かしじょうみゃくりゅう
下肢静脈瘤
ふくらはぎやスネの血管(静脈)が蛇行して、浮き出た状態
9人の医師がチェック 132回の改訂 最終更新: 2025.01.24

下肢静脈瘤を疑われた人が受けることになる検査について

下肢静脈瘤とは、足の血管が瘤(こぶ)のようにふくらんだり蛇行したりする病気です。下肢静脈瘤が疑われた人は、症状を詳しく聞かれたうえで、いくつかの検査を受けることになります。下肢静脈瘤の診断では、足の血液の流れを調べるための身体診察や画像検査が中心になります。

1. 下肢静脈瘤の診察や検査の目的

静脈とは血管の一種で、心臓から送り出されて身体を巡った血液が再び心臓に戻るための血液の通り道です。何らかの原因で足の皮膚の表面に近い静脈(表在静脈)の血液が心臓へ向かうことができず、溜まって(うっ滞)血管がふくらんだ状態が下肢静脈瘤です。

下肢静脈瘤の診察や検査では、静脈瘤ができている範囲やその原因などを調べることを目的として行われます。主に以下の検査が行われます。

  • 問診:身体診察の前に行われる状況確認
  • 身体診察:視診、聴診、触診など
  • 血液検査
  • 画像検査
    • 下肢静脈造影検査
    • 下肢造影CT検査
    • 下肢カラードプラエコー検査
    • 下肢MRI静脈撮影
    • 下肢静脈脈波検査
  • ABI(下肢圧/上肢圧比):足と腕の血圧値の比較

下肢静脈瘤の精密検査は一般外科や心臓血管外科、循環器内科などで行われることが多いです。

2. 問診:身体診察の前に行われる状況確認

問診は患者さんの症状を詳しく把握し、症状の原因が下肢静脈瘤によるものか、その他の疾患によるものかを判断する最初の手がかりとなります。身体の状況だけでなく、普段の生活や過去の病気の状況などについても聞かれます。問診は身体診察を行う前に行われることが多いです。

以下は、下肢静脈瘤が疑われる人が聞かれる質問の例です。

  • どんな症状があるか
  • 症状はいつからどの程度あるか、急に出現したかどうか
  • 症状が出やすい時間帯やきっかけなどで考えられることはあるか(夕方以降や立っている時間が長い時にでやすいなど)
  • 過去に同じような症状を経験したことはあるか
  • 症状に対して市販薬などを試したか
  • 妊娠の経験があるか
  • 持病や過去にかかったことのある病気はあるか
  • 持病がある場合には内服中の薬の種類はなにか
  • 家族に下肢静脈瘤の人がいるか

下肢静脈瘤の症状は足の血管が目立つ、足が浮腫む(むくむ)、足がだるい・痛いなどですが、これらの症状は下肢静脈瘤以外の病気でも現れることがあります。このためお医者さんは患者さんにさまざまなことを聞いて、他の病気の可能性を除外したり診断のあたりをつけたりします。

3. 身体診察:視診、聴診、触診など

身体診察とは、身体を触ったり聴診器を使って音を聞いたりすることで、問診であたりをつけている診断にさらに迫ることができます。その方法には次のようなものがあります。

  • バイタルサインの測定
  • 視診
    • トレンデレンブルグ検査
    • ペルテス検査
  • 聴診
    • ドプラ聴診
  • 触診

下肢静脈瘤の症状からはときに多くの病気が推定されます。このために全身のさまざまな部位を診察して原因となっている病気を絞り込んでいきます。

また、下肢静脈瘤が疑われた人には、上記にあるトレンデレンブルグ検査、ペルテス検査、ドプラ聴診といった特殊な検査を受けることがあります。これらの検査は下肢静脈瘤の診断に特徴的で、静脈瘤の範囲や原因を推定するのに重要です。

以下では、各々の診察方法を説明していきます。

バイタルサインの測定

どんな病気の診察でもバイタルサインの測定は欠かすことはできません。バイタルサインは生命徴候という意味の医学用語です。一般的にバイタルサインは脈拍数、呼吸数、体温、血圧、意識状態の5つのことを指します。また、身体に酸素が行き渡っているかを調べる酸素飽和度も同様にバイタルサインとすることが多いです。

一般的に下肢静脈瘤の人はバイタルサインに異常がないことが多いです。しかし下肢静脈瘤に伴って炎症血栓症の存在が疑われた人や身体の浮腫み(むくみ)がある人に対して、炎症の強さや命の危険が迫っていないかを判断するのにバイタルサインの測定が役にたちます。

視診

視診は全身の見た目を観察する診察方法です。身体の凹凸の変化や色の変化などが起こる病気は視診で異常がわかります。

下肢静脈瘤で最も気づかれやすい症状は、浮き出た足の血管です。まずは足の静脈がふくらんだり蛇行したりしている様子を入念に観察します。静脈瘤ができている場所や瘤の様子を視診で確認することは、下肢静脈瘤を診断していくうえでの最初の一歩となります。

静脈とは、身体のすみずみに行き渡った血液が心臓へ戻るための血液の通り道のことです。そこで血液が逆向きに流れないように、静脈には弁が付いています。下肢の静脈には、表在静脈と深部静脈があり、それぞれの静脈は複数の交通枝(穿通枝)と呼ばれる細い血管でつながっています。表在静脈の血液は、最終的に足の付け根で深部静脈と合流して心臓へと戻っていきますが、表在静脈の血液の一部は、交通枝を通って一足先に深部静脈に流れ込んでいます。

足の表在静脈の主要な血管には以下の2つがあります。

  • 大伏在静脈:足の付け根〜ふとももの内側〜ふくらはぎの内側〜足首の前側を走っている血管。通常は1本だが2-3本ある人もいる。
  • 小伏在静脈:膝の裏側〜ふくらはぎの後ろ側〜足首の後ろ側を走っている血管。通常は1本ある。

下肢静脈瘤で血管がふくらむ様子には、上記の主要な血管とそこから枝分かれした細い血管をもとに以下のように形態分類されています。

【下肢静脈瘤の主な分類】

  • 伏在型静脈瘤:本幹型静脈瘤ともいって最も多いパターン。大・小伏在静脈そのものにできている静脈瘤。ふとももやふくらはぎ、足先にかけて血管が太く、瘤(こぶ)がいくつも盛り上がって見える。
  • 小静脈瘤
    • 側枝型静脈瘤:分枝静脈瘤ともいって、伏在静脈に合流する手前の細い表在静脈にある静脈瘤。伏在型静脈瘤と併せて起こることが多い。
    • 網目状静脈瘤:表在静脈のうち血管径が2-3mmの、青く網目状に拡張している静脈瘤。膝の裏側に現れやすい。
    • クモの巣状静脈瘤:表在静脈のうち血管径が1mm以下の、細くて紫紅色の静脈瘤。膝の裏側に現れやすい。

視診では、足の表面にある血管のふくらんでいる形や色から、上記のどのタイプに当てはまるかが検討されます。

さらに下肢静脈瘤の詳しい診断を行うための検査として、2つの特徴的な検査があります。トレンデレンブルグ検査とペルテス検査と呼ばれるもので、以下でそれぞれについて解説しています。

◎トレンデレンブルグ検査

血液の逆流を防ぐ静脈の弁に異常が起きて、下肢静脈瘤になっていることがあります。トレンデレンブルグ検査は、大・小伏在静脈および交通枝の弁の機能を調べるための検査です。まず患者さんに寝た状態で足を挙げてもらい、足の静脈の中の血液を空っぽにします。ここで太ももにゴムバンドを巻いて大伏在静脈を圧迫し、立った時の静脈瘤のふくらみ具合を確認します。立った時に静脈瘤がふくらんできたら、小伏在静脈や交通枝の弁に異常があって血液の逆流が起こっていることを意味します。ゴムバンドを外した時にはじめて静脈瘤がふくらんでくるようであれば、大伏在静脈だけに血液の逆流があることを示しています。

◎ペルテス検査

深部静脈に血栓ができて詰まっていたり、交通枝(穿通枝)の弁が壊れて逆流が起きたりしていると、表在静脈に血液が溜まって下肢静脈瘤を引き起こします。

ペルテス検査は、深部静脈に詰まりがないかと、交通枝の弁が働いているかを調べるための検査です。まず患者さんに立った状態で太ももにゴムバンドを巻きます。この状態で足踏みやつま先立ちの運動をしてもらい、静脈瘤の様子を観察します。深部静脈が正常に開いていれば、運動によって表在静脈に溜まった血液が深部静脈に流れ込んで静脈瘤のふくらみが減ると考えられます。また、交通枝の弁がうまく働いていないと、運動をしても瘤の様子はあまり変わりません。一方で、静脈瘤のふくらみが増悪するようであれば、深部静脈が詰まっている可能性を疑われます。

下肢静脈瘤では、血管が目立つほかに足の浮腫み(むくみ)が現われることがあります。浮腫みの程度や範囲を観察し、足以外の場所にも浮腫みがないかなど全身をくまなく調べることで、他の病気の可能性も同時に見極めることができます。

下肢静脈瘤が進行すると、皮膚障害(色素沈着湿疹潰瘍など)があらわれます。静脈瘤の様子とあわせて皮膚の色や湿疹の有無などを見ることは、重症度を判断する材料になります。

また、下肢静脈瘤にしばしば合併する病気に、血栓性静脈炎があります。血栓性静脈炎とは、足の血液がうっ滞することで静脈瘤の中に血の塊ができ、さらに炎症が加わった状態です。症状として静脈に沿って皮膚が赤く腫れるので、視診で血栓性静脈炎の有無を推定することができます。

聴診

聴診器を用いて身体で起こる音を聞く診察方法を聴診といいます。この方法では肺の音や腸の音、心臓や血管を通る血液の音など多くの音を聞くことができます。また、本来聞くことのできる音が聞こえなくなる場合にも異常を探知することができます。

下肢静脈瘤の詳しい診断を行うための特殊な検査の一つにドプラ聴診があります。

◎ドプラ聴診

ドプラ聴診とは、超音波ドプラ聴診器と呼ばれる特殊な検査器具を使って血流の状態を聞く診断法です。この検査では、深部静脈の血流の有無や、表在静脈の逆流がないかなどを確認できます。通常は患者さんが立っている状態で、足にプローブと呼ばれる機械を当てて静脈内の血液が流れる音を拾っていきます。ドプラ聴診は短時間で済み、痛みなどもないため、患者さんにとってストレスの少ない検査です。

触診

触診は身体の一部を念入りに触ったり押したりすることで異常を探知する診察方法です。普段は存在しないしこりを触ったり、押すことで現れる痛みを探知したりすることで、体内の様子を推定できます。上記の視診や聴診と同時に触診も行われることが多いです。

下肢静脈瘤では、足の浮腫みの程度や性質を確認するために、すねや足の甲を押さえることがあります。下肢静脈瘤に伴う浮腫みであれば、足を押したときの指の形がしばらく痕として残り、押し返されるような弾力はほとんどありません。

4. 血液検査

血液検査は、主に腕や足の血管から血液を採取し、血液中に含まれるさまざまな成分の数や濃度を計測して異常を探知する検査方法です。

下肢静脈瘤で血液検査を行うのは、炎症や血栓(血の塊)が存在する可能性や、主要な臓器の異常などを調べるためです。血液検査の項目だけで下肢静脈瘤と診断することはできませんが、全身状態を把握するための材料になります。

下肢静脈瘤を疑ったときの血液検査では以下のポイントに注目します。

  • 炎症の程度
  • 血液の固まりやすさ(凝固能)、血栓の溶けやすさ(線溶能) 
  • 臓器(心臓・腎臓・肝臓など)の機能 

上記を調べることで全身の状態や病気の重症度を判断する材料になり、治療方針を決めていくのに役立ちます。例えば炎症が強いことがわかったときには抗生物質による治療が行われたり入院が必要であると判断できたりします。

5. 画像検査

下肢静脈瘤では、静脈瘤の原因や他の病気が隠れていないかを調べるために画像検査を用います。下肢静脈瘤が疑われた人に行われる画像検査として次にあげるものがあります。

  • 下肢静脈造影検査
  • 下肢造影CT検査
  • 下肢カラードプラエコー検査
  • 下肢MRI静脈撮影

それぞれについて以下で説明します。

下肢静脈造影検査

下肢静脈造影検査は足の深部静脈や表在静脈の血液が流れる様子について調べる検査です。足の甲の静脈に造影剤を注射してレントゲン写真(X線写真)を撮ります。造影剤が流れた場所はレントゲン写真で白く写し出されるため、血流の有無や血管の形がわかります。

はじめに太もも、ふくらはぎ、足首などをゴムで縛り、表在静脈への血液の流れをせき止めます。この状態で足先から造影剤を注射してレントゲン写真を撮ることで、深部静脈に血流があるかどうかを確認できます。次に足を縛っているゴムを外して表在静脈の流れを解放すると、深部静脈と表在静脈をつないでいる交通枝や表在静脈へ造影剤が流れる様子を見ることができます。

血管が外側に瘤状に飛び出したり血管そのものがふくらんだりしている形から、静脈瘤の範囲や程度を推定します。

下肢造影CT検査

CT検査はレントゲン(X線)を使った検査で、精密な画像を得ることができます。X線は放射線なので放射線被曝があります。

造影CT検査はCT検査の方法の一つで、通常は腕の血管から造影剤を注射して撮影を行います。造影剤は血管の形をくっきりさせる効果があります。下肢静脈瘤が疑われる人には、足の静脈に造影剤が流れるタイミングでCT撮影を行うことで、足の静脈の血流や血栓(血の塊)の有無を診断するのに役立ちます。

下肢カラードプラエコー検査

下肢カラードプラエコー検査は超音波を利用して、血液の流れを色分けして表示する検査です。逆流の様子を画像で捉えることができ、血管内の様子も見ることができるので、下肢静脈瘤を診断するのにとても役に立ちます。

足のさまざまな場所にプローブという機械を押し当てて、足の表在静脈や深部静脈、それぞれの静脈をつなぐ交通枝の状況を詳しく観察します。

エコー検査は放射線は使用しないので被曝の心配はありません。また簡便でリアルタイムに画像を観察することができます。このため妊婦や小児など放射線の影響が懸念される場合も含め、エコー検査は患者さんに負担をかけることなく繰り返し行える重要な検査です。

下肢MRI静脈撮影

MRI検査は、磁気を利用する画像検査です。MRI検査では大変強い磁場の中に身をおくことになります。このため、体内に金属がある人はMRI検査を受けられないことがあります。

MRIで足を撮影し、特殊な方法で画像を編集すると、足に存在する静脈系(表在静脈、深部静脈、交通枝)を詳しく描出できます。全ての人に行われる検査ではありませんが、手術前などより詳しく細かい情報を知りたい時に役に立つ検査です。ただし、足の浮腫みが強い人などは、足の水分の影響を受けて画像の質が落ちる可能性があります。

6. 下肢静脈脈波検査

下肢静脈脈波検査とは、身体に負担をかけずに足の静脈中の血流を調べられる検査方法です。患者さんの身体の向きを変えたり、足を動かすなどの運動負荷をかけたり、足を圧迫して血流をせき止めたりしながら、足の静脈の中の血液量がどのように変化するかを特殊な器械で測定します。

現在、医療機関でよく使われているのは、空気脈波装置を使った空気脈波法という方法です。空気脈波法では空気の入ったカフと呼ばれる圧迫帯を足に巻いて、カフの空気量を調整しながら脈波の測定が行われます。

脈波検査の結果から、足の静脈の逆流の程度や閉塞している状況など、静脈の機能を数字で客観的に把握することが可能になります。

7. ABI(下肢圧/上肢圧比):足と腕の血圧値の比較

ABIとはAnkle Brachial Pressure Indexの略で、日本語に訳すと「足関節上腕血圧比」となります。足と腕の血圧を測定して、その比(下肢血圧/上肢血圧)で示される値がABIです。ABIが0.9以下では足の血流障害が疑われます。

ABIは血管の中でも動脈の状態を調べるための検査です。静脈瘤は静脈に起こる病気なので、ABIは関係ないのではないかと考える人もいるかもしれません。

静脈瘤の症状に足のだるさや痛み、皮膚障害(湿疹、潰瘍)などがありますが、足の動脈が詰まって起こる閉塞性動脈硬化症でも似たような症状が現れることがあるので、区別する判断材料としてABIが役立ちます。また、下肢静脈瘤と閉塞性動脈硬化症が同時にある人に静脈瘤の治療である圧迫療法を行うと、足の状態が悪化することがあります。したがって、静脈瘤が疑われる人であっても動脈の状態を詳しく調べることは、治療方針の決定にあたって重要です。

なお、足の血管に動脈硬化がある人は、通常の血圧計では正確な血圧の値が出ないことがあります。そこで今よく使われているのは血圧脈波検査装置(ABI/PWV)という装置です。この装置は血圧と同時に脈波も測定し、短時間でABIの測定と動脈硬化の有無を確認できます。よって、現在は通常の血圧計ではなく、このABI/PWVでABIの計測を行うことが多いです。血管の硬さを調べる検査として人間ドックにも導入されているので、受けたことがある人も多いかもしれません。

【参考文献】

・・日本皮膚科学会 創傷・熱傷褥瘡ガイドライン委員会, 創傷・褥瘡熱傷ガイドライン―5:下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン, 日皮会誌:127(10),2239-2259,2017.
・「イヤーノート2018」、(岡庭 豊 /編)、メディックメディア、2017
・「ハリソン内科学第5版」(福井次矢, 黒川 清 /監)、MEDSi、2017
・「NEW外科学改訂第3版」(出月康夫, 古瀬彰, 杉町圭蔵/編)、南江堂、2012
・佐戸川弘之、横山斉:下肢静脈瘤の病因と病態. 日本臨床 75(5):514-518, 2017
・清水康廣、杉山悟:疫学・病因. Vascular Lab 2008 Vol.5 no.3 : 206-208