痔核(いぼ痔)の治療について:生活改善、外用薬、手術や注射、費用など
痔核は肛門より腸側にある、直腸の粘膜が腫れていぼのようになったものです。痔核の治療には薬物治療(軟膏や飲み薬)や手術があります。また痔核を治すには治療ととも排便習慣や生活習慣の見直しも重要になります。
1. 痔核の治療の前に見直しておきたい排便習慣や生活習慣について
痔核の治療には薬物治療と外科的治療(手術)があり、ともに有効ですが、痔の発生には生活習慣や排便習慣が深く関わっています。生活習慣や排便習慣の見直しは、痔の予防や完治に欠かすことはできません。
排便習慣の見直し
排便習慣の見直しでは具体的に次の3点に気を配ってください。
- 便秘や下痢になりにくい生活をする
- トイレでいきむのは3分以内にする
- 肛門を清潔に保つ
便秘や下痢にならないように気をつけてください。具体的には、規則正しい生活や十分な水分・食物繊維の摂取が大事です。とはいえ、自分の力だけで実践するのは難しいので、お医者さんや管理栄養士さんとともに見直すとよいです。 また、長時間トイレに座っていきむと肛門に強い負担がかかって痔核が出来やすくなります。たとえ便が出切っていなくても、トイレでいきむのは3分以内にすることをおすすめします。 また、肛門周囲はできるだけ清潔にしてください。入浴時はシャワーを使ってしっかりと洗い、ウォシュレット®のような温水洗浄便座も上手に利用するのもよいです。
生活習慣の見直し
排便習慣以外の生活習慣では次のことに気を配ってください。
- 身体の疲れや精神的なストレスをできるだけ取り除く
- 長時間座らない
- 身体を冷やさない
- 飲酒を控える
肉体的な疲れや精神的なストレスは痔が悪化する要因になるという意見があります。痔の
2. 薬物治療について
痔核で治療が必要な人には薬を使った治療(薬物治療)が行われます。痛みや出血が強い場合でも、手術を行わずに薬物治療だけで症状が良くなる人は少なくありません。痔核の治療薬には、
外用薬(塗り薬、注入薬、坐薬)
外用薬には塗り薬と、肛門の中に入れ込む注入薬・坐薬があります。痔核は肛門の奥側にできるので、基本的には注入薬や坐薬が効果的です。一方で、肛門の外側まで痔核が連なっている内外痔核の人や、いぼが脱出している人には軟膏が併用されます。
外用薬には
なお、市販されている痔の外用薬にもステロイドを含む薬は多くあるので注意が必要です。使ってもよくならない時は使用を止めて医師や薬剤師に相談してください。
内服薬(飲み薬)
痔核の炎症を抑える内服薬(飲み薬)がいくつかあります。症状が強い時期に外用薬とあわせて使われます。内服薬も外用薬と同じで、強い症状を和らげるための薬なので、短期間での使用に限られます。
3. 外科的治療(手術や注射による治療)について
痔核になっても、手術を受けずに薬物治療だけで症状と上手に付き合えている人は少なくありません。一方で、「薬だけではよくならない人」や「痔が肛門から飛び出しやすい人」、「出血が止まらない人」には外科的治療が必要になります。
外科的治療には手術や注射などさまざまな方法があり、症状にあった方法が選ばれます。
【主な痔核の外科的治療】
- 痔核結紮切除術
- ゴム輪結紮療法
- 硬化療法
- PPH療法
それぞれについて説明します。
痔核結紮切除術:痔核をメスで切り取る方法
痔核結紮切除術は痔核の外科的治療の中でよく行われるものです。
【痔核切除術の大まかな手順】
- 痔核の輪郭の外側をなぞるように皮膚を切る
- 痔核の根元にある血管を糸で縛る
- 痔核を取り除き、皮膚を縫い合わせる
手術時間はおよそ15-30分程度です。外来でできる場合もありますし、入院が勧められることもあります。手術後は排便の注意点やケアの必要があるので、治療の前後でスタッフからある説明をよく聞いておいてください。
ゴム輪結紮療法:痔核をゴムで縛って脱落させる方法
ゴム輪結紮療法は痔核をゴムで縛って取る方法です。痔核結紮切除術とは異なり、メスで切ったり縫ったりすることはありません。痛みが少なく短時間で終わるので、ほとんどの場合、外来で行われます。縛られた痔核は、1週間ほどすると自然に脱落してなくなります。
合併症が少なく簡便な治療ですが、ゴムで縛れる痔核の大きさに限度があるので、全ての患者さんに行えるわけではありません。症状が比較的軽く、痔核の大きさがゴムに収まる程度の人に向いた治療と考えられています。
硬化療法:痔核に薬を注射する方法
硬化療法は痔核に薬を直接注射する治療法です。注射する薬にはいくつか種類がありますが、内痔核硬化療法剤のALTAを用いた四段階注射法(ALTA療法、ジオン注射)が広く行われています。ALTAを痔核に注入すると痔核が縮んで硬くなり肛門から脱出することがなくなります。注射に伴う痛みはほとんどありません。
硬化療法はゴム輪結紮療法が行えない「比較的大きないぼ」にも行うことができます。また、痔核の程度に応じて、痔核結紮切除術と硬化療法を合わせた手術が行われることもあります。硬化療法だけであれば、入院しなくてもよいことが多いです。
PPH療法:器械を使って粘膜をに切り取る方法
PPH療法とは、専用の器械を使って肛門の内側の直腸粘膜をに切り取る方法です。痛みはほとんどなく、肛門の周りの皮膚を傷つけることもないため、外からの見た目もきれいなままです。
手術時間はおよそ30分程度です。入院が必要なことが多いですが、術後の痛みや出血が少ないため入院期間は短いです。痔核の状況にあわせて、PPH法と硬化療法や痔核結紮切除術が同時に行われることもあります。
4. 痔核の治療で知っておきたいこと
ここまで痔核の治療の方法について詳しく説明しましたが、ここからは治療にまつわるちょっとした疑問や知っておくとよいことを取り上げます。
外科的治療に伴う合併症について
合併症とは検査や治療によって起こる身体への悪影響のことを指します。外科的治療の主な合併症は次になります。
- 出血
- 痛み
- 創感染
◎出血
治療後に出血することがあり、程度によっては再手術が必要になることがあります。とくに、痔核結紮切除術では手術後数時間経ってから出血することがあるので、入院が必要になることが多いです。また、家で過ごしているときに出血することもあるので、お医者さんに「どの程度の出血なら受診するべきか」を聞いておくようにしてください。
◎痛み
手術後には多くの人が肛門周囲に痛みを感じます。痛みのピークは術後2-3日以内で、その後は次第に和らいでいきます。痛みは鎮痛剤で抑えることができるので、我慢することなく使ってください。術後の痛みは時間経過とともに良くなるものですが、痛みが増す場合や長引く場合は別の合併症が起こっている可能性があるので、治療を受けた医療機関に相談してください。
◎創感染
手術後の創(きずのこと)に
◎肛門狭窄
肛門狭窄とは肛門が狭くなった状態のことです。便が出しにくくなって下剤が必要になることがあります。複数のいぼを痔核結紮切除術で同時に切りとった人では、肛門狭窄が生じやすくなるので、手術を複数回に分けたり治療法を組みわせることで予防します。
治療後に再発することはあるのか
治療をしても、痔核が再発することはあります。また、治療をしてから時間が経過するとともに再発の確率が高くなると考えられています。再発予防のために、トイレで長くいきむなどの肛門に負担がかかる行為は避けてください。
治療の入院期間と費用について
一般的な費用を次に示しますが、一人ひとりの病気の状態や入院日数によって治療費は異なります。あくまで目安としてください。
【痔核の治療費(自己負担額が3割の場合)】
- 内痔核結紮切除術:平均入院期間5-7日間、約50000円
- ゴム輪結紮療法:日帰り手術、約5000円
- 硬化療法:平均入院期間2-3日間、または日帰り手術、約20000-30000円
- PPH療法:平均入院期間4日間、約150000円
医療機関によって入院日数は異なりますので、気になる人は医療機関へ直接問い合わせてみてください。
痔核の治療は何科を受診すればいいのか
痔核の治療を担当する診療科は肛門科や消化器外科です。医療機関を探している人は肛門科や消化器外科を標榜している医療機関を受診するようにしてください。
医療機関の探し方はどうすればいいのか
痔核は比較的よく見る病気の一つではありますが、診断や治療には十分な知識と経験が必要です。そのようなお医者さんがどこにいるかは一見するとわからないものです。そこで、医療機関がホームページなどで公開している内痔核の受診患者数や手術件数を参考にすることは有効な方法の一つと考えられます。治療数の多い医療機関では患者が多く集まり、判断が難しい状態の患者さん多く経験しているお医師さんがいる可能性が考えられます。
また、肛門を専門にしているお医者さんが所属している学会には「日本大腸肛門病学会」や「日本臨床肛門病学会」があります。とくに日本臨床肛門病学会では、肛門の診療に熱心に取り組んでいる医師をWEBサイト(痔を専門とする医師を探そう)で紹介しています。これらの学会に所属し認定されていることだけが診療実績の全てではありませんが、参考の一つにはなるかもしれません。
参考文献
・日本大腸肛門病学会/編. 「肛門疾患(痔核・痔痩・裂肛)・直腸脱
・幕内雅敏/監、杉原健一/編. 「大腸・肛門外科の要点と盲点(Knack & Pitfalls)第3版」, 文光堂, 2014
・Nesselrod Jp. Pathogenesis of common anorectal infections.Am J Surg 88:815-817t 1954 18)
・佐原力三郎. 痔痩の病因,分類、外科. 77:644-647, 2015
・肛門疾患診療のすべて. 臨床外科増刊. vol.63 No.11, 医学書院, 2008