足の静脈を抜き取って大丈夫かと心配になる人もいると思います。足の静脈には、表在静脈と深部静脈の2種類があり、両者をつなぐ交通枝とよばれる細い血管が存在します。正常な人では、表在静脈を通るのは足の静脈の血流全体の1-2割程度のみで、残り8-9割は深部静脈を通って心臓のほうへ戻っていきます。抜去切除術で抜き取るのは表在静脈のうちの一部だけなので、深部静脈で十分機能を補うことができます。また、抜き取るのはすでに機能していない血管なので、なくなることで新たな問題が生じることはほとんどありません。
ただし、深部静脈に詰まりがあったり異常があったりすると、手術を行っても効果が得られないか逆効果になることもあります。そのため、手術を受ける前には深部静脈に閉塞などの問題がないかを調べられます。
ストリッピング法は、足の表在静脈(皮膚の表面を走る静脈)の本幹である大伏在静脈(主にふとももからすねを走る)・小伏在静脈(主にふくらはぎの裏側を走る)にできた静脈瘤で、静脈のふくらみが大きい人や蛇行が強い人に対してすすめられる方法です。足の付け根で大伏在静脈の幅が8mm以上あるのが目安の一つです。
手術では静脈瘤の原因となっている静脈そのものを抜き取り、同時に深部静脈とつながっている交通枝も断ち切ります。静脈瘤の根治術といわれていますが、術後5年ほど経過すると再発することもあります。(術後の再発については、後の「手術後に再発することはあるのか」で詳しく説明しています。)
麻酔の方法は施設によって異なります。全身麻酔や腰椎麻酔で行われることもありますが、近年では局所浸潤麻酔が行われることも多くなりました。全身麻酔や腰椎麻酔は、術後しばらくは身体を動かすことが難しいです。局所浸潤麻酔は術後すぐに足首の運動したり歩行したりできるので、より効果的に
ただし、血管を抜き取る広い範囲にわたって注射で大量の麻酔薬を打つことになるので、麻酔薬による副作用が起こるリスクについては考えておかなければなりません。どの麻酔法を選ぶかは、手術を行うお医者さんと十分に相談したうえで決定することをおすすめします。
なお、局所麻酔でのストリッピング法は日帰りで行なっている医療機関もありますので、担当するお医者さんに相談してみてください。
足の付け根で静脈をしばる:高位結紮術
静脈瘤に対する手術法の一つに高位結紮術(こういけっさつじゅつ)があります。大・小伏在静脈とよばれる静脈にできた静脈瘤で、静脈のふくらみが中等度(足の付け根で大伏在静脈の幅がおよそ8mm以下)の人に対してすすめられる方法です。
高位結紮術は静脈の根元を糸でしばって血流を遮断する方法で、血管そのものは残ります。
大伏在静脈に静脈瘤がある人は、足の付け根で2㎝ほど皮膚を切り開き、大伏在静脈の根元を糸でしばります。小伏在静脈の静脈瘤に対しては、膝の裏側の皮膚を小さく切開して小伏在静脈の根元を糸でしばります。大・小伏在静脈の根元をしばる時には、複数ある交通枝もそれぞれ縛って流れを遮断することで、深部静脈から伏在静脈への流れ込みも防ぎます。
高位結紮術は皮膚を切る範囲が狭くて済むため、少ない量の局所麻酔で行うことができます。ただし、静脈瘤がある血管そのものは残っているため、再発も少なくありません。そこで少しでも再発を減らすために、次に説明する硬化療法と高位結紮術を併せて行う医療機関もあります。
瘤に薬を注射してかためる:硬化療法
硬化療法とは、瘤に薬を注射して瘤をかためてなくす治療のことです。この方法は静脈瘤の原因を断ち切るために行う治療ではなく、膨らんでいる瘤をなくすための治療です。静脈瘤を根本的に解決する方法ではないので、別の場所に新たに静脈瘤ができる可能性があります。
硬化療法は手術の中でも比較的簡便で身体の負担が軽い治療法です。足の瘤に直接薬を注射するだけなので、皮膚を切ることはありません。具体的には、静脈瘤のふくらんでいる瘤(こぶ)の部分に硬化剤と呼ばれる薬を注入し、弾性包帯で圧迫して瘤をつぶします。
硬化療法は全てのタイプの静脈瘤に行えるわけではありません。伏在型静脈瘤以外の小静脈瘤が基本的には硬化療法の対象となります。
伏在型静脈瘤に対しては硬化療法だけ行なっても症状の改善があまり期待できません。伏在型静脈瘤が原因と考えられる非常に太い静脈瘤がある人や、皮膚に潰瘍ができるほど静脈瘤が進行している人は、硬化療法単独ではなく他の手術と併せて行われたり、別の手術方法が選ばれたりします。
血管内を焼いて塞ぐ:血管内焼灼術(レーザー治療、ラジオ波治療)
下肢静脈瘤の根本的な原因を取り除く治療の一つに血管内焼灼術があります。血管内焼灼術は静脈の中にカテーテルと呼ばれる非常に細い管を通して、レーザーもしくはラジオ波(高周波)を出す器械を使って血管の内側から焼いてなくす手術です。この方法も針を刺して行われる手術で、足に創(きず)はできません。
まず、
治療で焼きつぶれた血管は、およそ1年ほどかけて消えてなくなります。焼きつぶした血管は、もともと静脈としてうまく働かなくなっていた血管です。治療によってこの静脈が消えて無くなっても足の血流に問題が起こることはありません。
血管内焼灼術は、血管の中に管を通すだけの太さが必要(静脈の幅がおよそ4mm以上10mm以下)です。伏在静脈の逆流防止弁がうまく働かなくなった人に対して行われます。くもの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤といった小静脈瘤の人には行われていません(2019年時点で日本では対応器械が未承認)。
原因となる静脈の血管を引き抜いて取り除くのがストリッピング法です、血管を引き抜かずに内側から焼いてなくすのが血管内焼灼術です。血管内焼灼術とストリッピング法の治療効果はほぼ同じといわれています。血管内焼灼術のメリットとデメリットについて以下にあげます。
【血管内焼灼術のメリットとデメリット】
◎メリット
- 足に手術の創(キズ)がつかない
- 局所麻酔で行われ、日帰り手術が多い
- 手術後の痛みや内出血が少ない
◎デメリット
- 血管を焼いた影響で、術後に血栓(血の塊)ができることがある
- まれに皮膚が火傷(やけど)することがある
- 受けられる施設が限られる
レーザー治療やラジオ波治療に使われる器械は身体への負担が軽くなるよう進歩しています。ストリッピング法では手術の後の痛みや内出血が2-3週間ほど続くことが多いですが、血管内焼灼術では比較的軽いものになってきています。血管内焼灼術は局所麻酔で手術を行えるため、日帰りで受けられる医療機関が多いです。(ただしストリッピング法でも日帰り手術ができる医療機関もありますので、気になる人は担当するお医者さんに相談してみてください。)
血管内焼灼術では血管を焼いた影響で、手術後に血管内に血栓(血の塊)ができることがあります(報告では0.3-数%程度)。この血栓は、深部静脈と表在静脈が交通している場所に近い血管内にできやすいといわれています。血栓が深部静脈へ移動してしまうと、「深部静脈血栓症」を引き起こす可能性があると言われています。深部静脈血栓症は、足が赤く腫れて炎症を起こすだけでなく、血栓が肺に飛んでしまうと命に関わる状態に陥る病気です。したがって、もともと血栓ができやすいといわれる合併症がある人や、過去に
なお、血管内焼灼術は誰でも行える手術ではなく、特別な研修を終えたお医者さんに限って実施することができます。
内視鏡を使って血管を切り離す:内視鏡下下肢静脈瘤不全穿通枝切離術
内視鏡下下肢静脈瘤不全穿通枝切離術とは、内視鏡とよばれる先端に
内視鏡下下肢静脈瘤不全穿通枝切離術が行われるのは以下に当てはまる人です。
- エコー(超音波)検査などで、静脈瘤の原因となっている不全穿通枝が特定できている人
- 一般的な下肢静脈瘤の手術を行っても、症状の改善が不十分だった人
- ふくらはぎや足首まわりに重度の皮膚障害(
色素沈着 、広範囲の潰瘍、皮膚の硬化)が起きていて治りが悪い人
内視鏡を使うと、潰瘍(かいよう)などができている皮膚を直接触らずに、原因となっている血管(不全穿通枝)を治療することができます。皮膚が悪くなっている部分より膝に近いきれいな皮膚のところから内視鏡を挿入し、先端についているカメラで不全穿通枝を確認しながら血管を切り離します。
内視鏡下下肢静脈瘤不全穿通枝切離術は、一般的な静脈瘤の手術では皮膚の状態がなかなか治らない人に主にすすめられる治療法ですが、実施している医療機関は限られています。気になる人は担当するお医者さんに相談してみてください。
4. 治療でよくある疑問について
下肢静脈瘤には主に手術を行わない圧迫治療と手術による治療の大きく2つに分けられます。それぞれの治療の特性をもとに、以下では治療でよくある疑問について解説していきます。
どんな人に治療が必要なのか?
下肢静脈瘤は命に関わる病気ではなく、全ての人に治療が必要なわけではありません。治療が検討されるのは次のような人です。
- だるさやむくみなどの症状がある
- 見た目が気になる
- 静脈瘤の中でも伏在静脈という太い血管にできている伏在型静脈瘤である
圧迫療法は上記のどの人にも行われる治療です。症状があってつらい人はまずは圧迫療法で様子をみます。小静脈瘤であれば進行することはほとんどありませんが、足の血管が浮き出て見えるのが気になる人は、お医者さんと十分に話し合ったうえで手術による治療を行うこともあります。
一方で伏在型静脈瘤がある人は、治療をせずに放置していると徐々に進行することがあります。下肢静脈瘤が進行すると皮膚に湿疹や潰瘍(かいよう)などができてしまうことがあります。皮膚の症状が現れた人は、圧迫療法だけでなく手術による治療がすすめられることがあります。
静脈瘤は人によって症状の程度や合併症の有無など背景がさまざまです。お医者さんと患者さんとの間で十分に話し合いながら、治療方針を決めていってください。
下肢静脈瘤の治療には入院が必要か
下肢静脈瘤の治療のうち圧迫療法のみであれば、入院はせずに外来に通院しながら治療を受けられることがほとんどです。一方、手術による治療は、入院はしない日帰り手術と、入院であっても短期間(多くは3日以内)のいずれかとなることが多いです。
局所麻酔の手術は日帰りで行う医療機関が増えています。このページで紹介している手術法の中では以下が当てはまります。
【日帰りで受けられる手術】
- 高位結紮術
- 硬化療法
- 血管内焼灼術(レーザー治療、ラジオ波治療)
ストリッピング手術や内視鏡下下肢静脈瘤不全穿通枝切離術は、医療機関や患者さんの状態によって麻酔の方法が異なります。局所麻酔で行って日帰り手術としている医療機関もありますが、全身麻酔や腰椎麻酔で行っている医療機関では短期入院が必要となることが多いです。他の手術法も含めてそれぞれの施設によって方針が異なりますので、気になる人は医療機関に問い合わせてみてください。
手術に伴う合併症には何があるか
手術では合併症が起こることがあります。合併症とは手術によって引き起こされるさまざまな問題のことです。下肢静脈瘤の手術では、主な合併症として以下のものがあります。
それぞれについて説明します。
◎術後の痛み、つっぱる感じ
手術のあとに痛みやつっぱる感じが生じることがあります。多くは術後2-3日以内に痛みのピークがあってその後は次第に和らいでいき、術後1カ月以内にはほとんど痛みは感じなくなります。ただし、術後の痛みが増していったり、長引いたりする場合には別の合併症が起こっている可能性もあります。心配な人は、治療を受けた医療機関を早めに受診するようにしてください。
術後の痛みが起こる頻度は、ストリッピング法を行った人に多いといわれています。レーザーやラジオ波による血管内焼灼術では、治療用器械の進歩により術後の痛みは少なくなっています。
なお、手術は十分に痛み止めや麻酔が効いている状態で行われるので、手術中に耐えられないような痛みを感じることは基本的にありません。もし、手術中におかしいなと思った時は、速やかに担当医に伝えるようにしてください。
◎皮下出血(内出血)
皮下とは皮膚の下にある脂肪組織のことです。皮下出血はいわゆる内出血のことを指していて、
下肢静脈瘤の手術の中でも、とくにストリッピング法は皮下出血が起きやすい手術です。ストリッピング法では、伏在静脈を引き抜く時に静脈から出ている細い血管の枝がちぎれて出血することがしばしばあります。この時に出た血液が皮下の組織に溜まって、術後の皮下出血としてふとももやふくらはぎに広い範囲で現れることがあります。
皮下出血で大きな青あざがあると見た目は痛々しく感じられますが、青あざの場所に痛みが生じることはほとんどありません。手術後1ヶ月以内には皮下出血はほぼ消えてなくなりますので、あまり心配する必要はありません。
◎神経障害(しびれ)
多くはありませんが、しびれなどの神経障害が合併症として起こることもあります。とくに小伏在静脈は足の神経に近い場所に位置しているので、膝から下のストリッピング法を受けた人では神経に傷がついてしまう可能性があるといわれています。また血管内焼灼術でも少ないながら起こることがあります。しびれは一時的なもので自然に治ることもありますが、中には数ヶ月続いて回復が遅れる人もいます。できるだけ神経障害を避けるために膝から下のストリッピング法を行っていない医療機関もあります。
血栓性静脈炎とは、表在静脈の中に血の塊(血栓)ができて炎症が起きた状態のことをいいます。手術の操作によって血管に傷がつくと、そこから炎症が起きて血栓性静脈炎を起こすことがあります。血栓性静脈炎の症状には以下があげられます。
- 足の表在静脈に沿って硬いしこりができる
- しこりの部分に痛みがある
- 静脈に沿って赤く腫れる
血栓性静脈炎は自然に治ることが多く、炎症を抑える薬や痛み止めを使って症状を緩和しながら様子をみます。
深部静脈血栓症は、足の深部静脈に血の塊(血栓)ができている状態を指します。深部静脈血栓症が起こることは比較的まれですが、下肢静脈瘤の治療法の中でも血管内焼灼術を行った後は起きやすいと報告されています。深部静脈の中に血栓があると、そこからさらに血栓が
深部静脈血栓症の症状には以下があげられます。
- 足全体が赤く腫れる
- 足に強い痛みがでる
- ふくらはぎを掴むと痛みがある
- 発熱や寒気など全身の症状があらわれる
深部静脈血栓症は血栓性静脈炎に比べて足全体に強い症状が現れることが多いです。深部静脈血栓症であることがわかった人には、すぐに血栓を溶かすための治療が行われます。これらの症状があらわれた人は、速やかに医療機関を受診するようにしてください。
深部静脈血栓症に関する詳しい説明は、「下肢静脈瘤について知っておきたいこと」のページを参考にしてください。
◎創感染
感染により手術後の創(きず)が腫れたり、痛んだりすることがあります。命に関わるほどの重症になることは少ないですが、回復を遅らせる要素になります。ときに
他にも血管内焼灼術では皮膚のやけどがまれに起こったり、硬化療法の後に皮膚に色素沈着が残ったりすることもあります。
治療を予定している医療機関で合併症についても十分に話を聞いたうえで、治療方針を決めるようにしてください。
手術後に再発することはあるのか
下肢静脈瘤の手術の後にも、再発することはあります。ストリッピング法や血管内焼灼術は、下肢静脈瘤に対する根本的な治療とは言われているものの、長い期間で考えると再発する人が多いのが事実です。
再発が多い要因としては以下のことが考えられています。
- 治療で扱わなれなかった他の表在静脈に新たな下肢静脈瘤ができてしまう
- 深部静脈と表在静脈をつなぐ交通枝からの逆流によって血流が増えて静脈瘤ができてしまう
- 手術によって表在静脈の主要な血管がなくなったために、それを補うための新たな血管が作られてもう一度静脈瘤ができてしまう
上記のような理由が考えられていますが、まだ詳しいメカニズムははっきりしていません。治療をしたあとに再発した静脈瘤は、比較的軽い症状で済む人が多いです。
手術の費用はどのくらいか
このページで紹介しているいずれの治療法も
下肢静脈瘤の手術費用は一人ひとりの病気の状態や入院日数によって異なるので一概に言えません。目安として一般的な費用について示します。以下はいずれも片方の足で3割の自己負担の人の例です。(2024年10月)
- ストリッピング法
- 入院期間が3−4日程度の場合:10万円前後
- 日帰り手術の場合:4万円程度
- 高位結紮術の日帰り手術:1万5千円程度
- 硬化療法の日帰り手術:5千-1万円程度
- 血管焼灼術(レーザー治療、ラジオ波治療)の日帰り手術:5万円程度
内視鏡下下肢静脈瘤不全穿通枝切離術に関しては、目安を示せるほど行っている医療機関が多くないため、ここには記載していません。気になる人は医療機関へ直接問い合わせてください。
手術の名医はいるのか
名医の明確な定義はありません。それは、お医者さんと患者さんの関係も人間同士の関わりなので、出会った医師を名医と呼べるかどうかは患者さん自身の考え方も大きく影響するからです。名医と判断するかはその人によって異なると考えられます。ここでは具体的な病院や医師の名前を挙げることはしませんが、名医に出会うための方法について考えてみたいと思います。
下肢静脈瘤は比較的身近な病気の一つですが、専門としている診療科は血管外科や心臓血管外科など限られています。下肢静脈瘤の診断や治療には十分な知識と経験が必要となりますし、治療は手術だけに限りません。圧迫療法や日常生活の指導も重要になります。手術を直接行うお医者さんだけでなく、関わる看護師さんやリハビリを担当する人なども下肢静脈瘤の知識が豊富であることが望ましいです。
そのようなお医者さんや医療チームがどこにいるかは一見するとわからないものです。そこで、医療機関がホームページなどで公開している下肢静脈瘤の受診患者数や手術件数を参考にすることは有効な方法の一つと考えられます。治療数の多い医療機関では、患者が多く集まり判断が難しいケースも多く経験していることが予想されます。
ただし、治療実績が多いことが必ずしもあなたにとっての名医を意味しないことには注意が必要です。よりよい方向へ治療をすすめるには、症状や気持ちをきちんと伝えて相談できる医師と患者の信頼関係も大事です。性格が合う、話しやすいといったコミュニケーション面も考慮し、自分が大切にする名医の基準を考えてみてください。
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