男性不妊症の治療について
男性不妊症の原因はいくつかあり、その原因によって治療法が異なります。ここでは原因別に治療法について説明していきます。また、治療したにも関わらず自然妊娠に至らない人達には人工受精や生殖補助医療技術の活用が必要になります。
1. 男性不妊症の治療は原因によって異なる
男性不妊症の治療は原因によって異なります。薬物治療が必要になることもあれば、手術が必要になることもあります。原因を治療することで妊娠ができる人がいる一方で、治療をしても妊娠に至らない人がいます。その場合は、後述する「自然妊娠が期待できない場合の治療」が行われます。
造精機能障害(精子を作り出せないこと)に対する治療
造精機能障害は精子を作り出す機能に障害がある状態のことです。男性不妊症の大半を占めると考えられていて、主に下記のような病気が原因で引き起こされます。
【造精機能障害を引き起こす病気】
造精機能障害がある人の半数以上は原因不明なため治療が難しいです。一方で、原因が明らかな人には治療が有効なことがあります。
治療によって造精機能の回復が望めるのは、上記のうち「精巣やその周辺の病気」と「視床下部や下垂体の障害によるホルモン異常」です。そして、原因として最も多いのが、精索静脈瘤という病気です。精索静脈瘤は精巣とつながる精索静脈の流れが停滞する病気で、手術によって治すことができます(詳しくは「精索静脈瘤の基礎情報ページ」を参考にしてください)。
他では、多くはありませんが、精巣を形成するホルモンの異常によって造精機能障害が引き起こされていることがあります。この場合は、ホルモンの働きを調整する薬(クロミフェン:クロミッド®)で治療が行われます。
精路通過障害(精子の通り道につまりがあること)に対する治療
精巣で作らた精子は精管という管を通って身体の外に出されます。この一連の過程が射精です。精管が詰まっていたり狭くなっている状態を精路通過障害といい、十分な射精ができないので、不妊症の原因になります。精路通過障害の治療では、狭くなった精路をつなぎ直します。精管はとても細いので、顕微鏡を使った手術が必要になります。
性機能障害(勃起や射精ができないこと)に対する治療
性機能障害にはEDや射精障害があり、それぞれで治療法が異なります。EDの場合は、ED治療薬やカウンセリングによる治療が行われます。射精障害に対しては、基本的には薬ではなく、カウンセリングによって改善が図られます。
副性器の異常(前立腺炎や精巣上体炎など)に対する治療
(それぞれの詳しい内容については「前立腺炎の詳細情報」や「精巣上体炎の基礎知識」を参考にしてください)
2. 自然妊娠が期待できない場合の治療:人工授精や体外受精について
男性不妊症の原因を治療しても自然妊娠にいたらない場合は、タイミング法を使って自然妊娠できる可能性を高めたり、人工授精や、生殖補助医療技術が検討されます。ここでは代表的な方法について説明します。
タイミング法
妊娠しやすいタイミングを選んで性交を行う方法です。具体的には排卵日の2日程前から排卵日までに性交のタイミングを合わせます。排卵日は基礎体温の変化によって、ある程度予測することができますが、
人工授精
人工授精とは、あらかじめ採取しておいた精液を、女性の排卵日に合わせて子宮内に注入する方法のことです。採取した精液をそのまま注入するのではなく、妊娠しやすくするために、動きが良好な精子を集めて注入されます。集めた精子を子宮内に注入する工程までが人工的であり、その後の受精は自然妊娠と同じく体内で起こります。
生殖補助医療技術(ART:Assisted Reproductive Technology)
卵子や精子を体外に取り出して受精させる技術を生殖補助医療技術といいます。体内での受精が困難な場合に検討されます。
精子を取り出す方法は2つあります。1つは自力で射精して採取する方法です。もう1つは射精ができない人や、精液に十分な精子がない人に行われる手術(精巣精子回収術:Testicular Sperm Extraction)です。具体的には、
次に、取り出した精子と卵子を受精し、子宮に戻す必要がありますが、その方法は次の2つです。
■体外受精-胚移植(IVF-ET)
体外受精とは、体外に取り出した精子と卵子を同じ容器の中に入れて受精を待つ方法のことです。できた受精卵(胚)は必要に応じて
■顕微授精(
顕微鏡を使って1つの精子を卵子に注入して受精を促す方法です。体外受精を実施しても受精卵が得られなかった人達に行われます。受精卵(胚)を2日から3日間、顕微鏡で培養した後、体外受精と同様に子宮へ移します。
参考文献
・「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014
・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011